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日本の広告費No.12

「2024年 日本の広告費」解説──3年連続で過去最高を更新。マスコミ四媒体広告費が3年ぶりのプラス成長

2025/02/27

2025年2月27日、「2024年 日本の広告費」が発表されました。マスコミ四媒体、インターネット、プロモーションメディアの各広告市場の変化について、電通メディアイノベーションラボの森永陸一郎が解説します。

解説・森永陸一郎

サクッと知りたい!簡単解説はこちら!
 

▼「日本の広告費」とは?

▼「日本の広告費2024」の3つのポイント

 

<目次>
「2024年 日本の広告費」概要──企業の収益好調も背景に広告需要は拡大

「マスコミ四媒体広告費」:雑誌、ラジオ、テレビメディアが増加し、3年ぶりにプラス成長 

「インターネット広告費」:動画広告の需要はさらに増大し、大幅に伸長

「プロモーションメディア広告費」:人流が戻り、交通広告も回復傾向

各所でデジタルと非デジタルの融合が進む。「テレビ受像機」の広告活用は拡大傾向に

「2024年 日本の広告費」概要──企業の収益好調も背景に広告需要は拡大

2024年(1~12月)における日本の総広告費は、前年比104.9%となる7兆6730億円でした。2021年から4年連続で成長しており、2022年からは3年連続で過去最高を更新しています。

背景には、アフターコロナの消費意欲の活発化、世界的なイベントの開催、インバウンド需要の高まりなどを受けた、企業収益の好調があります。2024年初の令和6年能登半島地震に加え、年間を通じて進行した物価高の影響もありましたが、トータルでは先に挙げた好調要因が勝った結果になりました。

日本の総広告費推移
※2019年からは、日本の広告費に「物販系ECプラットフォーム広告費」と「イベント領域」を追加し、広告市場の推定を行っていますが、2018年以前の遡及修正は行っていません。詳細は日本の広告費 ナレッジ&データをご参照ください。

日本の広告費は大きく

  • 「マスコミ四媒体広告費」
  • 「インターネット広告費」
  • 「プロモーションメディア広告費」


の3つのカテゴリーに分類しています。

今年も順調に数字を伸ばしたインターネット広告費を筆頭に、マスコミ四媒体広告費、プロモーションメディア広告費の3つすべてのカテゴリーが成長しました。特に、近年は減少トレンドとなっていたマスコミ四媒体広告費がプラス成長に転じたのがトピックとなっています。

媒体別「日本の広告費」(2022~24年)

総広告費におけるそれぞれの構成比は、マスコミ四媒体が30.4%、インターネットが47.6%、プロモーションメディアが22.0%です。 

2022年 媒体別構成比

前述の通り、2024年は、マスコミ四媒体広告費が前年比100.9%の2兆3363億円と、3年ぶりにプラス成長したことが特徴的です。

ただし、広告費の伸びを大きくけん引するのがインターネット広告費である構図は変わりません。インターネット広告費は前年比109.6%の3兆6517億円と、前年より3187億円も増加しました。総広告費の5割に迫る、47.6%を占めるまでになっています。SNS上の縦型動画広告や、コネクテッドTV(インターネット回線へ接続されたテレビ端末)の利用も盛んになっていることもあり、動画広告の需要がますます高まっています。

プロモーションメディア広告費は1兆6850億円で、コロナ禍以前の2兆円台(2019年に2兆2239億円)には達していませんが、前年比101.0%と伸長しました。

●マスコミ四媒体広告費

マスコミ四媒体広告費

新聞、雑誌、ラジオ、テレビメディアで構成されるマスコミ四媒体広告費は、前年比100.9%の2兆3363億円でした。

各メディアの前年比は、新聞が97.3%、雑誌が101.4%、ラジオが102.0%、地上波と衛星メディア関連を合わせたテレビメディアが101.5%で、新聞広告費は唯一減少しましたが、それ以外の雑誌、ラジオ、テレビメディア広告費が増加。3年ぶりに前年を上回っています。

●インターネット広告費

インターネット広告費

インターネット広告費は、「インターネット広告媒体費」「インターネット広告制作費」「物販系ECプラットフォーム広告費」の合算です。前年比109.6%の3兆6517億円となり、需要が高まる動画広告を中心に、引き続き大きく成長しています。特にインターネット広告媒体費は、2兆9611億円(前年比110.2%)と二桁成長です。

