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次世代映像「8K」実写ドラマを広告会社が作ってみた

  • 下元 翔太郎

2017/06/07

次世代映像「8K」実写ドラマを広告会社が作ってみた

電通が制作した8K実写ドラマ「囲むフォーメーションF」
電通が制作した8K実写ドラマ「囲むフォーメーションF」

次世代の高精細画質として注目を集める「4K/8K」。現行のハイビジョン(2K)と比較して、4Kなら4倍、8Kに至っては16倍という画素密度で映像表現ができます。

電通デジタルプラットフォームセンター企画調査部では、そんな「次世代映像技術」に関するプロジェクトを推進しています。その中で私は、高精細技術の活用の可能性を探るため、8Kの実験コンテンツをクリエーティブチームと共に制作しています。

本コラムでは、8K映像コンテンツの制作を通して、「8K特性を生かした新しい表現」の可能性を検証した私たちの取り組みについてお話しします。

まず、4K/8K映像の概況を説明しましょう。

総務省が発表している「4K・8K推進のためのロードマップ」によれば、2020年には「4K・8K放送が普及し、多くの視聴者が市販のテレビで4K・8K番組を楽しんでいる」というのが目指す姿とされています。2018年以降に始まる4K・8Kの衛星放送に参入する事業者も決定しています。

放送以外でも4K/8Kの活用は進んでいます。

例えば医療現場では、内視鏡カメラに8K技術が応用され、これまでの技術では見えにくかった細い血管や神経などがモニターに鮮明に映し出せるようになりました。

また、美術研究の現場では、4K/8Kディスプレーの活用で“立体感”“質感”“色彩”を実物とほぼ同等に再現できるようになりました。これにより、遠隔地からディスプレーを通じての美術品研究や、一般非公開作品の4K/8K展示といったことも試験的に行われています。

現在開発されている8K関連機材は、企業利用を想定した高価格帯のものですが、一般向けの汎用機が登場してくれば、高精細映像技術の活用はさらに多くの領域に広がることでしょう。

各業界の8K活用から分かるように、映像がHDや2Kから4K/8Kへ変わるということは、映像がただ「きれいに見える」ということにとどまらず、さまざまな発展の可能性を秘めています。

“演出を伴う8K実写映像”だからできた

「全体と細部の表現」

電通は先日、8K実写ドラマ「囲むフォーメーションF」についてのリリースを出しました。

本作は、上田誠氏率いる劇団・ヨーロッパ企画の舞台劇「囲むフォーメーションZ」を原作とし、高精細映像技術8K解像度で撮影したドラマ番組です。

■8K実写ドラマ「囲むフォーメーションF」(制作:電通/ROBOT/ヨーロッパ企画)

8K実写ドラマ「囲むフォーメーションF」
8K実写ドラマ「囲むフォーメーションF」

平面に並んだ九つの部屋で起こる事件を、定点カメラによる俯瞰視点で眺めるという作品で、8K解像度ならではの高精細映像が各部屋の細部、人の表情を映し出します。

この作品の企画意図について、電通8K作品のディレクターを務めるCDC小池宏史さんから、コメントを寄せてもらいました。

電通として8K作品を制作してきて、今年はこれまでチャレンジしてこなかった「実写」をやってみようということは最初から決まっていました。

とはいえ、8Kの実写映像自体はすでにスポーツ映像や風景映像などで多く存在しています。今回挑戦するに当たっては、「電通は8Kで何を撮るのか」という課題がありました。

その中で、まだ取り組みがなされていないもの、新しい表現のアイデアとして考えたのが、「俯瞰固定視点」での8K実写撮影です。

8K再生環境で見ることを前提とした本作「囲むフォーメーションF」では、壁に張られたポスターの文字、パソコン画面まで、精細に表現を詰めることができました。視聴者側にとっては同じ映像を何度見ても「細部を見る」面白さがあります。

