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仕事の創り方を変えよう!No.1

田川欣哉×廣田周作:自分で全部やってみたい人の仕事術

2013/12/19

近未来の予測もできないほど、変化の激しい今の時代。前例、慣習に倣うのではなく、自ら社会の中に新しい役割、働き方を見つけていく必要があります。

工学部機械工学科卒業という経歴を持ち、現在は電通で「コミュニケーション・プランナー」として、これまでにない新しい企業コミュニケーションの形を模索する電通プラットフォーム・ビジネス局の廣田周作さんもその一人。2013年7月には著書『SHARED VISION―相手を大切にすることからはじめるコミュニケーション』を刊行するなど、企業と消費者がフラットにつながる今の時代のコミュニケーションのあり方を自身の実践をもとに発信しています。

この連載では毎回、廣田さんが広告業界に限らず、そんな新しい働き方を見つけ、実践する方に話を聞きに行きます。

工学部出身の経歴も生かし、ソーシャル上のデータから分析し消費者ニーズ、情報拡散の流れなどを分析。さらにその知見をコミュニケーション活動、クリエーティブ開発に生かしてきた廣田周作さん。現在は電通の中で、「コミュニケーション・プランナー」という新たな仕事のスタイルを開拓しようとしています。そんな廣田さんが今回、対談相手に選んだのは「デザイン・エンジニア」として、これまでになかった仕事を自ら創ってきたtakram design engineering(以下、takram)代表の田川欣哉さんです。

東京大学・工学部機械科で同じ研究室の先輩、後輩の関係にある二人。学生時代から、エンジニアとデザイナーの垣根を越えた仕事スタイルを模索していた田川さんの姿は、廣田さんにとっても憧れの存在だったそうです。

Question① 「デザイン・エンジニア」を目指したきっかけは?

廣田:「もともと僕が機械科を専攻したのは、ものを作るのが好きだったことが理由です。でもそこに入って初めてエンジニアとデザイナーは分業で、一人ですべてに関われるわけではないのだという事実を知って…。そんな時にすでに、その垣根を飛び越えて面白い仕事をされている田川さんの存在を知って、当時から憧れていました。

田川:実は学生時代の僕も世間知らずで、ものづくりはエンジニアが全部一人でやっていると思っていたんです。ところが大学3年生の時に、家電メーカーでインターンをさせてもらう中で、分業の現実を知り、衝撃を受けました。その後、エンジニアになるかデザイナーになるか悩みましたが、最終的に「とりあえず30歳になるまでは、どっちになるかを決めないで、やってみよう」という結論に達して。「エンジニアもデザイナーも一人で兼ねた働き方があるはず」という仮説を自ら実験台になって検証することにしたんです。

自らも「コミュニケーション・デザイナー」として、「広告」に限らず企業と消費者の新しいコミュニケーションづくりに奔走する廣田さん。田川さんに続く「デザイン・エンジニア」をどう育てているのか、その人材育成にも質問が及びます。

Question② 「どうやって人を育てているの?」

廣田:どのように「デザイン・エンジニア」を育てているんですか。

田川:takramの仕事の領域は大きくはエンジニア⇔デザイン、ソフトウェア⇔ハードウェアの2軸で分類した、4つに分けられます。例えばソフトウェアのデザインだとUIのデザイナーとか、それぞれのプロはたくさんいます。takramに入ってくる人も最初は、この中のどこかに軸足がある人たち。そこでまずは、軸足のある領域のスキルを磨いてもらった後、近接する違う領域に足を踏み出してもらい、徐々に4つの領域全てを網羅するスキルを身に付けてもらいます。この4つの領域の境界線は、それぞれ摩擦係数が異なるので、隣接するマスで踏み出しやすい方の力を身に付けてもらうようにしています。

