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プログラマティック新市場No.2

ウェブ広告施策のKPI設定~電通プライベート・マーケットプレイス

2015/06/17

「CPC(クリック単価)をKPIにすることの妥当性はどこまであるのか?」

これが前回お話しした、電通PMPプロジェクトを企画した際の立脚点である。現在も多くの広告主が、特に認知獲得・態度変容目的のウェブ広告施策において、KPIとして採用するCPCとは、本来的に重要な指標になるべきなのだろうか。

CTRが0.1%の場合、999回のインプレッションは意味がない?

日本は欧米などと比較した際、CPCという指標に重要性を置く傾向がある。ウェブ広告は「サイトに訪問=認知」を前提に、ウェブサイト誘導の効率性を求める。もちろんウェブ上の成果地点がすぐに収益に直結するようないわゆるダイレクト案件などにおいて、クリックやコンバージョンの価値が極めて高くなるのは当然である。だが、ウェブ上での刈り取り施策ではなく、認知・態度変容を目的とした施策においても、クリック以降のアクションのみに重きが置かれることが非常に多い。

そのため、広告がどこに出たか(Brand Safety、Ad Verification観点)、広告がしっかり表示されているか(Viewability)、不正なbotではなく広告がしっかり人に見られているか(Ad Fraud観点)など、欧米ではeMarketerやAdExchangerなどで毎日取り上げられるような大きな問題が、日本では軽視されるケースがほとんどである。提供されるコンテンツのクオリティーは軽視され、そのコンテンツ内の広告枠がどれだけのCTRを持っているか(=どれだけCPCが安価に納まるか)に重きが置かれている。残念ではあるが、これが日本のウェブ広告の現状ではないだろうか。一つだけ間違いなく言えるのは、優良なコンテンツを提供している媒体社は、この状況が続けばいずれ疲弊してしまうということである。

これが真っ当な根拠、つまり、「広告掲載面のクオリティは認知効果などと関係がなく、そもそもインプレッションの認知効果も薄い、したがってウェブバナー広告はクリック効率の追求を主目的にすべし」というような調査に基づき導き出されているのであれば、まったく問題ない。しかし、実際一部の先駆的なクライアントを除いて、ほとんど検証さえされていないのが現状なのである。その結果、たとえばCTRが0.1%の場合、1クリックされるまでに表示された999回のインプレッションは、まったく評価しないということになってしまっている。潜在的に大きな価値があるかもしれない事項を素通りして市場形成が進むことを、健全な成長と言えるだろうか。

KPIとしての認知・態度変容&ターゲットユーザーへのリーチ

認知・態度変容などの検証手段についても、日々進化している。シンプルなアンケート調査だけでなく、テレビとパソコン・スマートフォンなどデバイスをまたいだSSP(single source panel)系の調査から、リアルタイムで認知・態度変容を分析できる調査まで、広告主側の需要をある程度満たすソリューションはそろいつつある。特に、目的が刈り取りではなく、認知獲得・態度変容・ターゲットリーチなどの場合、実際に一部の国内広告主の間で議論しトライされているように、リーチのクオリティーを主要KPIに設定し、そのデータを基に、媒体&広告メニューなどについてPDCAを進めていく必要もあるのではないだろうか。

現状のCPC偏重にはさまざまな理由があるかと思う。広告会社側に、上記のような観点が欠如していたことも非常に大きな問題であった。CPCでは計測できないリーチの質というものを斟酌した提案ができていたとは言い難い。そしてそもそもの前提として、なんとなくバナーの広告表示に認知効果が存在しないような感覚を多くの人が持っていたことも大きい。この感覚は非常に正しく、そもそも今までの運用型のバナー広告においては、Google社が昨年度末に発表したように、60%程度の広告がユーザーに見られてさえいなかったのである(ディスプレー広告の56.1%が表示すらされない)。見られていない広告に、当然認知価値などあるはずがない。

*Viewabilityに関する調査(2014年12月6日)
https://think.storage.googleapis.com/docs/5-factors-of-viewability_infographics.pdf

 

昨今、Viewabiliyを含むRTBの諸問題もテクノロジー上解決できるようになってきた。PMPはそのソリューションの一つである。まずはインプレッションベースで認知・態度変容調査ができるよう、インプレッションがユーザーに届いているという前提を整え、しっかり媒体ごとに検証していく。そして、コンバージョンベースでの検証時(第1回に記載)だけでなく、認知・態度変容ベースでもサイトごとのパフォーマンス分析を実施し、それを広告主だけでなく、媒体社にフィードバックしながら媒体社側でも広告に関するPDCAを実施し、どうすれば認知効果を上げられるか、既存スキームや既存フォーマットにとらわれず、広告開発などにつなげ、ひいては広告主の利益に還元する。このようなサイクルが成立すれば、現状とは異なる市場ができるのではないだろうか。

電通イージスネットワークのトレーディングデスクであるamnet(UK)や、海外大手メディアの方々と会話をしていてもっとも驚くのは、CPM(インプレッション単価)の金額が日本とは1桁違うことである。そこには認知・態度変容やターゲット含有率などCPCでは測り知れない価値基準が存在し、媒体社自身もその価値を認識し、最大化しようとしている。早急にイギリスやアメリカレベルまで単価が上がるべきとまでは思わないが、高CPMの広告を安価なCPMの広告の代わりに購入する広告主が多く存在するという事実は一考に値する。

前稿でも記載した通り、電通プライベート・マーケットプレイスの目的は下記の通りである。

本プロジェクトを通して、広告主・媒体社相互の健全な相互理解が少しでも進むきっかけになれば幸いである。

 次回こそは、PMPに関して具体的に記述予定である。何かと整理がついていないプログラマティック領域において、電通がPMPと呼んでいる領域はどこになるのか、またRTBとは異なりどのようなメリットを広告主・媒体社に提供しうるのか、記載したいと思う。