その「アイデア」や「クリエーティブ」マネタイズします!No.2
電通の「お札立て」を段ボール会社が買った理由
2018/08/23
電通の「知財マネタイズ」の取り組み第1弾として、段ボール製簡易神棚「ofudana(オフダナ)」が、タチバナ産業から発売されました。
電通から意匠権・商標権のライセンス供与を受けて商品化を行ったタチバナ産業の野原将彦社長と、ofudanaの生みの親である電通の勝又祐子氏が、製造業、広告業それぞれの立場から、新たなビジネスモデルの可能性について語り合います。
段ボール会社と広告会社、それぞれの抱えていた課題とは?
勝又:ofudanaという商品の始まりは、電通の社内横断プロジェクト「Product Design School 2017」でした。電通のアートディレクター、プランナー、コピーライターが段ボールを素材にプロダクトデザインを行い、その成果である作品群を昨年11〜12月に電通本社のエントランスに展示したんですね。
その展示を紹介したウェブ電通報の記事を野原さんが見てくださり、私のデザインしたofudanaに目を付けていただけたことから、タチバナ産業からの商品化に至ったという経緯でした。
野原:あの出会いから7カ月、発売まであっという間でしたね!ウェブ電通報読者の皆さんにタチバナ産業の紹介をさせていただくと、主に紙製やプラスチック製の段ボールを製造・販売している会社です。また、段ボールに付随するパッケージ全般や緩衝材、シールなども手掛けています。
勝又:1964年創業で50年以上の歴史を持つタチバナ産業ですが、最近はビジネスの内容が広がってきているんですよね。
野原:私が代表に就任した10年ほど前から「物流加工」に力を入れています。今では食品専門工場を買収して、クッキーやチョコレートなどの梱包・セットアップや、紅茶のティーバッグを製造し、販売も行っています。
勝又:段ボールメーカーで、食品を扱うというのは珍しいそうですね。パッケージ以外の商品に取り組まれたのは、どういった理由からでしょうか?
野原:消費者にとっての段ボールって、どのメーカーのものを買っても同じ。むしろ、同じでなければクレームになる商品ですから、差別化や付加価値を出すのが難しいんです。
消耗品なので、受注自体は比較的コンスタントにありますが、そういう状況では価格競争に陥りやすいですし、消費者の購入行動が変わったり、原料が高騰したりする今、付加価値をどうしていくかは大きな課題でした。
勝又:そこで食品の梱包・パッキングに目を付けられたのは、なぜですか?
野原:われわれのコアビジネスである、段ボールやパッキングの技術と設備が生かせるからです。従来のただ「箱」を売る業態に、「セットアップ作業」を追加して、中身が詰まった完成品をお客さまにお買い上げいただくビジネススキームを確立し、一つの成功例となりました。
今回電通も、広告会社でありながら「プロダクトデザインのライセンスビジネス」に取り組まれたのは、何か課題があったのですか?
勝又:私が入社した当時の電通は、メディア取引が主流という広告会社の一つの形が完成されていました。しかし、生活者の行動が変わり、クライアントが広告会社に求めることも多様化する中で、私たちも変わらなければならない。今までにとらわれないやり方で、かつ広告会社の強みを生かして、何かビジネスを発展させられないかということが、課題でした。
その「広告会社の強みを生かした新しいビジネス」の一つが、プロダクトの意匠権や商標権を活用した知財マネタイズです。
野原:なるほど。ビジネスの発展という意味ではわれわれも、創業50年を機に自社ブランドでオリジナル紅茶のティーバッグをつくって、「B to C」のビジネスにチャレンジしました。これには他社ブランドのOEMで培った紅茶の製造ノウハウと、そろっていた設備を生かしました。
この紅茶はネット通販で売れていまして、「この販路を生かすB to Cの商品をもっとつくれないか」と考えていたとき、ofudanaに出合ったのです。
「使ったら処分する」という価値に注目したプロダクト
勝又:段ボールのプロであるタチバナ産業が、電通の「Product Design School 2017」の展示物を見られたときに、どんな印象を持たれましたか?
野原:良い意味で衝撃的でしたね。いつも付加価値や差別化のことを考えて、「段ボール会社ならではの商品を自社開発したい」と思いながらも具体的なアイデアはなかったのですが、あの展示会には日頃私たちが「段ボールってもっと何かできるはず」とぼんやり思っていたことに対するヒントが、ゴロゴロと転がっていました。
何よりも、「箱の原材料」である段ボールが、生活用品の原料としてデザインされているのが印象的でしたね。われわれの発想や視点が「包装資材スタート」になっていたのだと痛感しました。
勝又:たくさんプロダクトが並んでいる中で、商品化するものとしてofudanaを選んでいただいたのはどうしてですか?
野原:ofudanaは、「面白いな」と思った次に、頭の中に図面がすぐ浮かんだんです(笑)。まず、量産が可能だなと。でも、単に機械でつくるだけでは面白くない。ofudanaなら、製造メーカーとしてのわれわれのノウハウが組み込めそうだと思いました。
あとは、たまたまなんですが、事務所のある地元浅草のお土産物屋で木製のお札立てが売れているという話を聞いたばかりだったので、「これは、面白い!」と。それにしても、段ボールでのお札立てというアイデアはどうやって出てきたのですか?
