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日本の広告費No.10

「2022年 日本の広告費」解説――過去最高を15年ぶりに更新する7兆円超え。インターネット広告は3兆円を突破

2023/02/24

2023年2月24日、「2022年 日本の広告費」が発表されました。マスコミ四媒体、インターネット、プロモーションメディアの各広告市場の変化について、電通メディアイノベーションラボの北原利行が解説します。

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北原利行

「2022年 日本の広告費」の概要——広告市場は再び成長軌道に。

2022年(1~12月)における日本の総広告費は、7兆1021億円でした。これは1947年に推定を開始して以来、過去最高となります(※)。

2007年に記録した7兆191億円をも上回り、15年ぶりの7兆円超え。前年比では104.4%です。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年の落ち込みから、日本の広告費は再び成長軌道に乗っているといえます。

日本の総広告費推移
※2007年に「日本の広告費」の推定範囲を2005年に遡及(そきゅう)して改定しました。2019年からは、日本の広告費に「物販系ECプラットフォーム広告費」と「イベント領域」を追加し、広告市場の推定を行っていますが、2018年以前の遡及修正は行っていません。詳細は日本の広告費 ナレッジ&データをご参照ください。

2022年を振り返ると、上半期は2~3月に行われた北京2022冬季オリンピック・パラリンピックなどの影響もあり、全体的に好調でした。一方で、ウクライナ情勢をはじめとする海外の動向にも影響され、さまざまな形でのマイナス要因があり、経済的なプレッシャーも大きい1年でした。

通年ではゆるやかに景気が回復し、数字的にはコロナ禍以前、2019年の水準に戻ってきたといえます。特に外出自粛や、人流制限などの緩和にともなって、外食各サービスや交通・レジャーなどの市場が回復しました。

また、コロナ禍で加速した社会のデジタル化は引き続き急速に進んでおり、インターネット広告費の伸長につながっています。

中でも「テレビメディア関連動画広告費」が、前年比140.6%の350億円と高成長でした。これはいわゆるテレビ番組の見逃し配信など、主にテレビメディア放送事業者によるインターネット動画配信での広告費を推定範囲としたものです。

媒体別「日本の広告費」(2020~22年)

日本の広告費は大きく

  • 「マスコミ四媒体広告費」
  • 「インターネット広告費」 
  • 「プロモーションメディア広告費」

に分類しています。      

 総広告費におけるそれぞれの構成比は、マスコミ四媒体が33.8%、インターネットが43.5%、プロモーションメディアが22.7%です。 

2022年 媒体別構成比

広告費全体の中にインターネット広告費が占める割合は、2021年の39.8%から2022年は43.5%と、引き続き増加しています。

2007年と2022年の媒体別広告費の比率
左はこれまで最高だった2007年日本の広告費7兆191億円の内訳。同じ7兆円超えでも、インターネット広告費の占める割合はわずか8.6%で、2022年とは大きく内訳が異なります。なお、2007年は単独で推計していた「衛星メディア関連広告費」は、2022年時点では「マスコミ四媒体広告費」に含まれています。参考:日本の広告費2007 広報リリース

●マスコミ四媒体広告費

新聞、雑誌、ラジオ、テレビメディアのマスコミ四媒体広告費は、前年比97.7%の2兆3985億円でした。これらの広告費は、いずれも媒体費と制作費の合算です。

各メディアでの前年比は、新聞が96.9%、雑誌が93.1%、ラジオが102.1%、地上波と衛星メディア関連を合わせたテレビメディアが98.0%で、ラジオ広告費のみが増加しています。

●インターネット広告費

インターネット広告費(インターネット広告媒体費、インターネット広告制作費、物販系ECプラットフォーム広告費の合算)は、前年比114.3%の3兆912 億円と、引き続き市場拡大をけん引しています。

2兆円を突破した2019年からわずか3年間で、約1兆円(9864億円)の伸長を遂げたことになります。世界的にもデジタル媒体費が全広告費の約半分を占める傾向にあり、日本もその形に推移しつつあるといえます。

●プロモーションメディア広告費

前年比98.3%の1兆6124億円でした。各種行動制限が緩和され、イベントや従来型の広告販促キャンペーンが再開されました。人流の戻りもあり、「屋外広告」「交通広告」「折込」といった媒体は前年に引き続きプラスになりました。

