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ソーシャルアクションに必要なのは、理念を日常の企業活動に昇華させる力

金田 晃一

金田 晃一

株式会社 NTTデータグループ

小国 士朗

小国 士朗

株式会社 小国士朗事務所

SDGsをテーマにした「サステナビリティ広告」を含むソーシャルアクションには、今後何が求められるのでしょうか。前回記事では、2025年の広告電通賞 SDGs特別賞と優秀賞に輝いた受賞作品を振り返りながら、「社会課題に詳しくない人を巻き込み、笑顔で取り組めるアクションの提案」がサステナビリティ広告に必要なことを伝えました。

今回も引き続き広告電通賞 SDGs特別賞の選考委員長・金田晃一氏と選考委員・小国士朗氏に、企業のソーシャルアクションについて押さえておくべきポイントを、ご自身の経験も踏まえながら語っていただきます。

公国電通賞 SDGs特別賞


たくさんの人の手をつなぎ、大きなパワーを生み出すクリエイティブの力

金田:今回の広告電通賞SDGs特別賞(以下、SDGs特別賞)の応募作品は、いわゆる「広告」と、課題解決に向けた「アクション」の2種類がありましたね。

小国:そうですね。全体に占める広告の割合は意外と少なかったのではないでしょうか。

金田:選考委員長として応募作品を毎年見ていると、広告からアクションへと作品の幅が広がってきているように感じます。これは、見る人を巻き込んで個々のアクションを引き出そうという広告主の狙いの表れでしょう。各企業で、広告にとどまらない取り組みが加速していますね。

小国:課題解決をするためのさまざまなアプローチがあって良いと思います。作りたい世界から逆算して何が必要かを考えてみると、一個人で目的を達成することの難しさに気づかされます。志を同じくするたくさんの企業、個人、団体が手をつなぐためのコミュニケーションに有効な手法の1つが広告なのだろうと思うのです。

金田:おっしゃる通り、大きな課題を解決する際は、たくさんの人と手をつなぐ必要性を感じます。また、複数の企業が手を組んでこそ、広告効果も高まります。実は今、私が所属するNTTデータグループは、NPOにITをこれまで以上に活用してもらうことで社会課題の解決により大きなインパクトを出してもらおうということで、NPO向けのオンラインIT研修プログラムである「NPTechイニシアティブ」を実施しています。

これは、日本NPOセンターとNTTデータが始めた戦略的社会貢献プログラムなのですが、研修内容の充実に向けて、また、社会インパクトの増大に向けて、デル・テクノロジーズ、インテル、伊藤忠テクノソリューションズ、LINEヤフーなどにも参画していただいています。各社の強みを活かした研修コンテンツはNPOの皆さんにとってよりリッチなものになったうえ、複数企業が協力し合うコレクティブ・アクションになったことにより、メディアにも注目されました。

小国:たくさんの企業が手をつないだ取り組みの好事例ですね。社会課題を解決までもっていこうとするのであれば、たとえ普段はライバルといわれる企業同士であっても、力を合わせて挑んだほうがいい。そのためのコミュニケーションに、クリエイティブの力が発揮されるのだと思います。

小国士朗

企業の掲げるパーパスこそが、社会貢献活動の“北極星”に

金田:もう1つ、社会貢献活動をする中で重要となるのは「継続する」ことです。たとえば、企業が社会貢献プログラムを実施する場合、あるNPOからは「5年は続けたほうがいい」とアドバイスを受けたことがありましたが、経験上、まったくその通りだと感じています。活動時のデータを収集・分析して活動の成果(アウトカム)を表に出すまでに3年、成果が社会に知れわたり、波及効果(インパクト)がでるまでに2年、ということで、社会インパクトを創出・開示するのであれば、少なくとも5年は必要というわけです。

小国:本当にそう思います。こういった活動は、すぐに成果が出るものではありません。必ず年単位での時間がかかりますから、成果の出ない期間をどこまで耐えられるかが試されます。

私は2020年から、サントリーウエルネスとJリーグと一緒に、「Be supporters!(ビーサポーターズ)」というプロジェクトを推進しています。これは、「支えられる人から、支える人へ」をコンセプトに掲げスタートしたプロジェクトで、普段“支えられる”場面の多い高齢者や認知症の方が、サッカーのサポーター、つまり“支える”側になることで心身の元気を取り戻そうという取り組みです。

