経営トップをサポートする「メッセージング・パートナー」の仕事

現代は情報があふれる時代、変化のスピードが速い時代です。だからこそ、その企業らしい言葉、その企業しか言えない言葉、その企業の本質が表れた言葉の重要性が高まっています。
私たち電通メッセージング・パートナーズは、 パーパス・ミッション・ビジョン・バリューなどの企業理念、そして経営トップ自身が発信するスピーチライティングなどを担う専門チームとして発足しました。コピーライターに加え、PRプランナー、プロデューサーといった多様なバックグラウンドをもつメンバーが「メッセージング・パートナー」の名刺を携え、活動しています。
この連載では、われわれチームのオリジナリティや専門性、さらにはこれからの「経営トップのメッセージング」のあり方について、ていねいにお伝えしていきたいと思います。

「メッセージング」という言葉に込めたもの
こんにちは。電通メッセージング・パートナーズの高橋慶生です。私はコピーライター、そして「メッセージング・パートナー」という肩書きで仕事をしています。この記事では、私たち電通メッセージング・パートナーズがどんな思いで、何を目指してチームを立ち上げたのか、お伝えできればと思います。
メッセージという言葉を辞書で調べてみると、その語源は「送る」にあることがわかります。伝える人、そして受け取る人。その両者をいかにつなぎ、お互いの目指すものを一致させるのか。それこそが、私たちが専門とする「メッセージング」の根幹です。
それって広告コピーとは何が違うのか、と疑問に思われるかもしれません。実際に、重なる部分も大きいです。それでもあえてメッセージングという言葉をつくったのには、以下の二つの意図があります。
一つは、仕事の「領域」についてです。私たちは経営トップの言葉の力をサポートするチームである、という専門性を明らかにしたいと考えました。企業が発信するメッセージ、より具体的には経営トップ自身が発信する言葉。そうした領域でこそ、私たちの知見やスキルを役立てられると考えたからです。
二つ目は言葉をつくる「プロセス」を明確にするためです。通常のプレゼンテーション形式では、特に経営者個人の思いを純度高くメッセージングすることは難しいと感じていました。必然的に、対話を重ねていくセッション形式で進めていくことが多くなります。
そんなスタンスのもと、私たちは「メッセージング・サポート」というサービスを提供しています。経営トップや組織のリーダーをはじめ、経営企画、広報部門の方々からのご相談も増えています。みなさんからは、「メッセージング」の課題は感じていたものの、どこに頼めばいいのかわからず困っていた、という声も少なからずいただいています。