勝又:段ボールって、用途が終われば処分されてしまいますよね。そういう「使ったら処分する」という段ボール自体の価値を上げられないかなということをまず考えました。
そして私の生活の中で小さな問題点を洗い出したときに、目に付いたのが神社のお札でした。私は神社をお参りするたびにお札を買うのですが、自宅に神棚がないので、本棚の上に置いているのがいつも気になっていて。「そういえばお札は1年に1度神社に納めてたき上げてもらうな」と気付いたんです。お札立てを段ボールでつくったら、お札と一緒に1年のサイクルで神社に納めることができるなと。
野原:ご自身の生活の中から生まれたアイデアだったんですね。そして、自分と同じニーズを持つ人がいるはずだと。
勝又:雑誌でも神社巡りの特集は定期的にありますし、多くの日本人にとって、神社やお札はとても大切なものです。でも、私がそうであったように、住宅事情によっては自宅に神棚をつくるのは少しハードルが高い。日本文化の一つである神棚がある生活をofudanaが違う形で伝えていけたらすてきだなと思っています。
野原社長の目から見て、ofudanaの商品展開にはどんなビジョンがありますか?
野原:いろいろな可能性があると思いますよ。私は特に、浅草寺参道のお土産物屋や、仏具店など、販路の多様性に面白味を感じています。勝又さんはどういうふうに買われることをイメージしていましたか?
勝又:やっぱりベストは、神社でお札を買うときに、巫女さんが一緒に渡してくれたらいいなと!お札をお祀りしたいけど、家に神棚がない人に届いてほしいです。あとは、見た目もかわいいものに仕上がったので、インテリアとして生活に入っていけるものになると、うれしいですね。本当の用途はお札立てなんだけど、届いた郵便物の一時保管場所としてのカードホルダーとかにもなりますよね。
野原:確かに。設計や試作の段階では気付きませんでしたが、実際に製品になってみると、飲食店でショップカードを並べてもよさそうな仕上がりですね。
勝又:段ボールならではの「消耗品」という特性で、「モノを買うことやずっと使い続けなければいけないプレッシャーを和らげる」という価値を、段ボールでつくっていけそうだなと思います。ofudanaだけでなく、「Product Design School」の展示物はこの特性に注目したプロダクトアイデアが多かったと思います。
野原:私はofudanaを一目見て、デザインの良さにひかれましたが、この形状にいきつくまでには、ご苦労も多かったのでは?
勝又:図面をつくるのに苦労しましたね。普段の業務ではグラフィックデザインをしているので、基本的に二次元で頭が働いているのですが、意匠権を取るために精密に図面を書かなければならなくて…。
野原:他の皆さんも立体物には苦労されたようでしたね。展示物の中にはフチがガチガチだったりするものもありましたが、それがわれわれの目からは、ちょっとほほ笑ましかったです(笑)。
勝又:お恥ずかしいです(笑)。図面通りに切って、組み立ててみたらうまく立たない。また図面からつくり直して…と、トライ&エラーを繰り返しました。プロダクトデザインとはそういう作業だと思うのですが、頭で思い描いていることと、手を動かして実際にできるものは違っていて、大変でした。
段ボールには無限の可能性がある!
勝又:展示から7カ月という短期間で発売までたどり着きましたが、広告会社のプロダクトアイデアを買って商品化することのメリットをどのように感じましたか?
野原:まず、段ボール業界外部の方からの提案・アイデアをどう製品にしていくかというその開発工程を、うまく役割分担をしながら体験できたのは、よかったですね。また、段ボールの印刷・加工には、特有のズレが発生しがちです。そういった加工技術に関する提案、われわれの本領である部分を、存分に提案させてもらったのはやりがいがあったし、面白かったですね。
当社の社員にとってもいい刺激になったので、こういうチャンスがあればまたチャレンジしたいです!段ボール業界全体がそう思っているはずです。
勝又:今回、パッケージではない商品で付加価値ができたのかなと思いますが、段ボールを活用したB to Cプロダクトの可能性をどう感じますか?
野原:段ボールの利点は、小ロット・短納期で製造できること、加工が楽なこと、イニシャルコストが抑えられること。なおかつリサイクルでき、さらには多品種生産をオーダーメードでできる。素材としては優等生なんです。
今回、勝又さんのofudanaをはじめとする電通のアイデアを見て、段ボールが活躍できる場がたくさんあることを感じたのですが、残念なことに業界内部でのアイデアがなかなか生まれない。今は業界外からのアイデアを頂き、コラボ製品を開発するのが可能性を大きく広げる一番の近道かもしれませんね。
勝又:私が今回タチバナ産業のお仕事を見て強く思ったのは、「モノをすぐにつくれることは強いな」ということです。
私たちは普段、アイデアを商売にしています。自分たちに工場があるわけではないし、製造会社と一緒に直接何かをつくることもあまりありません。でも、実際に工場を持ってモノをつくる人たちと一緒に取り組んでみて、「とにかくつくってみて考えたらいいじゃない」というスピード感で、考えたものがすぐ「形」にできることの強さを感じました。
そういう意味では私たちも、「プロダクトデザインのライセンスビジネス」という形に新しい可能性を感じています。
野原:ofudanaが売れると、「僕らのアイデアも第二のofudanaになるんじゃないか」と、社員が自ら何かをつくろうというモチベーションになるかもしれない。それを見た段ボール業界が、今までの箱だけではなく、持っている素材と生産技術と設備を生かし、何か考え出すかもしれない。そうやって業界全体の発展につながるといいなと思っています。
勝又:電通社内でも、ofudanaの存在が刺激になったらと思っています。「電通でこんなことができるんだ」と知ってもらって、いろんなことにチャレンジしていける環境ができるとうれしいです。本日はありがとうございました!