グローバル化ってなんだろう?No.4
「起業家精神」は学べるのか?(前編)
2013/12/11
25歳未満の失業率が50%以上と、不況のイメージが強いスペインですが、 その一方で、世界を見据えて自分でビジネスを始める人も少なくありません。
私が通っているIEビジネススクールも、「Entrepreneurship(起業家精神)の育成」を強みとして掲げています。
でも、起業家精神って学校で学べるものなのでしょうか。
今回は、学校の Entrepreneurshipの代表的存在であるParis(パリス)教授にインタビューをしてみました。
彼は学生が投資家からの出資を目指して スタートアップに取り組むVenture Labという学校の目玉プログラムの主催者でもあり、私もこのプログラムに参加していました。
教授になる前はスポーツ関係で電通とも仕事をしたことがあり、日本についてもよく知っています。
授業の後に、学校の近くのバルで話を聞いてみました。
波部:そもそも、起業家精神って学校で学べるものなのでしょうか。
Paris:私たちは、「起業家になるための方法」を教えているわけではありません。起業家になるためには、大きなリスクがあります。誰でもなれるわけではありませんし、それを教えることはできません。
私たちが教えているのは、「起業家のように考える」ということです。
Venture Labでも、アイデアをビジネスにするためにはどう考えていけばいいか、ということを4ヶ月かけて教えています。最終的なゴールはVenture Dayで投資家にプレゼンをして投資を得ること。12月9日には東京で初めてのVenture Dayが行われます。
波部:「講義で学ぶこと」と「実際のビジネス」の関係について、どのようにお考えでしょうか。私自身、教室での講義よりも、Venture Labや、選択科目でのワークショップ系の授業(スタートアップへのコンサル、企業へのM&A案件の提案等)から、 多くの刺激を受けたと感じています。
Paris:実際の経験はとても大切です。クライアントと話すことが、本当のビジネスです。だから、ビジネスと勉強のバランスをとらなければいけません。
ビジネス界のほとんどの人は、「大学は仕事と関係がない、別の世界のことだ」と思っています。それは本当です。だから、大学を実際のビジネスに参加させないといけません。それができないと、「MBAは使えない」ということになります。
「分析的思考」と「ビジネスの知識」を駆使することで周りの環境からビジネスチャンスを見つけ出す、 「ビジネス・インテリジェンス」を身につけなければいけません。
波部:では、講義での学びにはどのような意味があるのでしょうか。
Paris:講義で教える理論は、過去の事例(ベストプラクティス)を知るために重要です。他の人が過去にビジネスで成功したり失敗したことを理解することは、実際のビジネスで非常に役に立ちます。それが講義の役割で、ケーススタディーをする理由です。
波部:起業家精神が生まれる環境はどのようなものでしょうか。
Paris:人々がお互いに話し合ったり、プレゼンをし合ったりする環境を作る必要があります。私たちが実現しようとしているのは、「曖昧な状況 を心地よく感じる」ということです。 そのためには、知らない人と話すことにも慣れなければいけません。
波部:毎週木曜日のVenture Networkでは、ビールを片手に起業家が投資家にプレゼンをします。ビールも環境づくりに役立っていますか?
Paris:もちろんです。ビールは人の心を開きます。1本のビールを飲むことで、人は興味や情熱を持っていることについて、オープンに話すことができるようになります。そうすることで、人の出会いが生まれます。投資家は、アイデアではなく人に投資をするので、最高の出会いを生み出すことが大切なのです。
波部:日本では、仕事の後に飲みにいくことがよくありますが。
Paris:それはいいことです。でも、飲み過ぎはよくありません。危ないです。
波部:先ほど「起業にはリスクがある」とおっしゃっていましたが、「失敗」についてはどうお考えですか。
Paris:失敗した時に、人は学びます。仕事での失敗が個人の失敗と捉えられがちなのが、日本の問題だと感じています。 それはよくありません。
起業家の世界では、失敗は資産だと捉えられます。たとえ3回ビジネスに失敗していても、その失敗を未来に活かすことができれば、投資家は4回目の投資をします。起業家が情熱的である限り、失敗は学んだことの証明になるからです。
失敗した人は敗者ではありません。失敗の認識を変えることが重要です。
この後、大企業の中での起業家精神についても話を聞いてみましたが、今回は長くなりましたので、次回に改めて紹介させていただきます。