健康的に過ごしたい。“だから”夜食を食べる─50・60代女性の夜食事情─
日本の食生活のトレンドを知り、これからを考える、電通「食生活ラボ」(以下、食ラボ)。本連載は、食ラボおよび他の調査データなどを踏まえて、食のキザシをひもといていきます。
突然ですが、みなさんは「夜食」にどんなイメージを持っていますか?「好きな時間に好きなものを食べる傾向が強い若者が食べるもの」「徹夜やカップラーメンなどの“不健康”のイメージが強いもの」といったイメージが先行するかもしれません。
そんな「夜食」に今、新たな兆候が見られています。昨年実施した「食ラボ調査2024」によると、「50・60代女性の平日の夜食喫食率が、2022年から2024年にかけて2倍以上増加している」ことが分かりました。さらに、彼女たちの喫食傾向を引っ張っているのが、「自分は健康であると思っている層」であることが見えてきたのです。
本記事では、この非常に興味深い事実を深掘りし、「50・60代女性の夜食事情」を考えます。
平日、ほとんど毎日夜食を食べる50・60代女性が3年間で2倍以上に!
「食ラボ調査2024」を分析したところ、下のグラフの通り、「平日夜に夜食をほとんど毎日食べている割合」が50代女性は直近3年間で2.5倍、60代女性は4倍に増加していることが分かりました。参考までに、調査対象者全体で見てみると、2022年から2024年までほとんど変動がないことから、50・60代女性で急増傾向にあることが分かります。
そこで、この傾向をより深掘りするために分析対象を50・60代に絞ったうえで「自分が健康であるか否か」という設問の回答でセグメントを分けて直近3年間の傾向を分析したところ、「自分は健康だと思う層」では平日夜食喫食率が3年間で5倍以上に増加していることが分かりました。特に2023年から2024年にかけて10ポイントも上昇しています。他方、「自分の健康に不安がある層」の夜食喫食率はほとんど変動しておらず、“健康自覚”と“夜食”の結びつきの強さがうかがえます。その背景を探る上では、“いまどき50・60代女性”の意識や価値観がカギになると考えます。
「よく食べ」「よく働き」「よく遊ぶ」いまどき50・60代女性
2024年は「50・60代」に大きな変化が起きた年でした。それは、1970~74年に生まれた「団塊ジュニア世代」のほとんどが50代になり、1960年~1970年頃に生まれた「新人類」「バブル世代」の多くが、定年が視野に入る年齢、もしくは還暦を迎えたということです。そんな彼ら彼女らの特徴として、他の層に比べて「食べることを幸せに感じがち」な層だということが「食ラボ調査2024」を通じて分かりました。
また、総務省が実施している社会生活基本調査を見ると50・60代女性は全体と比較して休養・くつろぎにかける時間の増加幅が大きく、仕事にかける時間も増加傾向にあることが分かりました。一方、50・60代女性の睡眠時間に関しては2021年にコロナ禍の影響もあってかやや増加しているものの全体と比較すると伸びが少なく、60代女性は長期的に見て減少傾向でした。
食ラボ調査や社会生活基本調査の結果を踏まえると、いまどきの50・60代女性像として「よく食べ」「よく働き」「よく遊ぶ」様子がうかがえます。言い換えれば、彼女たちは“起きている時間の充実度”を求めているように思われます。睡眠時間も一定確保しつつ、「起きている時間をいかに活動的に過ごせるか」をより重視しているのではないでしょうか。
そして、こうした価値観を持っているがゆえに、夜のプライベート時間を夜食片手に楽しむことが「心身が満たされている健康的な過ごし方」と捉えられ、結果として健康を自覚する50・60代女性が夜食喫食傾向をけん引する形になっているのでしょう。
いまどき50・60代女性の夜食は“ちょっとしたご褒美”
では、そんな彼女たちは夜食で何を食べているのでしょうか。平日に夜食をよく食べていると回答した50・60代女性と10~30代、それぞれ5名ずつに1週間の夜食メニューについて尋ねてみました。すると、若年層はカップラーメンやおにぎりが頻出したのに対し、50・60代女性の中には「手作りのブルーベリータルト」「いちごのタルト」いった、“ちょっとしたご褒美”のような食べものを挙げる人もいました。
また、別の定性調査では、50・60代女性のうち半数以上が「夜食を食べている時にYouTubeやNetflixなどの動画コンテンツを視聴している」ことが分かりました。近年急速に広まった動画視聴という文化は、若年層のみならず、50・60代女性にも浸透しています。日中仕事に励んだ彼女たちは、夜の束の間の休み時間も「いかに充実させられるか」という点に注力しており、軽くスイーツなどを食べながら好きなドラマや映画に浸る、そんな夜を過ごしているのでしょう。
50・60代女性の若返りで、夜食文化はより一層注目市場に
ここまで、50・60代女性で夜食を食べる人が増えている背景について考察してきました。彼女たちは「起きている時間の充実度」を重視しており、デザートやおつまみといった“ちょっとしたご褒美”である夜食を食べながら夜のプライベート時間を楽しんでいる様子がうかがえました。心の充足という観点において、夜食はある種彼女たちの健康を支えるものになっているようです。
ちなみに、昨今食品市場において、主食にもおかずにもなり得る「スープ食(※)」というものがトレンドとなりつつありますが、このような「炭水化物を取るよりはカロリーが抑えられ」かつ「自分好みのメニューである商品」は、今回ご紹介した「いまどき50・60代女性の夜食」の1つとしてさらなる伸長が期待できます。また、スイーツなどその他の食品についても、50・60代女性の夜食というポジションを狙った商品開発によって新たな顧客獲得が期待できます。
活動的な50・60代女性が増えている今、「夜食」というのは、まさに今後の食トレンドのキザシと呼べるのではないでしょうか。
※スープ食:一品で主食やおかずの代わりになるスープの総称。具だくさんタイプやご飯にかけて食べるタイプ、料理そのものをスープに仕立てたタイプなど、さまざまな種類がある。最近では焼き魚の風味を再現したスープ食「飲む焼き魚(エースコック)」といった商品も登場している。
【食生活に関する生活者調査2024 調査概要】
・目 的:日本の食生活における生活者の意識や実態、満足度、トレンドなどを把握
・対象エリア:全国
・対象者条件:15~79歳
・サンプル数:1300
・調 査 手 法 :インターネット調査
・調 査 期 間 :2024年8月23日~8月26日
・調 査 機 関 :株式会社電通マクロミルインサイト
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著者

増田 健人
株式会社 電通
主にコミュニケーション戦略策定や施策効果評価に従事。その他、人財採用におけるブランディングを支援する「採用ブランディングエキスパート」、食生活を基点とした課題解決を支援する「食生活ラボ」に所属。