毎年私たちも注目しているのが、マスコミ四媒体由来のデジタル広告費です。後述しますが、トピックとしては「テレビメディア関連動画広告費」が653億円(同147.4%)と、好調だった2023年に続き大幅に増えています。

なお、インターネット広告媒体費の詳細は、例年通り3月に別途発表・解説します。こちらもぜひご注目ください。

●プロモーションメディア広告費

プロモーションメディア広告費

屋外や交通広告など、マス媒体・インターネットに区分されていない広告媒体を、プロモーションメディア広告費として推計しています。前年比101.0%の1兆6850億円でした。

人流がコロナ禍前に戻ったことで、特に交通広告や屋外広告、POPといったリアルな場面で活気が戻り、成長が目立ちました。加えて海外アパレルブランド、ホテル、企業PR施設、自動車関連店舗などの催事企画が増加したことにより、「イベント・展示・映像ほか」のカテゴリーも前年を上回っています。

以下ではより細かく、カテゴリー別に解説していきます。
 

「マスコミ四媒体広告費」:雑誌、ラジオ、テレビメディアが増加し、3年ぶりにプラス成長

●マスコミ四媒体広告費〈新聞広告費〉

新聞広告費

新聞広告費は前年比97.3%の3417億円でした。販売部数の減少、物価高騰などの影響もあり、新聞広告出稿は伸び悩みました。

2024年は、パリ2024オリンピック・パラリンピックなどの大型スポーツ大会に加え、10月には衆議院議員総選挙もあり、選挙公報の出稿も増加しましたが、広告費を大きく押し上げるまでには至りませんでした。

ただし、出稿業種別では、流通・小売業が前年比106.9%と大きく回復してきています。一方、コロナ禍からの回復を背景に、交通・レジャーの分野は堅調かと思われましたが、同98.9%と若干減少しています。

●マスコミ四媒体広告費〈雑誌広告費〉

雑誌広告費

雑誌広告費は前年比101.4%の1179億円と、昨年に続いて増加しました。

出版社ではSNSを併用したプロモーションなど、雑誌広告+デジタル施策のセット提案が増えてきています。また、漫画のキャラクターといった知的財産(IP)を活用した販促を、雑誌以外の媒体とも協業しながら行っています。これらのことからも、従来の雑誌広告の枠組みでは捉えきれない取り組みが広がっていることが見て取れます。

中でもここ数年急速に進んでいるのが、紙とデジタルの連携です。例えば雑誌とのタイアップ企画で、紙面だけで完結するのではなく、オリジナルのウェブサイトをオープンしたり、SNSにもコンテンツを二次展開するといったものです。そうした動きは雑誌に限りませんが、後述する「マス四媒体由来のデジタル広告費」も合わせて、広い視点で見るべきかもしれません。

なお、出版市場自体の減少は続いており、2024年の紙の出版物の推定販売金額は、前年比94.8%でした(数字出典:出版科学研究所「季刊 出版指標」2025年冬号)。これに対して電子出版市場は同105.8%と前年に続き成長しましたが、紙と電子を合わせた出版市場全体では前年比98.5%で、前年を下回りました。

出稿業種別では「精密機器・事務用品」「飲料・嗜好品」が伸びています。一方で、雑誌広告費シェアの高い「ファッション・アクセサリー」「化粧品・トイレタリー」は減少しました。

●マスコミ四媒体広告費〈ラジオ広告費〉

ラジオ広告費

ラジオ広告費は通年で前年を上回り、前年比102.0%の1162億円でした。マス四媒体の中では、コロナ禍にあっても比較的堅調だったカテゴリーですが、ここ数年じわじわと増加傾向にあります。

こちらもPodcastをはじめとする音声メディアでの「オーディオアド」など、デジタルメディアとの連動企画が活発化している点は、他のカテゴリーと共通しています。そのうえで、放送の方もプラス収入となっています。Podcastはさまざまな音声メディア上からストリーミングやダウンロードで番組視聴ができる仕組みです。Podcastなど、直接の放送ではない形で「ラジオ番組・ラジオ広告」と接触する層は若年層が多いため、そうした層への訴求力を期待する広告主も増えています。

