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テレビ史のハザマで、テレビを語るNo.4

2020/01/09

効率は、人を本当に幸せにするのか?

フジテレビの敏腕プロデューサーとして名高い黒木さんと、電通でチーフ・ソリューション・ディレクターを務める北風さん。異なるようで近しいフィールドで活躍するお2人の対談では、同世代ならではの鋭い視点や葛藤も浮き彫りに! テレビや広告のミライは、“狭間の世代”にかかっているのかも…。お二人の日々の奮闘の様子や熱い思いがあふれる対談を全5回のシリーズでお送りする本企画。

第4回のテーマは、「効率を追求することで、人は本当に幸せになれるのか?」です。

満足や幸せは、効率化できない

北風:口コミで“人の判断”に関する情報が入りやすくなったことによって、「自分が試してみよう」よりも「誰かに話を聞いてみよう」という雰囲気になっていると感じませんか? 例えば映画の感想をSNSに上げるにしても、誰かの感想を見てから書く人が多いそうで。自信がないというか、「みんなが言っていることをチェックしてから、自分もそれと似たようなことを言っておこう」というような。

北風祐子氏(電通)
北風祐子氏(電通)

黒木:自分で試すのが効率悪く思えるのか、あるいは既に集められるかぎりの情報を元に判断するのがあたりまえだと思っているのかも…。以前もそうだったとは思いますが、その傾向はとっても強くなってきていますね。

北風:先が見えなくて怖いけど冒険してみるとか、やってみたら何かおもしろいことがあるかもしれないって、テレビ番組ならではの魅力ですよね。黒木さんが手がけてこられた番組にもあったような「相手が何を言うか分からない」というおもしろさを普段から楽しんでいけると、いい企画が生まれるんでしょうね。

今、社内でがんサバイバーのためのカフェ(LAVENDER CAFE)を開催しているのですが、皆さんに企画を募ったら、吉本に行きたいとか、はとバスツアーに乗ってみたいといった案が出ました。「行った先で何があるか分からない。おもしろくないかもしれないけど、おもしろいかもしれないから、ひとまず行ってみよう」みたいなノリで参加できたらいいですよね。

今のテレビ番組に関しても、最初からサッカー好きはサッカー、ドラマ好きはドラマ、バラエティー好きはバラエティーを見てくださいと決まっているチケット制みたいに感じてしまうんですけど、本来のテレビって、「全然関係ない人が来ちゃってもめちゃくちゃおもしろかった」みたいなことが起こせる可能性を秘めていると思うんですよ。

黒木:そうですね。幸せとか満足は個々人のものだから、ホントは効率化できないですよね。計測化もしにくい。

黒木彰一氏(フジテレビ)
黒木彰一氏(フジテレビ)

レギュラーのバラエティー番組がおもしろくなってゆくには、もちろん企画やゲストが良いことも大事なんですが、ちょっと地味めかなぁと思っていた放送回の反応がよかったっていうことが不思議とあるんです。そういう回を後から振り返ると、出演者が一生懸命になっているさまが出ていたり、制作陣の効率を重視しない遠回りが逆に功を奏していたりします。“汗の量”が伝わっていたというか。ゲストと企画とパッケージだけでは番組は作れないんだなと最近感じます。共感してもらうためには、やはり汗や思いの量が必要かと。あー、また昭和のバラエティー観出しちゃいました(笑)。

北風:制作陣が裏でかいた汗の量は、画面を通じて分かるものなんですか?

黒木:チームのかいた汗の量は確実に出ます。それが演者さんの表情とか立ち振る舞にすごく自然と出ている番組は信用してもらえるのだと思う。われわれは生き物だから、やっぱりイキイキしている魅力的な生き物が見たいのだと思います。もちろん、カラダの汗だけでなく、アタマの汗、ココロの汗を含めて。

黒木彰一氏(フジテレビ)と北風祐子氏(電通)

“マイナスの反転”や“違い”を面白がる

黒木:北風さんは、クライアントさんの商品を作るときに、生活者としての実感と商品がヒットするというところを、どう結びつけてゆかれるんですか? そこになにかロジックのようなものがあるのですか?

