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「届く表現」の舞台裏No.10

テレビ東京プロデューサー
伊藤隆行氏に聞く
「異端の発想を生むモヤモヤについて」

2016/09/26

「『届く表現』の舞台裏」では、各界の「成功している表現活動の推進者」にフォーカスしてます。 今回は、斬新なアイデアでヒット番組を生み出しているテレビ東京プロデューサー伊藤隆行氏に、 番組づくりへの取り組み方や思いなどをお聞きしました。

伊藤隆行氏
 

きっと僕は周囲からは変わり者と見られているでしょうし、孤立していると心配されているかもしれません。テレビ東京に入社してもう20年ほどになりますが、新人のころから自分の局にない企画ばかり追い求めてきました。“ないもの探し”が一番ヒントを得やすかった。その結果が、今のところはバラエティーの制作につながっているわけです。

入社してすぐに先輩に言われた「企画書を書かないのは死んでいると同じ」「自分の中の1%の天才を信じろ。99%は凡人でも」は、僕の中に残りましたね。とにかく企画書は書きまくりました。今でも書き続けていますが。最初に通った企画は鮮明に覚えています。高校時代の自分の体験がベース。ラグビー部にぽっちゃりラガーマンが2人いた。この2人が要調理の袋麺をコンビニで買って、粉末スープをかけてバリバリ食べている。まねしてみると、これがおいしいのなんの(笑)。太っちょさんがおいしい食べ方を紹介する「3匹の子豚」という企画が実現しました。テレビの企画って自分が見て「面白い」と思えなきゃだめなんです。そして企画を出すとは、恥をかく勇気を持って、素直さや正直さを込めた発案を真面目にプレゼンすることなんです。

視聴者は「お客さま」です。最初は多少視聴率が苦戦しても、コアなお客さまがつく番組をつくって、そのお客さまを徹底的に深掘りしたい。見ている人と一緒に年を取っていけば、彼らは3年後でも3年後の感性をもってより多くを見てくれるのでは。誰にとっても面白い番組ではなく、深いお客さまがいる番組のバリエーションを数多くつくり出していくことが、今のテレビ界には必要かなと思います。

番組スポンサーは「パートナー」です。僕はそう呼んでいます。中身を買ってくれているわけですから、僕たち制作者や出演者と同じベクトルで番組に関わっていただいているということです。だから、長く続けていただきたい。その姿勢は見ている人にも伝わりますので、パートナー企業にはCMを流せること以上の価値が生じていきます。僕の番組でいうなら、ああこの企業はお笑いを支援しているんだな、のイメージがつくとか。

テレビ局内を見ると、僕としては、コミュニケーションを取ってみんなと距離を縮めたいので、局内の営業フロアにもふらふらと遊びに行ったりするんです。こんなことやるプロデューサー、いませんよね(笑)。でも、意外とネタ探しに役立ったりもするんですよ。

最近の自分について振り返ってみると、周囲のバランスを考えてついついアジャストしてしまいがちでした。この前いろいろ考える時間がありまして、それをやめることを決意しました。自分に求められていることは、やはり「枠から外れること」ではあるまいか。同じような番組の安全な連鎖からは、新しいことが生まれてこないサイクルを感じます。良くないサイクルを断ち切るには、やはりチャレンジをせねばと思ってます。

具体的にこれからつくってみたい番組はいろいろあります。例えば、出演してもらうことが目下困難な方を引っ張り出したい。とりわけ、褒め言葉の「バカな大人」の魅力を備えた素晴らしい能力のある方に。こうした能力を持つ方々と一緒に仕事をして、僕も影響されてみたい。本当に笑いという内容をきちっと伝えるような番組、ストレートなお笑いを追求した番組も、やってみたい。あー面白かった、で完結するシンプルな娯楽番組。それから、クイズ番組にも興味ありますね。あと、フレームだけつくっておいてその時々に面白いことをやる番組とか。とにかく、今ないもの、長年成立してないものを攻めてみたいです。

またこいつバカなことやっててしょうがないなあ、と思われ続ける自分でいたい。「自分の会社をぶっ壊す」くらいの挑発的な姿勢でいたいと思います。

「じわじわチャップリン」(テレビ東京 土曜午後11時55分〜翌0時20分)に出演の“ふきだまり”芸人に囲まれて。
「じわじわチャップリン」(テレビ東京 土曜午後11時55分〜翌0時20分)に出演の“ふきだまり”芸人に囲まれて。