企画を考えて、一緒に活動してくれる企業を探していた際、サントリーウエルネス前社長の沖中直人さんが「うちでやりたい!」と手を挙げてくださいました。当時、社長に就任されたばかりの沖中さんには、ある課題が見えていました。それは「人生100年時代、サプリメントによる“予防”だけではなく、長く生きていく中で心身に不調を抱えることになったとしても、それらと共に生きる、“共生”という観点が企業活動には必要になる」というものでした。

金田:経営者自らが本業と社会貢献活動をリンクさせる発想をもつことは、企業が長期にわたって活動を継続させるための大きなポイントになると思います。

小国:私はNHKのディレクター時代に、「注文をまちがえる料理店」を企画しました。これは、「まちがえちゃったけど、ま、いっか」をコンセプトに、認知症の方がホールスタッフとして働く、レストラン型イベントです。沖中さんとはこのイベントを一緒に取り組んだときからのお付き合いで、沖中さんが社会貢献活動にとても深い理解があるのはわかっていました。

しかし、「Be supporters!」のプロジェクトが始まってすぐのころは当然成果が出ないし、メディアの露出もほとんどない。すると、社長の立場としてはうずうずしてくる(笑)。ものすごく我慢してくださっているのは伝わってくるのですが、年に1回くらい「小国くん、『Be supporters!』なんだけど、そろそろ、ね、どうなの?」と聞いてくる。直接的に言われたことはないですけど、やっぱり社員の皆さんも時間がたつにつれて少しずつザワつき始めていたんじゃないかなと思うんです。「いいことをやろうとしているのはわかるけど、お金をかけて何のためにやっているの?」と。

金田:そうなんですよね。そんなとき、その企業が何のために存在しているかを示す「パーパス」がしっかり浸透していると、幹部にも現場の社員にも説明がしやすい。「パーパス」は、判断に迷いやぶれが出てきたときの“重し”になります。

小国:おっしゃる通りです。サントリーウエルネスの場合、グループのパーパスに「『人間の生命の輝き』をめざす」という言葉があるんです。だからこそ、沖中さんも社員の皆さんに「この活動で理念を体現しようよ」と言い続けることができた。

そして、1年たち、2年たち、プロジェクトが成熟してきたころに露出がドンと増えていったんです。わかりやすい大きな変化や成果のない状況を、社長含めて全社員が我慢し続けた結果、5年たった今では全国約230の高齢者施設でのべ1万人を超える高齢者の皆さんが元気に楽しくサッカーのサポーターになってくれましたし、サントリーウエルネスの露出もこれまでの何十倍という量で増えました。

金田:素晴らしいですね。ソーシャルアクションは、トレンドだから、皆がやっているからと思い付きで食いつくと逆に足元を見られる。経営者自らが活動に大きな意味を見いだし、理解を深めていることを実感させられるエピソードです。

金田晃一

生活者は見ている。サステナビリティ活動は“言行一致”が大原則

小国:金田さんの携わる「NPTechイニシアティブ」にしても、私の携わる「Be supporters!」にしても、社会貢献活動のキーワードになってくるのは、“言行一致”だと思います。社会貢献活動をするという経営判断が、それまでの事業活動と矛盾なく一致していることで初めて、社員も社会も納得すると思うんです。

金田:そうですよね。過去の行動によっては、「この会社は何で急にこんな良いことを言い始めたんだろう?」って思われてしまいます。これまでのSDGs特別賞の選考委員会を振り返ると、ある企業の広告作品を評価する際に、「過去にその企業が起こした社会に対する無責任な行為が現時点で改まったとは到底思えない」という理由から、“SDGsウォッシュの惧(おそ)れあり”と意見する委員もいらっしゃいました。

小国:15年ほど前の事例になりますが、パタゴニアが自社の製品写真の上にでかでかと「Don’t Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」と書いた広告は、掲載当時大きな話題を呼びました。パタゴニアは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」という理念を掲げ、積極的に環境問題に取り組んできたからこそ、その広告は人々の心を揺さぶりました。広告だからワークしたのではなく、やるべきことをやっていたから広告がワークしたんだろうと思います。

金田:生活者は見ていますよね。もう1つは、会社の規模に見合った活動をすることも大切だと思います。大きな企業が、尊い活動とはいえ小さな動きに終始していることに違和感を抱いている生活者は一定数いるかもしれません。規模が大きいということは、多くの自然資源や人的資本を多く使っていたり、多くの大人や子どもたちにアプローチしているわけですから、環境/社会面でのフットプリント、言い換えれば、環境や社会や人々に与える影響力は相当なものです。そこで、その影響力に見合った規模や質のサステナビリティ活動かという視点も重要になってくるでしょう。

