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日本の広告費 インターネット広告媒体費詳細分析No.5

「2022年インターネット広告媒体費」解説。記録を更新する3兆912億円の内訳は?

2023/03/29

CARTA COMMUNICATIONS(CCI)、D2C、電通、電通デジタル、セプテーニ・ホールディングスの5社は共同で「2022年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」(以下、本調査)を発表しました。本調査のポイントをCCIの谷本久美子が解説します。

CCI谷本久美子
※ニュースリリース「2022年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」
 
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「2022年 日本の広告費」解説――過去最高を15年ぶりに更新する7兆円超え。インターネット広告は3兆円を突破

15年前との大きな違い。日本の広告費の43.5%がインターネット広告費に

2022年の日本の総広告費は2007年以来となる7兆円超えとなり、過去最高を15年ぶりに更新しました。背景にあるのが、インターネット広告費の拡大です。

前回7兆円超えとなった2007年では、インターネット広告費は6003億円と、日本の総広告費全体の8.6%に過ぎませんでした。しかし、15年たった2022年のインターネット広告費は3兆912億円に達し、今や日本の総広告費全体の43.5%を占めています。

日本の広告費、15年の7兆円超えも、その内訳は大きく変化
左はこれまで最高だった2007年日本の広告費7兆191億円の内訳。同じ7兆円超えでも、インターネット広告費の占める割合はわずか8.6%で、2022年とは大きく内訳が異なります。なお、2007年は単独で推計していた「衛星メディア関連広告費」は、2022年時点では「マスコミ四媒体広告費」に含まれています。参考:日本の広告費2007 広報リリース

本記事では、インターネット広告費全体から「インターネット広告制作費」および「物販系ECプラットフォーム広告費」を除いた「インターネット広告媒体費」2兆4801億円の内訳について解説していきます。

インターネット広告費構成比

「広告種別」では、検索連動型広告の占める割合が引き続き増加

まずはインターネット広告媒体費の内訳を、「広告種別」で見てみましょう。広告種別は以下の5カテゴリに分類しています。
 
広告種別インターネット広告媒体費の広告種別構成比

「広告種別」の内訳で注目すべきポイントは、「検索連動型広告」の成長率です。検索連動型広告とは、検索サイトを中心とした検索エンジンに入力した特定のワードに応じて、検索結果ページに掲載される広告のことです。いわゆるリスティング広告などがここに該当します。

検索連動型広告は2017年にインターネット広告媒体費の詳細分析を開始して以降、常に前年比を上回る成長を示し、インターネット広告媒体費をけん引してきました。2022年は前年比122.2%の9766億円、構成比も39.4%に伸長し、例年と比べても高い成長率を記録しています。

コロナ禍の強い影響下にあった過去2年と比べると、行動制限の緩和や全国旅行支援施策などを通じて外出意欲が高まり、検索結果と連動した広告ニーズが増加したことが一因として考えられます。

続いて、さまざまなウェブサイトに表示されるバナータイプの「ディスプレイ広告」が7372億円で、構成比は29.7%。

そして「ビデオ(動画)広告」が、前年比115.4%の5920億円、構成比は23.9%となりました。ビデオ(動画)広告とは、動画ファイル形式(映像・音声)の広告のことです。

前年の成長率(132.8%)と比べるとやや落ち着いた印象ですが、「テレビメディア関連動画広告」(※)が前年比140.6%の350億円と急伸するなど、順調に拡大している領域だといえるでしょう。

※テレビメディア関連動画広告=TVerやABEMAなど、主にテレビメディア事業者によるテレビ番組動画プラットフォームにおける動画広告。
 

ビデオ(動画)広告については後ほど詳細に掘り下げます。

「取引手法別」では、運用型広告が全体の85.4%を占める

次に、インターネット広告媒体費の内訳を「取引手法別」で分類してみましょう。

取引手法別

インターネット広告媒体費の取引手法別構成比

インターネット広告媒体費を取引手法で分けると、その多くを「運用型広告」が占めます。2022年には前年比115.3%の2兆1189億円となり、推定開始以降はじめて2兆円を突破しました。インターネット広告媒体費における運用型広告の構成比は85.4%に達します。 