北風:“売れない理由”を真っ先に考えますね。売れないというか、ダメな理由、うまくいかない理由を、ものすごく暗いところから考えてみます。うまくいってないから弊社に仕事が来るわけですが、n=1(1人のサンプル)を考える前に、自分が冷徹な目で見てみると、うまくいかない理由が山のように見つかります。それを全部出し尽くすのが、最初にやることですね。「これでもか」というくらい悪いことを考えます。

私は人と人の関係でも、うまくいかないときには絶対に逃げないようにしています。「私はこの人のどこが嫌いでイライラしているんだろう」とずっと考えて、また会いに行ったりして。ネガティブな負のところに、実はすごくチャンスがあるんですよね。そこが変わるだけで、相手が喜んだり、私も楽しくなったり、いろんな転換が起きるじゃないですか。だからモノに関しても、売れない理由とか見向きもしてもらえない理由とか、あえてマイナスのところを見るようにしていますね。何が悪いかを徹底的に考えて、それを改善するやり方です。

黒木:僕らテレビ制作者でいうと、演者さんたちと付き合うときと同じかも。マイナスに思うことが反転したときはうれしいですよね。ダメなところが多い方がポテンシャルが高いこともあります。チームワークのことでいうと、ダメでドジなADほど実は大きく化ける可能性が高い。実際、“シュアな人たち”ばかりを揃えても、つまんないです。

中卒のADと東大卒のADが並んで会議にいても、同じ議題でもまったく違うことを思っているのでおもしろいんですよ。そこに化学反応もあるし。もともと日本語が苦手なんて奴もいるんですが(笑)そういうADがいないとさみしい。仕事ができないとか、ダメだとかでそういうメンバーを外してしまうと、結果的にはチーム全体のパフォーマンスが落ちちゃうんですよね。

北風:同質性って危ういですよね。「似てきたな」と思うと、すごく危機感を感じます。ちょっとしっくりこない人がいるとか、誰か一人怒っている人がいるチームとかの方が健全だと思っているので。「違う=間違っている」と思う風潮があるけど、「違っている」と「間違っている」は別モノです。違っていていいし、違う部分を何かしらのおもしろみに変えたい。全部が自分の思ったようにいくと、逆に気持ち悪いですしね。そもそも自分が不完全なので、誰かに止めてほしいというか、「違う」「おかしい」って言ってくれ!と思います。

黒木:日々ピンチを乗り越える作業を一緒にしていく中で、仲間感やチーム感が生まれますよね。仲がいいとか気が合うとかよりは、戦友としての信頼関係があるかどうかが大事。バックグラウンドが違っても、お互いにそういう感覚さえ持てればうれしいですよね。テレビだけでなく、きっといい職場ってそうなんだと思います。

この対談の出典は、こちら

黒木彰一氏(フジテレビ)と北風祐子氏(電通)

編集部の視点 #04

「効率的に、汗をかく」という視点が、とても新鮮だった。「汗をかく」という言葉は、しばしば旧態依然とした体育会系のニュアンスで捉えられがち。努力だ、根性だ、という精神論だ。お二人は、その汗を決して否定はしない。否定しないどころか、流した汗には魂が宿り、それはテレビ画面を通して、確実に世の中の心を響かせる。ただし、同じ汗を流すのなら、効率的に流しましょうよ、というのだ。

料理人の世界でも、一昔前までは「店の味は、盗むものだ」というのが常識だったという。門外不出のレシピは、門内でも出回ることはない。10年、20年という歳月をかけて、日々、ひたすら汗をかいて「盗む」しかなかったのだ。今の時代、そんなことをしていたのでは、伝統の味も暖簾も、継承していくことはできない。それどころか、寿司屋なら寿司、天ぷら屋なら天ぷらという「業界」そのものが、失速してしまう。だからこそ、全てをオープンにする。すると、共創が生まれる。そこから、真の競争が生まれ、豊かな未来が切り開かれていくのだ。そんなことに気づかされた回だった。

「テレビのハザマで、テレビを語る」最終回となる次回のテーマは、いよいよ「テレビの未来」について、お二人に熱く語っていただきます。ご期待ください。