生成AIの進化によって、私たちは迅速に答えにたどり着けるようになりました。
子どものためのAI活用の研究・実践に取り組む、電通の「AIうえおラボ(あいうえおらぼ)」と、子ども自身が遊びを生み出す体験を大切にしてきた屋内キッズパークの「PLAY! PARK (東京都立川市)」は、9月9日(水)~9月23日(水)、子どもと保護者を対象にした体験型の特別イベント「みらいのたまご」を開催し、約6500名が訪れました。
素材を貼り付けると中から不思議な鳴き声が聞こえてくるたまごを通じて、子どもたちが夢中になる「アナログなAI体験」の提供に取り組みました。なぜ今、あえて「AIらしくないAI体験」をつくろうとしたのか。AIうえおラボの飯田羊さんと、PLAY! PARKの原美咲さんにお話を伺いました。
答えを出すAIではなく、子どもの想像力を育てるAI活用に取り組む理由──AIうえおラボ立ち上げの背景を教えてください。
飯田:AIうえおラボは、子どもの教育における新しいAIの使い方を考えるラボです。子どもにはできるだけアナログな体験をしてほしいという思いがある一方、AIやデジタル技術と向き合わずに生きていくことも難しい時代です。だからこそ、子どもとAIがどのような関係を築くのが理想なのかを考えたいと思い、立ち上げました。
──今回、なぜ両社で子ども向けのAI活用に取り組もうと考えたのでしょうか。連携の経緯を教えてください。
飯田:私たちAIうえおラボでは、“AIが答えを出すことを目的とせず、子どもの好奇心や想像力をどう広げられるか”という点に関心がありました。僕が3歳になる息子とPLAY! PARKに遊びに来たこともあり、いつか一緒にお仕事をしたいと思っていました。最初にメールで企画を提案し、一度はお断りされましたが、もう一度お話だけでも聞いていただきたいと思い、アナログなAI体験をテーマに複数の企画を考えてお送りしました。
──その後提案を受け入れたそうですね。PLAY! PARKが今回AIを導入しようと思った理由は何だったのでしょうか。
原:PLAY! PARKは、「未知との出会い」をコンセプトに、子どもが自由な発想で遊ぶことを大切にしています。いま私の後ろにある遊具も風船をラップで巻いてつなげたもので、上に乗ってみたり持ち上げてみたり、遊びながら新しい発見が生まれていきます。(※現在は別の遊具となっています。詳しくはPLAY! PARKのサイト をご覧ください。) 当時の私たちのAIに対するイメージは「正解を与えるもの」で、私たちの目指す世界観とは方向性が違うという懸念があり、一度お断りしました。ただ、その後いただいた企画書を見ると、「子どもたち自身が答えを決めることを大切にしたい」「子どもたちが自分で正解を決め、自由に遊んでほしい」という私たちの考え方と同じ方向を向かれていることが分かりました。 私は元々、UI/UXデザインを勉強したり、子どもたちにプログラミングを教えたりしていたこともあります。デジタル分野には興味があり、この企画を一緒にやりたいと思いました。
子どもの発想から生まれた「みらいのたまご」──今回の「みらいのたまご」はどのように生まれたのでしょうか。
原:以前、PLAY! PARKで巨大なたまごの遊具を作った時に、子どもたちから、「この中には何がいるの?」「何のたまごなの?」と質問が相次ぎました。逆に「何がいると思う?」と聞くと、恐竜やひよこ、財宝など本当にいろいろな答えが返ってきたのが印象に残っていました。デジタル技術を使って、中から声が聞こえたり、振動などの反応があったりしたら面白いだろうと想像していました。 今回、提案をいただいた時に、以前あった巨大なたまごのアイデアを使えるかもしれないと思い、活用することになりました。
──企画で最も大切にしたことは何ですか。
飯田:AIで鳴き声そのものを作ることではなく、AIの分析をもとに生まれる音をきっかけに、子どもが想像を膨らませ、自分なりの答えを見つけることを大切にしました。特定の生き物を想起させすぎず、子どもの想像をかき立てる「余白のある鳴き声」にすることにこだわりました。聞いた瞬間に「これは犬だ」「これは恐竜だ」などと分かってしまうと、想像の余地がなくなってしまうからです。
原:当初は、熊の鳴き声のような刺激が強く、子どもを怖がらせてしまいそうな音が出ることもありました。柔らかく、同じ音を聞いても子どもによって違う生き物を想像できる方が面白いと考え、抽象的な音にできないかご相談しながら、何度も調整していただきました。
