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電通報ビジネスにもっとアイデアを。

ゼロから答えを作り出せる人が日本を救う

2015/03/31

「日本は元気がなくなってしまった」。電通の未来創造グループリーダー国見昭仁は、そう問題提起する。われわれビジネスパーソンは、これから何を考え、どう行動すればいいのか、そのヒントを探っていく。

行動を起こして失敗するリスクばかり見ていると、変化する力を失ってしまう

2010年4月に立ち上がった未来創造グループは、企業経営者の右脳を務め「アイデアを経営に注入する」ことをミッションとしている組織だ。クリエーター然としたルックスながら元銀行員というキャリアを持つ、未来創造グループリーダーの国見は、自身を「右脳のコンサル」と呼ぶ。

「全ての経営者は、夢と現実を行き来しているが、どうしても現実と向かい合う時間が増えていく。僕の役割は、経営者を現実にばかり向かわせず、夢の方に引っ張っていくこと」

国見が、さまざまな経営者と会話を重ねるうちに見えてきたのが「何もしないことのリスク」。現実を向きすぎていると、行動を起こして失敗するリスクにばかり目が行くようになり、行動して変化する力を失ってしまう。何もしないことをリスクと捉え、変化し続けるには、経営者の“妄想”が必要になるという。

「妄想と歯車が大切。戦後に吉田茂が『日本はこうあるべきだ』という像を唱えたが、それが正しいかどうかは誰にも分からず、それはいわば吉田の妄想だった。ただ、そうなりたいという願望と吉田を信じる力が後押しして、大衆は歯車を回し始め、経済成長を果たした。妄想と歯車の原理は今も変わらず、ソフトバンクしかりユニクロしかり、妄想を持ったリーダーがいる会社は変化を続け、新しいものを生み出している。しかし妄想を持つリーダーが減るにつれ、日本は元気が無くなってしまった」

子どもたちが大人になったとき、入ってほしいと思えるような会社がどれだけあるだろうか

国見は、自身の関わるプロジェクトがスタートする際に、経営者に対して「会社の状況について」4択の質問をしている。その選択肢は「創業期」「成長期」「成熟期」「衰退期」で、少し前までは「成熟期から衰退期」と答える経営者が多かったが、最近は「第二創業期だ」と話す経営者が増えているという。

「経営者の間では『第二創業期』という言葉がブームになっている。ただ、その気持ちがあっても創業の仕方や心の持ち方を知らないからか、行動が伴っていないように見える。もっと厳しい言い方をすれば、『起業したい』と言いながら行動しない学生のように見えてしまう。つまり、本当にやろうとはしていないのではないか」

その辛辣な言葉には、企業の「第二創業期」を推し進めたいという気持ちと、自身の子どもの未来を案ずる父としての思いがある。

「僕には小さな子どもがいて、彼女や彼が大人になったときに、入ってほしいと思えるような会社が日本にどれだけあるだろうかと危惧している。正直なところ、希望を持てるような要素があまりない。それは日本だけの話ではなく、環境問題やエネルギー問題に食糧問題など、世界中が未曾有の時代に突入する。世界中が答えの無い状況に直面したとき、知恵とアイデアを出して活躍できるような人が日本からたくさん出てきてほしい。そのためには、自分の子どもに入ってほしいと思えるような会社を増やし、そのような人材が育つ社会を作っていかなければならない。それが僕らの世代の責任だと思う」

今僕らが持っていないのは、戦後復興を成し遂げた日本人の底力のようなもの

では、元気が無くなってしまった日本を立て直すには、何をしたらいいのか。経営者の意識だけでなく、ビジネスパーソン一人ひとりが考えるべきことはあるのだろうか。

「日本に元気がなくなっている本質的な理由の一つに、誰も主役になろうとしないという問題がある。たとえば『ウチの会社も昔は良かった』『今の若手社員は骨がない』というような意見は、どの会社にもあるはず。しかし、昔より良くするための努力をせずに思い出話をしている人に、若者を批判する資格はない。そして若者は、年配者に搾取されていると感じている。これでは責任をなすり付け合っているようなもので、つまり誰もが当事者意識を持たず、主役になろうという意識に欠けている」

当事者意識の問題を解くヒントは、戦後に経済成長の主役を果たした、今の高齢者たちにあると、国見はいう。

「バングラデシュでは、敗戦後の焼け野原から50年で見違えるような発展を遂げた日本を、奇跡の国と言っている。たしかに50年というのは、人の一生よりも短い時間だ。これを成し遂げたのは、今の高齢者たち。高齢化社会については問題点ばかり取り上げられるが、経済成長を成し遂げた主役たちがたくさんいるというのは、実は素敵な社会なんじゃないかと思う。その人たちが持っていて、今の僕らが忘れてしまっているのは、日本人の底力のようなもの。その底力の本質を知っている高齢者から、主役になるという意識を学ばなければならない」

われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか

国見は、電通の2016年新卒採用広報のコンセプトからクリエーティブまで全体のディレクションを行っている。

「未曾有の時代に突入することで、多くの人が答えのないことで悩んでいるならば、ゼロから答えを作り出せる人が日本、そして世界を救うのだと思う。電通にはそういう人に入ってきてほしい」

『答えがないから、電通がある。』と題した2016年度の電通のリクルートパンフレットには、国見自身の仕事への取り組みも紹介されている。例えばアウトドアでテントを張って、朝から晩まで打ち合わせをする「アウトドアオフィス」。これはアウトドア用品メーカーのスノーピーク社からヒントを得て、「なんで会議室って室内なんだろう?」という疑問から始まったスタイルだ。このチャレンジにより、発想の質やクライアントとの関係が変化したという。

「僕は未来創造グループで、『仕事はミッションとして捉えなさい』と話している。例えば、この広告を作ってくださいと言われ、はい分かりましたと作るのは単なる仕事。しかし、これをミッションとして捉えると、この広告は何のために作るのか、この商品でいいのか、そもそも本当に広告を作るべきなのかと、掘り下げて考えるようになる。そうすることで、仕事への向き合い方が変化し、新しいことにチャレンジするようになる。それが未来を変える一つの可能性になっていく」

国見はクライアントの未来を考える際、「この企業はどこから来たのか、この企業は何者か、この企業はどこへ行くのか」と自分自身に問いかけるという。これは、画家ゴーギャンの最高傑作「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」というタイトルそのものだ。

「この三つの問いに対して答えを導き出すのは意外に難しい。特に最初の二つ、どこから来たのか、何者なのか、を考えずして未来の答えは導き出せない。その二つを明確にして会社のあり方を再定義し、未来を創造していく。そして、いくつかの企業に変化が出てくれば、それが一つの束となり、うねりを引き起こし、日本に対して影響を及ぼすことができる。そういった良い影響が増えていけば、日本はもっと良くなっていくと思っている」