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本連載では、高度化するテレビメディアについて、新たに登場しているサービスや、そのサービスを利用した広告主の事例を紹介。広告主のKPIや課題を踏まえて、どのようにテレビCMを活用していけばよいかをお伝えしています。

今回は、テレビCMの現在地を改めて確認し、電通が考えるテレビCMのイノベーションについて、MCトランスフォーメーション局・朴泰輝(ぼく・やすき)が語ります。

デジタル時代に問われるテレビCMの価値

デジタルマーケティングや動画広告が一般的となった現在において、テレビCMの価値が問い直されています。生活者がさまざまなデバイスやプラットフォームを選択できるようになることで、若年層を中心にメディア利用が多様化しました。その中で、全世代への絶対的なブロードリーチというテレビCMの価値は、他にメディアが少なかった時代の価値とは変わりつつあります。

また、ID・行動ログをベースとしたデジタルマーケティング・アドテクノロジーの進化によって、広告主が事業成長のためにPDCAを回していきたいというニーズが増加しています。このニーズに対して、テレビCMは特にPDCAのD(実施)において十分に応えられていません。理想のプランニングを実現しづらい現状が、マーケターの大きな悩みとなっています。

テレビCMは、高度化するマーケティング手法や広告主のニーズに対応する必要があります。このニーズに応えられれば、テレビCMの需要は拡大し、将来的な放送のエコシステムの維持、情報インフラのさらなる発展につなげることが可能です。

目指すのは、広告主のマーケティングの高度化と最適解の提供

テレビCMだけで広告主のマーケティングKPIを達成することは難しくなっています。現在、KPIを達成するためにはさまざまなマーケティング活動やコミュニケーションが必要とされています。

例えば、KPIの達成を考える際の基本的な要素として「リーチ」があります。多様化したメディア環境において、広告のリーチをいかにマネジメントしていくか。「重複リーチ」「インクリメンタルリーチ(※)」「1接触の質の評価」など、さまざまな検討がなされています。

どのようなターゲット、予算配分、運用で、コミュニケーションを設計し、PDCAを回していくか。媒体社や広告会社には、無駄なく効果的なコミュニケーションを追求、再現、そして改善していくことが求められています。併せて、テレビ業界もこのニーズに向き合ってイノベーションを加速していく必要を感じます。

※既存の広告に加えて、新たな媒体に広告を出した際にリーチの増加分を示したもの。
 



メディアの特徴を踏まえた役割の設計を

近年、デジタル広告との比較によって、「デジタルでできることがテレビではできない」「なぜ、テレビでターゲティング配信ができないのか?」という意見をよく耳にします。これらのことについて、技術的・法的に困難であることを理解する必要があります。

デジタル配信は、ユーザーのアクセスに基づきサーバーから広告を配信します。DMP(データマネジメントプラットフォーム)などで、ユーザーIDの属性や特徴を判定し、ターゲティング広告を配信します。この仕組みにより広告配信を細かく高度にマネジメントすることが可能です。もちろん、プライバシー保護や、フィルターバブル、エコーチェンバーを踏まえた情報空間の健全性など、構造的な問題にも注意しなければなりません。

一方、テレビ放送は、電波で送信したものを受信してテレビ端末に表示します。一度に同じ内容を広く低コストで伝えることができる、つまり「一斉同報性」が大きな特徴となります。放送と配信の技術を駆使すれば、テレビCMでもある程度のターゲティング(広告の出し分け)は不可能ではありません。しかし、これはインターネット結線されたテレビ端末に限られます。ターゲティングでテレビCMの一斉同報性という特徴を損なわないように、広告効果を高められる手法の研究・広告商品開発を慎重に検討する必要があります。


このことから、デジタル広告がオンデマンドを中心としたアクセス、高度なマネジメントを特徴とすると、テレビCMは一斉同報性、つまりリーチの多様性とリーチ力、情報伝達のスピードの速さが特徴となります。コミュニケーションプランニングにおいては、これらの特徴を踏まえてKPIや役割を設定し、予算アロケーションを行う必要があります。

また、技術的な側面以外に、生活者の広告接触態度にも注目する必要があります。よく「オンデマンドや専念視聴は、広告効果が高い」という意見をいただくことがありますが、果たして本当でしょうか?広告の受容性や、潜在需要の喚起など、生活者の意識・心理への広告効果の視点では、一概にどちらが良いということはありません。目的や期待する役割に応じて、メディアとメニューを使い分ける必要があります。

テレビCMと動画広告の広告効果のコレスポンデンス分析。出典:日本民間放送連盟(https://www.j-ba.or.jp/yokuwakaru/


先にも述べた通り、テレビCMは広告効果のマネジメントが相対的に十分とは言えない現状です。下の表は、関東地区での約1000キャンペーンのテレビCM出稿量(X軸)とリーチ(Y軸)を示したものです。