廣田:踏み出しやすさが違うんですね。広告業界でもデジタルとクリエーティブの境界線で同じような“浸透圧問題”があって、デジタルの素養のある人がコピーライターになったりするケースは、わりと多いのですが、ずっとマス広告の企画を考えてきた人たちに突然「デジタルのクリエーティブをやれ」と言っても、すぐには難しかったりします。

日々のコミュニケーション活動の結果を解析し、その反響に合わせ、翌日何をすべきかを決めていく…。PDCAサイクルに基づく、コミュニケーション活動の「リアルタイム化」を目指している廣田さん。takramのものづくりのプロセスにも強い興味を持っています。

Question③ 「PDCAを回し続ける効能とは?」

廣田:僕が今、やろうとしているのはコミュニケーション活動のリアルタイム化です。データに基づいてアイデアを構築しているのですが、PDCAを回し続けていくと、「当たった!」という瞬間が出てきます。

田川:PDCAの効能は2つあります。ひとつは仮説が段階的に着実に洗練されていくので自動的に質が上がっていくということ。もうひとつは、新しい仮説に挑戦しやすくなることです。何が正解か全く分からない時でも、複数の仮説を手早く試せるようになる。PDCAを回し続けることで仮説をつくる、つくった仮説を磨き上げるという、垂直と水平の2つを同時に進めていくことができるようになると思います。

廣田:今の話で言う「垂直」の部分、つまりはクリエーティブになるためのPDCAという考え方があるということですね。一方で「閃き」みたいなクリエーティブ・ジャンプの必要性は最後まで残ると思いますが。

田川:残りますね。プロダクトの魅力をひもといていくと、デザイン的な要素が寄与するところが非常に多く、そこではクリエーティブ・ジャンプが核になります。しかし真に魅力的なプロダクトには、その前提として「不満のゼロナイズ」が実現されています。よく勘違いが起こるのですが、クリエーティブ・ジャンプで実現できるのは魅力のアップサイド側の話。魅力さえあればプロダクトが売れるかといえばそうではなく、「不満のゼロナイズ」ができない限り、売れることはないんです。

廣田:広告業界は、特にアイデアのユニークさに関する議論ばかりしてしまうので耳が痛いです(笑)。ただ最近は一部のプランナーが、ユニークネスでびっくりさせることを考えるのではなく、受け手にとって気持ちよいコミュニケーションのあり方を統合的に考え始めています。例えばコールセンターのオペレーションだったり、PR戦略のデザインだったり。広告以外のこういう領域にも入っていくと、コミュニケーションにおいても不満をなくしていくという視点が必要になってくると思います。

廣田さんにとって「新しい道を切り開いてきた先輩」である田川さん。対談最後に廣田さんから出た質問は「田川さんが必須と考える力」でした。

Question④ 「田川さんの思う、考える力って?」

廣田:田川さんはtakramのメンバーに普段、どんな話をしていますか。

田川:とにかく「考える力をつけよう」と話しています。僕らが対面している問題は、常に複雑で、一見すると暗中模索な状況。どれが正解か分からないという状況です。ですから手探りでも一歩ずつ進んでいき、確実にゴールに近づいていける力が必要なのですが、前例もないので先輩が教えてくれるわけでもない。そういう意味で、自分自身でしっかり考える力をつけてほしいな、と。

廣田:考える時のよりどころみたいなものは、あるのですか。

田川:考えること自体は、仮説を立てることから始めるので論拠がなくても進められるんです。ただし考えた仮説を判断できないことがある。そういう時には、「情報が足りていない」と考えるようにしています。どの情報が足りていないかを考える際には、俯瞰的な視点、つまりは「メタ発想」が必要になります。ただ、この「メタ発想」ができる人材が少ない。日本の企業はサイロ化が進んでいるので、特にサイロとサイロの間つなげる「インテグレーター」をつくっていく必要がありますね。

廣田:「デザイン・エンジニア」としてインテグレーターの役割を担う田川さんのように、広告会社の僕たちもインテグレーターとして、クライアントの役に立てる場面もあるのではないかと思いました。ありがとうございました。

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