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GLOBAL INSIGHT 世界を読み解くNo.5

中国本土・香港・韓国・台湾を読み解く Greater North Asia & Taiwan ジェニファー・タンCEOインタビュー

2024/07/04

世界145以上の国・地域で事業を展開する電通グループ(dentsu)。連載では、海外各拠点のトップマネジメントへのインタビューを通して、地域の課題と向き合いながら、どのようにビジネスを展開しているのか、それぞれの事業地域のトレンドとともにお届けしています。

第5回は、Greater North Asia & Taiwanのジェニファー・タンCEOへのインタビュー。中国本土・香港・韓国・台湾におけるマーケットトレンドやクライアントが抱える課題、それを踏まえたdentsuの戦略などについて聞きました。

※インタビューは2024年4月15日に東京で行いました。

 

ジーン・リン(Jean Lin)
ジェニファー・タン(Jennifer Tang) Greater North Asia & Taiwan CEO。2017年にdentsu Taiwan CEOとしてdentsuに加わる。dentsu Taiwanの変革を主導し、同社のマーケットリーダーとしての地位を確立する。23年11月から現職。中国本土・香港・韓国・台湾の4つの地域の戦略統合を掲げ、イノベーションの促進と市場対応の迅速化、ソリューションの向上を目指している

エンド・ツー・エンドのソリューションプロバイダーを目指して

──はじめに、現在の役職と担務について教えてください。

2017年からdentsu Taiwan のCEOを務めています。23年11月からは、Greater North AsiaのCEOを兼務し、中国本土・香港・韓国・台湾を担当しています。 

最初に、dentsu Taiwanに入社した経緯を簡単に説明しましょう。この業界を選んだ理由は、オグルヴィ(編集注:WPPグループ傘下のニューヨークを拠点とする英国の広告会社)の「優れたクリエイティブは魔法を生む」という信念に深い憧れと情熱を抱いていたからです。後に、電通が台湾への投資を検討していると知り、オグルヴィから電通イージス・ネットワーク(現dentsu Group)に移ることを決意しました。当時は、デジタルテクノロジーの進化が私たちを含む多くの業界に大きな変化をもたらし始めており、私はdentsu Taiwanにおいても変革の緊急性と必要性を強く感じていました。dentsu Taiwanの変革を成功させ、業界全体を好転させ、エージェンシー(広告会社)が成長を遂げるサクセスストーリーを他のマーケットにも示したいと考えていたのです。

──dentsu Taiwanは今やマーケットリーダーの地位を確立しています。CEO就任を機に、どのように「変革」を進めていったのですか?

私がdentsu Taiwanに移籍して最初にチームに伝えたのは、従来のクリエイティブやコンテンツ、メディアサービスを提供するサービスプロバイダーとしての役割から、クライアントから信頼されるアドバイザーへと成長する必要があるということでした。サービスプロバイダーからマーコム(マーケティングコミュニケーション)領域におけるエンド・ツー・エンド(編集注:ビジネスプロセスは顧客に始まり顧客に終わるという考え方)のソリューションプロバイダーに変わることで、クライアントに信頼されるアドバイザーやグロース(成長)パートナーになることができると、私は信じています。私たちはビジネスの成長を継続し、「モダン・タレント(時代が求める人財)」 と私が呼ぶところの存在にチームがなるために、変革を推進しました。企業として成長を続けながら、従来のサービスプロバイダーの枠を超えて、ビジネスパートナーとしての役割を果たすためのアップグレードを今後も行っていきます。

そして、私たちの成功が、他の地域の市場にも刺激を与え、変革のきっかけになってほしいと願っています。もちろん、市場はそれぞれ異なりますが、お互いに学び合いながら、その地域や市場に適した方法を見つけ出すことが重要です。それこそが、クライアントがそれぞれの市場に望んでいることなのです。グローバルなリソースを活用し、グローバル戦略に基づいて行動することが重要です。

AI時代に求められるバリュードリブン型ソリューション

──中国本土・香港・韓国・台湾における、マーケットのトレンドやクライアントが抱える課題をどう見ていますか?

いくつかあります。まず、テクノロジーの進化はクライアントのビジネスに大きな影響を与えています。今、クライアントにとって最大の関心事は「自身の業界やビジネスでこれから何が起こるか」ということです。例えば、自動車業界は、自動車という単なる移動手段としての産業ではなく、さまざまなサービスを提供するプラットフォーム、すなわちモバイルデバイス産業へと進化しました。また、私たちのビジネスに大きなインパクトを与える業界の一つであるヘルスケア業界は、B to Bに集中すべきか、それとも直接B to Cを行うべきかを模索しています。このように、さまざまな業種において事業の持続性に対する関心が高まっており、クライアントは短期的な成功だけでなく、変革期における継続的な成長戦略を求めています。この傾向は最近特に強いと感じています。

同様に、クライアントはブランディングについても高い関心を示しています。過去十数年間、クライアントはデジタルプラットフォームでコンバージョン率を上げる方法など、時にはこだわりすぎるほどパフォーマンスに重点を置いてきました。しかし今は、短期的なパフォーマンスももちろん重要ですが、同時に、長期的に「ブランド愛」を育てることも重視しています。この二つはお互いに補い合うべきであり、短期的・中期的・長期的な目標を一つの戦略のもとで考えるべきなのです。それが二つ目のトレンドです。