運用型広告とは、検索連動型広告や動画共有サイト・SNS等のプラットフォーム、アドネットワークなどを通じて、「入札方式」で取引される広告のことです。

運用型以外では、特定の純広告やタイアップ広告として「非入札(固定価格)」で取引される「予約型広告」が前年比117.7%の2647億円。

そして広告を閲覧したユーザーのアクションに応じてメディアや閲覧ユーザーに報酬が支払われる「成果報酬型広告」が、前年比102.7%の965億円です。

「広告種別×取引手法別」インターネット広告費の内訳

ここまで広告種別と取引手法別の内訳を見てきました。これを掛け合わせることで、さらにインターネット広告媒体費の実情が浮き彫りになります。

取引手法別×広告種別構成比

「運用型」の「検索連動型広告」が、インターネット広告媒体費全体の39.4%と、昨年までと同様、最も多い構成比を示しました。

次いで、ウェブサイトやSNSの広告枠にテキストや画像を表示させる「運用型」の「ディスプレイ広告」が26.0%、「運用型」の「ビデオ(動画)広告」が19.9%と続いています。

トピック①引き続きビデオ(動画)広告が大きく伸長!

ビデオ(動画)広告は「予約型」が前年比117.4%、「運用型」も前年比115.1%と、いずれも伸長しています。運用型広告が83.4%を占めています。

ビデオ(動画)広告種別2022年のビデオ(動画)広告で特筆すべき点としては、

  • 動画共有プラットフォームや短尺動画共有プラットフォームなどの関連広告が大きく伸びた
  • 大きなスポーツ大会をきっかけにテレビ番組動画プラットフォームのユーザー数が急増し、結果的に関連広告が伸長した

といったトレンドが挙げられます。コロナ禍の巣ごもりにより、幅広い年齢層に動画視聴の普及が進みました。

後者については、いわゆる見逃し配信だけでなく、リアルタイムでの中継をネットで見るという習慣が生まれつつあり、広告プラットフォームとしての価値も再確認されつつあるといえます。市販されるテレビ受像機の多くが「コネクテッドTV」となり、「インターネット動画をテレビ受像機で視聴する」という層の増加にも注目です。

なお、ビデオ(動画)広告は、大きく「インストリーム広告」と「アウトストリーム広告」に分けられます。

ビデオ(動画)広告種別

動画コンテンツの前後や間に挿入される動画広告が「インストリーム広告」で、2022年は3456億円(構成比58.4%)となりました。

一方、広告枠や記事のコンテンツ面に表示される動画広告「アウトストリーム広告」は、2463億円(構成比41.6%)となっています。

動画共有プラットフォームの隆盛に加え、テレビ系メディアのユーザー数拡大もこの潮流を後押ししたと考えられそうです。

かつてはアウトストリーム広告の構成比の方が上でしたが、2021年にインストリーム広告費が逆転し、より大きな伸び率を示しています。今後も大きな成長が予想できます。

トピック②ソーシャル広告市場はSNS系と動画共有系に二分

ソーシャルメディアのサービス上で展開される「ソーシャル広告」は、前年比112.5%の8595億円で、インターネット広告媒体費全体の34.7%の構成比となりました。ソーシャル広告市場コロナ禍で134.3%の成長率を記録した前年と比較すると緩やかですが、二桁成長で順調に拡大しています。一方、ソーシャル広告以外が前年比116.3%と伸長したため、ソーシャル広告の構成比は微減となっています。

ソーシャル広告種類別構成比

私たちの詳細分析では、ソーシャルメディアを上図の3カテゴリに分類しています。

短尺動画を含むユーザー投稿型の動画共有プラットフォームを指す「動画共有系」、動画共有系以外のSNSプラットフォームを指す「SNS系」、ブログや電子掲示板などを指す「その他」です。

この分類では、SNS系が3675億円(構成比42.8%)ともっとも多く、次いで動画共有系が3052億円(構成比35.5%)となりました。どちらも前年比116%以上の成長率を示しています。

補足:物販系ECプラットフォーム広告とは?

