Dentsu Design TalkNo.80
あなたはeスポーツのポテンシャルを知っているか? 世界が熱狂するeスポーツの全て、教えます!(後編)
2016/10/08
「eスポーツ」とは、エレクトロニック・スポーツの略。個人やチームで行われるコンピューターゲームの対戦競技のことで、海外ではサッカーや野球を観戦するように、多くのファンが上級者のプレーイに熱狂しています。近年では、賞金総額が22億円を超える大会が開催され、テレビ中継も行われるなどポピュラーな存在になり、その波は日本にも押し寄せつつあります。今回のデザイントークは、デジタルゲーム研究の第一人者である東京大学大学院元教授の馬場章さん元教授、プロゲーミングチーム「デトネーションゲーミング」代表の梅崎伸幸さん、eスポーツ分野を扱う弁護士の藥薬師神豪祐さん、人気格闘技ゲーム「鉄拳」世界王者でプロゲーマーの中山大地さんをお迎えし、進行を日本eスポーツ協会の筧誠一郎さんが担当します。世界でスポーツマーケティングの一角を占め始めたeスポーツの現況と未来像をお届けするパネルディスカッションの後編です。
eスポーツのプロプレーヤーの能力は高い
筧:続いては、eスポーツのプロプレーヤーの実態について聞いていきたいと思います。プロeスポーツチームである「デトネーイションゲーミング」には、スポンサーがついていますよね?
梅崎:はい、現在12社です。2014年は8社のスポンサーがついていたのですが、スポンサー料は8社で年間100万円程度という状況でした。それが、2015年にメディア露出が増えたこともあり、年間で合計6000万円集まり、今年は約1億円前後の収入が確定しています。
スポンサーからはCMや動画制作の依頼があるのですが、私たちには制作のノウハウがないため外注しています。発注先の制作会社もプロのeスポーツ選手を使ったことがないため、演出方法を毎回、議論しながら進めていますね。
筧:中山さんは、いかがでしょうか。
中山:スロットメーカーの山佐とスポンサー契約を結んでいます。以前契約していた企業ともそうなのですが、試合では社名入りのTシャツを着て宣伝するようにしています。
筧:中山さんは、2015年に格闘ゲームの世界大会「EVOLUTION」で優勝されました。これは米国ラスベガスで行われる大会で、参加人数が1万5000人にもなる大きな大会です。プロゲーマーとして周囲の人から見られることをどんなふう風に感じていますか。
中山:僕は世界大会で3回優勝しているのですが、20歳で初めて優勝したときは日本に帰国しても誰からも注目されず、世界一になったことを誇らしいとは思いませんでした。ただ、昨年優勝したときは、家族総出でお祝いしてくれたり、周囲の人たちも連絡をくれたり、注目度が高まる中なかで、プロゲーマーに対する見方も変わってきたと感じています。
筧:大きな大会で優勝するためには、何が必要でしょうか。
中山:一番大事なことは、自分にプレッシャーをかけないことだと思っています。というのも、一度世界大会で、家族や友人たちからの応援を受けて「絶対に勝たなければ」というプレッシャーを感じてしまい、前日の睡眠が30分ぐらいしかとれずに、試合に負けたことがありました。それ以来、どういう考え方をすれば100%の力を出して勝つことができるのか、いろいろ試すようになりました。
そして、たどり着いたのが「ひたすら賞金のことを考える」ということでした(笑)。ゲームを始めた15歳から今まで、ぼくはかなりの金額をゲームに投じてきました。だから絶対に賞金をとって投資した分を回収するぞ、ここで勝てば300万円もらえる、など、ひたすら集中する。それで気持ちはかなり落ち着くようになりました(笑)。
筧:面白いですね(笑)。
続いては、馬場先生に聞きたいのですが、若者がeスポーツに取り組むとどのような効果があるのでしょうか。
馬場:そもそもゲームに取り組む若者のモチベーションは、非常に高いことが分わかってきています。高校の歴史の授業に、ゲームを取り入れる研究を行いました。クラスごとに、「従来の先生による普通の授業」「先生が出した課題をゲームで解決する授業」「歴史のゲームだけを行う授業」と分けて行い、授業後に歴史に関する関心や理解がどれだけ高まり、成績が伸びたのかを調査するというものです。