今回、想像以上の成果となったのは、映像技術に合わせて変化した“役者の皆さんの演技”です。

役者として協力いただいたのは、劇団・ヨーロッパ企画の皆さん。原作である舞台劇「囲むフォーメーションZ」を何度も演じてこられた方々です。しかし、俯瞰で、一画面内で、九つの部屋でストーリーが同時進行するという中で行う演技はもちろん初めて。役者の皆さんは、今回の撮影手法に合わせた新しい演技に精力的に取り組んでくださり、またとても面白がってくださいました。

いつどのタイミングで上を見上げてカメラ目線を作るのか。視聴者がセットの細部まで見えることを意識した、画面隅での小物いじりや、身ぶり手ぶりだけの演技。視聴者に「全ての演技を見てもらえる」という作品特性が、皆さんの役者魂に火を付けたのだと思います。

そして最大の成果は、“高精細映像ならではの新しい演出手法”を考えることができたことです。従来のテレビ番組では、“制作側が見せたい箇所”をアップで映し、カメラのスイッチングで“視聴者の視点”を作っていました。つまり、基本的には一つの視点に演出が集中し、逆に映っていない部分の演出は重要視されませんでした。

これに対し、全編が俯瞰視点の本作では、部屋を行き来する人々が真上を向いて視聴者の目を見る演出があったり、メインの会話が進んでいる部屋とは別の部屋でひっそりと重要な出来事が起こったりします。視聴者が自由に視点を持てることを前提とした演出が、随所にちりばめられています。

映像が変わることで、演技も演出も変わる。今回の取り組みを通して、新しい映像表現の可能性をまた見つけることができました。

電通 CDC 小池宏史

8Kではありませんが、YouTubeで4K版のダイジェスト動画を公開しています。動画の雰囲気は感じていただけると思います。

YouTube:【冒頭1分ダイジェスト】囲むフォーメーションF (dentsu 8K project / 4K Quality Version.)

なお、「囲むフォーメーションF」は、放送サービス高度化推進協会の2016年度8K検証用コンテンツの一つとして採択されており、今後、試験放送での活用も計画されています。


「アニメーション」「立体音響」「実写ドラマ」

電通による8Kコンテンツ制作の歩み

電通ではこれまでも、さまざまな8Kコンテンツの制作に取り組んできました。

2016年には、8K解像度アニメーション「LOOP JAPAN」と、8K放送波で対応予定の立体音響22.2chサラウンドコンテンツ「ねこさがし~Finding Cats in 22.2ch~」の2作品を発表しました。

これらはあくまでも実証実験のための作品で、一般公開はしませんでしたが、制作過程で多くの価値あるフィードバックを得ることができました。

 

 

■8K解像度アニメーション「LOOP JAPAN」(制作:電通/ROBOT/groovisions)

8K解像度アニメーション「LOOP JAPAN」
8K解像度アニメーション「LOOP JAPAN」

電通が初めて制作した8Kコンテンツ「LOOP JAPAN」は、アニメーション作品です。

現行フルハイビジョン規格と比較して16倍もの画素数を持つ8K解像度でアニメーションを作ると、何が起こるのか。

答えは、超緻密な“細部描写”が可能になるということでした。

例えば200インチの巨大ディスプレーで、引きで全体を眺めた後、次は目の前までディスプレーに寄って映像を見ると、ハイビジョンのときにはアニメのイラストはぼやけてしまい、ただのドット(点)にしか見えませんでした。しかし、8Kなら至近距離に寄っても細部までくっきり見えます。

「LOOP JAPAN」でいえば、「豆粒のように小さい東京タワーの下でダンスを踊っている人の動き」も、緻密な表現が可能になるわけです。

残念ながら8K解像度のものはお見せできませんが、ご参考までに2Kバージョンの動画をご覧になってみてください。

YouTube:LOOP JAPAN(dentsu 8K project / 2K Quality Version.)

