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日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター)メンバーが情報発信する連載が「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。

今回は、DEIについて学ぶとともに電通ならではのクリエイティブ思考を疑似体験できる「DEI CARD」をご紹介します。“DEI”とは「Diversity(多様性)」「Equity(公正性)」「Inclusion(包括性)」の頭文字をとった略称で、一人一人の個性を尊重し、よりよい社会をつくるために必要な考え方を指します。

DEI推進が叫ばれる中、日本のジェンダーギャップ指数は依然として低く、男女間の賃金格差やハンディキャップのある人との溝も埋まったとはいえない状況です。

これからのクリエイティブを考えるうえで、“DEI”は必要不可欠。そのフレームワークを学ぶ「DEI CARD」とは、どのようなカードなのか、そしてどのような体験を生み出したのか。制作の中心を担ったアートディレクターの勝又祐子氏とクリエイティブディレクターの諏訪徹氏に話を聞きました。

【勝又祐子氏プロフィール】
電通
第2CRプランニング局
アートディレクター
静岡県生まれ。食品・飲料・航空会社・保険会社など多数のクライアントを担当。V.I.、グラフィックデザイン、商品パッケージなど、コミュニケーション全般のアートディレクションを行う。

【諏訪徹氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター
クリエイティブディレクター/コミュニケーションプランナー
入社後、ビジネスプロデュース職、マーケティング職を経て、クリエイティブ職に。2016〜17年はスウェーデン・North Kingdom で働き、帰国後21年1月よりカスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センターに所属。商品&サービス開発からブランディングコミュニケーションまで幅広く対応し、「ひとつの領域にとどまらない強いコンセプト開発を!」をモットーに仕事をする。主な受賞歴に、Cannes Lions、D&AD、One Show、AD STARS、Spikes、ADFEST、NYADC、TOKYO ADC、ACCなど。

※所属・役職は取材当時のものです。

DEIの考え方を能動的に学べる「DEI CARD」

月刊CX:「DEI CARD」とはいったいどのようなものなのか教えてください。

勝又:企業や現場の方のDEI課題解決を目指し、DEIの考え方を能動的に学べるように設計したカードゲームです。この取り組みでは、DEI CARDを使ったワークショップも開催しています。

制作したカードは2つあり、1つ目がお悩み相談に答えることでDEI課題に即したロールプレイング体験ができるゲーム「PLAY DEI CARD」。2つ目が、DEI関連の問題についてアイデアを出し合う「TALK DEI CARD」です。

諏訪:「PLAY DEI CARD」は7枚1セットになっており、さまざまな方から寄せられたDEIならではの相談が書かれた1枚の相談カードと6枚のロールプレイングカードで1セットとなっています。「飛行機の整備士になりたいけど親から進学を反対されて悩んでいる17歳の女子高生」「娘の過度なダイエットを心配している48歳の女性」など、複数の相談カードを用意しました。

それぞれのカードに書かれている悩みに対し、年齢や人種、職業も異なる立場が書かれた“ロールプレイングカード”をもとに、与えられたペルソナになりきって答えていきます。カードに書かれたペルソナや相談事項はすべて事実に基づいたもので、発言を促すための嘘は交えないようにしました。

多様な人になりきるカードの特性を表す、人型を組み合わせたカモフラージュデザイン
相談内容やロールプレイングカードに書かれた内容はすべて実在する人物に基づいて設定されている。会話を促すための聞き役として“DJカード”が用意されているのも特徴。

諏訪:もう一方の「TALK DEI CARD」は、DEI関連のまだ答えのない問題をクイズ形式にして収録した表裏で対のカードです。表面がDEI関連のクイズが書かれた“クイズ面”、裏面はそのクイズのヒントになる事例や制度が書かれた“インスピレーション面”になっています。

一例を挙げると、表面が「男女が同じ実力だと男性のほうが選ばれやすい?どうしたら男女平等な採用ができますか?」というカードの場合は、裏面に「ブラインドオーディション」という事例(※)が書かれています。

こうしてカードでさまざまなDEI課題に向き合ってロールプレイングすることで、個々人のインサイトとバイアスをあぶり出し、DEI課題を解決するクリエイティブ思考を身につけることが今回のプロジェクトの狙いです。トピックや事例に関しては、当事者の方にも取材をしつつ、事実の中から内容を選定し、ワークショップの参加者が自分ごととして感じられるようにコピーを考えました。

