AbemaTV×電通、社長対談。ネットが切り開く新しいテレビの形
2019/11/27
“無料で楽しめるインターネットテレビ局”として成長を続けるAbemaTVに電通が出資を行ってから1年。両社のさらなる連携強化を目指して、10月3日、東京・汐留の電通ホールでイベント「Dentsu AbemaTV Day」を開催しました。
同イベント内で行われた、AbemaTVの藤田晋社長と電通の山本敏博社長によるトークセッションの模様をお届けします。
<目次>
▼テレビの新しい時代を切り開いていくのは何か?
▼「受け身視聴」をつくってこその広告。そこにAbemaTVの勝機がある
▼「新しいテレビ」的な価値を高めるハイブリッド化とは?
▼サイバーエージェントと電通、お互いをどう見ている!?
テレビの新しい時代を切り開いていくのは何か?
―電通がAbemaTVに出資した経緯を教えてください。
山本:「日本のテレビの未来はどこにあるのか?」というのが、ずっと私の関心事です。日本のテレビの持つポテンシャルの高さは、世界でも類を見ない素晴らしいものです。ただ、正直に言うとこのままではダメだとも思っていまして、テレビの新しい時代を切り開いていくためにはやはりインターネットとの融合が不可欠だと常々感じています。ですから、テレビがネットの方向に向かっていく取り組みについては、そのどれも全て、電通も一緒に挑戦をしたい。「うちも入れてよ!」と言っています。当然、2016年にAbemaTVのサービスが始まるときにも同じ側に立ちたいと思って、テレビ朝日さんに「一緒にやりたい」と声を掛けさせてもらったのですが、その時は「サイバーエージェントの藤田さんが、ちょっと待ってほしいと言っている」という(笑)。
それから2年後の2018年に、藤田さんと一緒にご飯を食べる機会がありまして、AbemaTVが何をしようとしているのか、直接聞くことができました。その時やっぱり藤田さんの肌感覚みたいなものにすっかり感じ入って、「ネットによってテレビが新たな未来を切り開いていく現場で、同じ方向を向いて一緒にやりたい」と改めて強く思い、「電通も入れてくださいよ」と申し出たところ、その翌日にはもう藤田さんから電話がかかってきて。テレビ朝日とも話は済んでいるということで、非常に具体的な条件のお話をされて。お願いした翌日にですよ。「こういうところだな!」と思いましたね。
藤田:最初にちょっと待っていただいたのには理由がありまして、サービス開始当時、「ネットテレビをつくる」というベンチャーはAbemaTV以外にもたくさんありました。そのうちの一つとして出資を受けるのでは、物足りない。つまり、本気で「これは放っておけない」と思っていただいてから受けたかったんです。そこでテレビ朝日と相談して、「まず、どれだけわれわれが本気かということを感じてもらえるところまでは、自力で頑張りましょう」と決めました。
その後、電通の出資を受けることになったきっかけは、昨年私がチェアマンを務めるプロ麻雀リーグ、「Mリーグ」に電通が参戦してくれたことです。もう本当にうれしくなっちゃったんですが(笑)、そのタイミングで、ちょうど山本社長と食事をすることになりましたので、今度はすぐに出資をお願いした次第です。
「受け身視聴」をつくってこその広告。そこにAbemaTVの勝機がある
―ネットの動画配信サービスが急速に増えていますが、AbemaTVの勝機はどこにあると考えていますか。
藤田:大きくは二つあって、「リニア」であることと、「無料」であることはAbemaTVの他にはない大きな強みだと思っています。
リニアである理由はいくつかありますが、一番の理由は「受け身視聴」をつくりたかったんです。私自身が広告会社をやってきて感じていたのは、ネット上でユーザーが目的を持ってクリックしていくもの、つまり能動的に見るコンテンツは、広告と相性があまり良くないということでした。やはり「受け身視聴」をつくってこその広告である、ということです。しかも、多くの人に見てもらわなければ広告にならない。
「ブランド広告はインターネットにシフトする」と以前から言われていますが、僕の体感値ではまだそれほどシフトしていません。出す場所がないんですよ。ネットでたくさんの視聴者を得ているメディアの多くがCGM(ユーザー投稿型メディア)なので、要は広告主のブランド力や好感度を上げるような出しどころというのが本当に少ない。そんな中で、ちゃんとクオリティーを管理できて、安心できるスペースをつくりたかったんです。
山本:ちょっといいでしょうか。皆さん、私は藤田さんと食事をしたときにこの話を聞いて、本当に衝撃を受けましたよ。あのサイバーエージェントの藤田晋がですよ、「広告、特にブランド広告は、やっぱりリニアで、受け身視聴でなくては効果がない」と言うんですから。あ、ごめんなさいね(笑)。
藤田:いやいや(笑)。それで、先ほど山本社長がおっしゃった日本のテレビのポテンシャルについては、僕も全く同じように考えています。だけど、今ある動画配信サービスは大半がオンデマンドで、実質的にテレビをリプレースできているものはありません。つまり、テレビのメインコンテンツである「ニュース番組」や「スポーツ中継」の流し場所というものがネット上にない。「テレビが出せるものが、ネットでは出せていない」という状況がまず頭にあったんです。