その結果、歴史に対する関心が最も伸びたのは、「歴史のゲームだけを行う授業」でした。ただし、ゲームだけでは、関心は高まっても、それが問題解決の能力にはつながっていないことも分わかりました。最も良い成績を収修めたのは、「先生が出した課題をゲームで解決したクラス」でした。残念ながら、「従来の先生による普通の授業」は、逆に歴史に対する関心を下げていました。
筧:ゲームを活用した学習効果は高いのですね。
馬場:「eスポーツのプレーヤー」と「ゲームをほとんどしない一般の人」の運動能力の差を調べた研究結果もあります。調査対象である一般の人の平均年齢は22歳と若く、運動能力は高いのですが、それでも、物事ものごとの達成力、障害を乗り越えて目的を遂行する力、思考力、集中力など、全すべての項目でeスポーツプレーヤーの方が勝っていました。だから、みんなeスポーツをやってください(笑)。
ただし、この結果からはeスポーツプレーヤーがそうした能力を先天的に持っていたのか、それとも訓練によって獲得したのかは分かりません。この解明が進めば、プレーヤーの育成に大きな成果を得られるようになるでしょう。
とにかくeスポーツのプロプレーヤーの能力はすごく高いのです。
eスポーツを日本に定着させるために必要なこと
筧:藥師神さんが考えるeスポーツの未来はどのようなイメージでしょうか。
藥師神:私自身はゲーマーではありませんが、eスポーツの世界と関わりを持ち、何人かの魅力的な方々に出会いました。特に格闘ゲームのトップ選手たちは、私が普段接しているサッカーやテニスのプロ選手たちにも引けを取らない態度で競技に臨んでいます。また、弁護士としても、新しい業界・市場が生まれていく過程は非常にスリリングで面白いです。法制度と折り合いをつけながら、いろいろとチャレンジして、より社会に浸透した、誰もが自然に受け入れられるような競技シーンが生まれてほしいと思っています。
筧:梅崎さんが、目指している日本のeスポーツはどうでしょうか?
梅崎:まず世界で最も人気が高いタイトルで世界一をとることを目指さなければいけないと思っています。その過程で、若い人がeスポーツのプロゲーマーを目指したくなるような環境を整えていき、日本でも億単位で稼げるプレーヤーをどんどん輩出していきたいですね。
筧:たしかに、ラスベガスでは毎月のように世界大会が行われていますし、日本も早くそうした環境にしていきたいですね。馬場先生は「eスポーツ強国」を唱えていますが、いかがでしょうか。
馬場:一言でいうならば、eスポーツを社会に根づいたオフィシャルなスポーツにしていきたいということです。梅崎さんが言うように、世界で活躍できるプレーヤーを輩出していくためには、子どものときからeスポーツに慣れ親しんでもらうなど、プレーヤーの層を厚くしなければいけない。
そうなると、プレーヤーが目標とするような大会が必要です。今年、日本eスポーツ協会が日本選手権を行いましたが、これを目標となるような大会に育ててもらいたいと思っています。今も各地でさまざまな大会が催されてはいますが、ゲームタイトルに、はや流行り廃りがあることもあって、なかなか長続きしていません。ですから、長く続くように種目や部門、統一されたルールをつくる必要もあるでしょう。
もうひとつ、プロ選手のセカンドキャリアの問題があります。引退した後に、どういうセカンドキャリアをデザインできるか、ということも考える必要があります。
筧:選手のセカンドキャリアがないと、子どもの親御さんも心配ですよね。梅崎さん、どういうセカンドキャリアがあるのでしょうか。
梅崎:プロプレーヤーを引退した後は、専門学校の講師や、日本チームのコーチやマネージャーとして活躍している人もいます。韓国では、賞金で起業した人もいますし、大会での実況や解説などコメンテーターとして活躍する人もいます。今後は、さらにセカンドキャリアの可能性は広がっていくと思います。
中山:そうですね、僕は自分の選手生命は30歳が限界だろうと思っています。将来を考えて、実況や解説のスキルを磨いておこうと、今からそういう仕事に挑戦しています。
筧:本日はありがとうございました。eスポーツが一過性のブームではなく、ずっと継続していくスポーツとなるように、日本eスポーツ協会も支援していきたいと思います。
<了>
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企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