なじみの居酒屋でビールを傾けていると、さまざまな思い出が駆け巡ります。
昔々。ぼくは毎月雑誌「諸君!」を愛読する、思想的には“右より”の高校生でした。その時の価値観からすると、リベラルといわれるジャーナリストはおおよそ「敵」。絶対に分かり合えない存在だと思っていて、たとえば朝日ジャーナルに「貧困なる精神」を連載していた本多勝一さんなどは、その代表格でした。
ところがご縁というのは不思議なもので、ある日、その本多さんから母のところに、外交官で随筆家でもあった祖父に関わる取材依頼が来ました。
ぼくは駅までお迎えに上がる役割を仰せつかったのですが、当時の本多さんといえば常にサングラスを着用し、カツラなどで変装、「素顔を明かさない」ことで有名な方。「オレがしっかり『敵』の素性を見定めてやるぞ!」といった、いささかケンカ腰の、とても意地悪な気持ちで都立大学駅改札に向かったのです。
しかし実際にお会いした、生の「本多勝一さん」はとても穏やかで礼儀正しく、やさしくて。頭の中に築き上げた強烈な敵対構造が、静かに崩れていったことを覚えています。
それからしばしの時間がたって。それでもぼくは時々雑誌「諸君!」を読んでいる、思想的には「保守的」なサラリーマン1年生になっていました。そんなぼくが入ったのが「JFCネットワーク」という、主に日本人男性とフィリピン人女性の間に生まれた子どもたちの(国籍取得などの)法的支援をするボランティア団体。そこで出会ったのが(後年、その団体の代表となる)松井やよりさんでした。
ただ本多さんとのケースとは逆で、フィリピンや国内のイベントなどでたくさん松井さんと雑談をして、おおらかな人柄と豊富な話題に「なんか面白いヒトだなぁ」と思った後、初めてさまざまな活動のことを耳にして「あれれ?バリバリのリベラルなジャーナリストだったんだ!?」と驚いた次第でした。
お二方のことを思うと、いつも相反する二つの感覚が湧いてきます。
一つは、どんな相手であっても、きっと分かり合えるということ。ある一面で「敵」だと思えるくらい対立していても、どこか他の面には共感できる可能性があって、そこを入り口にすれば「A or B」の対立ではなく「A and B」を実現する「新しい意味」が見つかるはずだ、という「希望」です。
そしてもう一つは、お二方と仮に「政治」の話をしても、とても「分かり合う」ことはできなかっただろうという、ある種の「絶望(危機感)」です。「この人は、こんな体験をしてきたから、なるほどこんな考えに至ったのか」という“理解”まではできても、そこから先のお互いが深い「共感」できる何かを見つけることは至難の業に思えます。
イノベーションのためには、異なる存在である「私とあなた」がお互いの主観を妥協なくぶつけ合うことによる相互作用、哲学者フッサールが言うところの「相互主観」が必要だといわれています。そしてそれは「どんな相手でも分かり合えるはずだ」という希望と、「この対立は永遠に解消されないかもしれない」という危機感の中で、ヒリヒリするような「真剣勝負」をして初めて手に入るものです。
最近、企業経営の場では「対話」がはやっているようですが、もしそれが互いに「傾聴」を繰り返すだけの生ぬるいプロセスであれば、少なくとも「変革」を進めるためには不十分でしょう。あるべき「対話」の難しさを、不思議なご縁をきっかけに思い返すのでした。
さてさて。
お二人がかつて所属した新聞社のある築地は、ぼくにとっていこいの場所。今宵もこの街で、杯が進みます。
そういえばもう一つ思い出すのが、雑誌「諸君!」の初代編集長だった田中健五さんと晩年、お会いした時のこと。
よもやま話に花が咲き、大いに盛り上がっていたので、きっと喜んでもらえると思って「高校時代から長く、『諸君!』が愛読書でした」と告白したところ、田中さんが困ったような表情をされて。「……それは、ちょっとバランスの悪い若者でしたねぇ」とのお言葉をいただいてしまいました。そんな懐かしい思い出を肴に、またお酒が進みます。
どうぞ、召し上がれ!
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著者

山田 壮夫
株式会社 電通
第1CRプランニング局
クリエーティブ・ディレクター
明治学院大学 非常勤講師(経営学) 「コンセプトの品質管理」という技術を核として、広告キャンペーンやテレビ番組製作はもちろん、新規商品・事業の開発から既存事業や組織の活性化といった経営課題に至るまで、クライアントに「棲み込む」独自のスタイルで対応している。コンサルティングサービス「Indwelling Creators」主宰。2009年カンヌ国際広告祭(メディア部門)審査員等。受賞多数。著書「〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考」、「コンセプトのつくり方 たとえば商品開発にも役立つ電通の発想法」(ともに朝日新聞出版)は海外(英語・タイ語・前者は韓国語も)で翻訳・出版 されている。