「対話」の中で「そう、それ!」を見つける
先ほど触れたように、メッセージング・サポートの中心に位置するのが「対話」です。スライドや紙などの資料は極力用意せず、まずは経営トップご自身が話したいこと、伝えたいことを、われわれに語っていただくことから始めるケースが多いです。
もちろん、最初から原稿の草案を書いてお持ちすることもありますが、まずはきれいにまとめる前の思いや熱量を私たちが直接受け取ることで、最終的なメッセージのクオリティや精度を高められると考えています。
例えば、個人的なエピソードや仕事以外での出来事、最近繰り返し考えているようなテーマなど、「これは本論とはズレるのですが」と前置きしてお話しくださることの中に、とても大切なエッセンスが見つかることもあります。
どうしても、「全社員」「すべてのステークホルダー」といった方々に向けて広く伝えようとすると、主語が「私たち」つまり「企業主語」になっていくのですが、聴衆が何人であっても、「伝える人と、受け取る人」の構造は変わりません。ですから、スピーチライティングにおいては、主語を「私」という一人称で語るストーリーになるよう心がけます。もちろん企業として伝えるべきことは的確に整理して発信する。その上で、伝えるべきメッセージをより効果的、印象的に届けるために、個人的な熱量を入れ込んでいく。そんなバランスで考えています。
それ以外に、われわれから積極的に「問い」を投げかけることも大切にしています。人は思ってもいなかった方向から問いかけられると一瞬、驚きや戸惑いを感じますが、それが呼び水となって「考えてはいたが、意識していなかったテーマ」が見つかったり、「実は本当に話したかったのは、こういうことだったのか」と視界が広がることがあります。
例えば、ある課題について対話する中で「その課題が一気に解決したと仮定すると、会社はどう変わるでしょうか?」と視野を広げるような問い。
例えば、「もし10年後のあなたが、今の会社に対して一つだけアドバイスするなら、何と言うでしょう?」と時間軸を行き来するような問い。
いろいろな方向に対話や議論が広がっていくほど、本当に伝えるべきメッセージを深く掘り下げることができます。私たちの役割は、言われたことを整えて、まとめるだけではありません。対話のプロセスの中で、確かにここが一番伝えるべきものだ、という核心が見つかった瞬間は「そうそう、それそれ!」という手ごたえがお互いに感じられます。そこが見つかれば、メッセージの柱ができるので、ストーリーを練り上げていく段階へ進むことができます。
面白いのは、聞いているわれわれだけではなくクライアント自身も、自分がこんなことを考えていたなんて!と驚かれたり、なぜこのことに今まで気づかなかったんだろう?といった感想をいただくことです。プレゼンテーションする/されるという、役割が固定された場ではなかなか生まれてこないものだと思っています。
このような対話を経た上で、原稿やメッセージの案を書き上げ、ふたたび対話を重ねる。それが「経営の中核となるメッセージ」を形にしていく、私たちのアプローチです。

「メッセージング」を通してかなえたいもの
やや熱く語ってきましたが、「そもそも今の世の中って、すでに情報が多過ぎない?」と感じていらっしゃるかもしれません。でも、だからこそ、本当に伝えるべきメッセージをしっかりと形にして、届けていくことの重要性が高まっている、とも言えるのではないでしょうか。
冒頭でも触れましたが、メッセージの語源が「送る」であるように、伝える人と受け取る人をきちんとつなぐことができれば、その企業はもっと力を発揮できるはずですし、そこで働く一人一人のポテンシャルを引き出すことにもつながると考えています。
言葉だけで事業や経営がうまくいくなら苦労はしない。そうした考えもあるでしょう。それでも、人の意志や行動を駆動するのはやはり言葉です。何のために自分はこの仕事に取り組むのか。自分たちの目の前の仕事が、どんな未来につながっているのか。そのことを深く自分の中に意味づけられているほうが、企業も個人も、描いた理想に近づいていけると思うのです。
ですから私たちは、単に言葉をつくることをゴールに置いてはいません。例えばその言葉が、「社内の口癖」として流通していくこと。例えば「それって○○というミッションに合っているのかな?」といった問いが出てくること。経営から現場までを貫く共通言語をつくり、日々の仕事の中で活用していただけるように、真摯に考えつづけます。
そして何より、対話の中で「そうそう、それが言いたかったんだ」というものが見つかる瞬間に、とてもやりがいを感じます。対話を重ねた上で一文、一文、考え抜いてかたちづくったプレゼンテーション/スピーチが、実際に聴衆の方に届く瞬間を目の当たりにできることも、私たちの大きな喜びです。
たかが言葉と言われるかもしれません。でも、私たちはその言葉を、その企業の社員や経営者の方にとって意味のあるものにするため力を尽くしていきたいと考えています。
電通メッセージング・パートナーズ
Email:messaging@dentsu.co.jp
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著者

高橋 慶生
株式会社 電通
第2CRプランニング局 / Future Creative Center
コピーライター
コピーライターとしてビジョンやパーパスの設計を軸に、企業ブランディングに従事。スピーチライティングなどを扱う専門チームで「メッセージング・パートナー」として、経営トップのサポートも担う。さまざまな角度から一貫して「言葉をつかって、企業の力になる」仕事に取り組む。