広告主・制作者・生活者の誰もが今後もつべき3つの視点

小国:広告を見る生活者のジャッジは、鋭くシビアになってきていますね。

金田:そう思います。非常に透明性の高い時代になってきているので、広告制作の際は今後3つの視点が必要になってくると思います。

1つ目は、AIとの付き合い方。AIは多様な表現をする際の武器になる一方で、偽情報、誤情報、ヘイトスピーチなどを助長する懸念があるので、リスクを理解したうえで安全に使う必要があります。

2つ目は、表現に対する規制。環境に配慮していると見せかけたグリーンウォッシュへの規制は世界中で広がりを見せ、EUでは法律によって規制されるようになっています。

国連は2024年、AIの普及により加速する誤情報・偽情報・ヘイトスピーチの拡散に対抗し、信頼できる情報環境を守るために「情報の誠実性のための国連グローバル原則」という国際的な指針を発表しました(※)。

3つ目は、サステナビリティに対する感度。これはたとえば、大規模な人権侵害の原因をたどっていくと環境問題に起因するケースもあります。私たちは、目に見えないところで予期せぬ連鎖が起こっていることを知っておく必要があります。因果関係を知らないと、人々に思わぬ不快感を与え、バッシングされるかもしれません。

情報の誠実性のための国連グローバル原則=「社会的信頼とレジリエンス(強靭性)」「健全なインセンティブ」「人々のエンパワーメント」「独立した自由で多元的なメディア」「透明性と研究」の5つ。

小国:今後、SDGs特別賞を選考する際にはこれらの視点も欠かせませんね。サステナビリティ広告やソーシャルアクションは、ともすると「浮かれがち」になる部分があります。企業として新しい取り組みになることもあるし、「良いことをしているんだ」と世間に発信したくなる。でも、あまり熱狂しない方がいいかなと思います。

サステナビリティやSDGsに関する取り組みは、たいてい時間がかかるものなので、熱狂は続かないと思います。僕は「高い平熱」を保つことがとても大事だと考えています。それはつまり、「どうやって営みに昇華させられるか」ということです。

金田:そうなると、「やり続ける」ためには何が必要でしょうか?

小国:参加している人たちが「面白い」と感じる要素が必要ではないでしょうか。

金田:まさにそうですね。僕はそれを「ファンファクター」と呼んでいます。サステナビリティ広告でも、ちょっとしたユーモアがあると記憶に留まるものです。逆に、楽しいと思えないと、広告は教条的になってしまいます。これをしてはダメ、あれもしてはダメでは続かない。

まとめになりますが、今回、小国さんと対談して、サステナビリティ広告や企業のソーシャルアクションについて、何が重要なのかが少しずつ見えてきました。企業の掲げるパーパスに合致していること、言行一致の姿勢、つまりこれまでの事業活動の延長線上に無理なくプラスされること。いろいろなステークホルダーと手をつないで課題を解決していくこと。そのためのコミュニケーションに、クリエイティブの力を発揮すること。来年のSDGs特別賞が楽しみなことはもちろん、日本社会に持続可能なソーシャルアクションがさらに生まれてくることを期待しています。

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著者

金田 晃一

金田 晃一

株式会社 NTTデータグループ

サステナビリティ経営推進本部

シニア・スペシャリスト

ソニー渉外部、在日米国大使館経済部で約10年間、日欧・日米の通商政策を担当。日本テレビアナウンスカレッジを修了後、1997年から1999年にかけてブルームバーグテレビジョンで経済・企業ニュースのアナウンサーを務める。1999年からソニー(再入社)、大和証券グループ本社、武田薬品工業、ANAホールディングス、NTTデータグループの5社でサステナビリティ経営の推進に携わる。2007年から2年間、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科で教壇に立ち、現在は、日本ソーシャル・イノベーション学会理事、国際協力NGOセンター(JANIC)理事、多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員を務める。

小国 士朗

小国 士朗

株式会社 小国士朗事務所

代表取締役/プロデューサー

2003年NHKに入局し、ドキュメンタリー番組を中心に制作。その後、認知症の人がホールスタッフを務める「注文をまちがえる料理店」を手がけ、2018年に退局。現在は「deleteC」「Be Supporters!」など多数のプロジェクトに携わる。

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