出稿業種別では、健康食品の通販に多く利用された「食品」(前年比117.8%)や、「交通・レジャー」(同116.6%)などが二桁成長と、大きく伸ばしています。

●マスコミ四媒体広告費〈テレビメディア広告費〉

テレビメディア広告費

テレビメディア広告費(地上波テレビ+衛星メディア関連)は、前年比101.5%の1兆7605億円で3年ぶりにプラス成長しています。地上波テレビだけでも、前年比101.6%の1兆6351億円です。

テレビメディア広告費の成長をけん引したのは、企業収益の好調を追い風にしたスポット広告費です。特にBtoB企業のブランド広告が目立った件については、本記事のまとめで触れます。

一方で番組(タイム)広告費は、パリ2024オリンピック・パラリンピックなどの大きなイベントはあったものの、結果的に前年を下回りました。以前と比べると、番組ごとの視聴者数の差が広がっており、トータルでは縮小傾向となっています。

出稿業種別で見ると、半導体不足の解消などにより「自動車・関連品」が復調しました。また、「薬品・医療用品」「化粧品・トイレタリー」や、コロナ禍からの回復により外出・行楽需要が前年に続き高まった「交通・レジャー」が好調に推移しました。

衛星メディア関連はBSやCSの通販番組が堅調で、前年を上回っています。ただし、CSとCATVは、緩やかな減少傾向が続いています。

「インターネット広告費」:動画広告の需要はさらに増大し、大幅に伸長

インターネット広告費内訳

日本の広告費を力強くけん引し続けているインターネット広告費は、3兆6517億円と、今年も過去最高を更新しました。そのうち、媒体費だけでも2兆9611億円で、前年比110.2%と二桁成長しています。

この数年の大きなトレンドとして、やはり動画広告が非常に好調です。動画共有系サイトで動画コンテンツの間に流れる「インストリーム広告」、SNSのタイムラインやウェブサイトなどに掲出される「アウトストリーム広告」の両方を含みます。中でもソーシャルプラットフォーム上の縦型動画広告の需要が高まり、数字が大きく伸びました。

●マスコミ四媒体由来のデジタル広告費

マスコミ四媒体の広告費の減少が続いていた中、電通の調査でも毎年注目しているのが、いわゆる「マスコミ四媒体由来のデジタル広告費」です。前年比117.5%の1520億円に拡大しました。

テレビ局やラジオ局による番組配信サービスや、新聞社が提供する新聞の電子版、出版社の雑誌のウェブサイトなどが、このカテゴリーに含まれます。  

そうしたマスコミ四媒体由来のデジタル広告は、マスコミ四媒体広告費ではなく、インターネット広告媒体費に含まれます。

●新聞デジタル広告費

新聞デジタル
「新聞デジタル」は、広告単価の低下による影響が大きく、前年比93.8%と、マイナスになりました。しかし、予約型広告は、タイアップ広告で復調がみられ、オンラインセミナーなど“企画型”の広告出稿が増えました。

●雑誌デジタル広告費

雑誌デジタル

「雑誌デジタル」は、前年比104.3%と好調に推移しています。

なお、マス四媒体の「雑誌広告費」の項目でも触れたとおり、出版社によるデジタル広告の取り扱いは、単純に「雑誌とネット」と分けられるものではなくなりつつあることには留意が必要です。

この数年は雑誌メディアの休刊や刊行形態の変更により、ウェブメディアのリニューアルや、SNSアカウントへのリソース強化が行われました。そうした取り組み、特にSNS上のコンテンツ拡充によってフォロワー数などが引き続き堅調に推移しており、雑誌によってはSNS内のコミュニティで商品開発やイベントを企画するなど、SNS内だけで完結するような広告企画なども出始めています。

また、広告主のオウンドコンテンツの制作や、動画の制作・配信など、出版社の強みである「コンテンツ制作力」「コミュニティ力」を生かした企画が増えているところに注目です。

●ラジオデジタル広告費

ラジオデジタル

「ラジオデジタル」の広告費は前年比121.4%の34億円と、こちらも着々と伸長しています。前年に引き続き、radikoを含むラジオデジタル広告の需要は着実に高まっています。

