メディアの多様化によって生活者の情報取得行動が大きく変化した今、新聞メディアはどのような価値や役割を担っているのか――。そうした課題感のもと電通が実施した「新聞メディアの価値調査(以下、ANCHOR調査)」。本調査の特徴は、「新聞(紙)」だけでなく、「新聞(電子版紙面ビューアー)」「新聞社の有料ウェブ記事」「新聞社の無料ウェブ記事」など、現在の新聞メディアを取り巻く多様なチャネルを横断的に分析している点にあります。
第1回では、電通新聞局が提唱する広告領域における新聞メディアの6つの価値軸「ANCHOR(アンカー)」をもとに、それぞれのチャネルにおける「新聞」「新聞広告」に対する生活者イメージを分析するとともに、新聞読者の詳細なペルソナまで明らかにしました。
今回は、その調査結果を踏まえ、さらに一歩踏み込み、「企業・広告主は新聞広告をどのように活用すべきか」をテーマに鼎談(ていだん)。日本新聞協会マーケティング戦略チームの齋藤仁氏(読売新聞東京本社)、電通 第1マーケティング局長の中野雅弘氏、電通 新聞局 ソリューション戦略部の小安雄一氏の3人に、新聞広告の新たな可能性や、ウェブ・AI時代における活用のあり方について語っていただきました。
なお、本鼎談で言及している調査結果の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
(左から)電通 中野雅弘氏、日本新聞協会 齋藤仁氏、電通 小安雄一氏
新聞は「信頼されている」だけではなかった
――まず、今回の「ANCHOR調査」で明らかになった結果はどのようなものだったのでしょうか。簡単な調査概要とあわせて教えてください。
小安:本調査は、全国15〜69歳の男女8250人を対象に、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌のマス4媒体に加え、ポータルサイト、ニュースサイト、動画サービス、SNS、屋外広告など、計18のメディアについて、どのようなイメージを抱いているのかを調査しました。
電通 新聞局 ソリューション戦略部 小安雄一氏その上で、電通の新聞局が主に扱っている「新聞」と「新聞広告」について、6つの価値軸「ANCHOR」という仮説を設定しました。新聞広告のメッセージは生活者にどのように受け止められているのか。その検証を行った結果、「新聞(紙)」「新聞(電子版紙面ビューアー)」「新聞社の有料ウェブ記事」に掲載された広告は、ANCHORの各指標で他メディアを大きく上回る評価を獲得し、私たちの仮説を裏付ける結果となりました。
ANCHORとは英語で「錨(いかり)」の意味。「私たちは、新聞メディアが広告領域において『ブランドやサービスと生活者を「意味」で結びつけ、社会に定着させる存在』、いわば、ブランドと生活者をつなぐ、“錨”のような役割を果たし得るのではないか、と考えています」(小安氏)また、新聞購読者の特徴として、新聞広告を一つのコンテンツとして丁寧に読み込む傾向に加え、難解な時事用語や政治・経済情勢への理解度の高さも明らかになりました。さらに、新聞記事から得た情報をリアルなコミュニティで話題にしたり、読者自身がハブとなってSNSなどで積極的に発信したりする意欲も高いことが分かっています。
要するに、単に「新聞は信頼されている」というだけではありません。「情報を深く理解する“リテラシーの高い”生活者に届き、“共感”を生み、リアルな場での対話やSNS上での“拡散”につながっていく」この点において、新聞メディアが持つマーケティング上の機能を再評価できるデータが得られたと捉えています。
日本新聞協会 マーケティング戦略チーム委員 齋藤仁氏齋藤:新聞協会の「多メディア時代における新聞の役割とメディア接触者の動向調査」に関わった立場として、その点については私も同感です。協会の調査でも、新聞は「情報が正確で信頼性が高い」「安心できる」「世の中の動きを幅広く捉えている」「中立・公正である」といった指標で、他のメディアよりも高いスコアを示しています。私たちもこうした点を新聞メディアの価値として発信してきました。今回のANCHOR調査で言えば、「Authority」「Connection」「Honesty」に通じる部分で、新聞メディアの強みがあらためて確認されたと感じています。
また、率直に面白いと感じたのは「ANCHOR」という新しい価値軸を用いて、複数のメディアを横断的に評価した点です。新聞協会の調査でも、電子版やウェブサイトの利用者をセグメント別に分析することはありましたが、「新聞社の有料ウェブ記事」を独立した一つの項目として評価した点は新鮮でした。しかも、「Honesty」「Resonance」の項目で1位という結果が出ています。

