【続】ろーかる・ぐるぐるNo.120
逆引きのススメ
2017/11/16
少し前のことですが、「こんなのあるんだ!大賞2017」が発表されました。贈賞式でよんななクラブの社長もおっしゃっていましたが、この賞のユニークなところは受賞する商品が少なくとも現在、まだ全国的には有名でない点。地方新聞社が探し出してきた「まだニュースになっていない逸品」が競い合うので、グランプリですら「へぇ!そんなのあるんだ…」という感じです。
今年、見事その栄冠を獲得したのは「ビストロサンマルシェ(愛媛)の「杵つき餅カレー」。ご存じですか ?いえいえ、お気遣いなく(笑)。
レトルトパウチの中に地元産のお米でつくったお餅とカレーが入っているので、そのままお湯で温めるだけ。ご飯を炊く必要もなく、おいしいひと皿を楽しめます。審査員の方々にインタビューしたところ、評価ポイントは大きく二つ。一つは「ありそうでなかった新しい組み合わせ」。もう一つは「味の良さ」。意外性と納得感という要素をきちんと押さえての勝利だったようです。
ところで、電通には「逆引き」という訓練法があります。ふつうはコンセプトをもとに具体策をつくりますが、すぐれた具体策から、そのもとにあるコンセプトを類推(≒逆引き)するのです。これを繰り返しやることによって、目に見えない価値を言葉でつかまえる練習になります。
例えば、この「杵つき餅カレー」を「逆引き」するとどうなるでしょう? もしかすると、そのコンセプトは「ご飯付きレトルト」と説明できるかもしれません。これは確かに魅力の一端を示しています。でも果たして大きな賞で評価されるほど新しい切り口でしょうか? たとえばスーパーマーケットの店頭には、電子レンジで温めるだけで食べられるカレーライスや麻婆豆腐丼など、「ご飯付きレトルト」と視点が同じ商品がズラリと並んでいます。「地産地消レトルト」にしたところで、一緒。どうもこういった言葉では、この商品が持つ着想のユニークさを言い表せていません。
ぼくも、この「杵つき餅カレー」を買ってみました。本来液体のカレーが、お餅の「粘性」に絡め取られ、モチモチ、シコシコ。食感のある固形物として楽しめました。ビストロサンマルシェの奥田シェフが「つくった本人の大好物」とおっしゃるのも分かる独特の味わいです。とするとコンセプトは「食感を楽しむスープ」でしょうか。こうすると少しは着想の新しさが見えてくるかもしれません。であるなら次に開発を検討すべきは「杵つき餅コーンポタージュ」や「杵つき餅八丁味噌汁」でしょうか。「餅」以外にスープに食感を与える食材や調理法はないのでしょうか。云々。
「逆引き」に正解なんてありません。ここでやっているのは「知的ゲーム」の類い。トレーニングです。と同時に、現実の商品開発においても、「逆引き」の技術はとても役立ちます。目の前にある「なんかいいよね!」の正体を探りだし、発想の道しるべにできるからです。
まったくの私見ですが、「広告賞」の世界では、この「逆引き」をよく見かけます。応募者は自分の作品をいったん冷静に見つめ直し、(制作過程で「どういうコンセプトからどういう具体策に到ったかという思考プロセスは脇に置いて、改めて)そこにある「新しさ」を言語化しようと「逆引き」します。審査員も一緒です。たいてい彼らに求められるのは、審査を通じて次代の参考となる「新しい」指針を見いだすこと。だから応募資料が説明不足で魅力を十分に説明できていないときときは、審査員自らが「逆引き」をし、その価値を言語化する場合もあるのです。「あとづけ」といえば「あとづけ」なのですが、そういった作業を通じて初めて「なんとなくいいじゃん!」ではなく、「何が新しいか?」を明確に議論できます。
今回「杵つき餅カレー」の何を新しいとみたのか、こんなのあるんだ!大賞審査員に聞いてみても、いまひとつ確信は得られませんでした。正直に告白すれば、ぼくもまだ、あの魅力をうまく言葉にできていません。どうぞ皆さん。一度召し上がって、「逆引き」に挑戦してみませんか?
そうそう。拙著『コンセプトのつくり方 たとえば商品開発にも役立つ電通の発想法』が1年半かけて、ようやく、よ~やく2度目の増刷(つまり3刷)になりました。少しずつでも確実に、読んでくださる方が増えていることがうれしく、この場を借りて心から感謝申し上げます。
どうぞ、召し上がれ!