アートの力で町工場の技術を世界にジャンプアップ!~cotasトークセッション
2014/07/09
オープンイノベーション情報メディア「cotas」(コタス、 http://cotas.jp/)は6月29日、コ・クリエーション(共創)をテーマにした東京・港区カレッタ汐留のサテライトスペースcotas studioで、トークセッション「町工場がつくるバネの新しい試み ~思いがけない視点で、JUMP UP!~」を開催した。『WIRED』日本版 編集長の若林恵氏をファシリテーターとして迎え、五光発條の村井秀敏氏、デザイナーの西村拓紀氏、電通社員で造形作家の志喜屋徹氏が登壇。日本の町工場をアーティストやデザイナー、コンサルタントたちが支援する取り組み「JUMP UP JAPAN」プロジェクトのスタートアップイベントとしても注目を集めた。
左から、若林氏、村井氏、志喜屋氏、西村氏 |
村井氏 |
村井氏が経営する工場で作られているのは、直径2ミリ以下の精密なバネ。しかしバネそのものの需要が低下し、さらに単価の安さや海外生産の増加も相まって、日本でバネを作り続けることは、非常に厳しい状況にあるという。そこで村井氏は、現在のビジネスモデルを転換し、付加価値を高めることで勝負しようと考えた。
新商品のアイデアはあったのだが、しかしパッケージや商品の売り方などが分からない。そんな時に出合ったのが、町工場に特化したコンサルティング会社enmonoの講義だった。「今までは、どうしたらバネで社会を変えていけるのか、という考え方だったが、“自分が本気で欲しいものを作れ”と言われ、大きく意識が変わった」と村井氏は語る。ただの工業部品で終わらない、新しいバネ商品の企画はそこからスタートした。
スプリングジュエリー作品 |
一方で西村氏と志喜屋氏には、クリエーターならではの問題意識があった。町工場とのコ・クリエーションを手掛ける西村氏は、技術はあるのに、何を作ればいいのか悩んでいる企業が非常に多いことが気になっていた。そんな時、enmonoと五光発條の合同ワークショップで村井氏の作るバネに出合い、それがバネ工場の技術でアクセサリーを作る「スプリングジュエリープロジェクト」立ち上げのきっかけとなった。
志喜屋氏 |
造形作家の志喜屋氏は、日本製品は、技術は優れているものの、商品としてのインパクトの面で「留まっているような感じ」がしたという。その殻を破り、今までにない可能性を模索するうちに、バネを使ったアクセサリーにたどり着いた。将来的には、アクセサリーが好きな人にも参加してもらって、関係者の皆が良いと思えるものを商品化していきたい」と語る志喜屋氏。村井氏を中心に共創を続けていくことで、最終的には自分たちクリエーターがいなくてもビジネスとして回っていくようにすることが目標だという。
西村氏 |
ここで西村氏はJUMP UP JAPANプロジェクトを紹介。スプリングジュエリーもこのプロジェクトの一環で、村井氏のようにモノづくりに携わる人を、クリエーターやコンサルタントがサポートし、新しい価値を持ったものを作ろうという取り組みである。既に他の町工場の経営者からも手が挙がっているそうだ。
若林氏は、村井氏に続こうとする町工場の経営者に向けて村井氏にアドバイスを求めた。
町工場の人は、アイデアが生まれても、抱え込んで、暖め過ぎてしまう傾向があるという。村井氏は「クリエーターのような違う分野の人を巻き込んで、オープンイノベーションで解決することが大切」と答えた。
会場に飾られた数々のスプリングジュエリー |
では町工場にブレークスルーをもたらすために必要なことは何か。「町工場からは“客観的に見たバネの美しさ”に気付けないし、“商品化するための手法”も得意ではない」と西村氏は語る。「町工場の人が作るものの隠れた価値を見つけるところから一緒に始めることで、お互いに納得しながら進めていける」。
若林氏 |
最後に若林氏は「作っている人自身が、自分の作っているものの価値を分かっていない場合がある。バネにどのような潜在的な価値があるのかを独りで見いだすのは難しい。モノづくりを外にさらして皆でやっていく必要がある。トライアンドエラーを重ねて初めて、何が生まれてくるのか見えてくる」と締めくくった。