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世界各国に広がる電通グループの現地拠点では、生活者のインサイトに根ざした提案や、ローカル企業・日系企業との共創が日々行われています。本連載では、各地でビジネスをリードするグローバル駐在員の視点を通じて、地域ごとの市場特性や日本企業進出のヒントを紹介します。

今回フォーカスするのは、世界最大の14億人超の人口を有し、2025年度のGDPは7%超見込みと、経済成長が著しいインド。世界的に注目されるマーケットのインドで、日本アニメイベント「Mela! Mela! Anime Japan!!」を企画した中心メンバーの一人、dentsu X Indiaの宮原明史氏がゲストです。日本のコンテンツIPの可能性や、日系企業のインド進出のポイントなどを語っていただきました。

dentsu  Indiaの仲間と。中央が宮原明史氏


日系、ローカル、グローバル。さまざまな企業をインドで支援

──はじめに自己紹介をお願いします。dentsu India(以下、電通インド)でどのようなお仕事をされていますか?

宮原:電通インドは、3500人の社員を擁するトップエージェンシーグループの一つです。本社はムンバイにあり、10都市以上に拠点を構えています。電通インドには、いくつかのグループ企業があります。私は、そのメディアエージェンシーの一つである「dentsu X India」でクライアントプレジデントを務めています。

私の業務は主に二つあります。一つは、メディアおよびコンテンツ関連を中心とした、さまざまな事業における日系企業のサポートです。もう一つは、2025年に立ち上げた電通グループ横断のイニシアチブ組織「電通スポーツ&エンターテインメント」のインド市場における事業(リリースはこちら)で、日本のアニメやコンテンツのIPビジネスを担当しています。

dentsu X India


──電通インドは、どのようなクライアントを支援していますか?

宮原:日系企業からローカル企業、グローバル企業まで幅広く支援しています。業種は、自動車、衛生用品、飲料、精密機械、半導体メーカーなど多岐にわたります。

―─インドにはどのような日系企業が進出していますか?

宮原:以前は、自動車やバイク、耐久消費財などの製造業や、鉄道などのODA関連企業が多く見られました。最近では、FMCG(Fast Moving Consumer Goods:日用消費財)企業やサービス業の企業も進出しています。

2024年10月時点でインドに進出している日系企業は1434社にのぼります。ジェトロ(日本貿易振興機構)の発表によると、黒字企業の割合は7割を超えており、これは非常に高い数字です。製造業においては8割以上が黒字企業で、堅調な事業を展開している企業が多いと聞いています。

──ビジネスマーケットとしてのインドの魅力は?

宮原:2024年から33年までのCAGR(Compound Annual Growth Rate:年平均成長率)は6%以上と予測されており、世界で最も大きな成長が見込まれています。インド国民の平均年齢は28歳と非常に若く、底辺が広い人口ピラミッドとなっています。さらに、2030年には二世帯に一世帯の割合で中間所得層が占めるようになると言われています。今後は若い世代が消費の中心になるので、日系企業だけでなく、ローカル企業も若年層向けの施策やコミュニケーションを模索しています。

実は、私は2010年から12年までインドに駐在した経験があり、インドへの赴任はこれが2回目です。現在は、インドの首都・デリーに住んでいます。2022年、10年ぶりにインドに来たら、建物の近代化が進んでおり、インフラが急速に整備されていることを目の当たりにしました。以前は出張で訪れた人は必ずおなかを壊すと言われましたが、特に衛生面が改善されていたことに驚きました。急速な経済成長とともに、インドは目まぐるしく変わっています。


コロナ禍を機に、インドにおける日本アニメの人気が拡大

──2025年に「電通スポーツ&エンターテインメント」のインド市場における事業を立ち上げたとのことですが、インドにおけるアニメ市場の特徴を教えてください。

宮原:インドでは幼少期にアニメに親しむ文化があり、中でも「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」「ポケットモンスター」といった日本のアニメは広く人気を集めてきました。これらの作品は現地の言語で放送されているため、大人になってから日本のアニメだと知る人も少なくありません。

一方で、幼少期にアニメに親しんでいた人も、大きくなるにつれてアニメを見なくなる傾向があります。勉強して良い大学を卒業し、良い企業に就職することが重視されており、“アニメは子どもが見るもの”という意識が強いのです。

そのような風潮がありつつも、インドにおけるアニメファンは、ライト層を含めて約1.2億人いると言われています。アニメファンが拡大している理由の一つとして、コロナ禍においてオンラインサービスや動画配信プラットフォームが普及し、アニメに触れる機会が大幅に増えたことが挙げられます。また、幼少期に楽しんでいた経験から、アニメの需要が伸びるポテンシャルがあったのだと思います。

コロナ禍で人々の娯楽対象となったのは、NetflixやAmazonプライム、アニメを専門とするCrunchyroll(クランチロール)といった、有料の動画配信プラットフォームのコンテンツです。インドではテレビが有料放送のため、お金を払って番組を視聴する文化が根付いていたこともあり、前述した有料プラットフォームへの加入はスムーズに進みました。加えて、サブスクリプションの料金は世界トップクラスの安さで、価格設定の低さも相まって視聴者が増え、アニメの認知が急速に拡大したと考えられます。

