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公開日: 2026/09/30

三菱電機「機械の休日」に学ぶ、“気づき”を促す体験設計

佐田 実史

佐田 実史

株式会社電通

月刊CX編集部

月刊CX編集部

株式会社 電通

日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター)メンバーが情報発信する連載が「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。

今回は、2025年8月に公開された、三菱電機の「もしも機械が休んだら~機械の休日~」プロジェクトについてご紹介します。

日本機械学会が制定する「機械の日・機械週間」に合わせ、機械の役割や価値を生活者に問いかける目的で制作された本プロジェクト。どのようなきっかけで始まり、どのような思いが込められているのか。なぜ、三菱電機がこうしたプロジェクトを立ち上げたのか。企画方針のディレクションやコピーライティングを担当した電通の佐田実史氏に話を聞きました。

【佐田実史氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター
クリエイティブディレクター/コピーライター

【クリエイティブメンバー】
CXCC
ECD:小田健児、CW/PL:原央海、CC:菅原太郎、PR:劉栄俊パートナー
AD:塚本哲也(TeTo)、GLCD:松吉臣之介(1CRP)、CP:押尾昌美(DCF)

※ 所属・役職は取材当時のものです。

立体的な設計で理解を促した「もしも機械が休んだら~機械の休日~」プロジェクト

月刊CX:まずは、「もしも機械が休んだら~機械の休日~」とはいったいどのようなプロジェクトだったのか教えてください。

佐田:シンプルにいうと、人と機械の関係について改めて問い直してみようという施策です。近年、自動化技術の進化と労働力不足で、人間の仕事を機械が担うことが増えています。それらを背景に、自動化技術の重要さと、この時代における機械の価値とは何かをもっと多くの人に伝えるべく、本プロジェクトを制作しました。

プロジェクトはウェブムービーと展示イベント「もしも機械が休んだら展」、特設サイトの3つに分かれています。まずはウェブムービーや展示会で生活者との接点を作り、PRとSNSで発信。そして特設サイトに誘導して認知理解を深める、という立体的なプロジェクトでした。

月刊CX:それぞれ詳しくお聞きしたいです。まずウェブムービーから教えてください。

佐田:こちらはタイトルの通り、「機械が休んだらどうなるのか」を動画で伝えるためのドキュメントムービーです。普段は工場で機械が行っているコイル巻きやネジ締めといった作業を、三菱電機の社員の方々に体験してもらいました。

「1分間にコイル500巻」「1カ所当たり2秒のネジ締め」など、とても人間にはこなせない作業ばかりでしたが、“機械が止まった世界”という不安を煽るSF映画パニック的な描き方ではなく「機械がお休みなので、代わりに人間がやろう」というエンタメ的な見せ方にするように注意しました。

月刊CX:作業内容を想像すると、とても大変そうですね……。

佐田:体験した現場社員の方は、最初こそ苦い顔をしていたものの、次第に「やっぱり機械がないとダメだよね」と普段いっしょに働いている機械の重要さを再発見していました。

SNSでは動画を視聴した方からも「見ていてウルッときた」など感動の声があがっていましたね。

月刊CX:次に、展示施策の「もしも機械が休んだら展」についても教えてください。

佐田:「もしも機械が休んだら展」は、2025年8月22日〜24日の3日間、原宿で開催された展示イベントです。自動ドアや自動販売機など、日常生活を支える三菱電機の高度な自動化技術を伝えるため、「もしも機械が休んだらどうなるか」をイラストで展示しました。

会場の様子
実際に展示されていたイラスト
会場内にはフォトブースも設置

イラストは「サラリーマン山崎シゲル」などで知られる田中光さんに描いていただきました。会場でとりわけ反響があったのは“人力販売機”ですね。

展示されていたイラストの一部を実際に体験できるものとして、自動販売機を模した箱の中に人が入った人力販売機を設置

月刊CX:取り出し口に人の手が出てくるところなど、インパクトがありますね。

佐田:自動販売機がお休みして、代わりに人間が担当したらどうなるのか、を伝える展示でした。この人力販売機を通して、田中光さん描き下ろしのオリジナルミネラルウォーターを来場者にプレゼントしていたのですが、作業する人は大変だったようです。会場アンケートでは「人力販売機の人にも休みを与えてあげて」といったコメントが寄せられていました。

