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日本の広告費 インターネット広告媒体費詳細分析No.6

「2023年インターネット広告媒体費」解説。ビデオ(動画)広告の内訳に変化の兆し

2024/04/05

CARTA COMMUNICATIONS(CCI)、電通、電通デジタル、セプテーニの4社は共同で「2023年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」(以下、本調査)を発表しました。本調査のポイントをCCIの今野貴博が解説します。

CCI今野貴博
※ニュースリリース「2023年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」
 
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日本の広告費をけん引するインターネット広告費がさらに拡大!

2023年における日本の総広告費は、前年比103.0%となる7兆3167億円となり、昨年に続き過去最高を更新しました。

中でも市場の成長を大きく支えているのがインターネット広告費です。コロナ禍で急速に進んだデジタル化を追い風に、前年よりも2418億円増加の3兆3300億円(前年比107.8%)と、過去最高を更新。日本の総広告費全体の45.5%を占めるまでに拡大しました。特にビデオ(動画)広告やデジタル販促といった領域が大きく伸長しています。

インターネット広告費(2019~2023年)
2023年媒体別構成比

本記事では、インターネット広告費全体から「インターネット広告制作費」および「物販系ECプラットフォーム広告費」を除いた「インターネット広告媒体費」2兆6870億円の内訳について解説します。

2023年インターネット広告費構成比

「広告種別」では、検索連動型広告がついに1兆円を突破! 

まずはインターネット広告媒体費の内訳を、「広告種別」で見てみましょう。広告種別は以下の5カテゴリに分類しています。
 
広告種別

中でも主流となっているのが、「検索連動型広告」「ディスプレイ広告」「ビデオ(動画)広告」の3つです。

「検索連動型広告」とは、検索サイトを中心とした検索エンジンに入力した特定のワードに応じて、検索結果ページに掲載される広告のことであり、いわゆるリスティング広告がここに該当します。

「ディスプレイ広告」は、さまざまなウェブサイトに表示されるバナータイプの広告のことを指し、「ビデオ(動画)広告」は、動画ファイル形式(映像・音声)の広告のことです。

インターネット広告媒体費の広告種別構成比

今回の「広告種別」の内訳で注目すべきポイントは、検索連動型広告です。1兆729億円となり、インターネット広告媒体費の詳細分析を開始して以降、初めて1兆円を超えました。

成長率を見てみると、検索連動型広告が前年比109.9%、ディスプレイ広告が同104.5%、ビデオ(動画)広告が同115.9%となっています。

最も高い伸び率を見せているのがビデオ(動画)広告です。全体の中での構成比は25.5%まで拡大し、ディスプレイ広告の28.7%に迫る勢いとなっています。この数年続いているビデオ(動画)広告の伸長は、減速することなく続いていると言えます。

この要因としては、インターネット接続したテレビ受像機、いわゆるコネクテッドTVの利用拡大に伴う「テレビメディア関連動画広告」の急伸が挙げられます。地上波テレビの見逃し配信など、テレビメディアによる動画配信サービスが徐々に根づきつつあります。

※テレビメディア関連動画広告=TVerやABEMAなど、主にテレビメディア事業者によるテレビ番組動画プラットフォームにおける動画広告。
 

そしてもう一つの要因として、ディスプレイ広告からビデオ(動画)広告へのシフトが挙げられます。近年は動画コンテンツの前後に掲載される「インストリーム広告」の伸びに注目が集まっていましたが、今年は「アウトストリーム広告」、特にソーシャル広告におけるビデオ(動画)フォーマットへのシフトが目立ちました。これについては後ほど詳述します。

テレビメディア関連動画広告と、動画ファイル形式のバナー広告の増加、この2点がビデオ(動画)広告の勢いを後押ししているといえるでしょう。

「取引手法別」は運用型広告の占める割合がさらに増加。全体の9割に迫る

次に、インターネット広告媒体費の内訳を「取引手法別」で見ていきましょう。

取引手法別

「運用型広告」とは、検索連動型広告や動画共有サイト・SNSなどのプラットフォーム、アドネットワークなどを通じて「入札方式」で取引される広告のことです。

一方、特定の純広告やタイアップ広告として「非入札(固定価格)」で取引される広告を「予約型広告」と呼びます。

そして「成果報酬型広告」は、広告を閲覧したユーザーのアクション(遷移や購入行動など)に応じて、メディアや閲覧ユーザーに報酬が支払われる広告を指します。

インターネット広告媒体費の取引手法別構成比

インターネット広告媒体費を取引手法で分けると、その大半を占めるのが運用型広告です。推定開始以降、2022年に初めて2兆円を突破しましたが、2023年もその流れを維持し、前年比110.9%の2兆3490億円と過去最高値を更新。さらに構成比は87.4%と全体の9割に迫る状況です。

