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買収したイギリスの会社で働いてみてNo.1

ロンドン通信:時間に対する考え方~LIFE~

2016/07/26

電通は2013年3月に英イージスを買収し、海外における事業ネットワークとして電通イージス・ネットワーク(Dentsu Aegis Network、以後DAN)をスタートさせました。私は当時からイージスと電通との買収後のビジネスシナジーを創出するために、さまざまなプロジェクトに関わってきました。そして約1年前の2015年4月からロンドンに駐在し、以来当地で電通とDANとの間の「窓口」として働いています。

買収直後から大小の付き合いがあったとはいえ、やはりロンドンに来て、DANの人たちと対面して働いてみて、さまざまな「目からウロコ」な体験をすることができました。今後も日系企業による海外企業の買収、それも欧米企業の買収がますます増えていくでしょう。その買収した会社に派遣される方の一助となればと、感じたこと、日本との違いや日本に応用できそうなポイントを紹介していきたいと思います。

効率的な時間の使い方

ロンドンに来て最初に同僚に質問したことが「で、就業時間は何時から何時までなの?」(ちなみに電通本社は9:30~17:30)で、それに対する回答は「うーん、一応9:00から17:30みたいだけど、あんまり気にしなくていいんじゃない?」でした。そして実際に日にちがたち、彼が「一応」と言った意味が徐々に理解できるようになってきました。そもそも始業も終業も、かなりフレキシブルです。始業が人によってもまちまちなのは、各人の家庭の事情(子どもを保育園に送るとか)で、それはきちんとチーム内で理解・共有されているので、不都合も、変な感情的ないさかいも起きません。

終業は、だいたい平日は17:30のチャイム(は実際には鳴りませんが)と同時に帰り出すスタッフが多数いて、これは電通との大きな違いを感じます。日本にいるときに「欧米のスタッフは残業しないからなぁ」と、半ば批判的な見方をしていましたが、確かにムダな残業は絶対にしません。その代わりということではないですが、9:00から17:30までの時間の使い方が、ものすごく効率的で効果的です。会議の時間は30分単位で、ときには15分区切り(日本では1時間単位が普通でした)。ランチタイムもゆっくりランチをとるくらいなら、サンドイッチで手早く済ませて仕事を早く終わらせよう、というマインドセットです。

そして、上下を問わず他のスタッフから「時間をとってもらっている」ことに対してとてもリスペクトがあって、いったんミーティングをリクエストした場合には、そのもらった時間をいかに効果的に使うかに注力し、準備も怠りません。まさに「Time is money」の考えです。上記のようにミーティングの時間もなるべく最小限になるように努力しますが、アポイントの確定の仕方も電通とは違い、スケジューラーの会議招待機能を使って確実に行われます。これは今では日本でも当たり前になっているのかもしれませんが、会議スケジュールの調整と確認が一苦労だった本社時代を振り返ると、なかなか効率的な感じがします。これに関連しては、弊社OGである、はあちゅうさんの記事が非常に面白く読めました。

時差のある地区・拠点間での電話会議などもあるため、招待機能による確認はお互いの勘違いを防ぐ意味でも必須のものだと理解できるようになりました。「電話してみたら相手に1時間間違って伝わってた」なんていうムダは、ここに来て一度も経験していません。

何はさておきまずはライフ!

先ほど少し触れましたが、こちらの人は普段はあまり残業をしません。さらにいうと、金曜の午後なんか花キンならぬ半キン、特に天気が良い日なんかは、オフィスの1階のパブの外には鈴なりの人だかりができます。とはいえ、重要な競合プレゼンの前などは、深夜(や早朝)までの仕事はいといませんし、必要があれば土日も出社します。ただそれを「やむを得ない場合の緊急避難」と考えていて、「とにかく残業をしないで通常の就業時間で仕事を終わらせよう」というベクトルで全員が効率的に働きます。それは何はさておきまずは「ライフ」が先にあって、みんながみんなのライフを尊重しているからなんだろうな、と。

一方で、電通的な「余白」のある働き方、ムダ話もしたり、そういう余白の中から電通的イノベーションが生まれてきたことも事実だと思うし、そういうのは個人的にはとても好きです。一概にどちらが良いとは決め付けずに、お互い学ぶところがあるとよいですよね。そして今週も金曜日がきて、日本では決して使うことのなかった(最初は使うのも恥ずかしかった)あいさつ“Have a good weekend!”でもって、それぞれの家族との週末を祝福し、仕事を忘れる2日間を過ごします。

金曜の16時。パブにはたくさんの人が集まる。
金曜の16時。パブにはたくさんの人が集まる。

バカンスの効用

イギリスに限らず欧米ではバカンスをきちんと取ることが定番になっていることはご存じの通りかと思いますが、ここに来て、あらためてその頻度は結構なものだな、と感じました。7月から8月にかけて2週間程度の夏休み、クリスマス休暇の他に、年2回のHalf term休暇(学校の学期中休みのある5月、11月)があり、加えてイースター周辺など、3連休にくっつけて休みを取ることが多く、年間で有給を25日くらい消化しているのではないでしょうか。

当たり前ですがクライアントや取引先との間では事前に根回しをして、了解の上で休暇を取りますし、休暇中のフォローはチームメンバーが行います。バカンスは“人間らしく”生きていく上で、更にはより良い仕事をしていく上での精神的な休息であり、不可欠なもの、というのが当たり前になっていて、日本で感じていた、休暇から戻ってきて出社したときの何ともいえない気まずさのようなものは、ここではみじんも感じることはないし、感じる必要もないようです。

そうして2週間くらいバカンスを取っている間、本当にOFFなのか?という疑問を持つこともありますが、それは「人による」ということです。特にエグゼクティブレベルですと、携帯メールを定期的にチェックして、メッセージで指示出しをしたりすることが多いように思います。僕の上司は「世界中どこにいてもメールの返信が10分以内に返ってくる」と冗談で言われたりするのですが(冗談でなく本当にそれくらいの体感です)、先日「休暇中ってメールどうしてるの?」と聞いたところ、「暇があればメールチェックしてるよ。例えばスキー場のリフトの上とかね」との答えが返ってきて、もう笑うしかありませんでした。

なぜバカンスを取るのか? 理由は単純で、人生を豊かに楽しむためだと思います。そうやってバカンスで充電して、ババッと仕事をして、次のバカンスを夢見て頑張る、というサイクルで、仕事も頑張っていけるということでしょう。

日本を振り返って、私が電通に入社した22年前の新入社員時、土日プラス2日の夏休みがやっとでしたが、それがいつからか「夏は長期に休暇を取りましょう」ということが言われてきました。そして最近では、9日間やそれ以上の休みをとる人もだいぶ増えてきた気がしますし、それを容認する空気も醸成されてきた気がします。それでもなお、長い休みが取りづらいというか、取れない方も多いでしょう。次回以降で触れますが、本来仕事をチームでシェアする働き方をする日本人の方が、個人の責任範囲を明確にする欧米人に比べても、休暇は取りやすいはずではないでしょうか。もちろんクライアントのご理解あっての上だとは思いますが、やはり制度面でのサポート(部下が多く休暇をとると評価が上がるとか)が必要で、その現場マネージャークラスが実際に休暇を取ってみせること、が重要だと思います。創造的な提案を枯らさずに継続していくには、バカンスでのリフレッシュ・充電が欠かせないものであると個人的には思っています。