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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.122

すぐれたクリエーティブディレクターは「朝令暮改」する 

2017/12/14

先日、岐阜で初めて「すんきそば」を食べました。温かいそばの上に赤かぶの葉っぱの漬物が乗っているだけのシンプルなメニュー。独特の酸味がやさしく、うまみも豊かで思わずおかわりしたくなるほどでした。

「すんき漬け」とは木曽地方に伝わる保存食で、つくるときに塩を使わないのが特徴。ぼくが家で仕込んでいる白菜の漬物にはしっかり塩を振っていますが、古漬けになったときの乳酸菌たっぷりな味わいはかなり近いです。かつては「白菜の漬物といえば、ごはん」でしたが、最近はサワークラウト代わりに豚と煮てドイツ風にしたり、春雨と炒めて中国東北料理風にしたり、さらにこれで和のだしと合わせる楽しみ方が増えました。

前菜

さてさて、前回もご紹介した人気レストラン「81(エイティー・ワン)のオーナーシェフ永島健志さんとのお話。刺激的なエピソード満載だった中でも忘れられないのが「すぐれたディレクターは朝令暮改する」ということです。

永島さんが修業した「エル・ブジ」。店内50ほどの席を求めて世界中から年間200万もの予約が殺到したという伝説のレストランです。そしてここを率いていたシェフのフェラン・アドリアこそが「朝令暮改」のひと。永島さんも「朝の彼と午後の彼はほとんど別のひと、みたいな感じでしたよ」と笑っていらっしゃいました。

そしていま、永島さんはこの「朝令暮改」を「81」で実践しているそうです。「ぼくはフェラン・アドリアの『ああでもない』『こうでもない』でとても鍛えられました。この『振り回し』がチームにチカラをつけるのです。」

ぐるぐる思考
ぐるぐる思考
SECI
SECI

コンセプトづくりの方法論「ぐるぐる思考」で四つ目のモードは「磨く」です。「発見!」モードで手に入れた「新しい視点」をもとに、ゼロベースで具体策を再構築します。野中郁次郎先生のSECIモデルでは、既存知識の再結合を意味する「Combination」と名づけられたこの段階を、なぜ「磨く」モードと名付けけたのか。

その理由は、いったん「発見!」したつもりの「コンセプト」も、決して絶対ではないからです。もしその後のプロセスがうまくいかなければ、コンセプトに修正を加えたり、場合によってはゼロから考え直す必要があります。具体策はコンセプトによって磨かれますが、コンセプトもまた具体策によって磨かれるのです。その徹底的な相互作用がとても大切なので、このように名付けました。

料理の世界が大変なのは、今日と昨日と、すべてが違うことです。食材は同じようなものを手に入れようとしても、決して同じではない。お客さまも違う。時代の気分も、天候も、すべて変化し続けます。料理人自体の経験や「引き出し」も増えるでしょう。その中で、解決の方向性を示すコンセプトだけを固定するのはとても危険です。だからこそフェラン・アドリアも、永島さんも、スタッフに嫌われることを恐れず、ギリギリまで試行錯誤を続けるのでしょう。

ハンバーガー

ビジネスや広告の世界でも、まったく状況は一緒です。生活者も、競合も、時代の気分もすべて変化します。新しいアイデアがいつ生まれるとも限りません。たとえプレゼン準備のためにスタッフがどれだけ労力を使ったとしても、必要ならばちゅうちょなく「朝令暮改」し、チームを「振り回す」こと。それがディレクターに課せられた役割なのでしょう。

実際、すぐれたクリエーティブディレクターが突然の前言撤回で方針転換するのを経験したこともあります。そしてそれはぼく自身が成長する機会でもありました。永島さんとの対談を通じて広告と料理の世界に見つけた共通点は、とても印象深いものでした。

広尾の「81」も予約が取れないことで有名ですが、それでもまたあの刺激的な世界へ遊びに行こう!っと。

コンセプトのつくり方

どうぞ、召し上がれ!