予約型広告は、前年比100.0%の2648億円とほぼ横ばいです。成果報酬型は、前年比75.8%の732億円と大きく減少しています。このことからも、インターネット広告費の成長の多くは運用型広告が担っていると言えそうです。

一方で、運用型広告には懸念材料もあります。中でも大きいのが、いよいよ本格化するサードパーティCookie規制による影響です。

運用型広告の多くは、検索や閲覧といったユーザーの行動をサードパーティCookieによって把握し、ターゲティングやリターゲティングといった形で表示してきました。

しかし近年は、プライバシーとセキュリティの観点からサードパーティCookie廃止の流れが加速し、2024年からはGoogleでも自社ブラウザー「Chrome」でのサードパーティCookie利用の廃止を段階的に進めています。

このような状況を受け、サードパーティCookieを扱えなくなることで、運用型広告のターゲティング精度が下がるのではないかといった声も聞かれますが、こうした規制に対する代替手段やサービスも登場しています。

例えば、検索連動型広告の多くを提供するGoogleでは、「プライバシーサンドボックス」という概念を提唱し、ユーザーのプライバシーに配慮した広告配信を目指しています。

また、コンテンツの文脈を読み込むコンテンツマッチング、アンケートデータを活用したペルソナターゲティングなど、Cookieに頼らない形で、より良い広告配信やユーザー体験を目指す取り組みも多く生まれています。

今回の2023年の推計では、まだサードパーティCookieの規制による大きな影響は見られませんでした。しかしこの2024年は「Cookieフリー」時代が本格化すると目されており、広告主やプラットフォームも、代替手段を活用しながら市場の動向を注視する必要があるでしょう。

「広告種別×取引手法別」インターネット広告費の内訳

続いて、広告種別と取引手法別を掛け合わせて、さらにインターネット広告媒体費の実態を深掘りしていきます。

取引手法別×広告種別構成比

「運用型の検索連動型広告」が、全体の39.9%と、昨年までと同様に、最も多い構成比となりました。

次いで「運用型のディスプレイ広告」が25.8%、「運用型のビデオ(動画)広告」が21.5%と続いており、ややディスプレイ広告の構成比が低下しました。これには先述の通り、バナー広告が静止画からビデオ(動画)に置き換わっている傾向も関係しています。

トピック①ビデオ(動画)広告のアウトストリーム広告が伸びた要因とは?

ビデオ(動画)広告は、運用型が前年比117.2%、予約型が109.1%といずれも伸長しています。全体としては、運用型広告が84.4%を占めています。

ビデオ(動画)取引手法別動画広告の広告種別は、大きく2つに分けることができます。

YouTubeなどの動画コンテンツの前後や間に挿入されるのが、「インストリーム広告」です。一方、広告枠や記事のコンテンツ面、SNSのタイムライン等に表示される動画広告は、「アウトストリーム広告」と呼ばれています。

ビデオ(動画)広告種別

2023年は、インストリーム広告が3837億円で構成比が55.9%、アウトストリーム広告が3022億円で構成比が44.1%となり、前年と同様にインストリーム広告の構成比率が多いという結果になっています。

しかし、前年と比較すると、アウトストリーム広告の方が高い伸び率を見せ、反対にインストリーム広告は58.4%から55.9%へと数字を落としています。

アウトストリーム広告の構成比が増えた要因としては、やはり前述した「ディスプレイ広告から動画広告へのシフト」が挙げられます。ソーシャル広告が伸長し、その中のディスプレイ広告が従来の静止画から動画へ移行したことで、必然的にアウトストリーム広告が増加したと考えられます。

こうしたディスプレイ広告の変容も、2023年の特徴的な傾向といえるでしょう。広告のみならず、「動画へのシフト」というインターネットの大きな流れは、2024年も続くと予想されます。

トピック②引き続きソーシャル広告も大きく伸長!

ソーシャルメディアのサービス上で展開される「ソーシャル広告」は、前年比113.3%の9735億円で、1兆円に迫る勢いとなっています。インターネット広告媒体費全体における構成比も36.2%に伸長。前年も112.5%の伸び率を見せましたが、2023年はそれを1.5%も上回る結果となっています。

ソーシャル広告市場

私たちの詳細分析では、ソーシャルメディアを「動画共有系」「SNS系」「その他」の3カテゴリに分類し、広告費を推計しています。

ソーシャル広告種類別構成比

「動画共有系」は、TikTokのような短尺動画(ショートムービー)を含むユーザー投稿型の動画共有プラットフォームを指します。

「SNS系」は、Facebook、Instagram、Xなど、動画共有系以外のプラットフォームを指します。そして「その他」は、ブログや電子掲示板などの広告枠です。

この分類では、SNS系が4070億円(構成比41.8%)ともっとも多く、動画共有系が3372億円(構成比34.6%)、その他が2294億円(構成比23.6%)と続きます。全体の構成比率は前年とほぼ同等であり、大きな変化は見られませんでした。

拡大する物販系ECプラットフォーム。「リテールメディア」広告市場にも注目!

