左から、SKY孫迪叡氏・吉田千紘氏、電通 飯沼瑶子氏・山本将介氏・藤井希美氏。子どもと共に“成長する服”、Petit Pli(プチ・プリ)の誕生秘話とポテンシャルとは? 子どもの成長に伴って多くの服が必要とされますが、サイズアウトした服は大半が廃棄される運命にあります。
そして世界中で大量生産・大量廃棄される衣類が、CO2排出などさまざまな環境問題を引き起こしています。
こうしたアパレル業界の課題を解決すべく誕生したのが、“成長とともに伸びていく素材”。そして、その素材を使ったロンドン発の子ども服ブランド「Petit Pli (プチ・プリ)」です。
本記事では、Petit Pliを日本で展開する合同会社SKYの孫迪叡(みちえ)氏、吉田千紘氏に、電通のプランナー飯沼瑶子氏、藤井希美氏、山本将介氏がインタビュー。
ブランドの創業ストーリーをはじめ、コンセプトやミッション、お客さまからのリアルな声や今後の展開について話を聞きました。
宇宙工学専攻の創業者が発明した「子どもと共に成長する服」とは? SKY孫迪叡氏 飯沼:本日は、ロンドン生まれの子ども服ブランド「Petit Pli」を日本で展開する合同会社SKYのお二方に、インタビューさせていただきます。「子育て中の親」の視点を持つ電通プランナー3人で、お話を伺えればと思います。私は電通でプランナーをしている飯沼です。一児の母でもあります。
山本:プランナーの山本です。私も一児のパパです。
藤井:同じくプランナーの藤井です。2024年の年末に育休から復帰しました。
孫:合同会社SKYのCEOを務める孫と申します。新規事業としてPetit Pliを日本で展開しています。3人の子どものママです。
吉田:Petit Pli Japanを運営する吉田です。運営や企画を担当しています。
飯沼:Petit Pli創業のきっかけをお聞かせいただけますか?
孫:Petit Pliの創業者であるイギリス人のライアン・マリオ・ヤシンさんは、おいっ子が生まれたお祝いに子ども服をプレゼントしたのですが、おいっ子に届けられたときにはすでにサイズアウトしていたそうです。 子どもはすぐに成長すると痛感し、また成長によって着られなくなった服が廃棄され、環境に負荷をかけている現状にも課題を感じた彼は、自身の専門である「宇宙工学」で課題解決を試みました。「身体の成長とともに伸びていく素材」の仕組みを、何百回もテストを繰り返して発明したのが、Petit Pliの子ども服です。
飯沼: “成長する服”というコンセプトはユニークです。最初は小さな服が、引っ張ると大きなサイズになり、また押し込むと小さなサイズに戻るPetit Pliの技術には、宇宙工学の知見が生かされているとのことですが、どのようにして現在の形に至ったのでしょうか?
細かい「折り」が入ったPetit Pliの服は、引っ張ると縦横に大きくなり、また押し込むと小さいサイズに戻る。耐久性も十分。 吉田:ライアンさんは、アパレル業界の課題を考え、自分が学んできた技術や知識がどこに当てはまるかを意識したとき、宇宙工学を学んだときに身に付けた「折り」の技術がぴったりはまると感じたのだと言います。Petit Pliの生地には「折り」の技術が2つ使われています。 1つ目は東京大学の三浦公亮名誉教授が発明した「ミウラ折り」です。この折り方では、対角線上に引っ張ると広がりますが、戻すとちゃんと折り畳まれます。山の地図などにも使われている折り方です。ライアン氏は元々、人工衛星の太陽光パネルにも使われていることを知っていて、伸びる素材を作る際に応用できると考えたようです 2つ目は、「オーセチック構造」です。通常、物質は引っ張った方向に伸びつつ、幅は細くなりますが、オーセチック構造を取り入れた生地を引っ張ると、縦にも横にも広がって伸びます。そして逆に押し込むと、縦も横も縮みます。この特殊な事象を専門用語では「負のポアソン比」と言います。 ちなみにPetit Pliの服は、伸び縮みする仕組みに「折り」を採用しているので、プリント柄を折り畳んでいる状態と、伸ばした状態では見え方が変わります。それぞれの状態に子どもが着た姿を写真で残していくと、時期によって服の表情が異なって面白いと思います。
飯沼:伸ばしてみると「あ、このプリント柄はチューリップだったんだ!」 みたいな発見がありますよね(笑)。面白い!プリント柄や色、デザインも特徴的ですね。
吉田:ブランドの軸に「宇宙」というテーマがあり、宇宙の中にある色を落とし込んでいます。例えばケルビンブルーと呼んでいる色があります。ケルビンとは光源の色温度の単位の ことで、高熱時に発する青色が由来です。 他にもNASAの宇宙飛行士が着ているような色合いの、アストロノーツオレンジ(宇宙飛行士オレンジ)などもあります。子どもは「目の前にある色」をとても意識するといいます。子どもには彩りに満ちた世界で遊んでほしいという思いも込められています。
お気に入りを長く大切に着ることで、“気づき”を得てほしいSKY吉田千紘氏 飯沼:プロダクトの隅々まで、宇宙工学を学んできたライアンさんのスピリットが入っていることが面白いです。ブランドのミッションはどのように設定されているのでしょうか?
