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テレビ史のハザマで、テレビを語るNo.5

2020/01/10

テレビは今後、どうなっていく?

フジテレビの敏腕プロデューサーとして名高い黒木さんと、電通でチーフ・ソリューション・ディレクターを務める北風さん。異なるようで近しいフィールドで活躍するお2人の対談では、同世代ならではの鋭い視点や葛藤も浮き彫りに! テレビや広告のミライは、“狭間の世代”にかかっているのかも…。お二人の日々の奮闘の様子や熱い思いがあふれる対談を全5回のシリーズでお送りする本企画。

最終回のテーマは、「テレビの未来」について、です。テレビを愛し、テレビと共に育ったお二人は、テレビの未来をどう捉えているのでしょうか?

互いがつながり、次なる構想へ

北風:番組をお金で買っているNetflixのようなメディアがある中で、番組づくりを含めて、今後どのようにテレビを盛り立てていきたいと思いますか?

黒木:世界を動かしているこの「スーパーグローバル資本主義」のシステムは当分変えられないし、資本力の大きいところが強いこともおそらくは変わらない。ずっと先の未来は分からないですけど。「費用対効果」という考え方が物事の最大の判断基準になってきているから、お金の力や同一性みたいな“安心感”に走ってしまう傾向が、思っている以上に相当強くなっている気がします。これはバブル期以降の東京に30年住んでる実感として。

それを踏まえて考えると、逆にもう「チームワーク」とか「汗の量」とか「自分たちの物語」みたいなもので、細々と対抗していくしかないかなと思う部分もあります。世の中で圧倒的な「お金や効率の価値観」とはちょっと違うところの楽しみや喜びが少しでも出せたら、みんなにも共感して喜んでもらえるかなって。ウェブをはじめ、いろんな新しいメディアの方々とお話しするとみんな「マネタイズ」っておっしゃるけど、文化祭委員としては(笑)、マネタイズばかり言われてもあまりときめかない。このへんプロデューサーの発言としてはとても不適切ですが(笑)。「ちょっとそれとは違う自由もカッコよさもありますよ」みたいな余白が、テレビには存在しますし、それは絶対大事にしなきゃと思うんです。

黒木彰一氏(フジテレビ)
黒木彰一氏(フジテレビ)

これはフジテレビのたくさんの先輩たちから教えられてきた多くのことの中で、唯一重要なことでして(笑)。テレビには何よりも自由とユーモアが一番大事なんだ、という価値観です。

だから北風さんがおっしゃっていた「怖がらずに思い切ってバカなことでも言う」みたいなことが、より大事になってくるのかなと。たとえ世の中全体がAIの方向に行ったとしても、「ブレードランナー」のハリソン・フォードみたいな動き方をする後輩を、または中国のSF「三体」の教授たちのような後輩を、どれだけ作れるか。それがいまの僕の使命だと思っています。

北風さんは何か次の構想などありますか? これまで取り組まれてきた、がんサバイバーのための企画とか、お父さんやお母さんの目線に立った企画とか、他にはないことだと思うのでとても面白いと思います。

北風:共働きが7~8割になってきているので、生活の知恵や時短術などをまとめてサイトにしているのですが、その知恵を結集した何かをやりたいですね。ディテールが大事です。

北風祐子氏(電通)
北風祐子氏(電通)

私は「月に一度デパ地下惣菜を買って、それをお弁当に詰めてラクをしましょう」というのを推奨しているんですが、たいていの人は彩りを気にしてプチトマトを加えようとしてしまいます。でも、そうしちゃうと、洗う、ヘタを取る、水気を取って入れるというプチではない手間がかかってしまうんです。月に一度ラクをする日にしたはずなのに、このプチトマト1個で台無しになるから「絶対にプチトマトは入れるな!」というディテールまで決め込んでいます(笑)。そういう細かい部分までの知恵が溜まってきているので、それらを一度まとめてみようかなと、仲間と一緒に考えているところです。

黒木:プチトマト! つい入れたくなりますよね!

北風:大人って子どもができると圧倒的に時間がなくなって、それでもママはネットワークがあるのでいろんな情報を入手できると思うのですが、イクメンのお父さんたちは情報入手も難しく、そういう声を発信する機会や余裕もありません。私は、子育て中のお父さんお母さんにビジネスの第一線で活躍してもらうためにも、できるだけ日中に簡潔に物事を決められるようにしたいと考えています。あとは、心や体の病気や、何らかの事情でうまくいかなかった経験がある人も、痛みが分かるがゆえの知恵や工夫、企画力があるので、積極的に仲間に入ってもらうようにしています。

黒木:世の中では「1回失敗したらもうダメだ」と判断されると思い込んじゃうことも多いけど、そんなことないですよね。北風さんがやってらっしゃるそういう会社としての姿勢を、世の中にもっと発信できるといいですよね。そういう企画も含めて、今後一緒に取り組めていけたらうれしいです。本日はありがとうございました。

北風:ぜひお願いします! 本日はありがとうございました。

この対談の出典は、こちら

黒木彰一氏(フジテレビ)と北風祐子氏(電通)

編集部の視点 #05

この連載の初回に「お二人の対談のキモは『テレビは決してオワコン(=終わっているコンテンツ)ではない。進化の過渡期にあるだけだ』というスタンス。その視点が、新しいと思った」と、書いた。連載を終えた今も、その思いは変わらない。新しいと同時に、深いとすら思う。

全ての生き物の体は、DNAを運ぶための「舟」にすぎない。舟そのものには、価値はない。大事なDNAを次の世代へと「運ぶ」という行為に、意味があるからだ。しかしながら、一過性の肉体とは違って、精神は永遠だ。文字を残す、絵を残す、音を残す、映像を残す。2000年前のコンテンツでも、私たちの心を動かす力が失われることはない。

そう考えると、誕生してまだ100年もたっていないテレビが、すでにオワコンだなんてことがあろうはずがない。いつしか「オールドメディア」と言われるようになったテレビの醍醐味は、今や老舗の味だ。伝統の「技」や「味」を守りながらも、時代の変化にアジャストしていく。江戸時代から続く料亭が実践できていることが、テレビにできないはずはない。

「テレビのハザマで、テレビを語る」。連載を通して見えて来たのは、「同一性」や「効率」を重視することの、怖さ。その怖さを知ってこそ、新しいことにチャレンジができる。モノを生み出すことの苦しみ、そして喜びを、しみじみと教えてくれる対談だった。