今回の「インターネット広告媒体費」の推定には含まれていませんが、前年と同様に注目したいのが「物販系ECプラットフォーム広告」の成長です。

物販系ECプラットフォーム広告費

「日本の広告費」においては、生活家電・雑貨、書籍、衣類、事務用品などの物品販売を行うECプラットフォームを「物販系ECプラットフォーム」と呼んでいます。

そのプラットフォームへ“出店”を行っている事業者が、当該プラットフォーム内に投下した広告費を「物販系ECプラットフォーム広告費」と定義しています。

物販系ECプラットフォーム広告費

なお、近年注目されているキーワードに「リテールメディア」があります。厳密な定義のある言葉ではありませんが、店頭サイネージやアプリなど、小売り事業者が持つメディアを指します。ECプラットフォームもリテールメディアの一種と考えるケースもあります。

国内電通グループ会社のCARTA HOLDINGSでは、実店舗事業者とEC専業事業者が提供する各種オンラインメディア広告の総称をリテールメディアとし、広告主によるリテールメディア広告への年間支出総額を調査・推計しています。それによると、2023年のリテールメディア広告市場の推定は3625億円(前年比121.5%)に達しており、なお上昇の一途をたどっています。

リテールメディア広告市場規模推定と予測
CARTA HOLDINGS、リテールメディア広告市場調査を実施~リテールメディア広告市場は2023年に3625億円、2027年には約2.6倍の9332億円と予測~ https://cartaholdings.co.jp/news/20231225_1/

ファーストパーティデータ(自社で入手した顧客データ)を活用し、ターゲティング精度の高い広告配信ができるリテールメディアは、製造業をはじめとする広告主からの注目度が高い媒体です。サードパーティCookieの規制の流れもあり、今後さらなる成長が期待されています。

2024年のインターネット広告費はどうなる?

2024年のインターネット広告媒体費は引き続き堅調に推移し、前年比108.4%の2兆9124億円になると予測しています。

インターネット広告媒体費総額 推移

企業の賃上げ傾向があることに加え、2024年に実施される定額減税の影響もあり、消費が上向くと予想されており、広告主の出稿意欲も上がってくるのではないでしょうか。

インターネット広告媒体費の中でも高い成長率を示しているビデオ(動画)広告は、コネクテッドTVのますますの利用拡大や、ソーシャル広告の増加も見込まれ、前年比112.2%の7697億円まで伸長すると予測しています。インストリーム広告、アウトストリーム広告、いずれも同等の伸び率で成長すると見込んでいます。
ビデオ(動画)広告費 推移

また、日本の総広告費においてマスコミ四媒体の広告費が減少する中、2023年も伸長傾向が見られた「マスコミ四媒体由来のデジタル広告費」の動向も注目したいところです。

これはテレビ局、ラジオ局による番組配信サービスや、新聞社が提供する電子新聞、出版社の雑誌のウェブサイトなど、マスコミ各社によるデジタルメディアでの広告費を推計したものです。

マスコミ四媒体由来のデジタル広告費

中でも、テレビ番組の見逃し無料配信動画サービスなどの「テレビメディア関連動画広告」は急成長を続けており、2024年も右肩上がりで推移していくでしょう。

テレビメディア関連動画広告

マス四媒体のデジタルメディアはまだまだ規模としては限られていますが、ブランド広告などを出稿するに当たっては、メディアとしての信頼度や安全性が高いと考えられる傾向があります。そこで注目したいのが、運用型広告の一形態である「プライベートマーケットプレイス(PMP)」という広告取引市場です。

PMPとは、媒体社と広告主を限定したクローズドな広告取引市場であり、広告枠の品質や透明性に課題のあるオープンオークションよりも、高い品質の広告枠を購入できるなどのメリットがあります。また、配信対象にコンテンツメディアが選ばれる傾向があるのも特徴です。

すでに欧米では普及している仕組みであり、アメリカでは2020年頃を境にPMPの構成比率がオープンオークションを超えたともいわれています。現在はまだオープンオークションが主流の日本でも、今後こうした仕組みが定着するかどうかは非常に興味深いところです。

インターネット広告費が大きく伸長するのと同時に、近年はアドフラウドの問題や、不適切なメディアに広告が掲載されてしまう問題など、インターネット広告の信頼性が問われる場面も増えつつあります。PMPのような仕組みは、いわゆる「ブランドセーフティー」の観点からも非常に重要になってくるのではないでしょうか。

また、前述のように、インターネット広告費の中でも大きな割合を占める運用型広告は、サードパーティCookieに頼ったターゲティングから大きく舵を切り、よりユーザープライバシーを守る方向に進化していくことになります。そういった市場の変化によって運用型広告の取引やコンテンツメディアがどのような影響を受けるのかについても、引き続き注視していきたいと思います。

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