ラジオ番組は、放送とradikoだけというわけではなく、Podcastをはじめとする音声メディアでのデジタル展開が高い注目度を維持しています。現在では多くの方が、Podcastなどの音声メディアでコンテンツ(ラジオ番組)を楽しんでいると思われます。

●テレビメディアデジタル広告費

テレビメディアデジタル

「テレビメディアデジタル」は前年比146.3%の654億円と、際立って大きく増加しました。この5年間の伸びだけを見ても顕著なように、インターネット全体の動画シフトを追い風として成長が期待されるカテゴリーです。

テレビメディアデジタルの伸び

このうち「テレビメディア関連動画広告」が、653億円と大部分を占めます。「テレビメディア関連動画広告」とはどんなものかというと、テレビ番組の見逃し無料配信動画サービスなど、「主にテレビメディア放送事業者によるインターネット動画配信での広告費」を推定範囲としたものです。

こうしたテレビ局が主に出資する見逃し無料配信動画サービスでは、必ずしも地上波番組の見逃し配信だけでなく、最速配信のアニメやオリジナルの恋愛リアリティショーといった人気コンテンツもあり、さらにスポーツなどの大きなイベントでは、コネクテッドTVなどの大画面を用いた“共視聴”も増えて広告価値も高まります。このあたりの話は最後にまた補足します

●物販系ECプラットフォーム

物販系ECプラットフォーム

物販系ECプラットフォーム広告費は、前年比103.4%の2172億円と、堅調に推移していますが、前年までの伸び率に比べると、やや緩やかな成長になっています。コロナ禍でニーズが急拡大したオンライン通販での買い物が、多くの人の中で“日常”になり、定着したためと考えられます。

なお、「物販系ECプラットフォーム広告費」という用語ですが、「日本の広告費」においては、生活家電・雑貨、書籍、衣類、事務用品などの物品販売を行うECプラットフォームを「物販系ECプラットフォーム」と呼びます。そして、そのプラットフォームへ“出店”を行っている事業者が、当該プラットフォーム内に投下した広告費を「物販系ECプラットフォーム広告費」と定義しています。

例えば、ECプラットフォーム内で検索をかけた際に上位表示される「PR」商品などもこの広告費に含まれます。逆に、ECプラットフォーム上のデータをターゲティングに活用し、当該プラットフォーム外に投下される広告費は含まれていません。

●インターネット広告制作費

インターネット広告制作費は前年比108.6%と、媒体費同様に順調に伸びています。動画広告の需要が毎年大きく増大していることが、インターネット広告制作費の増加につながっています。

現在は「リッチコンテンツ」といわれる、予算をかけた動画制作が主流になってきています。一方で、ショート動画などとも呼ばれる再生時間の短い縦型動画など、早いサイクルで多くの動画を制作する需要も増えています。また、インターネット広告用に制作した動画の素材をテレビ広告としても使うケースも出てきているようです。

詳細は3月に発表するインターネット広告費の解説をお待ちください。

「プロモーションメディア広告費」:人流が戻り、交通広告も回復傾向

コロナ禍による外出制限で落ち込んでいたプロモーションメディア広告費ですが、「新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行」となった2023年には、「イベント・展示・映像ほか」を筆頭にプラスに転じました。そして続く2024年も、前年比101.0%の1兆6850億円と、前年超えとなりました。

コロナ禍以前の水準まではまだ遠いものの、再び成長軌道に戻りつつあります。

●プロモーションメディア広告費〈屋外広告、交通広告〉

屋外広告(OOH)は、前年比100.8%の2889億円と、前年に続き少しずつ伸長しています。都市部を中心に、ラグジュアリーブランド、飲料、コンテンツ、人材募集系と、さまざまな業種で活用されました。

また、インバウンド需要の増加や、消費意欲の活性化などもあり、交通・レジャー関連業種の広告出稿が活発化しています。短期看板は、人通りの多い繁華街に設置された大型ボードの需要が高まりました。

