プログラマティック新市場No.1
電通×Googleで拓くプログラマティック新市場 ~電通プライベート・マーケットプレイス(PMP)~
2015/05/20
駅の改札では切符がSuicaに変わり、いずれ車の運転は人ではなく機械によって行われ、揚げ句、南京錠までがスマートフォン操作で自動的に施錠できるようになるという。いまだ体験できていないこともあるが、このような“機械化・自動化”された世界は、いかにも利便性が高そうである。
電通×Googleが取り組んでいる “プログラマティック”な広告取引とは、そもそもは広告取引の“機械化・自動化”に端を発する。しかし、私たちがプロジェクトとして取り組んでいるのは、単なる広告取引の自動化でもなければ作業コスト抑制施策でもない。新たな市場開拓である。
電通は、Google社と今までにない協業体制を敷き、市場開拓を本格化している。その市場がプログラマティック広告市場であり、その中でも特にプライベート・マーケットプレイス(PMP)である。
2014年の10月の下記リリース後、数々の反響をいただき、この2月からはベータ版ではあるもののセールスを開始、一定の結果を残すことに成功している。このままスムーズに進行すれば7月よりようやく本格セールスを開始する。
電通PMPプレス・リリース http://www.dentsu.co.jp/news/release/2014/1006-003837.html
電通PMPのゴールとその際のキー
本稿以降しばらくの間、そもそもプログラマティックやPMPとは何なのか、からスタートし、プログラマティック領域において具体的に記述していきたいと思うが現段階において、電通PMPのゴールとその際のキーについてはすでに明確になっている。
電通PMPとは、上記を実現するための取り組みであり、そのために社内外でチームを形成し、日々様々なトライをしている。その内容について、現在の取り組みや、どのような市場形成にチャレンジしようとしているか、本コラムで可能な限りまとめていきたいと思う。
加えて、本プロジェクトにおいては、Aegis各社、その中でも特にプログラマティック領域に強みを持つamnet社と深く連携しプロダクト開発を進めている。このamnet社との取り組みについてもいつか付記する予定である。
この領域をグローバルで眺めた際もっとも先を行くのは、Xaxis社やGroupM社を中心としたWPPグループである。その特徴は、プログラマティックの代表格である、“オープンオークション(RTB(広告枠を1インプレッションごとにリアルタイムで入札できる買い付け方式)による参加者制限のない自由な入札方式)“ではなく、PMPをそのメインフィールドに設定している点である。昨年、GroupM幹部の「2014度末までにプログラマティックは100%PMPにしたい(RTBは0%)」という発言は、大きな驚きをもって受け入れられた。
彼らのPMP取り組みにおける大きな特徴は、“アップフロント(先行投資、前払いなどの意味の形容詞)”であらかじめ優良広告掲載枠を事前買いすることである。彼らがプレミアムと定義する枠を、長い場合は1年スパンでバルク買いし、買い切りに伴うリスクを上手くマネージメントをしながら、クライアントメリットを提供している。なぜ彼らはアップフロントでの大規模な事前バルク買いという、大きなリスクを冒してまで優良枠を確保しにいくのか。それはもちろんアービットラージ(金利差や価格差を利用して売買し利鞘を稼ぐ取引のこと)で利益を得るという狙いもあるが、それに加えてサイト・広告枠がパフォーマンスに対してどれだけ大きな変数を持っているかを理解しているからでもある。
運用パフォーマンスの掲載枠依存
昨今「枠から人へ」という大号令のもと、オーディエンスを主要基軸とした広告配信が市場を席巻しており、その中でも圧倒的なROIを達成できるリターゲティングは、今や広告配信手法の主役の一つになっている。リターゲティングをいかに巧みに細分化・拡張できるかは、パフォーマンスの上でも非常に重要な要素である。そんな大人気のリターゲティングだが、弊社の調査で意外な事実が浮かび上がってきている。それは、“人”ベースの代表格であるリターゲティングだが、そのパフォーマンスにおいて甚だ広告“枠(サイト)”に依存している、ということである。
下記は、ある案件のリターゲティングのCV分析結果である。リターゲティングの配信先結果をサイトベースにまとめたものだが、“人”ベースであるとは言いながら、特定枠にCVが集中していることがわかる。
リターゲティング配信サイトレポート(サンプル)
弊社が調査した20案件のうち、実に全体の60%程度の案件が特定サイトに依存するものであった(上位20サイトで全体CVの50%以上獲得)。配信先実績を確認できる方は、ぜひリターゲティングの配信先結果一覧をご確認いただきたい。
上記の通り、パフォーマンスへの影響を鑑みても、サイト・広告枠の価値は非常に高いにもかかわらず、メディアプランニング時にはあまりに軽視されることが多い。
ここで私がお伝えしたいのは、サイト・広告枠とオーディエンスデータを比べて、オーディエンスデータの価値が低い、ということではない。むしろ上記事象が示唆しているのは、オーディエンスの価値という、昨今の買い手主導の価値機軸で眺めた際、当該媒体サイトに訪問しているオーディエンスの質の高さがパフォーマンスに好影響を及ぼしているという事実から、「媒体価値が再認識されるべきではないか」ということである。すなはち、DMP・GAというツールを使用したリターゲティングリストのセグメント細分化・拡張だけでなく、媒体/広告枠という要素をオーディエンスセグメントの変数として捉え直し、広告配信の最適化を実施していく時代になっていく、ということである。
そもそもプログラマティックとは?
