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社会課題に詳しくない人を巻き込み、笑顔で取り組めるアクションの提案

金田 晃一

金田 晃一

株式会社 NTTデータグループ

小国 士朗

小国 士朗

株式会社 小国士朗事務所

SDGsの目標達成年まで残り5年を切った今、SDGsをテーマにした、「サステナビリティ広告」は消費者に何を問いかけているのでしょうか。本記事では、第78回広告電通賞 SDGs特別賞の選考委員長・金田晃一氏と選考委員・小国士朗氏が、受賞作品を紹介しながら、今後、サステナビリティ広告に求められるポイントを語り合いました。


“ズラし”を利かせたテクニックで、課題解決しなかった場合の未来を考える

金田:多数の応募作品を見て感じたのは、今回は社会課題を訴求する手法が大きく3つあるということでした。1つ目は、「課題解決しなかった場合の未来を見せる」ことによって課題を浮き彫りにする手法。2つ目は、「サプライチェーンの全体像を見せる」ことで課題の発生源に迫る手法。3つ目は、「課題の本質を見せる」ことで固定観念を見直す手法です。SDGs特別賞と優秀賞に輝いた3作品は、この手法がそれぞれ用いられ、選考委員の目を引きました。

小国:私が今回の受賞作品に感じたのは、「作った人は、きっと楽しみながら制作していたのだろうな」と思わせてくれるユニークさです。眉間にしわを寄せて、肩に力を入れこぶしを振り上げる“革命”も必要ですが、みんなでワイワイと楽しみながら笑顔で取り組むような“次の希望を作る活動”が始まっているんだな、という明るい印象を受けました。

金田:SDGs特別賞を受賞した、一般社団法人あすにはの「Think Name Project」は、まさにユニークな表現を用いながら、課題解決をしなかった場合の未来を見せることで課題を浮き彫りにしましたね。

広告電通賞 SDGs特別賞(エリアアクティビティ)
一般社団法人あすには/国立大学法人東北大学他40社
「#2531年佐藤さん問題 Think Name Project」
選択的夫婦別姓について考えるきっかけを作り、男女の平等な婚姻、平等なキャリアを応援するプロジェクト。東北大学がシミュレーションで導き出した、「2531年には日本人の名字は全員佐藤さんになる」という結論を活用し、賛同企業とともに啓発企画を実施し世論を喚起した。

 

小国:夫婦同姓が義務付けられている日本では、このままいくと名字の種類が減っていき、2531年には日本人全員が「佐藤」姓を名乗るようになる──。この推計結果を「#2531佐藤さん問題」と名付けて、賛同企業がエイプリルフールにSNSやリリースで2531年の世の中をビジュアル化して社会に配信しました。

社会課題を取り扱う際、相手に課題をストレートに突き付けると敬遠されてしまうことがあります。今回の場合ですと、「選択的夫婦別姓」と言った瞬間に、良いか・悪いかの議論になってしまう可能性がある。ところが、夫婦別姓の「ふ」の字も使わず、「みんな佐藤さんになっちゃうよ!」という“ズラし”を利かせたことで関心を集めました。対立軸を生まない方法で、課題を多くの人に提示したテクニックがクリエイティブとして優れていますし、非常に面白い。一社や一団体でできることには限界がありますから、このようにしてたくさんのステークホルダーを巻き込んだことは評価の大きなポイントです。

金田:誰かの主観や抽象的なイメージだけで話をするのではなく、研究者による確かなエビデンスを提示したことによって問いかけに説得力が出ていますね。SDGsウォッシュやグリーンウォッシュが問題視される中で、今後、企業や組織が自分の主張をする際はいかにエビデンスを示せるかが重要になってくるかもしれません。



消費者自らが、食品価格の課題を乗り越える価格を考え、設定する

金田:SDGs特別賞優秀賞2作品うちの1つは、農林水産省による「フェアプライスプロジェクト」のキャンペーンでした。2025年2月にKITTE丸の内で開催された消費者参加型イベント「値段のないスーパーマーケット」には、4日間で合計約8200人が参加したそうです。

広告電通賞 SDGs特別賞 優秀賞(エリアアクティビティ)
農林水産省
「フェアプライスプロジェクト
値段のないスーパーマーケット~みんなにとって『フェアな値段』を考えよう~」
食品が消費者の手元に届くまでの生産・製造・流通・小売を取り巻く現状やコストを学び、いくらで購入するのが妥当なのかを消費者が考えるイベント。課題の認知を広げて、食品の合理的な費用を考慮した価格形成による持続的な食料供給を目的に開催された。

 

小国:何かを主張するとたちまち世間からたたかれてしまう今、食品の価格問題を世に問うというアクションに農林水産省が取り組んだこと自体が、私はとてもすてきだと感じました。

金田:私もそう思います。農林水産省がこの企画を実行したことに賛否両論あったかもしれませんが、政府がこういった問題に対して、「みんなで考えましょう」という協働の雰囲気づくりを主導したことが素晴らしいです。

小国:もう1つは、「解」を出すのではなく、「問い」を出したところも良かったです。サステナビリティの問題に対峙したとき、解を提示してしまうと賛成派と反対派の分断が生まれやすい。私はそれがいつも、もったいないな……と感じていました。大事なことは、対話と合意形成、そしてアクションです。フェアプライスプロジェクトでは、その工程をしっかりと踏める構成になっていました。

