セカイメガネNo.60
「モンテリギ」してみませんか?
2017/09/20
2017年4月、ソウル漢江で「モンテリギ大会」が開催された。「モンテリギ」とは、放心して何も反応がなく、魂が抜けた状態を意味する俗語だ。この大会に3500人が参加し、著名人や韓国以外の国籍の人もいた。
大会コンセプトは「開放感のある漢江の公園で現代人の脳を休ませよう」。ルールは、こうだ。① ボーッとして何もしない状態を維持 ② 参加者の心拍数を90分間測定 ③ その間いかに安定していられるか、を競う。寝たり食べたり、携帯電話をいじったり、雑談を交わすことは許されない。14年に始まったこの大会のニュースはSNSで話題になり、今や一部の人たちだけのブームとはいえない。忙しい現代社会の中で人々が、ボーッとできる時間を心の底から求めている証しに私には思える。
産業界のかつての主役は電球だった。1879年、エジソンの白熱電球実用化以来、私たちの脳は、昼だけでなく夜も働くことを求められてきた。2007年1月、スティーブ・ジョブズがiPhoneを発表し、今ではコミュニケーションの世界でスマートフォンが主役の座を占めている。就寝するときでさえ、私たちは枕元のスマートフォンに気を取られている。
いわば脳は、24時間OFFのない状態で稼働させられている。脳は機械ではない。有機体だ。休息、睡眠を取らなければ新しいタスクを実行できない。だから、モンテリギが人々に共感されているのだ。脳が長時間、過剰に働き、情報を詰め込み過ぎていることへの警告に誰もが気づいている。
くつろいだ時間が、人類に決定的発見をもたらしたこともあった。古代ギリシャの数学者アルキメデスはお風呂につかっていたとき「エウレカ!」と叫び、浮力の原理を発見した。ニュートンはリンゴの木の下で休んでいたとき、万有引力の法則をひらめいた。悩み苦しんでいるときでなく、肩の荷を下ろして空っぽになった瞬間、予告なくアイデアが訪れる。これが人間の創造性の秘密なのだろう。
「脳が古い情報を廃棄し再構成できれば、アイデアを得る可能性が上がる」と主張する医者もいる。急速に変化する時代を日々慌ただしく過ごしている皆さん(私もその一人ですが)、モンテリギを試してみませんか?
(監修:電通 グローバル・ビジネス・センター
イラストレーション:同/段 希子)