以下ではより細かく、カテゴリー別に解説していきます。

マスコミ四媒体広告費――全体では減少するもののラジオ広告費はプラスに

●マスコミ四媒体広告費<新聞広告費>

新聞広告は前年比96.9%の3697億円と、通年で減少しています。2021年に開催された東京2020オリンピック・パラリンピックは、国内開催だったこともあり広告費が非常に多くなりましたが、2022年はその反動減という面もあります。

一方、2022年のプラス要因としては、北京2022冬季オリンピック・パラリンピック、FIFAワールドカップカタール2022といったスポーツイベントが広告費増加に寄与しました。また、第26回参議院議員通常選挙が行われましたが、選挙は基本的に新聞広告にプラスの影響があります。

業種別では、交通・レジャーに関する広告費が前年比117.8%と大きく回復しています。もともと新聞では旅行・宿泊や交通業種における広告費が多い傾向があり、コロナ禍で減少していた人流が戻ってきたのが見て取れます。

●マスコミ四媒体広告費<雑誌広告費>

雑誌広告費は前年比93.1%の1140億円でした。業種別で見ると、新聞広告同様に交通・レジャーが増加していますが、雑誌広告費のシェアが高い化粧品・トイレタリーなどの減少が続いています。

広告のみならず、出版市場自体の減少も続いており、2022年の紙の出版物の推定販売金額は前年比93.5%でした。特に「雑誌」は前年比90.9%となっています。これに対して電子出版市場は同107.5%と伸長しており、5000億円を突破しましたが、紙と電子をあわせた「出版市場」トータルでは前年比97.4%で、4年ぶりの前年割れとなりました。(数字出典:「出版月報」2023年1月号)

●マスコミ四媒体広告費<ラジオ広告費>

ラジオ広告費は、マスコミ四媒体で唯一増加し、前年比102.1%の1129億円でした。

業種別ではファッション・アクセサリー、外食・各種サービス、化粧品・トイレタリーといった業種が大きく伸長し、ラジオ広告費を押し上げています。

●マスコミ四媒体広告費<テレビメディア広告費>

テレビメディア広告費(地上波テレビ+衛星メディア関連)は、前年比98.0%の1兆8019億円です。地上波テレビだけでいうと、前年比97.6%の1兆6768億円です。

2022年はスポーツなど大型イベントがかなり戻ってきましたが、タイム広告については、2021年の東京2020オリンピック・パラリンピック開催によるプラスが大きかった分、反動減をカバーするには至りませんでした。

スポット広告費は、コロナ禍からの回復で人材・求人系の需要が非常に伸びてきており、特に求人需要の高まる1-3月期をけん引しました。しかし年の後半になるにしたがい、さまざまな経済状況の悪化を受けてやや失速しました。もともとパイの大きい情報・通信系の広告費が伸びなかったことも大きな原因になっています。一方で自動車関連には復調の兆しが見えました。

インターネット広告費:社会のデジタル化を背景に伸長し、3兆円超え

インターネット広告費は3兆912億円。そのうち、媒体費は2兆4801億円でした。急速に進む社会のデジタル化を背景に、引き続き好調に推移しました。

傾向としては、プラットフォーマーやメディア各社がいわゆる動画サービスに注力していることもあり、動画広告需要がさらに伸びてきています。

検索連動型のリスティング広告、デジタル販促も好調です。広告主が、顧客の維持・獲得や販売拡大という面でデジタル販促を重視するようになってきています。

●マスコミ四媒体由来のデジタル広告費

いわゆるマスコミ四媒体由来のデジタル広告(これらはマスコミ四媒体広告費ではなく、インターネット広告媒体費に含まれます)は、前年比114.1%の1211億円となりました。

2022年 マスコミ4媒体由来のデジタル広告費

マスコミ四媒体由来のデジタル広告費のうち、特に市場が大きいのは「雑誌デジタル」です。1211億円のうち半分強、610億円を占めています。

電子出版の市場が年々伸びているほか、コンテンツのデジタル化を順調に進めており、安定成長期に入った感もあります。出版系ウェブメディアやコンテンツのアプリなどの使用はますます一般的になっています。

