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電通グループが見たCESNo.2

CESと広告業界とツァイトガイスト

2016/01/25

世界の電通グループのメンバーの視点からCESを紹介するシリーズ。2回目は、デジタル分野のグローバルネットワーク・ブランド、iProspect(アイプロスペクト)のグローバルプレジデント、ベン・ウッド氏です。


近年、CESを訪れる企業のマーケティング幹部が急増している。なぜだろうか。自分たちの業務に直結するクリエーティブや消費者エンゲージメント、アドテクなど広告領域ついて語られるカンヌライオンズやdmexcoと異なり、CESは自分たちの顧客が未来にいる場所を示してくれるからだ。

CESでお披露目される新たなテクノロジーに向けられる最大の批判は、消費者の手元までの距離があり過ぎることだ。コネクテッドカーやVR(仮想現実)、紫外線レベルを計測する「スマートスキンパッチ」、ロールスクリーンテレビ。全部確かにクールだけど、まだまだ遠い世界のことではないか?…

現実には、そんなことはない。iPhoneの登場から10年もたたないが、グーグルによると今や英国人の71%がスマホを所有する。それまでの携帯画面に比べ飛躍的に大きくなった高解像度のタッチスクリーンは、マーケティングの在り方を覆し、ここ数年で最大の影響を広告業界にもたらした。品質向上と低価格化を同時に実現しつつあるVRが、市場に同様のインパクトをもたらすであろうことは想像に難くない。広告業界の我々は、ユーザーの伸長と同時に広告主がその市場機会を模索するのを目の当たりにすることになるだろう。

だから、マーケティング幹部たちはCESに降臨し、「ツァイトガイスト」(時代精神)についていくために、消費者に関わる新たなテクノロジーのショーを目撃しようとする。広告業界のイベントでは自分たちが既にやったこと、そしてそれをさらにどう改良できるかが語られるのとは対照的に、ここでは次に何をやるべきか、この先のカーブの向こう側にどうたどり着くかがテーマだ。

今年のローンチを見る限り、広告主にとって明らかなことが一つある。より多くのデータが入手可能となり、つまりは企業がクリエーティブになれる可能性が一層高まっている。スマートスキンパッチを発表したのは化粧品のロレアル。彼らは経済紙の取材に答えて、自分たちはテック企業を目指しているのではない、ウエアラブルテックが美容業界を影響し始めているのだと語っている。確かに、スマートテックで肌をモニターし、一人一人に最適なプロダクトがオファーされる世界を想像するのは、そう難しくない。

さらに、巨大なインパクトを持とうとしているのは、ロケーションベースのウエアラブルテクノロジーだ。Apple Watchがユーザーの心を捉えきることができず、フィットビットがスマートウォッチ市場参入で株価の下落に直面したからといって、ウエアラブルテックは終焉しない。フィットビットのコアプロダクトであるアクティビティートラッカーはクリスマス商戦で優勢を誇り、米国でホリデーシーズンのiOSアプリダウンロードチャートのトップを獲得した。他にも注目すべきは、スマホのさらなる浸透やコネクテッドカー市場の進化、そして、消費者行動におけるデータの一層の盛り上がりなどがある。

我々広告業界は、今起こりつつあることのパターンを把握し、データを活用したタイムリーで生活者と結びついたデジタル広告につなげていかないといかない。率直に言うと、まだ的を射抜けずにいることだ。CESでは未来の機会に向け窓が開かれているが、先手を打たないと出し抜かれる可能性もある。私個人としては、ラスベガスに企業のマーケターがこぞって向かい、5年後、10年後の広告について考えることを、うれしく思う。この業界で過ごした時間が何かを教えてくれたのだとしたら、それは我々が想像するよりもはるかに早く、変化は訪れるということなのだ。