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「体験しなきゃ分からない」のつくり方

ろーかる・ぐるぐる №121

  • 山田 壮夫

2017/11/30

「体験しなきゃ分からない」のつくり方

「予定調和は、つまらないですよ!」

ご縁あって、東京で有数の人気レストラン「81(エイティー・ワン)」のオーナーシェフ永島健志さんと対談する機会があり、それならばどんな内容にするか打ち合せようとしたときに言われた言葉です。

永島健志さん
永島健志さん

う~む。おっしゃることは分かる、よ~くわかる。でも小心者のぼくは何の準備もしないで百人を超える聴衆の前に出ると緊張しちゃうんだよなぁ。案の定、当日は夜明け前に目が覚め、お客さまに見ていただく映像やパワーポイントの準備もなく、コロシアムのようにぐるりと客席が取り囲む舞台の上でガチガチのドキドキ、対談の幕は開いたのでした。

当日風景
当日風景

81といえば「カルボナーラの再構築」が有名です。あの著名なパスタメニューを分解し、卵料理として再構築したひと皿。料理の世界には「この素材はこういうふうに調理しなさい」「これをつかうなら、この香辛料で」という「常識」が数多くあります。その一部はもちろん今でも理にかなっているのですが、たとえば鮮度管理の技術が進歩した現在、無駄な「思い込み」もたくさんあるそうで、永島さんはいつの間にか「目の前にあるものを疑い、分解する習慣」がついたのだといいます。

カルボナーラの再構築
カルボナーラの再構築

海上自衛隊に入隊し、配属をきっかけに料理の世界に入った若者がなぜ、こんな思考をするようになったのか。そこには世界で最も予約が取れないレストランとして伝説のエル・ブジ(スペイン/現在は閉店)のシェフ、フェラン・アドリア氏のもとで働いた経験が大きかったようです。

「エル・ブジ」といえばエスプーマや液体窒素を駆使した分子ガストロミー、つまりサイエンスな料理のイメージが強いかもしれません。しかし永島さんによれば、アドリア氏はカタルーニャ生まれのダリやガウディと同じ「芸術家」(とはいえレッテル貼りをして理解したつもりになるのは意味がないと釘も刺されましたが・笑)。料理の世界に初めて「コンセプト」を持ち込んだ人だといいます。彼はレシピを隠すことなく公開し、チームはもちろん他分野の知見も積極的に活用しました。「分子ガストロミー」も主要なテーマというよりは、新しい料理を表現するための手段にすぎなかったではないか、という見方です。

永島シェフがつくる「42℃のサーモン」
永島シェフがつくる「42℃のサーモン」
 

さてさて。81がおいしいことだけは間違いないのですが、いざその魅力を説明しようとすると、なんとも困っちゃいます。試しにトークセッションで「どんなレストランですか?」と聞いてみたら、永島さんも「それを文章で伝えられるなら本を書く。写真で伝えられるなら写真家になる。でも料理でしか伝えられないから料理人をやっているのであって、体験しなきゃ、分からないですよ」ですって。

なので、ここからはぼくの想像なのですが、永島さんは「レストラン」をいったん分解し、「常識」を疑ったのだと思います。たとえば…

■料理と一緒に供される「飲み物」にも、もっと表現の可能性があるのではないか(だから飲み物込みのコース設計です)。

■シェフがどのような意図で、どのような食材を、どのように扱ったのか。直接説明できたら感動は広がるのではないか(だからオープンキッチンからシェフが客席に出向き、かなり詳細なプレゼンをしてくれます)。

■音楽をリミックスして料理とのマリアージュを図ることも、おいしさにつながるのではないか(だから、キッチン内のDJブース‼にしばしばシェフ自らが入ります)。

などなど。

そうやって分解した従来のレストランを、永島式に再構築したのが81であると。

よく「おいしさはお皿の上でなく、脳の中にある」「料理は舌の味覚だけでなく、五感で感じるものだ」と言われますが、そういったときにも「味覚と嗅覚」とか「味覚と聴覚」に分けるのではなく、茶室に通じる全体観のある「おもてなし」の場としてデザインする。徹底的にいま、ここの体験を追求する「禅」的な空間をつくる。主客一体。一座建立。永島さんがやっているのは、実は極めて日本文化に根付いた取り組みであると感じました。

2007年、現代美術の祭典ドクメンタ(ドイツ)にアドリア氏は料理界で初めて、芸術家として招待されました。永島さんもまた、独自の感性でこの道に続くのだろうと確信した90分。まだまだ余韻が残っているので、次回もまた続きを。 

コンセプトのつくり方

どうぞ、召し上がれ!