三つ目のトレンドは、以前はクリエイティブや従来の広告、デジタルマーケティングが主流でしたが、今では、クライアントは他のマーケティング機会にも関心を示していることです。エンターテインメントやゲーミングの分野にも注目し、多様なコンタクトポイントを求めています。

私たちのビジネスは、現地のクライアント、日本のクライアント、そしてグローバルクライアントと関わっていますが、3つのトレンドはすべてのクライアントに当てはまります。また、中国のようにクライアントの予算の8割以上がソーシャルコマースに割り当てられている地域では、ソーシャルコマースをより多く要求される場合もあります。台湾や韓国では、その比率はもう少し低いですね。どの地域でも、クライアントがエコシステムにおけるエンド・ツー・エンドのソリューションを求めていることは共通しています。

──昨今、急速に普及しているAIは、クライアントやdentsu のビジネスにどのような影響を与えていますか?

AIについて言えば、クライアントはAIの活用が効率と効果を生み出すと考えており、AIを活用したバリュードリブン型ソリューションを求めています。それは、何よりも「価値」によって動機づけされるソリューションです。私たちが提案するソリューションが、成長や効率化など、クライアントのビジネスやブランドに継続して価値をもたらすことが求められているのです。

ジェニファー・タン(Jennifer Tang)

オールドマネーを保持しながら、ニューマネーを生み出す

─クライアントが抱える課題に応えるために、dentsuに求められることは何だと考えますか?

まず、私たちは完全な形でコンサルティングサービスを確立する必要があると考えています。クライアントの関心がビジネストランスフォーメーションにあるのであれば、クライアントのパートナーとなり、彼らの問題解決や成長戦略の策定をサポートするための能力が必要です。私たちは、単にビジネスユニットを立ち上げるだけでなく、適切なメソッドを持つことが重要です。

次に、クライアントが属する業界の(生産から販売までの工程にわたる)垂直的な専門知識やノウハウを急いで獲得する必要があります。例えば、自動車業界やヘルスケア業界、ファッション業界などです。これらの取り組みは、今後私たちのチームが成長し、クライアントに価値を提供していくために極めて重要です。

さらに、新しいタイプの人財も必要です。コンサルティングの世界では、これまで私たちが抱えてきた人財とは異なるスキルセットを身に付けた人財が求められるからです。ケイパビリティに加えて、人財の強化が急務だと考えます。

また、多角的なマーケティングについても考える必要があります。それには、dentsuのエンターテインメントとスポーツにおけるケイパビリティ、経験やリソースをもっと活用すべきだと考えています。

──以前からのdentsuの強みであるメディアやクリエイティブについては、今後どうあるべきと考えていますか?

私たちのサービスの中核となるメディアやクリエイティブの分野においても、最新化(modernize)が求められます。私たちは、自分たちが何者なのか、何を生業(なりわい)にしてきたのかを忘れてはなりません。チームにはいつも、トランスフォーメーションジャーニーをするためには、できるだけ早くニューマネー(新規ビジネスによる成長)を生み出す一方で、オールドマネー(既存ビジネスによる成長)を持続させる必要がある、と話しています。

では、オールドマネーをどのように保持するのでしょうか?その答えは、変革と最新化にあります。メディアの最新化を図るには、メディアとデータを組み合わせればいい。そうすることにより、パフォーマンスが向上します。あるいは、メディアとクリエイティブを組み合わせることで、メディア投資の効果を大幅に高めることができます。

同様に、クリエイティブの最新化を図るには、クリエイティブのレベルを向上させ、最上級のアウトプットを目指して変革を実現させなければなりません。そのためには、新たなカルチャーとイノベーションを生み出すことが欠かせません。例えば、クリエイティブにAIを組み合わせることで、新しいコンテンツを生み出すことができるでしょう。こうした取り組みが私たちのコアコンピタンスを最新化し、既存ビジネスによる成長を維持しながら、新規ビジネスによる成長を生み出すことを可能にするのです。

日本企業は、最初からグローバルを意識せよ

──中国本土・香港・韓国・台湾における日本企業のビジネスチャンスと課題をどう見ていますか?

日本のブランドはその品質、細部へのこだわり、包括的なアプローチで世界的に高く評価されています。しかし、急速に進化するグローバル市場では、消費者の好みが常に変化しています。海外で持続的に成功するためには、日本企業はより俊敏であり、オープンマインドであり(柔軟性を持ち)、文化的にインクルーシブ(包括的)である必要があります。

日本製品は台湾、韓国、中国などの市場でプレミアムなイメージがあり、若者たちはその革新性と品質を高く評価しています。一方で、これらの利点を持ちながらも、日本のブランドはしばしばローカル・インサイト(現地の洞察)や文化理解に苦労し、時に過度に洗練された印象を与えることがあります。効果的なグローバルマーケティングには、各市場の独自の特性を理解し、明確にコミュニケーションを取ることが不可欠です。

例えば、韓国のK-POP産業は政府の支援を受け、トレンドに敏感な感覚を持っており、世界的な影響力を持つ巨大な産業となりました。韓国企業は最初からグローバルな視点でコンテンツを開発し、広範な支持を確保しています。同様に、日本企業も初めからグローバルな視点を取り入れ、独自の文化を尊重しつつ、幅広いアピール性(より広い観客に向けて、より身近で魅力的に感じてもらえること)をバランスよく兼ね備えることで、グローバルな成功を達成することができるでしょう。

 

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