月刊CX:特設サイトについても教えてください。

機械を擬人化し、それぞれの機能について紹介

佐田:工場の生産工程の自動化を支えるさまざまな機械を紹介する特設サイトを制作しました。11の機械を擬人化してそれらの機能を紹介することで、自動化技術に関する理解を深めるきっかけづくりができたのではないかと思います。

機械を擬人化し、それぞれの機能について紹介

月刊CX:全体的な反響としてはいかがでしたか。

佐田:展示会の来場者アンケートでは、約95%の方が「⾮常に満⾜」「満⾜」と回答してくださり、「機械について考えるきっかけになった」「より良い社会や暮らしの実現には機械が必要」といった好意的なリアクションが寄せられました。

クライアントにも非常に喜んでいただけましたね。展示会はTV番組を含む75媒体で取り上げられましたし、三菱電機のブランディングにも貢献できたのではないかと思います。

伝えたいことは、一人一人の“気づき”がないと届かない

月刊CX:人間と機械の関わりを問い直す非常に有意義なプロジェクトだと思いました。その中で、三菱電機がこのプロジェクトを実施する意義はどのようなところにあったのでしょう。

佐田:今回は「機械の不在」を描くことで、「機械の存在」とその価値に気づいてもらう、という見せ方を選択しました。そもそも、われわれの日常には当たり前に機械がありますし、「機械って便利だよね、すごいよね」という話をされても「何をいまさら」と思うのが正直なところだと思います。

三菱電機が行う自動化もまさにそういうことで、機械を扱うto Bの企業にとっては身近なことでも、われわれのようなto Cの一般生活者にとっては直接的な関心を持ちにくい。そうしたところをすくい上げて、to B、to C向けに伝えたのが今回の施策です。「三菱電機は、人と機械の協働をどう考えるか」「これからの社会に、暮らしに、何ができるか」について、三菱電機のビジョンを伝えるとともに、生活者にも考えていただくきっかけを作れればと思いました。アンケートの結果を見ても目標が達成できたのではないかと思っています。

月刊CX:「もしも機械が休んだら~機械の休日~」プロジェクトで、佐田さんがとくに心がけたポイントは何だったのでしょうか。

佐田:やはり、機械が休んだ世界を疑似体験してもらうということですね。疑似体験することで、「機械がなくなると大変なんだ」と気づく。その“気づき”こそが、今回の施策のポイントでした。

先ほどもお話ししたように、いくら機械がすごいと説いたところで、もはや当たり前だから響かないわけです。しかし、機械がなくなった状況を疑似体験すると、「自分の生活はどう変わるんだろう」「自分は何をしなくてはいけなくなるんだろう」と自分ごとにできて、深い気づきにつながります。そうした“読後感の設計”に、非常にこだわりました。

月刊CX:まさに“CXクリエイティブ”ですね。

佐田:「現代における機械の重要さ」という最終的に伝えたいメッセージは、言葉ではなくみずからの体験でたどり着いてもらわないと真に伝わりません。考えるきっかけはコピーで作れますが、その結果は個人個人に考えていただくものであり、押し付けることはできません。とくに「私たちの生活は機械に支えられて豊かになる」なんてことをメッセージで理解してもらうことは難しく、みずから体験して理解してもらわないとちゃんと届かないので。

本施策のレビューの際に、クライアントから「ただ三菱電機を知った人と、今回のプロジェクトで三菱電機を知った人では認知の深さが異なるだろう」という話があったのですが、まさにその通りだと思うんです。コンテンツに触れた方が日常生活で三菱電機のロゴを見たときに、ふと今回の施策を思い出してもらえたらうれしいなと思います。