※1970〜80年代に演奏家の採用試験で誰が演奏しているかを隠して審査をする方式を導入したところ、女性演奏家の採用率が飛躍的に上がったというもの
 

多種多様な人が生きる世界を表したマーブル模様は、絵の具を使って一つ一つ制作
表と裏の対になっているTALK DEI CARD

月刊CX:今回の取り組みが生まれたきっかけについて教えてください。

勝又:電通では、クライアントの課題を解決すべくDEIの見地からさまざまなアプローチを試みています。社内でもDEIゼミという勉強会があり、そこで得られた知見をフィードバックするときに、カードゲームの形式でまとめたら面白いのではないかなと思ったのがきっかけでした。そこから諏訪さんと協力し、カードゲームとして設計を始めました。

諏訪:「DEIを考えよう」とポスターにするだけでは、人の心を動かすことは難しいでしょう。そうした受動的なものではなく、せっかくDEIをクリエイティブでやるならば、楽しみながらも心に刺さり、かつ自分から積極的に参加したくなるものにしたいと考えたんです。

月刊CX:参加者がDEIについて能動的にロールプレイできる形式が秀逸だと感じました。

諏訪:人種や民族、ジェンダーやハンディキャップなど、DEIについて語るのは非常に勇気がいることですよね。でも、自分ではない誰かになりきって話すと、自分では気がついていなかったような偏見が表れやすくなる。そうすることで、自身が抱えるバイアスや、問題解決のためのインサイトを見つけられるのではないかと企みました。

勝又:当事者の方にもヒアリングを重ね、どういうDEI課題をどのようにしてカードゲームに落とし込むかも1年以上試行錯誤しました。私自身がカードゲームに慣れていなかったため、カードゲームならではの楽しさを考えながら制作することはすごく新鮮でしたね。

正しさではなく、誰かの答えも自分の答えも「N=1」として扱う

月刊CX:実際に「DEI CARD」を体験した方たちの反応はどうだったのでしょうか。

勝又:非常に好評をいただいています。「このような感じでDEIに触れられるとは」「仕事にも生かせそう」といったポジティブな反応が印象的でした。医療従事者の方は医療系の話題に興味を示したり、営業職の方は自分の意見をハキハキとしゃべったりと、参加者の属性によってカードへの反応もさまざまでした。そうした属性に応じてカードのアレンジやブラッシュアップを重ねています。

また、ワークショップは7人でチームを組んで進める形式で、ある企業で開催した際は役職も年齢も異なる初対面のメンバーでチームを組んでいただくことがありました。ワークショップを通してお互いの価値観を共有し、人柄を知って仲良くなったという意外な声も上がっていましたね。

月刊CX:カードへの反応でとくに印象的だったものはありましたか。

諏訪:10歳の男の子になりきる“ロールプレイングカード”はとくに発話が多かったです。分かりやすいペルソナですし「10歳ならこれくらいのことを言うだろう」といった感じで話す方が多い印象でした。ですが、実在する10歳の男の子にヒアリングしたコメントを紹介すると、その内容があまりにリアルで、会場からは驚きの声が上がっていました。子どももそれぞれの立場で真剣に生きているのに、大人になるとそのことを見落としてしまうんですよね。全体的にわれわれの意図した反応が生み出されていて、手応えを感じました。

親から進学を反対されて悩んでいる女子高生(17歳)に向けた、実在する男の子(10歳)からのリアルなアドバイス

月刊CX:DEIの話題を扱うときには、バイアスを生み出して量産してしまう怖さもあると思います。体験設計で意識したポイントがあれば伺いたいです。

勝又:何度もトライアンドエラーを重ね、アウトプットの受け方は入念に調整しました。そのようなコメントに至った理由まで話してもらうことで、自身がもつバイアスに気づいてもらうというか。こちらから最適解を提示したり、何か大きな方向に導いたりすることはしないように注意していましたね。

誰かの答えも自分の答えも「N=1」であって、それが正しい・間違っているではなく、すべてあり得るんだっていうことに気づいてもらえればなと。

月刊CX:諏訪さんはいかがでしょうか。

諏訪:カードで取り扱うDEIの悩みと参加者の距離感については気をつけていました。たとえば、大学生が抱えるDEIの悩みを、同じく大学生ばかりのワークショップで実施すると、ペルソナではなく自分の実感からしか答えが出てこないと思うんです。「私の経験」をもとに話すのは、本来のDEIの目的から外れてしまいます。異なる立場の方を想像して話してもらうには、どうすればいいかを常に考えながら制作しました。