金田:そうですね。「これが正解だ」と答えをいきなり言うのではなくて、サプライチェーンの全体像を見せることで課題の発生源に迫り思考させるという手法をうまく使っていたと思います。今、企業の中でも原材料の調達先である川上や、製品が使われている川下をエコシステムとして見る動きが出てきています。自分の立場からの話だけではなく、さまざまなステークホルダーの立場に目を向けて議論することは、今後珍しいことではなくなるかもしれません。



固定観念をひっくり返して「座ってもいい」働き方を社会が受け入れる

金田:SDGs特別賞優秀賞のもう1つの作品が、マイナビの「座ってイイッスPROJECT」でした。椅子に座ってレジの仕事をしませんか、という申し出を椅子メーカーではないマイナビがしたところが、企業のアクションとして非常に魅力的でした。働き方改革の大きな流れもある中で、多くの企業に賛同されるコンセプトだと思います。

小国:私が良いと思ったポイントは、決して大掛かりなことはしていないというところです。実際は専用の椅子を置くというシンプルなアクションでありながら、みんなに「そうだよね。それでいいんだよね」と言わせてしまう提案力がある。法律やルールを変えずとも、社会の側が「イイッスよ」って言ってあげればいいだけだったんだ、という気づきを与えてくれたプロジェクトでした。

広告電通賞 SDGs特別賞 優秀賞(ブランドエクスペリエンス A.コーポレート・団体)
株式会社マイナビ
マイナビバイト
「座ってイイッスPROJECT」
日本で当たり前となっているレジの立ち仕事を、座った状態での接客に変えることで労働者の負荷を軽減して、人材の確保や定着につなげるプロジェクト。メーカーとともに姿勢の良く見える椅子を開発し、立ち仕事のアルバイト求人企業に対して導入を推進した。

 

金田:そうなんですよね。「このポジションはこうあらねばならない」という忖度文化によって生み出された過剰なサービスに対して、このプロジェクトは課題の本質を突いて固定観念を見直すきっかけを作ってくれました。

小国:裸でパレードをする王様に「今さら言えない」と誰もが口を閉ざしてしまう「裸の王様」を彷彿させます。私たちも大人になっていくと、あるいは企業に所属すると、あるいはあるジャンルのプロになっていくと、今さら言えないことが山ほど出てきてしまうんですよね。だからこそ、王様に向かって「王様は裸だ」と言った子どものように、社会の中に、おかしいものはおかしいと無垢に言える「子ども」を持っておかなくてはならない。今回の場合は、マイナビがその子ども役になってくれました。

クリエイティブの観点でいうと、「座ってイイッス」というコピーが、見る側を少し脱力させるようなヘタウマの雰囲気を出しているのがとても良い。切れ味鋭いクリエイティブよりも、入り口のハードルを下げて「これだったらできるかも」とみんなが思えるようなあんばいが絶妙です。

金田:みんなに、課題解決に向けたアクションをしてもらうことこそが重要ですから、その点、評価するべき要素が多分に含まれた作品でしたね。



“軽く関わる人”のパワーをたくさん集めて大きなパワーに!

金田:SDGsの達成年まで5年を切った今、日本ではSDGsの認知度については良い線までいったと聞いています。ですが、その一方で、それぞれの社会課題の解決に向けたアクションにつながっているかについては心もとない状況です。私が広告コミュニケーションについて重視しているのは、そんな人たちをいかにしてアクションに巻き込んでいくかということです。

小国:金田さんのおっしゃる通り、社会課題を深く理解している人は決して多くないと思います。すると、なおさらアクションが重要になるかもしれません。まず、アクションしてみることで認識や意識が変わっていくこともありますから。

金田:そうですよね。少し前までは、社会課題についてしっかりと学んでからアクションすることが王道でしたが、そのハードルの高さから関わること自体を諦めてしまう人が多かった。でも、それでは一向に大きなアクションにつながっていきません。社会課題に詳しくない人に、「勉強しなくてもいいんだよ」と寄り添って、まずは一緒に何か行動を起こしてみることが大切だと思うんです。“軽く関わる人”のパワーをたくさん集めて大きなパワーにすれば、社会が良い方向に動き出すはずです。

小国:そうですね。そのためにも、今回の受賞作品のように、「こんなふうに笑いながらアクションしてもいいんだ」と大勢の人に思ってもらえるような事例がますます増えるといいなと思います。

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著者

金田 晃一

金田 晃一

株式会社 NTTデータグループ

サステナビリティ経営推進本部

シニア・スペシャリスト

ソニー渉外部、在日米国大使館経済部で約10年間、日欧・日米の通商政策を担当。日本テレビアナウンスカレッジを修了後、1997年から1999年にかけてブルームバーグテレビジョンで経済・企業ニュースのアナウンサーを務める。1999年からソニー(再入社)、大和証券グループ本社、武田薬品工業、ANAホールディングス、NTTデータグループの5社でサステナビリティ経営の推進に携わる。2007年から2年間、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科で教壇に立ち、現在は、日本ソーシャル・イノベーション学会理事、国際協力NGOセンター(JANIC)理事、多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員を務める。

小国 士朗

小国 士朗

株式会社 小国士朗事務所

代表取締役/プロデューサー

2003年NHKに入局し、ドキュメンタリー番組を中心に制作。その後、認知症の人がホールスタッフを務める「注文をまちがえる料理店」を手がけ、2018年に退局。現在は「deleteC」「Be Supporters!」など多数のプロジェクトに携わる。

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