今回の「インターネット広告媒体費」の推計には含まれていませんが、見逃せないのが「物販系ECプラットフォーム広告」の成長です。

「日本の広告費」においては、生活家電・雑貨、書籍、衣類、事務用品などの物品販売を行うECプラットフォームを「物販系ECプラットフォーム」と呼んでいます。

そして、そのプラットフォームへ“出店”を行っている事業者が、当該プラットフォーム内に投下した広告費を「物販系ECプラットフォーム広告費」と定義しています。 

物販系ECプラットフォーム広告費

こちらは前年比117%の1908億円となり、2020年から継続的に拡大し続けています。コロナ禍における在宅時間の増加で生活者のEC利用が増えたことに起因しており、外出制限などが緩和されてからも、この流れは続くのではないでしょうか。

2023年のインターネット広告費はどうなる?

2023年のインターネット広告媒体費は引き続き順調に推移し、前年比112.5%の2兆7908億円まで拡大すると予測しています。

インターネット広告媒体費総額 推移

その中でも注目したいのは、やはりビデオ(動画)広告です。2023年にはビデオ(動画)広告市場がインターネット広告媒体費全体よりも高い伸び率を示し、7000億円に迫る6852億円まで拡大すると予測しています。中でもインストリーム広告は前年比119.5%の4130億円を見込んでいます。

ビデオ(動画)広告費 推移

ビデオ(動画)広告が伸長している背景には、動画共有系メディアの成長が大きく影響しています。

動画共有系メディアは月額課金などサブスクリプションモデルが主流でしたが、ユーザーに広告を視聴してもらうことで安価なプランや無料プランを展開する事例も出てきており、今後のユーザー数の拡大に応じて、広告出稿がさらに増加することも考えられます。

一方で、もともと無料+広告モデルが主流だったテレビ番組動画プラットフォームは、大きなスポーツイベントなどの影響で普及が進み、大画面で視聴できるコネクテッドTVの利用者も増えていることから、こちらも成長トレンドが予想されます。

サブスクリプション系のメディアの無料+広告モデルは、動画のみならず音声コンテンツでも導入が見られます。こちらも今後の動向に注視したいところです。

今回は媒体費を中心に解説しましたが、インターネット広告制作費ももちろん成長を続けています。特にインストリーム広告がアウトストリーム広告を逆転して以降のビデオ(動画)広告が気になるところです。

私がクリエイティブの現場にヒアリングしたところ、近年のビデオ(動画)広告は、従来のテレビCMのようにリッチな映像コンテンツを「ウェブ用」に制作するケースが増えているそうです。一方で、限られた予算の中で自動生成系ツールなどを用いながら大量のショートCMを作成し、ABテストを繰り返しながら最適化していくケースも増加しており、いわば二極化が進んでいるという声もありました。

今後は、動画共有SNSやコネクテッドTVにおけるビデオ(動画)広告を軸にクリエイティブを考案し、従来のマス媒体にも展開するようなケースも増えてくるのかもしれません。

最後に、クッキーレスの世界が広がっていく中で、インターネット広告においても経路などを分析しづらくなっており、結果としてオフラインメディア(4マス媒体など)を含めて、同じ指標で計測することが求められていると思います。

CCIが2022年に発表したインターネット広告市場動向のレポートでは、分析・レポートにおける最も関心が高い内容として「オフラインメディアとデジタルメディアの統合指標」が挙がっており、オフラインとデジタルを統合した視点がますます重要になります。

今後は、インターネットの指標を軸としたMMM(Marketing Mix Modeling)が広がっていくと思います。あらゆるデータおよび計測を、オンライン・オフライン横断で活用することを前提としたプランニングが、広告にはより求められるようになるのではないでしょうか。

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