サステナブル時代をつくる、「連携」のヒント─Sustainable d Actions─No.9
自社らしいサステナブル活動を実現!「で、おわらせないPROJECT」とは?
2023/05/18
企業活動の中で使わなくなったモノを“創造的再利用”することで環境負荷を軽減するとともに、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)の啓発・推進も目指す、社会課題対応型のアップサイクルプラットフォーム「で、おわらせないPROJECT」。
2022年3月の始動以降、これまでに2回のプロジェクトを通じて、都市型/非製造業の企業でも無理なく取り組めるサステナビリティ活動のあり方を提案しています。
「で、おわらせないPROJECT」は企業や社会のどのような課題解決に貢献するのか?活動を通じて見えてきたこととは?当プロジェクトを推進する電通の堀田峰布子氏と、電通プロモーションプラスの小笠原浩美氏が解説します。
都市型/非製造業の企業に、無理なく続けられるサステナブル活動を
堀田:電通サステナビリティコンサルティング室の堀田です。私たちは企業のサステナブル経営やサステナブルなビジネスの創造をサポートしています。
「で、おわらせないPROJECT」は、電通ジャパンネットワークおよび国内電通グループが共同で立ち上げた、オフィスなどで使用しなくなったプラスチック製品を再資源化し、創造的再利用を目指す社会課題対応型のアップサイクルプログラムです。
近年、業界・業種を問わずあらゆる企業がESG(環境・社会・企業統治)に注力することを求められていますが、都市型かつ非製造業の企業の場合、特に環境負荷の軽減という観点で取り組めるポイントが少ないことが課題の一つでした。
そこで、都市型/非製造業の電通が自ら実験台となって日々の企業活動の中で継続的に取り組める仕組みを検討したのが、当プロジェクトのはじまりです。
私たちが着目したのは、クリアファイルや防災備蓄用品で定期的に入れ替えが発生する備蓄水のペットボトル、防災用ヘルメットなどオフィスで使用しなくなったプラスチック製品です。これらを回収し、アイデアの力で新しい価値を生み出すプロダクトにアップサイクルする。そのために、プラスチックリサイクルのプロフェッショナルであるパンテック社に参画していただき、プラスチック製品を粉砕・混錬し、再生材のペレットに加工するスキームを作りました。
さらに、アップサイクルしたプロダクトを社内外のコミュニケーションに活用することでDEIの啓発・推進にもつなげることや、余った再生材を廃棄せず国内マーケットで循環させる仕組みも開発。プラットフォームとして他の企業にもご活用いただけるようにメニューも作成しました。
「名刺用点字器」を起点に、環境負荷軽減とDEIへの貢献を目指す
堀田:プロジェクトの第1弾として実施したのが、誰もが簡単に名刺に点字を書くことができる「名刺用凸面点字器ten・ten(テンテン)」の開発です。防災備蓄品の入れ替え期限を迎えた防災用ヘルメットから凸面点字器と点筆を、使用しなくなったクリアファイルからは専用のケースをそれぞれ開発し、国内電通グループの従業員向けに点字名刺作成の講習会を実施しました。
この取り組みのポイントは、「従業員の誰もが身近で取り組みやすい活動」を設計しているところです。単に「リサイクルしましょう」と言われただけでは自分ゴト化しにくいと思います。しかし、クリアファイルやヘルメットといったオフィスで見慣れているものが、オフィスやビジネスシーンで多くの人が使う“名刺”を点字化できるアイテムに生まれ変われば、アップサイクルをより身近なストーリーとして捉えられるようになります。
さらに、自分で点字を書くという行為そのものがDEIの体験の一端であり、講習会への参加を通してDEIへの意識も高まります。実際に点字入り名刺を名刺交換時に使用することで、社外の人とのコミュニケーションの輪も広がり、DEIの啓発・促進も期待できます。
なお、クリアファイルの回収には、障がいのある方の雇用の促進・安定を目指す特例子会社である電通そらりのメンバーが参画しており、アップサイクルのプロセス自体にDEIの視点を組み込んでいることもポイントです。
このように、第1弾プロジェクトは「環境負荷の軽減」と「DEIへの貢献」という二つの目的を達成することができ、2022年度のグッドデザイン賞も受賞しました。でも、一度だけ “で、おわらせない”ために、国内電通グループ7社共同で第2弾プロジェクトの企画に着手しました。
試行錯誤を経てたどり着いたプロダクトが、PPバンドキット「loop+loop(ループリループ)」です。これは、回収したクリアファイルからPPバンドを作製し、ゴミ箱やPCケース、バッグなどを組み立てられるキットにしたものです。このキットを活用して従業員がハンドクラフティングをすることで、循環のループの中に自分も参加しているという「体験」までを提供することを狙いとしています。
