為末大の「緩急自在」<番外編>No.1
為末大氏の近著「熟達論」に思う
2023/07/13
為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただくウェブ電通報の連載インタビューコラム「緩急自在」。今回はその番外編として、本日(2023年7月13日)為末さんが上梓(じょうし)された書籍「熟達論」(新潮社刊)を題材に、「人間はいかに学び、熟達の道を歩むのか」という深遠なるテーマについて、連載形式で掘り下げていきたいと思う。
一回目の本稿では、長年、為末さんとともにアスリートブレーンズというチームを組み、プロジェクトを進めている電通Future Creative Centerの日比氏に、この本への思いを語ってもらった。
(ウェブ電通報編集部)
トップアスリートはすばらしい。だが、考えてみると、人間である以上、誰しもが生まれてから後、さまざまなことを身につけるのだから、共通した学習システムがあるはずだ。
ひとは、どうやって学んでいるのだろうか?なぜ、うまくなるのだろう?学習していく中で、その人の内側で何が起きているのか。何が、その人の成長を阻害するのか。どうやって、その問題を解決しているのか?
陸上競技というもの本質を夢中で探求していくうちに「自分という存在を通じて人間を理解していくという感覚があった」と為末さんは言う。何かができるようになることで、自分自身が変化していく、進化していくという、熟達のプロセスだ。
引退後、時間ができたことで「熟達」への興味が爆発。あらゆる分野の達人、熟達者に出会えること、話ができることは、元オリンピアンでよかったと心の底から思えることなのだ、という。
将棋の羽生さん、囲碁の井山さん、IPS細胞の山中さん、パラリンピックのスプリンターのジョニー・ピーコックさん、車椅子テニスの国枝さん、コーヒーバリスタの井崎さん、ラグビーのエディ監督、生命科学の福岡さん、臨済宗の横田老師、サッカー日本代表元監督の岡田さん、スポーツ庁長官室伏さん、女子マラソンの高橋さん、マラソンコーチの故小出監督……。
そうした熟達者に話を聞き、どんな学習プロセスがあったのか、を学ぶことである共通点に為末さんは気がついた。何かを極めた人の「熟達への考察」に触れることで人間への、人生への学び、人にしかできないことが分かっていくのではないか。熟達への道は決して特別なものではなく、すべての人に開かれているのではないか、と。
──基礎の習得から無我の境地まで、人間の成長には5つの段階がある。では、壁を越え、先に進むために必要なものは何か。自分をどう扱えばいいのか。「走る哲学者」が半生をかけて考え抜き、様々なジャンルの達人たちとの対話を重ねて辿り着いた方法論が一冊に。経験と考察が融合した現代の「五輪書」誕生!(新潮社HPより)
版元の新潮社が、宮本武蔵が書いた「五輪書」になぞらえて紹介しているだけあってこの本では、人生を熟達させる術(すべ)が五つの章に渡り、平易な文章で解説されている。読み進めるほどに、心が軽くなり、アタマが整理されていく感じだ。
この連載では、為末さんが辿り着いた「人間の学びの極意」について、書籍のネタバレにならない範囲で紹介していけたらと思う。ゲストをお招きするかもしれない。為末さんのご友人から寄稿文を寄せていただくかもしれない。仕立ては、これから考えたい。なにはともあれ、「アスリートブレーンズ」というプロジェクトを共に進めている仲間として、このニュースは見逃せない。
電通 日比昭道
為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら。
ウェブ電通報で連載中の「アスリートブレーンズ為末大の緩急自在」のバックナンバーは、こちら。
【編集後記】(ウェブ電通報編集部より)
為末さんとは、連載を通じて2年近くのお付き合いになるのだが、インタビューさせていただくたび、経験と知識の豊富さと鋭い洞察力に驚かされる。たとえば、あくまでたとえば、の話ではあるのだが、「乳酸」というものをアスリートとしてどう捉えていますか?といったような唐突な質問にも、為末さんは独自の視点で見事に返してくる。
へえ、そうなのかー、みたいなことで、そのまま原稿になってしまう。政治でも経済でも、企業経営でも、子育てでも、呼吸でも、テーマはなんでもアリだ。超一流アスリートならではの体験、世界各国の友人・知人、あるいは、その道の権威と言われる人物との対話、幅広い分野の書籍から得た知識といったものがベースにあるものだから、「へえ、そうなのかー」とうなるしかない。
そんな為末さんがこのたび「人生の指南書」を上梓された。お世辞でもなんでもなく、この本はどなたにも一読の価値あり、だと思う。