注目度の高い屋外ビジョンは、渋谷、新宿、表参道といった関東圏や、大阪、札幌、名古屋、福岡などの大都市圏で多く利用され、販売価格も上昇しています。

ここ数年で進化が進むデジタルOOHは、データを活用したプランニングと広告配信を行うことが可能な媒体として、利用が拡大しています。

※関連連載:コロナ禍を越えてOOHは今~DX基点の考察

 

コロナ禍で在宅勤務も浸透しましたが、その後出社型の会社も多くなってきたこともあってか、交通広告は前年比108.5%の1598億円と増加しています。2024年の特徴としては、特に電車の中の広告需要が高まっています。都市圏では、大型サイネージや大型ボードを使って駅自体を媒体とする、「駅ジャック」系の広告も多く活用されました。

空港は、インバウンド需要の高まりと、アウトバウンド回復という国内の動きもあり、多くの広告主が出稿するなど、デジタルサイネージを中心に復調しました。

一方、タクシーの車内広告は減少しています。車内にデジタルビジョンを導入するタクシー会社が増えたことから、近年は特にBtoB企業が多く出稿していたカテゴリーですが、それらの企業もある程度認知を獲得でき、出稿量を調整していると推測しています。

●プロモーションメディア広告費〈折込、DM(ダイレクト・メール)〉

新聞の折り込み広告は、新聞広告と同様に、前年比94.8%の2442億円と減少しました。これも新聞の販売部数減少と連動していると思われます。

一方で、食品スーパーや家電量販店、ファミリーレストランなどの出稿が増えています。物価高騰により節約志向が高まったことで、折込広告のクーポンなどもニーズが高まっています。

2024年は買い取り業者も好調で、チラシの出稿が増えたことも特徴的でした。また、10月には衆議院議員総選挙に伴う出稿が増加しました。

DM(ダイレクト・メール)は、前年比92.3%の2863億円と減少です。印刷資材や制作費の高騰、2024年10月の郵便料金改定などの影響もあり、前年を下回りました。

とはいえ、DMは単体施策というより、データマーケティングの一環として行われることが増えています。DXが進み、従来のような大量発送型のDMから、購買決定に対する効果の高いDM需要のみに対して使われるようになったことで、発送数が絞られている傾向があります。制作費やデータマーケティングなど関連費用を含めると、市場は大きいので、堅調だと考えられます。

決まったエリアにポスティングする無宛名便DMの需要は、不動産関連などで活用が進んでいます。

●プロモーションメディア広告費〈フリーペーパー〉

フリーペーパーは、前年比96.5%の1306億円と減少しています。しかし、地域密着型フリーペーパーの需要は高く、地域活性化のためのメディアとして活用される事例は多くあります。

また、かなりターゲットを限定した(たとえば富裕層向け)フリーペーパーが発刊されるようになってきたのも、2024年の特徴です。

なお、印刷会社が活発にフリーペーパーを活用し、マーケティング施策とセットで広告出稿につなげる提案型の取り組みも定着し始めています。ここでもフリーペーパー媒体のみの単体施策ではない、デジタル施策を絡めるなど複合型の広告案件も増えており、単体の数字だけでは測りきれない面があります。

●プロモーションメディア広告費〈POP〉

小売店などの店頭で活用されるPOPは、前年比101.5%の1483億円です。ここでのPOPは従来型の物理的なものに限定しています。体験型売り場やポップアップストアも含まれます。

コロナ禍以降、リアル店舗での店頭施策など、企業と生活者のリアルなコミュニケーションの場を求めるニーズは高まっています。ここでも漫画やアニメ、映画などのキャラクターといったIPと一緒に展開するコラボ施策が盛んで、非常に売り上げを伸ばしています。

このように「リアル体験」へのニーズが高い中に資材高騰の影響があったため、POPの広告費は増加しました。

●プロモーションメディア広告費〈イベント・展示・映像ほか〉

イベント・展示・映像ほか

前年比111.0%の4269億円と増加しました。コロナ禍が明けて大きく回復したカテゴリーですが、イベント領域に限ると、1656億円(前年比97.2%)と前年を割っています。これは、2024年は前年に比べると大きなイベントがやや減少したためだと考えられます。ただ、企業や商品ブランドのプライベートイベントは活発化しています。

