価値創造の原動力を読み解く 電通グループ ジーン・リン氏インタビュー
2024/03/28
世界145以上の国・地域で事業を展開する電通グループ(dentsu)。連載では、これまでにdentsu APAC、dentsu EMEA、dentsu AmericasのCEOへのインタビューを通して、地域の課題と向き合いながら、どのようにビジネスを展開しているのか、海外の各事業地域のトレンドとともにお届けしてきました。
第4回は、(株)電通グループのグループ・プレジデント - グローバル・プラクティスに就任したジーン・リン氏へのインタビュー。dentsuのケイパビリティやソリューション、人財育成など、価値創造の原動力について聞きました。
※インタビューは2023年12月11日に東京で行いました。
クライアントの持続的な成長に寄与する
──はじめに、現在の役職と担務について教えてください。
ジーン・リンです。2023年10月から(株)電通グループのグループ・プレジデント - グローバル・プラクティスを務めています。
新設されたこの役職における私の主要な役割は、dentsuのケイパビリティ(能力)とプラクティス(編集注:dentsuがグローバルで提供するサービスの総称)を結集し、クライアントに最良のインテグレーテッド・グロース・ソリューション(※)を提供し、クライアントのインテグレーテッド・グロース・パートナーとしてのdentsuの地位を確立することにあります。
※インテグレーテッド・グロース・ソリューション:dentsuの事業戦略の中核。マーケティングの領域を超えて、グループの多様なケイパビリティを統合することで顧客企業のトップライン成長に貢献する
──なぜ、今、インテグレーテッド・グロース・ソリューションが求められるのでしょうか?
私たちが直面している世界はとてつもなく複雑です。次々に立ち現れる新たな課題に向き合うとき、従来のアプローチではうまくいかないこともあるでしょう。ですから、クライアントが企業として成長を続けるために、より統合されたソリューションを求めるのは自然な流れだと思います。
dentsuとしても、このトレンドはもちろん認識しています。過去120年間、電通はイノベーションとインテグレーションが交わるところで戦略を提供してきました。急速に変化する今日の状況下においても、それは変わりません。そして、クライアントが抱えるあらゆる今日的な課題に対して適切なソリューションを提供するにあたり、インテグレーションは不可欠なのです。
dentsuのアクセラレーター(編集注:企業の事業成長を支援・促進するプログラムなど)は、インテグレーテッド・グロース・ソリューションの戦略的な開発と提供を一体化し、クライアントをサポートします。つまり、これはクライアントの持続的な成長に寄与するパートナーシップモデルなのです。
私たちは、クライアントがその目標を実現するプロセスにおいて重要な役割を果たせるよう、社会と価値創造のさまざまな要素に取り組む必要があるのです。
──インテグレーテッド・グロース・ソリューションは、企業と顧客の関係にどのように作用するのでしょう?
インテグレーテッド・グロース・ソリューションの核心は、エンド・ツー・エンド(編集注:ビジネスプロセスは顧客に始まり顧客に終わるという考え方)のエクスペリエンス・トランスフォーメーションにあります。私たちがクライアントに提供するのは、テクノロジー、データ、アイデアを駆使した最高水準のカスタマー・エクスペリエンスを通じて、企業が顧客との関係を構築する最善の方法です。
そして、クリエイティブ、メディア、カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント、ビジネス・トランスフォーメーションのすべてを仕事の領域とするdentsuだからこそ、インテグレーテッド・グロース・ソリューションの提供が可能なのです。各領域が連携して機能することで、クライアントが抱える課題の解決や、全体のエクスペリエンス・エコシステムにおいてブランドの果たすべき役割を示すことができるのです。
──インテグレーテッド・グロース・ソリューションを推進していく上で重要なことは何ですか?
