セカイメガネNo.61
世界中の観客に映像で語りたい
2017/10/18
初期のブログに始まり、匿名読者からの質問に答えるようになり、現在のビログ(Vlog、文章の代わりに映像で公開するブログ)まで、インターネット上での私たちの語り口はずいぶん進化してきた。フォロワーたちを物語により深く没入させるように変化してきたのだ。
知り合いが全員ブログを書いていた時代を覚えている。みんなHTMLやCSSを学んで自分のウェブサイトをデザインしていた。世間のありとあらゆることを自分と関係づけるのに一所懸命だった。ブログの自己紹介を読めば、私がどんな人間か、読者には一目瞭然。その頃私たちは長い記事を読むだけの時間をまだ持っていた。お気に入りのブロガーや友人たちの日々を読み、楽しんでいたのだ。
時がたつにつれ、物事に集中できる間隔がどんどん短くなっていった。映像に注意が向く機会が増え、私たちは「映像人間」に変身した。読む時間が減り、見る時間が増えたのだ。新語も生まれた。「TL;DR」、 “Too Long, Didn’t Read” (長すぎるから、読まなかったよ)の略語だ。
ビログが今では主流だ。私の国フィリピンでは、間違いなく大きなトレンドになった。でも私自身、ある事実を目撃するまでは実感を持てなかった。2カ月前、仕事でビロガーのイベントを取材することになった。「ホントに人が集まるのかしら?」。
私の疑心暗鬼は、全くの杞憂(きゆう)だった。会場の外には既に10代の若者たちが長い長い行列をつくっていた。みんな三脚を持参し、カメラやスマートフォンで自分のビログに映像を上げている。その場にいる人たちのどんな反応も、どんな瞬間も、どんな物語も、なにひとつ漏らさず記録して公開するぞ、と意気込むように。正直、驚いた。
この「事件」を体験し、ビログが若者を動かす、とてつもない奔流になっていることを確信した。デジタル時代のクリエーターは自分だけのとっぴな発想を大切にする。自分が映像で創り出す物語を、多種多様な人たちにオンラインで公開することを少しも恐れない。
インターネット上で無数の物語が共有される時代が進行している。世界中でその物語を楽しんでいる観客は増える一方だ。
(監修:電通 グローバル・ビジネス・センター)