カテゴリ
テーマ

人工知能(AI)といった先端技術の進歩は、世の中の空気などのビッグデータを定量化・構造化を実現するとともに、単に未来を予測するだけでなく、新たな需要の創造にもつながると期待される。
では、具体的にビックデータと人工知能を掛け合わせると、何が可能になるのか。新たな需要は、どのように創造されるのか。
システム開発に携わる、データアーティスト社 社長の山本覚氏と電通デジタルマーケティングセンター インテリジェンス開発部部長の松永久氏が、「2016年にヒットする商品」の予想とともに、「ディープラーニング」の仕組みと「需要創造エンジン」の可能性を解き明かす。

 

2016年にヒットする商品を予想する

松永:PM2.5でマスクや空気清浄機が売れる、熱中症で清涼飲料水が売れる、ということは一対一の関係で考えれば普通に分かることです。しかし、世の中の空気はさまざまなキーワードで構成されているため、その関係性の全てを把握することは困難です。また、日々テレビで放送されている内容を人が分析し続けることも現実的ではありません。
そこで山本さんの得意分野であるAIも活用し、これらの課題を解決する取り組みとして、2016年にヒットしそうな商品予測をしてみました。

山本:まず、これからどんな商品がくるかということで、鮮魚・生鮮肉・乳製品のジャンルで分析をしてみました。われわれは、テレビでの露出が昨年6月あたりから急速に伸びているチーズに注目しました(図⑥)。ちょうどこのころ、ドイツで開催されたサミットで日本産のチーズが世界の首脳に振る舞われており、日本が世界に誇れる高品質なチーズを作っていることがニュースで流れたんですね。さらに高級系のチーズに注目が集まっていて店頭にも多く並んでいたとテレビで紹介されていました。このように世の中の人の頭の中には、前年よりもチーズに対する潜在的な需要が増加していると予想しました。

図⑥ チーズに関するテレビ番組数の推移

いつ・どのように・何を売るか?をディープラーニングする

松永:ここまではあくまで何が売れる可能性が高いかを予測しているのにすぎません。既にテレビでつくられた潜在的需要が高まっていることで、チーズは従来よりも売れているかもしれませんが、われわれの目的は新たな需要をつくり出すことです。
ディープラーニングを用いれば、いつ・どのように・何を売るかまでサジェストできますよね。

山本:そうですね。最新のAI技術であるディープラーニング(解説参照)を用いると、データが持つ特徴を自動で定量化・構造化することができます。グーグルが膨大に猫の写真をディープラーニングさせることで、自動的に目やヒゲなどの特徴を認識できたことは有名です。
今回はテレビでつくられた世の中の人の頭の中にある栄養関連の情報の特徴を、脳の神経細胞を模倣しネットワーク化しました。このネットワークとチーズが持つ特徴のネットワークとの類似性を導きました。
すると、2015年にマッチするチーズはブルーチーズなどの青カビチーズだということが分かりました。ただし、3月に限ってみると、フレッシュチーズが高い類似度を示しています(図⑦)。
フレッシュチーズには多くの乳酸菌が含まれており、花粉症をはじめとしたアレルギー反応を抑制できるといわれています。3月には世の中の人の頭の中に花粉症を含んだ栄養情報ネットワークがつくられていて、それを自動的に学習した結果が反映されています。

松永: 今回はチーズの事例をご紹介しましたが、対象を具体的な商品とすることも可能です。このように世の中の空気とディープラーニングを掛け合わせ、「いつ・どのように・何を売るか?」を自動で示すことで、マーケティングROI(投資収益率)を高められると思います。

図⑦ ディープラーニングを用いて世の中の空気・事柄"コト"と商品"モノ"をマッチする"コトモノエンジン"

「需要創造エンジン」の実現に挑戦

山本:今回ご紹介した、世の中の空気に応じ「いつ・どのように・何を売るか?」を導き出すアルゴリズムは、データアーティストが提供しているコンバージョン最大化ツール「DLPO」にもパイロット的に搭載されています。
これによって、サイト内の行動をベースにしたLP最適化に加え、時々刻々と変化する世の中の空気を反映したリアルタイムなコンテンツ配信が可能になります。

松永:コンバージョンを最大化させるには、LPOで出し分けるコンテンツのクリエーティビティーや、制作体制・運用も重要になります。ネットでは個々のオーディエンスに対してリアルタイムでの広告配信もできますので、まだ行動に至っていない人に適切なコンテンツを配信することで、行動を喚起することも可能になります。
電通は今年の1月に社内のデジタル人材を集めたデジタルマーケティングセンターを立ち上げ、デジタルの統合サービスを展開する体制を整えました。世の中の潜在的需要に対して、デジタル施策を有機的に結合することで新たな需要を創出し、顧客の利益に貢献していきたいと思っています。


ディープラーニング(深層学習)とは
脳の構造=神経細胞のつながりを模倣したニューラルネットワークと呼ばれる人工知能分野の一つ。これまでの人工知能では学習することができなかった、データの抽象的な特徴を自動で定量化・構造化することが可能。ここ数年、アルゴリズムの改善により模倣できる脳のサイズが格段に向上し、大きな進歩を遂げている。

この記事は参考になりましたか?

この記事を共有

著者

山本 覚

山本 覚

株式会社 電通デジタル

東京大学松尾豊教授のもと人工知能(AI)を専攻。2013年にデータアーティスト株式会社を設立し、2023年に電通デジタルと合併・参画。AIとビックデータを活用し、広告の自動生成、広告効果の予測、CROやSEOなど、多数のデジタルマーケティングサービスを提供。テレビ番組をはじめとしたメディアへの出演や、企業・大学などでのセミナー登壇も多数。主な著書「売れるロジックの作り方」(宣伝会議)、「AI×ビックデータマーケティング」(マイナビ出版)など。

松永 久

松永 久

株式会社電通グループ

電通入社後、データを活用した顧客企業のプランニングやコンサルティング業務、電通のプランニングシステムの開発に従事。メディアや小売企業、デジタルプラットフォーム事業者との新規事業開発に多数関わる。2016年より電通データ・テクノロジーセンターで、電通のデータ戦略の策定やデータ基盤の開発を担当。23年dentsu Japanのグロースオフィサー/Chief Data Officerに就任。dentsu Japanのデータ戦略策定、およびデータホルダーやデジタルプラットフォーム事業者とのアライアンス、データとテクノロジーを活用したソリューションやプロダクト開発を担当(工学博士)。

あわせて読みたい