月刊CX:今回の施策でもっとも苦労した部分を教えてください。

佐田:苦労というわけではないのですが、クライアントとのすり合わせは丁寧に行いました。三菱電機はこれまでさまざまなマス広告を行っていましたが、こういった施策はあまり前例がありませんでした。

そのため、マス広告で「機械が重要」というメッセージを伝えるだけではなく、「受け手目線」で深い“気づき”につなげるにはどうしたらいいか、という点についてとくに議論を重ねました。それぞれの施策は異なりますが、共通のコピーで、同じ読後感(機械への気づきを与える)を築くこと。ここをきちんと目線合わせできたことが、いい施策になったポイントだと感じています。

今後も、課題にアプローチする方法を増やしていきたい

月刊CX:今回の施策を振り返ってみていかがでしょうか。

佐田:今回の施策が公開されたのは、AIをはじめとして、ファミレスの配膳ロボやタッチパネルオーダーなどが定着しはじめた時期でもありました。省エネや省資源に加えて省人化が本格化したタイミングで、この施策に関わった意味を強く感じました。

日本がこの先世界と渡り合っていくには、機械との協働がもっと当たり前になっていかなければいけないと感じています。たとえば、コンビニやスーパーのセルフレジだってそうだと思います。

人びとがそうした機械に対して苦手意識を持ったり、ましてや毛嫌いしたりするのは、非常に忍びないことだと思います。だからこそ、今回のような施策が日本の社会をより良くしていくことや、社会の意識改革に少しでも寄与できればといいな、と。コンテンツに触れた方に少しでも良い影響があれば、非常にうれしいです。

月刊CX:最後に、佐田さんが今後挑戦したいことを教えてください。

佐田:同じ体験でも、気づきの深度によってその人の心に残るかどうかは異なってきます。クライアントの課題に合わせてアプローチする方法は変わりますし、もっともっと自分の中に引き出しを持っておきたいです。課題の本質を見極めて最適な施策で実現する、そのためにもっと多くのことを学び、実践していければと考えています。


(編集後記)
今回は、2025年8月に公開された、三菱電機の「もしも機械が休んだら~機械の休日~」プロジェクトについて伺いました。

人間と機械の関わり方を問い直す今回の施策。コンテンツに触れた方々は、機械が休んだ世界を疑似体験することで深い気づきを得て、「自分の生活はどう変わるんだろう」と自分ごととして捉え直せたのではないでしょうか。

「考えるきっかけはコピーで作れるが、その結果は個人個人違うのでコピーで押し付けることはできない」という佐田さんの言葉は、すべてのクリエイターにとって金言だと思いました。

今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記お問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。ご愛読いつもありがとうございます。

 

月刊CX編集部
電通CXCC 木幡 小池 大谷 奥村 古杉 イー 齋藤 小田 高草木 金坂

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

佐田 実史

佐田 実史

株式会社電通

カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター

クリエイティブディレクター/コピーライター

マス広告はもちろん、連動したミドルファネル、ボトムファネルの施策、そして体験イベントまで、幅広く企画・実行しています。課題の本質を探り、解決するプランを心がけています。特にデジタル動画を中心としたブランディングの経験が豊富です。
月刊CX編集部

月刊CX編集部

株式会社 電通

CXCC(CXクリエーティブセンター)

電通のCX専門部署「CXCC」メンバーがCXとクリエイティブについて情報発信する連載「月刊CX」の編集チーム。局内または社内の優れたCXクリエイティブの成功事例を取材することで、CXクリエイティブの本質や可能性を解き明かす。コアメンバーは、木幡容子、小池宏史、大谷奈央、奥村広乃、古杉佑太郎 、イースピン、齋藤敬介、小田健児、高草木博純、金坂基文で全員CXCC所属。
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