この結果をモデル化したものが緑色の線です。さらにグラフでは、リーチのパフォーマンスによって4つのグループに分類しています。同じ出稿量(GRP:Gross Rating Point、延べ視聴率)でも、これだけのリーチの差が出ます。赤色と青色のグループでは、予算配分や発注内容(アディショナルな要望)といった条件面での前提、作案(放送予定枠)などに明確な違いがあります。発注条件が、リーチ観点ではマイナスに働いていることも多々あるのが実情です。



テレビCMの新しいバイイング手法

ここからは、テレビCMにイノベーションを起こすための取り組みをいくつか紹介します。電通が2025年7月に広報リリースを行った「SHAREST Reach Planner」(以下、SRP)では、
・作案(放送予定枠)での高精度なリーチ予測
・どの局のどの番組が効率的にリーチに寄与するかのシミュレーション
が可能です。

現在、SRPは、関東・関西・中部の3地区で利用が可能です。PDCAのP(プランニング)において、どの番組でテレビCMを流せば、どれだけのリーチが期待でき、どの枠がリーチ観点でどの程度寄与するかしないかの予測はできるようになっています。


しかし、PDCAのDにおいて大きな問題が存在します。それは、テレビCMで理想プラン通りのバイイングが困難なことです。実現しようとすると単価が大変高額になり、現実的ではありません。

テレビ放送局が、PDCAのDの分断を放置しているわけではありません。在京キー5局を中心に、さまざまな取り組みや検討がなされています。その代表例が、地上波テレビCMをプログラマティック取引できる日本テレビの「スグリー」です。デジタル広告の基準に合わせてインプレッション単位で取引を行え、オンラインで完結できるので、発注から放送までのスパンを短くしてテレビCMを流すことが可能です。「スグリー」は、デジタル広告のようにテレビCMをバイイングできるという点にフォーカスされがちですが、その新しい買い方がどのような価値をもたらすかに注目してください。既存のバイイングと、「スグリー」のような新しいバイイングを組み合わせることで、テレビCMの広告効果のマネジメントの問題解消につなげることができます。

また、スポットとタイムを賢く組み合わせることで、リーチ観点で、理想のP(プランニング)とD(実施)を近づけていくことが可能になっています。電通ではSRPやRICH FLOWを用いたテレビCMのマネジメント(運用型マスメディア)のさまざまなPoC(概念実証)を実施しています。

具体的な事例紹介記事として、下記記事をご覧ください。
日本コカ・コーラ社が成果を上げた、効果的なテレビCMプランニングとは?

オンオフ統合マーケティングの実現に向けて、データの高度化を図る

現在のマーケティングコミュニケーションでは、テレデジ統合、オンオフ統合などさまざまなメディアを統合したPDCA環境の構築・提供が求められています。

4マス媒体を中心としたオフラインメディアと、オンラインメディアを統合マネジメントできる環境がここ数年にわたる大きな問題です。テレビCMとデジタル広告は、データクリーンルームなどを活用することである程度対応できています。しかし、新聞・雑誌・OOHなど、デジタル計測が困難な紙媒体、スポーツ・エンタメを中心としたコンテンツ、行動ログで捕捉が困難な生活者心理に関するデータ、さらに生活者データをあまり取得できていない広告主や、データ取得が困難な商品・サービスを扱う広告主への対応が十分とは言えません。もちろんテレビCMに関するデータもさらなる高度化の必要があります。

これらの課題を解決すべく、既存のソリューションの高度化、メディア・コンテンツのデータ環境の高度化を目指し、電通は、全国2000万人規模のテレビの個人視聴データ「COSMOS DATA」を作成し、そのデータを簡単に集計・分析できるダッシュボード「Rasta!」を開発しました(リリースはこちら)。データの有無や、環境によって情報格差・マーケティング格差が生まれている現状を是正し、広くパートナー企業に対し公平なマーケティング機会の提供を目指しています。

時代の変化に伴いテレビCMには多くの課題が生まれています。今後も電通は広告主のマーケティングの高度化に向けて伴走すべくデータ・PDCA環境の整備に取り組んでまいります。

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著者

朴泰輝

朴泰輝

株式会社 電通

MCトランスフォーメーション局 MCデータマーケティング1部

部長

営業にて食品・大手化粧品トイレタリーメーカーのマーケティング・ブランド・メディア・コンテンツなど幅広く従事したのち、2015年より、複数の動画配信事業のローンチ業務を経て、ラジオやテレビをはじめメディア・コンテンツ領域の次世代データ・ソリューション開発を行う。

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