吉田:一言で言うと「長く使えて、大切にされる」がミッションです。子どもにとって、着ることは初めてのデザイン体験であり、消費体験になります。ライアンさんは「長く着ることで、大切に扱うことを覚えてほしい」「自分の身近なところから、一つ一つの消費体験を大事にして、何らかの気づきを得てほしい」と言っていますね。
山本:子どもの行動を見ていると、服を選ぶところでこだわり始めますよね。子どもにとって、自分の意思による選択の最初の一つが服選びなのかなと思います。
藤井:私の子どもが服の組み合わせを選ぶとき、上はどぎつい青で、下はピンクを選んだりするんです。大人だったら選ばないし、周りの目を気にするけど、子どもは自分の感性を100%出せる。そういう感覚を大事にしたいと思っています。
電通 飯沼瑶子氏 飯沼:親子のやり取りも含めて、初めてのデザイン体験・消費体験になっていると実感しました。服の素材はどんなものを使われていますか?
孫:素材にはペットボトルを再生した再生ポリエステルを主に使っており、理屈上では上下のセットアップを着ることで、世の中から11本のペットボトルをリサイクルしたことになります。着て、消費して、手放すまでの一連の過程を体験することで、環境やデザイン、素材についても学んでほしいですね。
飯沼:自分の消費活動が大きなエコサイクルの中にあることを意識できるきっかけになりますね。続いて、このPetit Pliというブランドを日本で展開するきっかけに至った、孫さんとライアンさんの出会いについてお聞かせください。
孫:夫の仕事の都合でイギリスに行く機会があり、荷物をパッキングしていたときに、サイズアウトした子ども服が大量に見つかったんです。そのとき、アイデアを考えるのが好きな長男が「服がサイズアウトしない方法はないの?」と言い出したことから家族でブレストが始まり、「服を伸ばせばいい」というアイデアが出てきました。「でもどうやって伸ばすの?」と話していたんですが、その翌週、イギリスのショッピングモール内に、まさに服が伸び縮みしながら飾られているディスプレーを見かけたんですね。それがPetit Pliとの出会いです。
飯沼:翌週!運命的なものを感じますね。
孫:そうなんです(笑)。その日から3日間連続でショップに通い、店頭にいらしたデザイナーさんに「この服を作った人とお会いしたい」と話したところ、なんと3日後にはライアンさんが会ってくださって。初対面から話が盛り上がり、私から「日本でも展開しませんか?」と話を持ちかけました。 私が日本での販売を担当すると決まってからは、「こんなにすてきなブランドがあるんだよ!」と多方面の方々に話していました。すると今度は、伊勢丹の子ども服バイヤーさんとつながり、Petit Pliのコンセプトにとても共感していただいて、伊勢丹新宿店でポップアップストアを展開する運びになりました。私の一方的な思いで始めたのですが、勢いで0から1にすることができてよかったです。
軽くて速乾性もあってかさばらない。「冒険するときに着てほしい!」電通山本将介氏 飯沼:出会うまでの流れが、すごく導かれている感がありますね。実際に孫さんのお子さんも利用されたんですよね。
孫:はい。商品が届けられる箱も面白くて、箱を開くと工作ができるんですね。まず子どもは「何これ!」と、箱に反応して工作を始めました。伸びる服にも興味津々で「こんなに小さな服は着られないよ!」と言いながら、でも実際には着られて、すごくわくわくしている様子でした。 少し高価な服なので、ちゃんとした場所に着ていくつもりだったのですが、Petit Pliを着て公園に行ったとき、すごく楽しそうに走り回っているのを見て考えを改めました。Petit Pliは素材も体にペタッと張り付かず、動きやすいんですよね。それ以降、海や山に行くときにも着ていくようになりました。 軽くて速乾性もあってかさばらないですし、ちょっと雨に濡れても大丈夫なので、わが家では“冒険するときのおとも”という位置づけの服になりました。子どもの冒険のお友達として、数年間、いっしょに成長してくれましたね。
飯沼:確かにリュックの中にぐるぐると小さく丸めて入れてもシワにならず、生地も引っかかりがなくて丈夫で傷みづらく、持ち運びしやすそうです。
山本:「冒険」という言葉が、とてもいいと思いました。土遊びのときに着ていくと、よりアグレッシブになれそうですし。あるいは知的な好奇心をくすぐる冒険、例えばピアノの発表会に着て行ってもいいし。
吉田:まさにおっしゃる通りで、ライアンさんは「子どもの身の回りにあることすべてがアドベンチャーだ」と話しています。「冒険するときにいっしょに歩んでほしい」という思いが込められていますね。
飯沼:背景にある思いを伺うと、素材からデザインまで、一貫した思想が感じられます。Petit Pliの服が、ブランドが持つ思想も含めていっしょに伝わっていくと、“おさがり”として次の方に譲っても喜ばれると思います。
吉田:日本ならではの“おさがり文化”によって、また違う子が着て、違う家族のストーリーが生まれるのもすてきです。Petit Pliの生地自体が丈夫なので、よほどじゃない限り破れはしないのですが、イギリスではボタンが取れやすくなったり、不備不良が生じたりした場合は補修するサービスを行っています。それも日常的に彼らが行っているサステナブルな活動の一つですね。