また、「LOOP JAPAN」では、将来的に一般家庭への8K放送が普及した際の新たな視聴体験を模索するべく、スマホで見る“セカンドスクリーン”対応も行いました。

テレビで全体像を見ながら、スマホでは見たい縮尺で見たい箇所の細部を見る。2020年のスポーツ中継では、もしかすると当たり前に導入されているかもしれない仕組みです。

■22.2chサラウンドコンテンツ「ねこさがし~Finding Cats in 22.2ch~」(制作:電通/ROBOT/Invisible Designs Lab)

22.2chサラウンドコンテンツ「ねこさがし~Finding Cats in 22.2ch~」
22.2chサラウンドコンテンツ「ねこさがし~Finding Cats in 22.2ch~」

2作品目の「ねこさがし~Finding Cats in 22.2ch~」は、8K放送で対応が予定されている「22.2chマルチチャンネル」に着目したサウンドコンテンツです。つまり映像コンテンツではないのですが、8K映像とセットで開発が進められている音響技術ということで、紹介します。

22.2chマルチチャンネルは、文字通り22個のスピーカーと2個のサブウーファーを前提としたシステム。一般的な5.1chサラウンドをはるかにしのぐ立体感を持つ“3次元音響”を生み出すことができ、本当にコンサート会場やスポーツスタジアムにいるかのような臨場感を味わえます。

そんな22.2chの表現の可能性を模索するため、「単純な臨場感だけでなく、立体音響という特性自体をコンテンツにできないか」と考え、鳴き声から猫が何匹いるか当てるという企画に至りました。

こちらも残念ながら22.2chの再生環境で皆さんに聴いていただくことはできないのですが、“バイノーラル録音”という技術で擬似的に本コンテンツを体験できるので、ぜひ以下の動画をヘッドホンを着けて聴いてみてください。

YouTube:ねこさがし~Finding cats in 22.2 sound~ (dentsu 8K project / Binaural Version.)

放送規格が変わるということは、単に映像がきれいになるだけではないのです。例えば地デジが始まった時は「データ放送」が使えるようになりましたが、それによって、映像を見ながらクイズに参加したり、出演者が着ている服の情報がリアルタイムに分かるようになりました。新たな視聴体験が生まれたわけです。

映像のきれいさ以外の視点で「8K実用放送における新たな視聴体験の可能性」を模索したのが、「ねこさがし~Finding Cats in 22.2ch~」の取り組みの意義であり、さまざまな発見が実際にありました。

今後の8K映像技術の可能性と

私たちが目指すところ

最後に8Kの今後の展望についてお話しします。

医療や美術領域での4K/8K活用は初めに書きました。これらの領域では精細であればあるほど利点があるので、8Kの導入はますます進んでいくでしょう。

また、今話題のVRの領域ではよりリアルに近い体験が追求されるため、8K以上の超高解像度の映像技術の開発も進んでいます。

一方で一般利用についてですが、よくいわれるのが、「今の映像で十分満足しているけど、それ以上にきれいな映像なんて必要なのか?」ということです。

しかし、その議論自体は4K/8Kの普及を止めはしないと思います。過去の放送規格変化を振り返っても、アナログ放送から地デジへの移行時も、画質向上の必要性やテレビの買い替え問題について議論がありましたが、今、当時のアナログ放送の映像を見ると、「こんなに画質が粗い映像を見ていたのか」と驚くことはありませんか?

8Kに先んじて、現在市場で普及が進みつつある4K対応テレビでは、実用放送は始まっていないものの、「Netflix」「dTV」などの動画配信サービスや、PS4 Proといったハイエンドゲーム機で4K対応コンテンツが充実し始めており、ユーザーに新しいエンターテインメントを提供しています。

将来、4K/8K対応テレビの一般普及がなされれば、さらに利用が進んでいくでしょう。

放送以外でも、スマートフォンやデジタルサイネージが高精細対応になり、世の中の変化は始まっています。電通が取り組む4Kデジタルサイネージ実証実験については以下の記事をご覧ください。

「4K映像」は世界をどう塗り替える?渋谷で実証実験!
http://dentsu-ho.com/articles/5017

広告会社である電通が4K/8Kに取り組む目的の一つは、高精細映像技術が革新していく中で、その技術を使った新しい広告表現やコンテンツ制作のノウハウをためること。そして、従来にない新しいユーザー体験の可能性を模索することです。

映像が高精細になるということは、新しいクリエーティブ、イベント活用、さまざまなソリューションを作り出すことにつながります。

広がる表現の可能性に、ぜひご注目ください。