広告取引におけるプログラマティックとは、広告配信側のシステム(DSP)と広告供給側のシステム(SSP/エクスチェンジ)を通して、自動的・機械的に広告取引をすることである。よくアドネットワークとの違いを問われるが、大きな違いは、配信側と供給側で2つのシステムが存在しそれぞれのレイヤーにおいて(広告主・代理店・DSPベンダー問わず)プレーヤーを選択できるか否か、ということであろう。つまり、下記のように垂直統合型か水平分離型かで、アドネットワークかプログラマティック領域か、ある程度区分けできる。
プログラマティックの場合、DSP、SSP、ターゲティングなどは、広告主が選択可能な変数である。つまり、DSP、SSP、ターゲティングなどがそれぞれ10種類ずつ存在する場合、10×10×10=1000通りの組み合わせパターンがあり、その中から最適な組み合わせを選定していく必要がある。
かたやアドネットワークは広告配信・供給システムを問わず、アドネットワークメニューとしてパッケージ化されたいくつかのメニューから配信形式を選定する。パッケージ化されているために、各レイヤーのプレーヤー選定は基本的にできない。
ただこの区分けはあくまでも便宜上のものであり、そもそもがきれいに区分できるわけではない。たとえば、配信の仕組みはプログラマティックだがセールス時はアドネットワークとしてパッケージ化されている場合もあれば、AI機能を搭載した全自動最適化DSPのように広告配信・供給の2つのシステムを使ってはいるもののカスタマイズをかけられる運用の変数がほぼ存在しないため、ある種アドネットワーク的なものになっているものもある。(こちらは、逆に完全なプログラマティックであるとも言えるかもしれない)
いずれにしても、配信側(DSP)と供給側(SSP)で2つのシステムを使用しながら“自動的・機械的”に広告取引をすることが現在における“プログラマティック”な取引であり、その定義はこれからも“自動化”という言葉の周辺で、徐々に変化していくことだろう。
そして実際に現在も、広告取引における“プログラマティック”の定義が大きく変化している。現在までの“プログラマティック”というと、Rocket Fuel社が過去定義したように、RTBと完全に同義であった。その定義とは、「オープンなオークションにおいて、レムナント(余剰)な在庫を、ターゲティングという付加価値をつけて販売する」というものである。高パフォーマンスで多くの支持を得、大きな市場を形成するに至ったが、広告の信用性の問題から、アドベリフィケーション(広告のブランド毀損を防止するためのツール・仕組み)・アドフラウド(botなどの無効なインプレッションやクリック、コンバージョンを防ぐツール)などの広告の信用性の観点で、疑問の声も昨今上がり始めてきた。それを解消する形、すなはち、広告の信用性を担保しつつ、配信の柔軟性を保つことができる手法として、プライベート・マーケットプレイス(PMP)という取引形態が注目されはじめてきているのである。
本稿は一旦ここで終了となるが、次回はPMPに関して具体的に記述予定である。RTBと同じように配信側(DSP)と供給側(SSP)のシステムを使って配信するものの、RTBとはまったく似て非なるPMPとは具体的にどのようなものなのか、その仕組みがどのようなメリットをクライアント・媒体社に提供しうるのかを中心におまとめできればと思う。