まず、クライアントが私たちのケイパビリティに簡単にアクセスできなければなりません。その上で、クライアントの課題を見極め、いかにシンプルで力強いソリューションを提供できるかが重要になります。それは、課題解決のアジリティ(編集注:状況や環境の変化に応じて柔軟かつ迅速に対応できる機敏性)を高めるためにも必要です。
dentsuが持つさまざまな領域におけるケイパビリティは、互いにつながりを持ちながら、相乗効果を生み出すのです。
パーパスドリブンな組織がモチベーションを高める
──グループ全体の人財育成も職務の一つと伺っています。社員のモチベーションを高めるために必要なことは何でしょう?
私たちの業界では、「人」が鍵となります。優れた組織を作ることができるかどうかは、社員がどのようにモチベーションを高め、仕事をどう捉えるかにかかっています。
社員が求めているのは日々の仕事だけではありません。競争力、インスピレーション、高い志など、人々を団結させる目的に突き動かされて働いているのです。であるからこそ、目的によって動機づけされるパーパスドリブンな組織であることが、社員のモチベーションを高める上で、非常に重要なのです。
──仕事観は世代によっても異なります。Z世代を見ても、他の世代とは異なる考えを持ち、異なるアイデアを生み出していると感じます。
特にZ世代のような若い世代にとっては、そこで働く目的を見いだすことができるかどうかが、企業選択やブランドに対するロイヤルティの原動力となっています。
それぞれの世代には、世代独自の特性があります。サステナビリティ、公正さ、ネットゼロ(編集注:温室効果ガスの排出量を正味ゼロにすること)など、社会の変化を目の当たりにしてきたZ世代にとっては、これらが彼らの最優先事項となっているのです。
「成長」と「グッド」を切り離さない
──サステナビリティは、企業の成長や企業文化の醸成において、どのような意味を持つと考えていますか?
サステナビリティは、今日のビジネスにおいて最も重要な、イノベーションを生み出す原動力です。企業が持続的な成長を遂げ、持続可能な社会の実現に貢献する戦略、製品、サービスを生み出すことができれば、その企業は社会にとって「良き企業市民(Good Citizen)」であるだけでなく、生活者から尊敬されるブランドとなるのです。特に気候変動問題や、平等、多様性、持続可能性の必要性が叫ばれている今日、サステナビリティはどのようなビジネスにとっても不可欠です。
重要なことは、「成長」と「グッド(Good)」を切り離して考えてはいけないということです。企業の成長の道筋と良き企業市民であり続けるための道筋が、別々の方向を向いていてはいけないのです。逆に言えば、両者が同じ方向を見ているとき、持続的な成長を促進する企業文化が醸成されることでしょう。
経済的パフォーマンスにおける企業の成長は、私たちが今生きている世界の一側面にすぎません。ですから、私たちはサステナビリティを企業のビジネス戦略の中核に据え、短期的な成長はもちろんのこと、長期的な成長も実現できるようにする必要があります。CSR(企業の社会的責任)やコンプライアンスで対応するだけでは、企業文化を根本的に変えることはできません。
──企業文化醸成のために、グループ全体で行っている取り組みはありますか?
インナー向けの取り組み事例としては、「One Day for Change」という活動があります。14年に始まったこの活動は、毎年4月22日の「地球の日(アースデイ)」に世界中のdentsu社員が一斉にボランティア活動に参加するものです。
この取り組みは、世界に変化をもたらすというdentsuのプロミスと、持続可能な社会への私たちのコミットメントを象徴しています。経営陣だけでなく、社員一人一人が世界規模でコミットしていることに大きな意義があります。
──最後に、これまで長くグローバルビジネスに関わってきた経験から、グローバルビジネスに必要なマインドセットについて教えてください。
いくつかありますが、中でも「エンパシー(共感力)」は重要です。なぜなら、国や文化など異なるバックグラウンドを持つ相手を理解するためには、共感する力が欠かせないですから。
互いのバックグラウンドを理解してこそ、組織や地理的制約を超えたチーム作りが可能になります。グローバルビジネスの本質とは、多様な人々が安心して協働し、ともにイノベーションを起こすことではないでしょうか。そうした安心な環境を作れることが、優秀なグローバルリーダーの条件だと思うのです。
グローバルビジネスは、互いを尊重し合うことが原動力でなくてはならない。そして、それはサステナブルなアプローチでもあるのです。