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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.62

つくりながら、考える

2015/08/06

ぼくの通っていた高校は修学旅行がない代わりに、毎年「団体訓練」が行われていました。早朝起床すると、10分余りでホテル前に集合。「総員8名、現在名8名。異常なし」などと点呼を取っている間に先生方が寝室をチェック。布団の片付け方が悪いと罰走が与えられる、食事後は本格的な登山訓練や山スキーの訓練に励む、といったなかなか過酷な旅行でした。そのころ長野と言えば、神奈川からバスでエッチラオッチラ、ずいぶん遠かったイメージでしたが、新幹線が通って以来、会社がある汐留からでも2時間程度で長野駅に到着するようになりました。ゆっくり1泊する必要がなくなったのは、誠に残念なことでございます。

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この日、日帰り出張で伺ったのは長野駅から車で30分ほどの千曲市。江戸時代、伊予宇和島藩主・伊達宗利の息女・豊姫が松代藩主・真田幸道に輿入れの際、故郷を懐かしんで持ち込んだ苗から広がった「あんず」が自慢の町です。毎年4月には「一目十万本」とも言われる美しい景色を目当てに多くの観光客が訪れるそうです。

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これが「冷凍杏もなか

この地で長年甘納豆をつくっていたのを最近あんず専業になさったのが、信州・杏菓子専門店「杏花堂」さんです。一口に「あんず」と言ってもお姫様の苗木に近いであろう在来種から近年改良された品種まで様々あるそうで、それぞれの果実の特徴に応じたお菓子を楽しめます。

暑い夏に一番のオススメは「冷凍杏もなか」。素人目には通年商品である「杏もなか」を冷凍しただけに見えるのですが、これが実に旨いのです。そもそもは夏季限定商品を開発しようとなった時に、通販サイトよんななクラブでこのお店を担当していた前畑さんが「この最中、そのまま冷凍しちゃえばいいじゃん」といったのが切っ掛けだったとか。そこには糖度の高いあんずジャムであれば氷点下でも凍らないだろう、という計算もあったそうですが、それを聞き流さず試した杏花堂さんが偉かった。あんずのジャムは凍結する代わりにもっちりむっちりとした独特の粘度を持って、あんずの爽やかさは失われずに、ちょっとお餅のような食感を楽しめるようになったからです。

この「とりあえず、試してみる」「つくりながら、考える」ことは意外に難しいのかもしれません。いまもローカルで頑張っていらっしゃる生産者の皆さま何人かと現状を打破する「コンセプト」づくりにチャレンジしているのですが、皆さん、どうも言葉を考え始めるとまじめに机にかじりついちゃうのです。たとえば「海のスムージー」とか「農家のローストビーフ」とか、なにか自分でコンセプト候補をつくったら、あれこれ悩む前にそれが照らし出す方向性に従って、厨房でつくってみればいいのです。でも、そういうチャレンジがなかなかできないようです。

このコラムでも以前ご紹介しましたが、イノベーションを起こす方法論のひとつ「デザイン思考」では「やっつけ仕事でかまわない」からとにかく試作品をつくってみる、試作品をつくりながら「両手を使った思考」をすることを奨励しています。実際、いったん形にしてみることで論理的に正しいとか正しくないとかいうレベルを超えたいろいろな発見や反省が生まれてくるのです。それを踏まえてどんどん試作品を作り替えていく中で、「コンセプト」もまたどんどん成長していくのです。

本来、比較的規模の小さなローカルの事業者は大企業に比べて「生産の現場」がはるかに身近なはずです。それを生かさない手はありません。大企業なら組織を動かしてコンセプトを試作品化するために調査やらなんやら、いろいろな手間がかかるでしょう。そこをスピーディに突破できてこそ、ローカルには勝ち目があると思います。

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杏花堂の皆さん

長野は日帰り出張なので、終電ギリギリまで地元の居酒屋さんをぶらつくことが楽しみです。この日出会ったお店では「コロッケ」がなんとも美味でした。堅めの衣を割ると中身があふれ出すのですが、クリームコロッケではなく、もっとあっさり。ポテトを出汁で延ばしてるのかしら? いや冷やの地酒「鶴翼」で鈍った舌ではよくわからん。でも旨い。そうだ、こういう時こそ自分で「とりあえず、試してみる」「つくりながら、考える」のだ…なんて酔っていたら、危うく終電を逃すところでした。あぶない、あぶない。

さて、ぼくはこのコラムが掲載される日から宮崎県は高千穂峡のさらに山奥、秋元集落というところで夏休みを頂きます。そのお土産話を次回、多分。

どうぞ、召し上がれ!