さらに、消費行動への貢献という観点でも、継続購入やブランドロイヤルティの向上につながる可能性が示されました。新聞広告は「ブランディング」や「コーポレートメッセージの発信」にとどまらず、購買を後押しするラストワンマイルにも寄与し得るメディア。そうした可能性をデータで可視化できたことは、広告主に対して新聞広告の価値をあらためて提示する上で、大きな意義があったと考えています。
セレンディピティは、紙ではなくSNSで起きていた
――一方で、ANCHOR調査で想定外だった結果はありましたか。
小安:実は、ANCHORとは別に、新聞読者や新聞メディアの特徴について6つの仮説も立てていました。
(1)新聞読者はリベラルアーツに対する意識が高い
(2)新聞読者は、難しい時事ワードや政治・経済情勢についての理解度が高い
(3)新聞読者は、新聞広告を精読し、記事と同様のコンテンツとして受容している
(4)新聞はセレンディピティメディアであり、読者も認識していないコンテンツや広告との出会いに価値を感じる読者が多い
(5)新聞はモーメントメディアであり、新聞を通じて季節の変わり目や世の中の動きを実感して自分の行動に移す読者が多い
(6)新聞はコミュニティメディアであり、新聞記事や新聞広告は読者が所属するコミュニティの会話をブーストする傾向が他メディアに比べて高い
結論から言えば、4番目の「新聞はセレンディピティメディアである」以外は、おおむね仮説通りの結果となりました。
私たちは、一覧性のある新聞であれば、生活情報だけを目的に読んでいても、国際情勢や経済など、普段は関心のない情報にも自然と触れられる。それが新聞ならではの強みだと考えていました。しかし、この点については、想定ほど高い評価にはなりませんでした。
一方で、調査からは別の興味深い傾向も見えてきました。新聞、とりわけ有料ウェブ記事はSNSなどで共有・発信されやすく、新聞読者自身も時事問題について積極的に情報発信する傾向が高かったのです。つまり、新聞そのものを読んで偶然情報に出合うだけではなく、「SNSで誰かが新聞記事を紹介することで新たな情報に出合う」という形で、セレンディピティが生まれている可能性があります。
調査の結果、特に広告評価のコミュニティメディア性において、「SNSなどネット上で発信することがある」といった、コミュニティ内での情報共有や会話の活性化につながる項目で「新聞社の有料ウェブ記事」が特に高い評価を獲得した。中野:まさにそこが、今の情報流通の本質なのだと思います。新聞単体で見れば、セレンディピティは想定ほど高くないかもしれません。しかし、SNSまで含めた情報流通全体で見ると、新聞が情報の起点となって拡散していく構造が見えてきます。
そう考えると、新聞広告も単に同じメッセージを幅広い人へ届けるのではなく「発信意欲が高く、情報を受け止める姿勢を持つ人」にまず届け、その人たちを起点に社会へ波及させるという設計が重要になります。
新聞には、情報を編集・パッケージ化し、深く理解してもらうという強みがあります。その価値をSNSなどの情報流通と組み合わせながら設計することで、最終的な社会的合意形成まで見据えたコミュニケーションが可能になるでしょう。
電通 第1マーケティング局長 中野雅弘氏
AI時代に再定義される、新聞メディアの役割
――ちなみに、以前は「紙 vs デジタル」という対立構造で語られがちだった印象ですが、双方を生かすためにはどのような打ち手が考えられるでしょうか。
小安:以前は、どちらかというと「相乗効果は生まれにくい」と考えていました。新聞を紙で読んでいる人は、その場でスマホを見ることは少なく、紙とデジタルの同時接触は起きにくいと思っていたからです。
ただ、SNSや生成AI経由で情報を取得する人が増えている今、その前提は変わってきていると感じています。先ほどお話ししたように、新聞の熱心な読者は、紙かウェブかを問わず、記事や広告の内容についてSNSなどを通じて広げてくれる。
さらに、情報を届ける相手は、人だけでなくAIにもなりつつあります。AIに参照されるためには、企業自身がオウンドメディアで“誠実に”情報発信することももちろん重要ですが、それに加えて、広告掲載であれ、記事での紹介であれ、第三者である新聞社を通じて発信されることで、その情報の信頼性はさらに高まります。
紙の新聞を発行し続けてきたブランドへの社会的な信頼と、新聞社のニュースサイトが持つドメインパワー。この二つの資産が組み合わさることで、新聞メディアはAI時代においても、これまで以上に価値を発揮できる存在になっていくでしょう。
「誰が言うか」ではなく「何を言うか」。新聞広告が生み出す社会的合意形成
――調査結果の中で、新聞広告の受容性の高さも印象的でした。
