その「アイデア」や「クリエーティブ」マネタイズします!No.1
広告会社が「知財」と「プロダクトデザイン」で始める新ビジネス
2018/06/14
電通では現在、広告で培ったクリエーティブやアイデアの力を生かすため、「知財マネタイズ」という取り組みを始めています。これまでの業界カルチャーから見て、「広告会社」と「知的財産」は少し遠いものにも思えますが、実際に取り組んでみると「電通×知財」の可能性に大きな手応えを得ました。
電通のクリエーティブと先端テクノロジーを担うCDCと法務部知財課を兼務し、クリエーティブと知財の両方の視点を持つ堀田峰布子が、電通の知財マネタイズへの取り組みと目的についてお伝えします。
【目次】
▼はじまりの「Product Design School 2017」
▼電通の知財を利用したい会社が本当にいるのか?
▼知財マネタイズ第1号商品が間もなく発売!
はじまりの「Product Design School 2017」
2017年、筆者の企画で、電通社内のクリエーター向けに「Product Design School 2017」というワークショッププログラムを実施しました。
社内のクリエーティブ部署に告知をして、応募者の中から選抜した参加者は、アートディレクター、プランナーやコピーライターなど29人。ほとんどの人がプロダクトデザインに取り組むのは初めてでした。
このプログラムの成果である創作物は、本社1階のエントランスに展示していたので、読者の中にはご覧になった方もいるかもしれません。いくつか見てみましょう。
少し自己紹介をすると、私は電通入社以前、製造メーカーでプロダクトデザイナーの仕事をしていました。その経験から、「広告領域のクリエーターがプロダクト領域にそのスキルを拡張することで、これまでにないアプローチのプロダクトをつくれるのではないか?」と思っていました。
昨今は電通でも「広告領域以外」への取り組みが増えつつあります。そんな中、広告会社の強みを生かせる事業として、プロダクト領域でのビジネスには大きな可能性があると見込んで、このスクールを企画したのです。
本ワークショッププログラムは、企画からプロモーションまでの事業会社の実務の流れを一通り経験するものです。単純なデザイン分野にとどまらない「ものづくり全般」の知識が必要になりますし、「製造原価」などもクリエーター自身が算出するのが特徴です。
そして、各自の創作物の「知財権の取得」もプロセスに取り入れることで、その後の「知財マネタイズ」も視野に入れました。製造メーカーのプロダクトデザイナーなら、商品をデザインするという業務の中で知財を出願することは、日々の業務プロセスの中に入っている「当たり前」のことだからです。
特に今回は、「デザインをして」「図面を引いて」「自らの手で工作する」というサイクルを何度も行い、頭の中で描くデザインと図面、アウトプットの整合性を取っていく行為を繰り返してもらいました。参加者からは、「図面を引くのは大変だったけれど、リアルな手触りのある体験ができてよかった」との声もあり、スキルの拡張体験としてとても好評でした。
なお、このスクールでは「段ボールでつくる道具」をテーマとしました。段ボールを使った理由は、身近な素材であり、加工がしやすく、価格も低コストで扱いやすいこと、また、実際のビジネス展開を考えた場合に金型などが必要ないので、製造する企業側の初期投資を小さく早く開発ができ、トライしやすいというメリットがあります。
本ワークショッププログラムの目的の一つは「知財の出願」でしたが、参加者たちの独自性や新規性のあるアイデアやデザインから、最終的に特許2件、意匠12件の出願を行うことができました。
特に意匠については、電通では過去、年に数件レベルの出願しかなかったことを考えると、「知財をつくる」活動のエンジンにもなったと思います。
今年度も引き続き「Product Design School 2018」を実施します。ぜひ、その活動にもご期待ください。
電通の知財を利用したい会社が本当にいるのか?
知財マネタイズの基本的な仕組みは、ライセンスを供与する「ライセンサー」が導入側の「ライセンシー」からロイヤリティー(知的財産権の利用に対する対価)を受け取るというものです。一般的に、意匠におけるロイヤリティーは製造原価の3~5%といわれています。
知財マネタイズのステップは、大きく3段階で構成されます。
ステップ1:「知財をつくる」
まず何らかの知的財産を生み出します。電通では、「アドテク領域」「データ&デジタル領域」といった現業に効果的な領域については、積極的に知財化する方針を立てています。その他の領域については、プロダクト領域やビジネスにつながるものを厳選、精査して知財化していきます。
ステップ2:「特許庁へ出願、権利化」
何でも権利化するのではなく、外部弁理士と連携して先行文献調査を行う他、「新規性」「独自性」「ビジネス可能性」「事業貢献性」「社会貢献性」といった視点で知財を評価し、効果的で戦略的な出願を行います。
ステップ3:「相手先との交渉→契約締結」
自社で出願し権利化された「知財権」について、相手先と交渉し、「ライセンス契約」を行います。契約形態は、先述したようなロイヤリティーでの契約を想定した「通常実施許諾契約」と、権利の買い取りの「譲渡契約」があります。
「電通の知財を利用したい相手先が本当にいるのか?」という質問を社内で受けることがあります。答えはYESです。
もともと産業界では、他社とのライセンス契約や譲渡などのビジネス活動が行われていました。さらに現在は、オープンイノベーションが進展していく中で、自社の知財の外部供与や、逆に他社の知財の導入といった活動が、より一層重要視され、活発化しています。
●知財の導入側企業のメリット
導入側企業には、技術やデザイン開発費の圧縮、スケジュールの短縮、第三者侵害リスクの低減メリットなどがあります。
具体的には、「技術力や生産力はあるが、アイデアやデザイン力が不足している、もしくはインハウスのデザインの部署自体を持たない企業」にとっては、他社から意匠権のライセンス供与を受けることで初期投資コストを少なくできます。
また、BtoB事業がメインの企業が、BtoCに向けて商品の企画やデザインを考えるような“BtoCシフト”の際にも、同様の効果があります。
●知財の供与側企業のメリット
ライセンス収入や譲渡収入といった新たな収益を得ることができるようになります。
知財マネタイズ第1号商品が間もなく発売!
電通にとって、自社の知財を積極的に権利化し活用していくことは、これまであまりありませんでした。しかし、私は電通の強みである「クリエーティブ」や「アイデア」の力は、知財の可能性の宝庫だと思っています。
「Product Design School 2017」に参加した電通のクリエーターたちは、皆プロダクトデザインについては専門家ではありません。しかし、今回、短期間で予想を上回る成果が出たことで、電通のクリエーターが持つ「プロダクト領域」での活躍に大きな可能性を感じました。
意匠権などの知財を活用した一連の取り組みは、今までにない電通のビジネスであり、「ビジネス・トランスフォーメーション」への小さな一歩かもしれません。優れたアイデアやユニークなクリエーティブは、知財として権利化することで、はじめてサステナブルに活用でき、かつマネタイズができます。
そして今回、電通本社1階のエントランスでワークショップの作品展示をしたことをきっかけに、段ボール製造メーカーの方からお声掛けを頂き、あるプロダクトの商品化が決定しました。電通としては、「意匠権のライセンス供与による商品化第1号」となります。
「知財をつくる」「権利化する」、そして「ビジネスへ」というスキームに沿って、展示から発売まで約7カ月という短期で実現した、知財マネタイズの事例です。
次回はこの「知財マネタイズ第1号商品」を例に、具体的な商品化までの開発ストーリーをご紹介します。