また、インドの若者の間では携帯やパソコン、タブレットなどのモバイル機器の利用が盛んです。6億5000万人がモバイル機器を持っており、5Gの整備も着実に進んでいます。1日当たり1.5ギガを使用しても、月額はたったの500円程度と通信費が非常に安いことも、動画配信サービスを利用する行動を後押ししています。

さらに、インド国内にはアニメファンで形成されるコミュニティ「アニメクラブ」がいくつも存在します。アニメクラブは各地に点在しており、大小200以上あると言われています。アニメファンはコミュニティ内で情報を得て、アニメイベントに訪れる傾向があります。

──日本のアニメはどのくらい人気なのですか。

宮原:ディズニーなど他国のアニメも見られていますが、圧倒的に日本のアニメが人気です。例えば、クランチロールなどのアニメのプラットフォームでは、日本のアニメがランキング上位を独占しています。

ここまで日本のアニメが受容されるようになった背景には、プラットフォームの普及で、世界同時配信が可能になったことが大きいと考えられます。さらにローカル言語への翻訳が進み、日本語以外での配信が可能になりました。インドでは都市部を中心に英語が広く使われているので、英語でリアルタイムの情報も取得できます。こうした背景により、日本のアニメを楽しむ土壌が形成されたのだと思います。

「Mela! Mela! Anime Japan!!」で、日本アニメのポテンシャルを可視化

──ここからは、電通インドが企画・運営に関わった「Mela! Mela! Anime Japan!!」についてお聞きします。どのようなイベントでしょうか?

宮原:「Mela! Mela! Anime Japan!!」は、インドの人々に、アニメをはじめとする日本文化と、日本の商品・サービスの魅力を伝えるためのイベントです。2024年、25年と2年連続で開催しており、コンテンツ関連企業をはじめ、旅行会社や食品会社、自動車や文房具メーカーなど、幅広い企業が参加しました。

2025年には、アニメ・漫画などの展示、コンテンツ関連グッズの販売、コスプレ大会、日本人アニメソング歌手のライブ、映画の上映会など多彩なプログラムを展開し、コンテンツ関連のBtoB商談会も実施しました。


──「Mela! Mela! Anime Japan!!」に電通インドが関わった経緯を教えてください。

宮原:インドでは、日本のように街中の看板にアニメのキャラクターが描かれていたり、お店にコラボ商品が並んでいたりすることは多くありません。私は、以前から、日本のコンテンツIPをビジネスに活用できないか考えていて、日系企業に提案したこともあります。しかし、当時はボリウッド俳優やクリケット選手、インフルエンサーなどの方が知名度は高く、そのような人たちとのコラボレーションが主流でした。

一方で、前述した動画配信プラットフォームなどの普及により、日本アニメの認知も徐々に拡大していました。現地のパートナー企業と仕事をする際、「鬼滅の刃」や「NARUTO-ナルト-」「ONE PIECE」「進撃の巨人」など、さまざまな日本作品の話題を振られることが増えました。日本の出版社などのIPホルダー企業からも、インド市場について相談を受けたこともあります。それらの企業がビジネス展開していくためのきっかけを、電通インドとして何か作れないか模索していました。

「Mela! Mela! Anime Japan!!」は、私がインドで築いたコミュニティの中で、「日本アニメのポテンシャルを可視化できないだろうか」「アニメイベントをやってはどうか」と話したことがきっかけで企画が立ち上がりました。そのコミュニティには、日系企業のインド駐在員や在インド日本国大使館の方がいらっしゃったのです。

電通インドは以前から、インドで5年ごとに行われる日印国交周年イベントの運営を行っていて、イベントのオペレーション力を評価いただいていました。そのような経緯があって、電通インドに企画・運営を託していただいたのです。

──イベントを企画・運営していく中で苦労されたことはありましたか?

宮原:日本のアニメを軸とした大規模なイベントはインドでは前例がありませんでした。「Mela! Mela! Anime Japan!!」を実施するにあたり、日系企業の駐在員の方たちが実行委員会を立ち上げました。私もその一人として有志が集まってスタートして、電通インドがサポートとして入らせていただいた形です。日本国大使館にも協力として入っていただけたことも大きな意義がありました。実行委員会は有志の集まりですから、イベント開催に向けた協賛金の獲得には苦労しましたね。インドの日本商工会などにもお願いして協賛金を募り、イベントの発信もしていただきました。

「Mela! Mela! Anime Japan!!」は、「日本アニメのポテンシャルを可視化したい」という思いから始まっていますが、他にも狙いがありました。先ほど述べたように、インドでは“アニメ=子どもが見るもの”という風潮が強くあります。ですが、アニメは文化であり、子どもだけのものではなく、世の中の幅広い人たちのものであるはずです。また、アニメは、原作者やクリエイター、アニメスタジオで働く多くのスタッフによって作られるので、人材雇用というビジネス的な側面もあります。インドにアニメ文化が根付けば、産業として発展する可能性がある。そういったことも政府と連携して伝えていきたいと考えていました。

社内イベントの様子(Diwali)


──「Mela! Mela! Anime Japan!!」を開催してどのような手ごたえがありましたか?