展示領域は、テーマパークの大型投資が続いたことに加え、海外アパレルブランドやホテル、自動車関連販売店の新装・改装などが追い風となり、拡大しました。

プロモーション映像関連は、主にオンライン展示会やウェブ講演会、セミナーに付随する配信動画が増えており、教育エンターテインメント関連でも拡大傾向です。

最後にシネアドですが、邦画アニメを中心に話題作が多く公開されたことで、前年を上回りました。逆に洋画は大きなヒットに恵まれませんでした。

各所でデジタルと非デジタルの融合が進む。「テレビ受像機」の広告活用は拡大傾向に

冒頭でも述べた通り、2024年はマスコミ四媒体広告費が3年ぶりにプラス成長したことが特徴的でした。その一番の要因はテレビのスポット広告が増えたことです。

特に影響が大きかったのは自動車や飲料ですが、それに加えてエネルギー・素材・機械メーカーなどの提供するスポット広告が大幅に増加しました。これら領域の企業の多くはBtoB企業であるため、一般には名前を知られておらず、リクルーティングや一般知名度向上を目的としたブランディング広告だと思われます。新入社員の親世代である中高年へのリーチを獲得し、子どもの就職先の一つとして認識してもらうという狙いもあると考えています。

日本の広告費を引っ張っているのは引き続き運用型のデジタル広告ですが、デジタル広告の運用が始まり数十年たった今では使い分けを意識し、例えば中高年向けのブランディングなどではテレビCMが活用されるというケースが定着しました。ただし、もはや「ネット=刈り取り、テレビ=ブランディング」といった単純な図式ではなくなってきてもいます。

テレビの特徴としては、大きな画面で見られることや、複数人で“共視聴”される点がありました。その観点でいえば、インターネット結線されたテレビ受像機、すなわち「コネクテッドTV」が各家庭に行き渡り、「インターネット動画をテレビで見られる」機会が多くなってきたことを背景に、インターネットの動画共有サイトでのブランディング広告出稿も増えているのです。

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こうした状況を踏まえると、今後、「大きな画面に流れる広告」という意味では、ユーザーの中で「地上波」「BS」「無料動画」「有料配信サービス」といったカテゴリーは関係なくなっていくのではないでしょうか。広告を送る側も、「メディア」というよりもテレビ受像機という「デバイス」を中心に、つまりユーザーを中心に施策を考えるケースが増えてくると考えられます。

また、世代などの観点でも、コロナ禍をきっかけにインターネット動画の利用者層が広がっており、従来のように「テレビを見るユーザー」「ネットを見るユーザー」という分け方も徐々に曖昧になっています。ユーザーが見ているのはメディアではなくコンテンツであるという意味では、「テレビ受像機で流されることを想定した動画広告」の需要がますます伸びていきそうです。最近増えてきた、有料サブスクリプション型の動画配信サービスによる「広告付きプラン」の増加にも注目です。

最後に、テレビに限らず、社会のDXが進むにあたってデジタルと非デジタルは一体化し、年々分類が難しくなっています。生活者の情報接触行動に合わせて、デジタルと非デジタルの融合が進んでいると言ってもいいかもしれません。

今回ご紹介した出版社の媒体横断の統合的な施策や、運用型のDOOHの出現、データから抽出したターゲットに対してQRコードなどでデジタルに誘導するDMなど、便宜上の分類とは違った観点も求められるようになりつつあります。

例として、最近よく聞かれるようになった「リテールメディア」という媒体のカテゴリーもその一つです。リテールメディアと呼ばれる広告費の内訳は、OOHであったり、インターネット広告費として推計していたりと、広告費の「分け方」「捉え方」も多様化しています。ただしこれはリテールメディアという言葉に、共有された定義がないことも理由の一つです。

「日本の広告費」で紹介しているメディアにはそれぞれ特徴や強みがあり、単純にデジタルに偏るというよりも、メディアの特徴を組み合わせて活用することで、費用対効果の高いコミュニケーションが可能になるのではないでしょうか。

私たちは今後も、より実態に即した「日本の広告費」を捉えていくべく、広告費を取り巻く環境を注視していきたいと考えています。

「2024年 日本の広告費」詳細はこちら(電通ニュースリリース)。

日本の広告費推計範囲

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