300万通りの鳴き声と、人の手による設計──鳴き声はどのような仕組みで作られているのでしょうか。
飯田:鳴き声は、子どもになじみのある30種類の生き物の鳴き声をベースにしています。子どもがたまごに貼る「ころころ」「にょろにょろ」「もふもふ」「ひらひら」「とげとげ」の要素を天井に設置したカメラで認識し、AIがそれぞれの要素の割合をリアルタイムで分析し、その割合に応じてベースとなる声を再合成しています。例えば、カエルの鳴き声がベースになっているとすると、一度カエルの声を骨組みだけにし、その骨組みに子どもの装飾に合わせて音を作り出します。骨格は同じでも、子どもが作ったものによって新しい鳴き声になるイメージです。
鳴き声の組み合わせは約300万通りありますが、AIだけですべてが完成しているわけではありません。今回は音楽家兼エンジニアの方にも参画していただき、鳴き声の聞こえ方や刺激の強さの調整、システム開発を担当していただきました。AIだけで完結するのではなく、音作りや調整には非常に多くの手作業が組み込まれています。
──スピーカーの配置にも工夫があったそうですね。
原:事前準備の段階で、別の場所から音を出していたところ、子どもに「たまごから聞こえてこない」と見抜かれました。子どもは敏感なので、こうした部分まできちんと作り込む必要があると感じました。
飯田:最初はスピーカーをたまごの端の方に置いていましたが、たまごの奥に埋め込むように位置を変更しました。本当に中に何かがいるように感じてもらうためには、細かな部分が大切でした。
──実際に体験した子どもたちの反応はいかがでしたか。
原:たまごから音が鳴っていると、子どもたちは「何の音?」と吸い寄せられるように集まってきました。説明しなくても、たまごに何かを貼れると直感的に分かるようで、とにかく白地が見えなくなるくらいにたくさん貼っていきます。貼ること自体がシンプルな遊びになっていて、音が聞こえると「何か聞こえる!」「おなかが鳴っている音だ!」と、それぞれ違う捉え方をしていました。私たちが想像していなかったような発想がたくさん生まれていて、とても面白かったです。
飯田:AI活用については入場時に保護者に周知し、同意をいただいています。実際に子どもたちが鳴き声を聴いて想像した生き物の絵をたくさん描いてくれていて、純粋に楽しんでくれているように感じました。それらを目にした時はうれしかったですね。保護者も「何がいるんだろうね」と一緒に面白がってくださっていました。
子どもとAIの理想的な関係とは──今回の展示で目指した「アナログなAI体験」とは何でしょうか。
飯田:パソコンやモニターは見えないように、カメラもたまごの装飾だけを読み取るように向きを調整し、遊びの邪魔にならないようにしました。子どもたちはAIを意識していませんが、実際にはAIに触れているという、その不思議さも、この体験の大切な要素だと思っています。
──今回の取り組みを通じて、大人のAIとの付き合い方についても見えてきたことはありますか。
飯田:普段は業務効率化に使うことが多いAIですが、今回はAIが答えを出さないことへのチャレンジでした。AIは膨大な可能性を提示できますが、その中から何を選び、どう意味づけるかは人間にしかできません。AIが増やした選択肢の一つ一つが、子どもの可能性を伸ばす材料になっていると考えています。質問すればすぐ答えが返ってくるのは便利ですが、それが楽しい体験かというと、また別だと思います。自分で悩み、手を動かし、作る過程は、記憶に残る濃い体験になります。みらいのたまごは、そうした体験の濃さを作る一つの形だと思います。
原:AIは正解を与えるだけのものではなく、発想を広げるためにも使えると感じました。 答えを受け取って終わるのではなく、「本当にそうかな?」「別の考え方もあるかな?」と考えることで、新しい可能性が広がります。子どもたちにも、そういう存在としてAIに触れてほしいと思います。
AIがより身近になる時代だからこそ、「どれだけ便利か」だけでなく、「どんな体験を生み出すか」を考えることが重要になっています。AIうえおラボとPLAY! PARKの取り組みが示したのは、AIが必ずしも答えを返さなくてもよいという可能性です。むしろ、人の想像力を刺激し、考える余白を生み出すことで、新しい価値を生むこともできます。たまごの中にいる生き物の正体は、最後まで分からないままです。しかし、その答えを自分で考える時間こそが、子どもたちにとって最も豊かな体験なのかもしれません。
「AIうえおラボ」メンバー