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他人の靴を履いて、コピーを書く

セカイメガネNo.72

2018/09/25

他人の靴を履いて、コピーを書く

数か月前、ある映画を見た。物語の中で、主人公の男性は23の異なる人格を自分の内に持っていた。

私は広告業界で働いているが、全ての生活者を代弁することはできない。自分の世代をターゲットとした製品・サービスなら想像が働きやすい。実際に使っている場合もある。少なくともコピーを書く材料には困らない。けれども仕事は、よく知っていること、楽しいことだけでは終わらない。

その映画にインスピレーションを受けて、解決策が浮かんだ。相手に感情移入し、共感を持つのだ。共感が全てを変える魔法だ。いったん相手を理解すれば、抵抗なく受け入れられる。その人が自分の中で息づき始め、関係が生まれる。そうなれば私は、あるときは主婦に、別の日には銀行家に姿を変えられる。美容師。旅人。思春期のティーン。変身はもう思いのままだ。

広告の仕事では、今日は生理用品をどう売るか、知恵を絞る。横モレせずに、360度から吸収する新製品だ。翌日はヤシ樹液を発酵させた健康飲料の担当が回ってくる。私にはとても飲めそうにない強烈なにおいがする。全く異なる二つの製品を同時に引き受けるのは、かなりの難題だ。

英語の慣用句「他人の靴を履く」は、「人の身になってみる」という意味だ。おむつ。ビール。香水。キッチン用品。クルマ。この仕事を選んだからには、次にどんな商品を担当するか分からない。だから担当商品に合わせて、他人の靴を履いてみる。いっとき別人格に変身してコピーを書いてみる。その人とつながるコミュニケーション回路をなんとか探り当てるのだ。

私の母は赤ちゃんが出ている、あるCMをいま一番気に入っている。実はその作品は私が作った。赤ちゃんがかわいくて、かわいくてたまらない母親に変身してコピーを書いたのだ。母にはその秘密をまだ打ち明けていない。

(監修:電通 グローバル・ビジネス・センター)