藤井:私の子どもは、サイズがぴちぴちの服をまだ着たがるのですが、Petit Pliのように長く着られると、服への愛着や、ものを大事にする付き合い方がさらに育まれる気がします。
電通 藤井希美氏 飯沼:Petit Pliの服は、ギフトとしても選びやすいアイテムだと思います。例えば男の子にプレゼントするときに選ぶデザインは車や恐竜だったり、女の子の場合はフリルがついていてピンク色だったり、イチゴが描いてあったり、ジェンダーを規定するようなものも多いので、ギフトを選ぶ際に戸惑いを感じることがあると思うんです。その点、Petit Pliの服はジェンダーレスなデザインで、とてもよい選択肢だと感じます。
吉田:ありがとうございます!プリント柄については、発売後数年は種類が少なく、本当にジェンダーレスな展開だったんです。一方でジェンダーに沿ったデザインを求めるお客さまもいらっしゃるので、最近ではジェンダーに寄ったわかりやすいラインアップも少しずつ出始めています。 ただ、そうはいっても、このジェンダーレスな世界観は他にないので、あえてPetit Pliが狙わなくてもよいとも思っています。
飯沼:環境に意識を向けるきっかけだったり、「男の子だからって、乗り物のデザインを選ばなくていいか」ということだったり、Petit Pliの服から、消費者が“気づく”きっかけが生まれているところもすごくいいと思います。
山本:ちなみに、大人の服も展開しているのですか?
孫:はい。今、私が着ている服がPetit Pliのマタニティウエアなんですが、すごく伸びるんですよね。イギリスでは男性が着ているのを見かけましたが、飛行機に乗るときや体形をカバーしたいときに、すごく便利だし重宝しますね。
飯沼:大人の男女が共有できる服は、なかなかないですよね。子どもだけじゃなくて、大人もそういうことができるって面白いです。
Petit Pliの大人向けのジャケットを山本と藤井が試着。子ども服と同じく伸び縮みし、サイズもデザインもジェンダーレスで、誰にでもよくなじむ。 特許を取った「伸び縮みする素材」で、多分野での展開も見据えたい飯沼:今後のプロダクト展開について、何かイメージされているものはありますか?
吉田:Petit Pliの技術を生かしたプロダクトとして可能性があるのは、普段はコンパクトだけど被災時に使える避難用や災害用シェルターなどでしょうか。もちろんアウトドア活動とも相性がよいと思っています。 あとは介護医療関係で展開する可能性も考えています。体形の変化や病気などによって体を自由に動かしにくくなった方に着やすい仕組みを提供したり、さまざまな世代の方にフィットする商品を展開できたらと思っています。
孫:Petit Pliでは、デザインするというより、何よりこの素材を生かしたいと思っています。「折り」を追求した構造自体がとてもユニークで、特許も取っているので、例えば他企業とのコラボレーションにより生地を取り入れていただくことで、新しい展開ができたらうれしいですね。
SKY吉田氏が手にしているのはミウラ折りで折り畳まれた紙。人工衛星の太陽光パネルでも用いられている技術で、Petit Pliの大きなインスピレーション源となっている。 飯沼:これから日本で本格展開するに当たって、どのような広がりを期待されていますか?
吉田:Petit Pliの服を着ることで、子どもと一緒に服を「育む」発想が広がっていけばいいなと思っています。家族の中で1つのストーリーが紡がれ、服と共に成長していってもらいたいです。
藤井:「育む」というテーマは、日本文化とも親和性があると感じます。例えば 日本には陶器が割れても金継ぎで直して使い続ける文化があり、そのような行為自体が「育んでいる」ことのように感じます。
吉田:だしがらをつくだ煮にして再利用したり、手入れすることで長く使えるぬか床など、使い続けることで価値が生み出される文化が日本にはありますよね。ライアンさんも、日本文化にすごく共感しています。
山本:先ほどリユースの話がありましたが、Petit Pliを長く着たあとで、次のステージに行ったときに例えばバッグとして仕立て直したり、「その先の経験」を買えたりするとよりすてきだなと思います。
飯沼:例えばランドセルは、他のグッズに展開するサービスがありますよね。最後まで冒険に寄り添い続けてくれるという。
孫:この素材自体を生かして、洋服から何かをリメイクすることは考えられます。実際に、今日持ってきたぬいぐるみはPetit Pliの服を用いて作ったものを販売しているんです。生地の端切れを使ってチャームを作ったりすることもできますね。
山本:リサイクルされた先で、また違う法人のサービスで使われるなど、社会の中で回っていくといいですね。ペットボトルがPetit Pliの服になって、次に別のものになって……最終的には宇宙に戻って火星に行きました、といった展開も楽しみです!
Petit Pliの服と、端材から作られたぬいぐるみ。