宮原:1回目は2024年に開催し、参加したIP関連企業は約50社で、そのうちIPホルダーは8社でした。2回目は2025年に開催したのですが、より多くのIPホルダーに参加していただくため、電通のエンターテインメントビジネス・センター(EBC)と連携し、いろいろな放送局やIPホルダーに向けて「Mela! Mela! Anime Japan!!」をアピールしました。その結果、IPホルダーや、IPとのコラボを含むIP関連出展企業は、1回目の倍以上となる19社に上りました。

両回ともニューデリーで開催したのですが、来場者数は1回目が約4万7千人だったのに対し、2回目が6万人超と大幅に増加しました。会場ではコスプレーヤーの来場が増えたり、普段アニメをあまり見ないというお客さんも訪れたりして、前年以上の盛り上がりを見せました。

イベントの認知が広がっていることを感じましたし、幅広い層にイベントを楽しんでいただけたと手ごたえを感じています。「Mela! Mela! Anime Japan!!」は、ニューデリー以外の都市のアニメクラブでも話題になりました。

2回のイベント開催を通して、まだ手探りの部分はあるものの、当初の目的であった「アニメのポテンシャルを可視化する」ことができ、「アニメを活用して何かやってみよう」と考える企業は増えたのではないかと思っています。

──「Mela! Mela! Anime Japan!!」を通して見えた、電通インドならではの強みを教えてください。

宮原:電通は、これまでさまざまなIPホルダーや企業と関係を築いてきました。また、これまで多数のイベントを企画・運営してきた実績があります。その中で培われたナレッジが生かされ、クオリティの高いイベントが実現できたと思っています。

合わせて、「クオリティの担保」という点でもお役に立てたと思っています。インドのイベントでは、作品のキャラクターを無断で使用したり、さらにはいろいろなキャラクターを1枚のポスターにまとめたりするなど、IPがきちんと扱われないケースが見られます。われわれとしては偽物でない世界をきちんと作って楽しんでもらうために、ローカルパートナーにIPの活用についてきちんと説明し、理解してもらうことに努めました。その結果、日本のクオリティでイベントを実施することができたと自負しています。

Mela! Mela! Anime Japan!! 2025のステージ出演者と実行委員会の皆さんと


マーケットの変化の激しいインドで、“ミニ電通”が日系企業の進出成功をサポートする

──電通インドの今後の展望をお聞かせください。

宮原:アニメを含めた日本の文化をインドに広げていきたいですね。例えば、日本では当たり前となった“キャラクターと商品とのコラボレーション”を実現できれば、「キャラクターが好きだから商品を買う」といった購買行動が生まれるのではないでしょうか。このようなコラボレーションを通し、生活の中にアニメが溶け込むことによって、見るだけではないアニメの楽しさを広げていきたいです。

アニメ以外でも、日系企業のインド進出をさらにサポートしていきたいと考えています。最近はサービス業の参入も増えていてご相談を受けることがあります。また、インド国内ではEコマースが発展し、マーケットに参入する企業も増えてきました。インドの“ミニ電通”として、さまざまな業種の企業に対して、得意とするコミュニケーション領域をはじめ多角的な支援を行っていきたいです。

──最後に、これからインドへの進出を考えている日系企業に向けてメッセージをお願いします。

宮原:インドは28の州に14億超の人々が暮らすとても大きな国です。日本の総人口に匹敵する数の人々が住んでいる州もあります。公式言語は22もあり、方言を入れると780以上もの言語があると言われ、人も文化も多種多様です。また、モバイル通信の急速な普及や収入の増加など、著しい経済成長のフェーズを迎えており、消費者やマーケットの変化も激しい国です。

多様性と変化に富むインドで成功モデルを作っていくためには、トライアンドエラーを繰り返しながら最適解を探すことが必要です。その際に電通インドとしてサポートできることは多々あります。日本国内の電通グループにもインド駐在経験のある社員がたくさんいますので、インドでのビジネスを考えるときの最初の窓口としてお問い合わせいただければ、お力になれると思います。

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著者

宮原 明史

宮原 明史

dentsu X India

クライアントプレジデント

テレビ局配属後、2003年より海外ビジネスを担当。2010年から2012年まで一度目のインド赴任を経験し、帰任後は国内外のビジネス・プロデュースに携わる。2022年より再びインドに赴任し、現在はdentsu X Indiaのクライアントプレジデントとして、日系クライアントのメディアビジネスを統括するほか、電通スポーツ&エンターテインメント インディアのジャパンIP領域も担当。

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