上司はえらいNo.1
10代はエロ本を隠し、20代は合コン本を隠し、30代は経営の本を隠す。
2016/09/01
日々、合コンにいそしんでいる、3年目のお前よ。
なけなしの自腹を切ってカンヌに行き、クリエーティブな風を感じた若者よ。
部下ができたがもてあまし、クライアント帰りのスタバで部下に説教している、マネージャー感あるお前よ。
この連載は、お前たちに贈る、熱いエールになるだろう。
みなさん、こんばんは。中村洋基です。
『世界から猫が消えたなら』の永井監督に「デブって半ズボンばかり履くよね」と言われて、少しだけ気にしている、糖質が気になる半ズボン男だ。
ぼくは、電通に9年在籍したあと、独立してPARTYという会社の立ち上げメンバーになった。ファウンダー*のひとりである。日々、プロモーション施策や映像・サービスなんかをつくっちゃったりなど、いっぱしにファウンディングしている。
*ファウンダー = 設立者のこと。
以前にも、電通を退職したときのことは書いたとおり。独立したことは後悔していないが、別れても大好きな職場だ。
しかし、独立したとき、ひとつだけ心残りがあった。
在籍中、ずっとヒラ社員だったことだ。
(具体的に言うと、はじめは社員ですらなかった。月・水・金の週3勤務という異例の人事だった)
先輩・上司であることを一切拒否し、ホスピタリティーゼロの末っ子キャラで通した。というか実際、末っ子だった。
飲み会の幹事すらロクにやったことがない。
さらに、問題児であった。いずれどこかに書きたいが、(そして書けないが)誰かに話したくてしょうがない、残念な武勇伝がたくさんある。
そんな、ホスピタリティー皆無の人間が、PARTYを立ち上げて状況が一変した。気がつくと、25人ほどの会社を仕切る「頼れるリーダー」キャラ、すなわち上司を、ぼくが演じなければならなくなっていたのだ。
この話を聞いて、
「上司を演じるって……あんたぜんぜんできてないでしょwww」
と鼻で笑った弊社の社員には、その鼻に「ねるねるねるね」の2剤を詰めた挙句、来月から月給を日本円ではなく、ねるねるねるねで払うことにする。
そうなのである。もう5年目になるが、まったく上司としてイケていないのである。ムケてもいないのである。
上司レベルでいうと4くらい。「そろそろスライム以外も闘ってみようかなー」と思って、魔道士にボコボコにされるあたりである。
それまで、「自分がよければなんでもいいや」と一匹狼気取りだった、ぼくの安直な一挙手一投足に、社員が混乱したり、傷ついていたり、逆に予想以上に喜んでくれたり。どうやら、もっと一挙手一投足に気を使わねばならない、ということがわかってきた。彼らを生かすも殺すも上司しだいなのだ。
そこでまず行動に移したのは、「えらいリーダーたちの本を読む」ことだった。
永守重信『「人を動かす人」になれ!』、ジム・コリンズ『ビジョナリー・カンパニー』、柳井正『一生九敗』、『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』、高橋みなみ『リーダー論』などなど、経営に関する話や、上司としての正しい立ち居振る舞い方のセオリーを学べる本を読みあさった。どれも「ううむ、やはり成功者の言うことはちがうな」とうなずくことしきり。ぼくの書架は、いわゆる経営・ビジネス関係の本で埋め尽くされた。
そうしたビジネス書やらにハマっていたある日。友人のカイブツの木谷友亮氏と「リアル脱出ゲーム」で有名なSCRAPの加藤隆生社長が家に遊びに来た。彼らはぼくの家の本棚を見て爆笑した。
お前の家の本棚はビジネス本だらけで香ばしすぎる
と。
さらに、彼らは、本棚的に恥ずかしいビジネス本だけをよりすぐって面陳列しはじめた。
幅允孝さんという方をご存じだろうか?
ブックディレクターという職業で、 選書とレイアウトによって、本棚を見違えるほど魅力的に変える魔術師である。ぼくの本棚は、さながら「逆・幅」状態にブックディレクションされていった。
ぼくは「うひー!」と、顔から火が出るほど恥ずかしくなり、大部分を捨てた。
10代の若者は、エロ本を隠す。親に見つかって気まずくならないために。
20代になると『モテる技術』や、合コンなどのモテマニュアル本を隠す。射止めた彼女に「私、このマニュアルで落とされたのね……。ひどい!」と思われないためである。
そして、30代になると、ビジネス本を隠すのだ。あなたのまわりの、木谷さんや加藤社長に爆笑されないために。
ぼくは、大企業のヒラ社員時代、上層部が何を考えているのか、まったく興味がなかった。「興味がなくてもいいよ」というルールだったからだ。ただ、目の前にある「デジタルのクリエーティブでなんか面白いことをやって目立て」というミッションに没頭していた。
上司の苦労など、何ひとつ知らず、上司に迷惑をかけたまま、辞めてしまった。
罪ほろぼし、というわけではないが、上司がどんなことを考えていたかを知りたくなった。
経営者といわれる人たちと、話をする機会が増えて、分かったことがある。
ビジョンのない経営者は、いない。
でも、社員は、そんな上司のビジョンや思いに全然気付いてない。
25人ほどの会社の上司でも、やることはたくさんある。財務諸表の確認、予算づくり、社員のモチベーション管理と悩み相談、採用、こっそりコピー機のデフォルト設定を「モノクロ」にする、そして誰よりもフロントに立ってお金を稼ぐ……。「そのくらい君たちで判断してよ」と不満に思うこともあれば、いっぽうで、「中村さんはCDなんでまだ出てこなくていいです。こっちでやっときますね」と言われると、逆に気になっちゃったりして。
これがウン千人もの大企業になったら……想像できない。
上司のちょっとした選択で、知らないところで人が傷ついたりするかもしれない。「経費を減らしたいので、コピー機の設定をモノクロにせよ」と命令したら、「部長、競合プレゼンにまったく勝てなくなりました」のようなバタフライ・エフェクトすらありえるかもしれない。責任重大だ。
また、大きい会社で、局長、執行役員や、子会社の社長など…になる人は、たいがい「並外れた何か」がある。大きな仕事の成功であったり、人間的な魅力であったり。でも、そういうのが、下の人には見えない。
この連載では、いわゆる上司といわれる人たちに体当たりで質問をし、成功した人物史や、彼らの経営ビジョンを学ぶ。「予想以上にオレら部下のことを考えているんだ」ということが分かるはず。「なーんか急にエラくなっちゃって、話しかけづらいな〜」となっている人たちに、中村が人柱となり、代わりに話しかけて、代わりにウカツなことを言って叱られたりします。
連載は、全部で6回予定。究極の上司である「社長」にたどりつけるかは、キミの「いいね!」にかかっている。
ぜひ、「いいね!」をひとり最低50回は押して、この記事を盛り上げてほしい。
さいごに。
はじめ、電通報への寄稿の話をいただいたとき、耳を疑った。
電通に泥をかけて退職したぼくが、電通報に貢献できる日が来るとは。
電通報で、はじめての電通人以外の連載、ということになりそうです。みなさんにとって、もっと風通しのよい会社づくりの一助になれたら幸いです。面白いものをお届けできるよう、粉骨砕身でがんばりますので、よろしくおねがいします。
かしこ
次回は2017年春以降に掲載の予定です。