セカイメガネNo.73
イノベーション≠テクノロジー
2018/12/19
テクノロジー全盛の時代だ。便利さを追求し、問題を解決する助けにもなり、私たちの生活にますます欠かせないものとなっている。でも課題に立ち向かうとき、いつもテクノロジーに頼らないといけないのだろうか?
私は「ノロウイルスによる消化器系の病気は、せっけんで手洗いすると防げる」ということに着目した。
ノロウイルスは、またたく間に伝染するところが厄介だ。感染した手で食品を扱ったり、患者の便や吐しゃ物に触れたりすることで広がり、胃痛、吐き気などの症状が出て、最悪、死に至る。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の調べによれば、急性胃腸炎の約5分の1がノロウィルスによるもので、子どもや高齢者がかかりやすい。これまで世界中で6億8500万件の症例が報告され、毎年約20万人が死亡している。
アルコール消毒では殺菌できない。ワクチンもまだない。ところが、20秒間せっけんで手洗いするだけで、感染防止にとても効果があるのだ。例えば「ハッピー・バースディ・トゥ・ユー」を少しゆっくり歌えば20秒。これだけで感染の危険を90%減らせると医療専門家は推奨している。
私は社の同僚たちとこの課題に取り組むことに決めた。ポイントは次の二つだ。
(1) 20秒とはどんな長さか
(2) 20秒を体感できる一番簡単な方法は?
タイのオーガニック・スキンケアブランドのクライアントと共同でプロジェクトを進め、「クリーン・ライト・ハンド・ソープ」を開発した(写真)。発光部品をせっけんに埋め込み、軽く叩くと、光が点滅し始めるようになっている。手を洗う20秒間発光し、タイマー代わりになるというシンプルな仕組みだ。
1500個つくり、1週間で完売。オーナーがテレビ番組に出演し、数々のウェブサイトでも取り上げられ、PR効果は絶大だった。国際広告賞での受賞も続いた。けれども一番大きな収穫は、健康を守るために20秒間せっけんで手洗いをする習慣を世の中に広めたことだと私は思う。
クリーン・ライト・ハンド・ソープは、最新のテクノロジーを使わない「クリエーティブ・イノベーション」だ。シンプルだけれど、とても変わっている。
チームの仲間たちと出した結論はこうだ。
イノベーション≠テクノロジー
クリエーティブ・イノベーション=シンプル × クリエーティビティー
(監修: 電通 グローバル・ビジネス・センター)