「バイアスとは何か」を考え続けることがインサイトを発掘する

月刊CX:今回の施策を振り返ってみていかがでしょうか。

勝又:第一に大勢の前でアイデアを話すのってすごく大変なんですよね。私もいまだに企画の打ち合わせの前は顔面蒼白になるぐらい振り絞ってやっています。今回の「DEI CARD」はそうした発話を促すものでしたが、みなさんしっかり自分の考えを話されていて素晴らしいなと感じました。

また、カードで事例を知ることで新たなアイデアを思いついたり、他の事例を調べてインプットしたりして、新しい何かをアウトプットする──という、私たちがいつもしているクリエイティブ思考をみなさんにも体験していただけてとてもうれしかったです。アートディレクターとして、DEIというテーマに関われたことも非常に有意義でした。

諏訪:人間はさまざまな欲求やバイアスをもっていて、僕は広告をつくるときにそういうものを常に意識して考えています。「DEI CARD」はアクティベーションを起こすための役割を与えて誰かになりきることで、参加者が気づいていないインサイトを刺激するものでした。自分の好きなクリエイティブを制作できたという手応えがありましたね。

一方で、参加者から寄せられた「バイアスって何でしょう?」という質問にうまく答えられなかったことは心残りでもあります。バイアスとは先入観のことで、さまざまな人がさらされたバイアスを想像したときに、その想像から漏れている人たちがいることに気がつくことが大切だ──ということを話したのですが、まだ別の答えがあったのかなと。僕自身も、これからも考え続けていく必要があると感じました。

月刊CX:「DEI CARD」の今後の展望について教えてください。

勝又:「DEI CARD」を活用した新たなビジネスモデルを切り拓いていければと考えています。一時は商品としてカードだけを販売することも検討したのですが、いったん保留にしました。参加者の課題をすくい上げて、DEIに対するアクションをいっしょに行うことこそが、私たちのやりたいことだからです。ワークショップを通して縁ができた人たちとともに活動の場を広げていって、これからもカード+ワークショップという形で継続していきたいと考えています。

諏訪:僕も勝又と同じで、「DEI CARD」が参加者と当事者のインサイトを発見して次の段階に進むきっかけになるのであれば、こんなにうれしいことはありません。今後も世の中の人々が抱える課題を解決できるような、ワクワクするクリエイティブをつくっていければと思います。


(編集後記)
DEIについて能動的に考えられる「DEI CARD」は、現代社会に不可欠なDEI視点のインサイトを見つける秀逸なクリエイティブだと感じました。役になりきることで発話の心理的障壁を和らげる体験設計も、たくさんの人から声をすくい上げるために欠かせないポイントだったと感じます。

今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記お問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。ご愛読いつもありがとうございます。

月刊CX編集部
電通CXCC 木幡 小池 大谷 奥村 古杉 イー 齋藤 小田 高草木 金坂

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勝又 祐子

勝又 祐子

株式会社 電通

第2CRプランニング局

アートディレクター

静岡県生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒、2004年入社。食品・飲料・航空会社・保険会社など多数のクライアントを担当。V.I.、グラフィックデザイン、商品パッケージなど、コミュニケーション全般のアートディレクションを行う。

諏訪 徹

諏訪 徹

株式会社 電通

カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター

クリエイティブディレクター/コミュニケーションプランナー

入社後、ビジネスプロデュース職、マーケティング職を経て、クリエイティブ職に。2016〜17年はスウェーデン・North Kingdom で働き、帰国後21年1月よりカスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センターに所属。商品&サービス開発からブランディングコミュニケーションまで幅広く対応し、「ひとつの領域にとどまらない強いコンセプト開発を!」をモットーに仕事をする。主な受賞歴に、Cannes Lions、D&AD、One Show、AD STARS、Spikes、ADFEST、NYADC、TOKYO ADC、ACCなど。

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月刊CX編集部

月刊CX編集部

株式会社 電通

CXCC(CXクリエーティブセンター)

電通のCX専門部署「CXCC」メンバーがCXとクリエイティブについて情報発信する連載「月刊CX」の編集チーム。局内または社内の優れたCXクリエイティブの成功事例を取材することで、CXクリエイティブの本質や可能性を解き明かす。コアメンバーは、木幡容子、小池宏史、大谷奈央、奥村広乃、古杉佑太郎 、イースピン、齋藤敬介、小田健児、高草木博純、金坂基文で全員CXCC所属。

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