電子書籍では漫画の市場が一番大きいですが、従来の紙のコンテンツを電子化する際は、紙のレイアウトをそのままデジタルにするのではなく、「スマホで読むことに最適化した形」で展開されるようになっています。例えばスマホに最適化された縦スクロール漫画を読むことができるアプリなども、かなり伸びてきています。

また、雑誌はもともとセグメントメディアであり、ソーシャルメディアやファンコミュニティとの親和性が高いこともポイントです。デジタルのさまざまな接点で読者とのエンゲージメントを高めつつ、ユーザーデータをコンテンツ制作やマーケティングに生かすこともできます。コンテンツを軸にしつつ、ECサイトとの連動など、デジタルを活用したビジネスの拡大が進んでいます。

そして、今回特に注目したいのが、「テレビメディアデジタル」です。テレビメディア関連動画広告費が前年比140.6%の350億円と、大きく伸長しました。

テレビメディア関連動画広告というのは、前述のとおり、主にテレビメディア放送事業者によるインターネット動画配信での広告費を推定範囲としたものです。代表的なものとして、TVerなどの「テレビ番組動画プラットフォーム」での動画広告が挙げられます。

ABEMAは、FIFAワールドカップカタール2022期間中に過去最高となるWAU(Weekly Active Users=週間アクティブユーザー)を記録し、大いに存在感を増しました。

また、インターネットに接続したテレビ受像機、いわゆる「コネクテッドTV」で、インターネットの動画コンテンツを楽しむスタイルも普及しつつあります。このカテゴリーは今後も注目です。

参考:コネクテッドTV関連記事

 

「ラジオデジタル」の広告費は前年比157.1%の22億円と、こちらも大きく伸ばしています。radikoはもちろんですが、Podcastなど音声メディアが成長しており、新聞など他メディアがPodcastに取り組んでいる例も見られます。また、音楽ストリーミングサービスでの広告出稿も増えています。

「新聞デジタル」も継続して伸長しており、前年比103.8%の221億円となりました。

●物販系ECプラットフォーム

物販系ECプラットフォーム広告費は、前年比117.0%の1908億円と、インターネット広告費全体の伸び率(前年比114.3%)よりも高い伸びを示しています。

外出制限を受けた“巣ごもり需要”もあって、ここ数年で物販系ECプラットフォームの利用が幅広い層に普及してきましたが、外出の機会が増えたこの時期になってもECプラットフォームの利用習慣自体は定着しており、化粧品、ファッション、旅行、スポーツ関連商品といった、外出を前提としたカテゴリーの流通量が増加しています。

●インターネット広告制作費

インターネット広告制作費は前年比109.2%の4203億円です。動画コンテンツのニーズは高まり続けており、コンテンツ内で流れるインストリームタイプのウェブ動画広告制作費の伸長が顕著です。この傾向は年々強まっているといえます。

プロモーションメディア広告費:人流回復で屋外広告に注目が集まる

この数年はコロナ禍による外出制限で落ち込んでいたプロモーションメディア広告費。2022年は前年比98.3%の1兆6124億円となっています。人流回復に伴い、いくつかのカテゴリーが伸長しています。

●プロモーションメディア広告費<屋外広告、交通広告>

注目したいのは屋外広告で、前年比103.1%の2824億円です。屋外ビジョンのほか、大型で目立つOOH媒体の広告費が増大しています。街頭での3Dコンテンツは2022年も話題を集めました。

参考:OOH関連記事
 

交通広告もある程度人流が戻ってきたこともあり、前年比101.0%の1360億円と増加しています。主要駅など人が集まるロケーションに設置されたインパクト型OOH媒体に需要が集中しました。

タクシーでは車内のデジタルサイネージ広告が定着し、いわゆるBtoB系の広告が多く出稿されています。

●プロモーションメディア広告費<折込、DM(ダイレクトメール)>

新聞の折込広告は、前年比100.8%の2652億円と微増しています。スーパーやホームセンターなど、身近な商品を販売する流通・小売の出稿意欲がかなり回復しています。買取業者、旅行・ホテル、通信販売などの業種からの出稿も好調でした。