小安:そうですね。特に「新聞社の有料ウェブ記事」においては「広告もコンテンツと同じくらい面白い」「広告が好き」など、広告に関しても高い評価を得ていました。
その文脈でいうと、私たちがそれ以上に驚いたのは、時事用語の理解度の差です。例えば「GDP(国内総生産)」を理解している割合は、新聞読者が25.6%だったのに対し、非読者は7.2%。「マイナス金利」も、新聞読者22.8%、非読者5.3%と、大きな差がありました。
広告が読まれやすいだけでなく、メッセージが正しく伝わる可能性も高い。企業がどれだけメッセージを練っても、受け手が理解できなければコミュニケーションは成立しません。新聞読者の理解力や情報リテラシーは、マーケターにとって非常に大きな資産だと思います。

――そうした読者にメッセージを届けるためには、新聞広告ではどのようなクリエイティブが求められるのでしょうか。
中野:その点を考える上で、分かりやすい比較対象が「インフルエンサーマーケティング」です。SNSでは、「誰が言うか」が価値になります。信頼しているインフルエンサーが発信するからこそ、人は耳を傾ける。
一方、新聞広告で重要なのは「何を言うか」です。例えば15段広告は、その象徴です。企業が最も伝えたいメッセージを、極限まで言葉を磨き込み、一つのコピーとして結晶化させる。新聞広告は、新聞が持つ「信頼性」を基盤に、その“企業の思想”をパッケージとして届けられるメディアだと思っています。そして、そのメッセージを受け取った人が、リアルな場やSNSで周囲へ広げていく。インフルエンサー施策と組み合わせれば、「誰が言うか」と「何を言うか」の両輪で、社会へ浸透させる設計ができます。
最終的なゴールは「この企業はこういう会社だ」「このブランドはこういうブランドだ」という社会的な合意形成です。その起点となる言葉を生み出し、社会に広げていく力が、新聞広告にはあるのではないでしょうか。

新聞広告は単発の「出稿」ではなく、中期的なプロジェクトとして捉えるべし
――これから新聞広告への出稿を検討している広告主の皆さまへ、メッセージをお願いします。
齋藤:今回のANCHOR調査でも明らかにされていましたが、新聞広告は単に商品やサービスの情報を届けるだけではなく、その時々の社会情勢や季節感と結び付いて受け止められる「モーメントメディア」としての特性があります。
例えば、新生活や防災、環境問題、地域活性化といった社会的なテーマを、生活者が季節の節目や社会の変化を意識するタイミングに合わせて発信することで、より深い共感や理解につながるでしょう。さらに、新聞読者の高い情報発信力も掛け合わせることで、その広告が「社会で語られるテーマ」として広がっていく可能性も高いです。
一方で、近年は酷暑など気候変動の影響により、従来の季節感や社会の節目そのものが変化しつつあります。だからこそ今後は、企業が「社会課題」にフォーカスを当てて自社の姿勢やパーパスを継続的に発信していくことがより重要になるでしょう。そのコミュニケーションの場として、自ずと日付や暦とつながる新聞広告を活用する意義は、これまで以上に高まっていくのではないでしょうか。

中野:新聞は、コミュニケーションの「起点」にも「収束点」にもなれるメディアだと思います。私は以前から、新聞を「紙メディア」ではなく、「ステートメントメディア」と呼んだほうがよいと考えています。企業が「私たちはこういう存在です」と社会に宣言する場であり、一度発信すれば後戻りはできない。だからこそ、その言葉には重みがあります。
会社やブランドの意思を最初に打ち出す起点にもなれるし、さまざまな情報が飛び交う中で、「つまり、この企業はこういう考え方なのだ」と社会の認識を束ねる収束点にもなれる。新聞広告には、コミュニケーションの始まりと終わり、その両方を担える力があると思います。
小安:最後に、実務的な観点からお伝えしたいのは、新聞広告の出稿は「メディアプランニング」ではなく、一つの「プロジェクト」と捉えるべきだということです。なぜなら、新聞広告で目指す成果は、問い合わせ数のような短期的なコンバージョンだけでは測れないからです。「ブランドリフト」や「NPS(※)」、さらには社会との関係性やステークホルダーからの信頼といった、非財務価値に近い指標で評価すべきものだと考えています。
だからこそ、何を社会に伝えるのかを経営層も巻き込みながら社内で整理・共有し、その後の情報発信まで含めて一連のコミュニケーションを設計することが重要です。そうしたプロセスを経て初めて、中長期的な非財務価値の向上につながり、新聞広告の価値も最大限に発揮されるのではないでしょうか。
※NPS=「Net Promoter Score」の略で、顧客ロイヤルティ(商品やサービスに対する信頼・愛着)を測る指標