電通グループのボランティア推奨デー「One Day for Change」(2023年4月にグローバル共通で「サーキュラーエコノミー」をテーマに実施)において、取り組みの一つとして、30人の従業員にアップサイクルに参加していただきました。
さらに、私たちはこのキットのアッセンブリー(箱詰め)作業工程で、障がいのある方の「超短時間雇用」にチャレンジしたいと考えていました。キット納品の期日まで約1カ月と迫る中、電通プロモーションプラス人事の小笠原さんに無理を承知でご相談したのです。
国内電通グループ初となる「超短時間雇用」を実現
小笠原:ここからは電通プロモーションプラスの小笠原が、第2弾プロジェクトにおける「超短時間雇用」の取り組みを紹介します。電通プロモーショングループは、販促プロモーション領域でのプランニング、クリエイティブやものづくりの実績を生かし、当プロジェクトに企画立ち上げから参画しています。
今回チャレンジした「超短時間雇用」とは、東京大学先端科学技術研究センターの近藤武夫教授が提唱している新しい雇用モデルのこと。人手がほしい企業と、短時間で働きたい求職者(超短時間ワーカー)をマッチングし、両者にとってメリットのある雇用を創出する地域システムを構築する取り組みです。
「超短時間雇用」の導入にあたって何よりも大変だったのは、「国内電通グループ初の取り組み」であったこと。前例がないので、採用プロセスや雇用条件、給与支払い方法などのゼロベースから検討・考案する必要がありました。さらに納品まで約1カ月という短期間で、採用企画、社内承認、アッセンブリー実行までを完了させる必要もありました。DEI推進という社会的意義のある取り組みなのでスムーズに社内承認されましたが、その後の実務は、人事、経理、現場で一体となり総力挙げてのプロジェクトとなりました。
そこで、ワークショップキット1000個のアッセンブリー作業を5日間で終わらせることを想定し、事前に社内でシミュレーションした上で募集人数や勤務シフトを計画。連携先である港区、認定NPO法人みなと障がい者福祉事業団の手厚いサポートのもと、説明会やカジュアル面談、採用選考を急ピッチで進めることで、予定通りの人数を採用することができました。当日、1人の方が辞退される想定外の出来事もありましたが、当初のシミュレーションを上回るパフォーマンスで作業してくださったおかげで、無事に予定通り全ての作業を終えることができました。
「超短時間雇用」の取り組みから得られた学びの一つが、手続き面や作業環境における障がい特性への配慮です。例えば、手続き段階では障がい特性に応じた契約支援が必要で、代理人による契約立ち会いをはじめ、小さいことですが、書類の文字サイズやフォントを変え読みやすくすることや、本人が記入する項目を極力減らすなどの配慮が大切です。また、静かな環境が苦手な方もいるため、作業当日は音楽を流すなどの工夫をしました。
実施前は「超短時間雇用」へのニーズがどのくらいあるのか、正直不安なところもあったのですが、個々の事情によりフルタイムでの勤務が難しく、これまで働く機会が得られなかった方の就労ニーズに応えられることが分かり、今後の雇用形態を検討する上での大きなヒントが得られました。
さまざまなステークホルダーが活用する社会的インフラプラットフォームにしたい
環境に配慮しつつ、モノにアイデアを加え、あたらしい価値を生む。さらに、みんなが参加できる仕組みをつくり、より良い循環を生む。「で、おわらせないPROJECT」は、さらなる環境負荷の軽減とDEIへの貢献に向けて、第3弾プロジェクトも公開されました。
最後に、堀田氏と小笠原氏に今後の展望を伺いました。
堀田:「で、おわらせないPROJECT」は、モノだけを作って終わりではなく、体験価値までを設計し、いろんなステークホルダーの方々が参加しやすい仕組みになっているところが大きな特徴だと思っています。今後は取り扱うプラスチックの種類やアウトプットのカタチ、働き方の多様性も拡張していく予定です。いろんな企業や組織にご活用いただけるような、社会的なインフラプラットフォームにしていきたいです。
小笠原:当社グループはプロダクト製作に携わる仕事も多いため、アッセンブリー業務における超短時間雇用など、障がいのある方のニーズとマッチした雇用スタイルの適用をこれから積極的に検討したいと考えています。現在は障害者雇用促進法に基づいて企業の障がい者雇用率が設定されていますが、将来的にはこういった促進の枠組みがなくなり、働きたい人が当たり前のように働く場所を見つけられるような社会をつくることが理想だと思いますので、今回の取り組み“で、おわらせない”ために、DEIへの取り組みを継続していきたいと思っています。