DMは前年比98.1 %の3381億円です。数字を見ると若干減ではありますが、資源高などに伴う物流コストの上昇や各種配送サービス形態の変更などさまざまな要因はある中で、広告主からは一定の評価を得ており、一概に低調とは言えないと考えます。

注目したいのはデータマーケティングでターゲットを抽出、最適化を行うパーソナライズDMや、デジタル施策と連動したDMです。購入履歴や属性に基づいてメッセージを変えたDMやカタログを送付したり、ECサイトで商品をカゴに入れたまま“カゴ落ち”しているユーザーにアプローチするなど、デジタルとアナログを組み合わせた販促施策は年々進化しています。

●プロモーションメディア広告費<フリーペーパー>

フリーペーパーは前年比97.4%の1405億円と減少しています。人流の回復はありつつも、コロナ禍を経て、以前はオフィスに配られていたり駅などに配架されていたものが見直されるなど、全体的な発行部数や発行頻度が低下しています。一方で、地域情報を主体としたフリーペーパーは代替媒体がないことも多く、地域活性化などを担う媒体の一つとして、比較的堅調に推移しています。

●プロモーションメディア広告費<POP>

POPは前年比96.2%の1514億円です。デジタルサイネージやスマートフォンなどに代表される双方向コミュニケーションツールの活用が進んでいることや、人流回復を受けてリアル店舗では実商品に触れる体験型の施策が増加した一方で、従来型の店頭POPの広告費は減少しました。

いわゆるリテールメディアとしての店頭サイネージの広告活用については、まだ模索されている段階ではないでしょうか。

●プロモーションメディア広告費<イベント・展示・映像ほか>

前年比92.5%の2988億円と減少しています。

イベント領域については、2021年に開催された東京2020オリンピック・パラリンピックからの反動減が大きいと言えます。

人流は回復しつつも、まだコロナ禍以前の水準には戻っておらず、展示会でも出展数が減っていたりします。しかし、オンラインとのハイブリッド開催も定着しており、リアルイベント自体は今後回復していくことが期待されます。

ますますデジタル化する社会。コンテンツとの向き合い方はどうなっていく?

2022年は行動制限も緩和されて人流が戻ってきたため、広告費はその動きと連動するように回復しました。業種別では交通・レジャー、外食・各種サービス、エネルギー・素材・機械、ファッション・アクセサリーなどの広告費が前年より増加しています。

一方で、この数年で大きく変わった社会が、コロナ禍以前と全く同じ状態に戻ることはないでしょう。これまでとは違った生活様式の中には、デジタル化の影響が大きく存在します。

今後を占う上では、テレビメディアデジタルの伸びに注目したいと思います。今やテレビ受像機のインターネット接続は50%を越えており、「テレビの大画面でインターネットのコンテンツを楽しむ」というスタイルは定着しつつあると考えます。特に2022年はFIFAワールドカップカタール2022が大きく注目され、リアルタイム視聴も見逃し視聴も可能なネット動画視聴が急速に普及しました。

テレビ受像機でネット動画を見ることは、もともとテレビで育った世代にも受け入れやすく、ミドル世代、シニア世代にコネクテッドTVが楽しまれる時代になりつつあります。1台のテレビ受像機で地上波放送もネット動画配信もシームレスに見られる環境が整ってきており、今後もテレビ受像機でのネット動画視聴は増えるでしょう。なお、同じコンテンツを見る場合でも、テレビ受像機で見ると視聴時間が長くなる傾向があり、その点での広告効果も期待できます。

スポーツイベントの配信をはじめ、動画コンテンツに対する生活者の視聴行動が多様化する中で、広告をどのように位置付けていくかは、広告業界の課題でもあります。

またその一方で、文字、画像、動画といった視覚優位のメディアではないラジオの広告費が伸びていることにも、注目したいと思います。聴覚優位のメディアならではの長所、いわゆる“ながら聴取”に限らない新たな可能性もまだまだありそうです。

メディアの進化と共に広告の形態も変わっていきます。新たなメディアのあり方を追求していくのもまた、広告業界の課題でしょう。
 

「2022年 日本の広告費」詳細はこちら(電通ニュースリリース)。

日本の広告費推計範囲

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