今では、「緊急ニュースがあればAbemaTVを開く」というのが、ある程度ネットユーザーに浸透してきました。スポーツでも、大相撲や格闘技などをAbemaTVで視聴する人は増えている。また、将棋に麻雀など、非常に放送時間が長い中継コンテンツを流すのに適しているのも強みですね。加えて、テレビではなかなか見られないフェンシングやフットサルなどのマイナースポーツからも大変な期待を寄せていただいています。
山本:AbemaTVをやって3年たつと、サイバーエージェントの藤田社長がこういうことを言うようになるんですよ。毎日自分たちであれだけのチャンネルを編成してやっているからですよね。つまり、「テレビ的なもの」に対して恐ろしく造詣が深くなっているんです。こんな話を聞かされてしまったら、放っておけない、絶対にそこに一緒にいないといけない(笑)。「一人では行かせないぞ!」という気持ちが大きかったですね。
藤田:ありがとうございます(笑)。次に、「無料」であることの強みについて。他社の動画配信サービスの多くは、いわゆる有料のサブスクリプションモデルなので、「同時にたくさんの人に見せる」ということが苦手です。その点、AbemaTVはリニアかつ無料ということで、大人数の同時視聴に強いんですね。
例を挙げると、アニメコンテンツ。開局以来行ってきたアニメ第1話の世界最速無料配信は、ついに200作品を超えました。アニメの「最速放送日」は、従来は東京ローカル局が一番多かったのですが、2019年の1月クールではAbemaTVが最多となりました。これは、テレビに代わって「全国区でより多くの人が視聴できる無料の場所」として、AbemaTVに期待が集まっている結果だと感じます。
この「リニア」であることと、「無料」であることが、従来の広告メディアとしてのテレビの特徴ですが、AbemaTVならではの特徴でもあります。
「新しいテレビ」的な価値を高めるハイブリッド化とは?
―AbemaTVは進化している過程にあると思いますが、どのような方向性を目指しているのでしょうか。
藤田:現在、非常に力を入れているのは、「リニアとオンデマンドのハイブリッド化」です。というのも、自分自身がそうなんですが、AbemaTVを使い慣れれば使い慣れるほど、タイムシフトで見たかったり、追っかけ再生で見たかったりと、オンデマンド的な使い方が増えるのは避けられません。
それに合わせて、UIも大きく変えていこうとしています。AbemaTVの従来のUIは、見ている番組を横にスワイプしていくことでチャンネルを変えるというものですが、やはり見ているときが手持ち無沙汰になりがちなので、そこはYouTubeのように「次に見るもの」を探せるUIに変えようと。
そうなると、オンデマンド視聴に対しては課金サービスにしていくか、もしくはオンデマンドでも無料で出すものについてはなんらかの広告を導入すべきだと考えています。でも、これは地上波を見ていて感じる課題なのですが、オンデマンドやタイムシフト視聴では、どうしてもユーザーに広告を飛ばされてしまうんですよね。それでは収益機会がなくなってしまうので、そんな課題に対応できる新しい広告商品の適切な開発の仕方というのを、電通と一緒に取り組んでいきたいです。
ネットの歴史を見てみると、大きくなったサービスというのは、GoogleにせよFacebookにせよYouTubeにせよ、最初は何もマネタイズのことを考えていません。とにかくたくさんの人を集め、それがある日、決定的にスケールできる広告商品を生み出している。Googleであれば検索結果にリスティング広告を入れたり、Facebookならインフィード広告とリタゲを組み合わせたものだったり、YouTubeならTrueViewだったり。なので、AbemaTVもまずは多くのユーザーを集め、広告効果の高いスケールできるものを開発していきたいです。
そのためにはまず、メディアとしてユーザーに“視聴習慣”をつくってもらう必要がありますが、それには長い年月が必要だというのは改めて感じていますので、腰を据えてやっていきます。
山本:ありがとうございます。新しい広告商品の開発といった面でも、一緒に取り組んでいけたらと考えています。テレビ×ネットでいうと、地上波・ネット同時配信についてはどうお考えですか?
藤田:報道などでミスリードがあるなと思っているんですが、本当に価値があるのは、実は「同時配信」という部分ではないんですよ。同時配信をして、それを追っかけ再生もできて、かつ全ての番組がタイムシフトで見られるということを実現してこそ、テレビ的な価値をさらに高めた新しい体験になる。ユーザーにとってより便利なものとして、テレビを“再発明”していかなきゃいけないと思っています。そのためのハイブリッドです。
サイバーエージェントと電通、お互いをどう見ている!?
―お二人は、社長としてお互いの会社をどのように見ていますか?
山本:今日は「AbemaTVの藤田社長」にお越しいただきましたので、まずAbemaTVについて。最初にお話しした通り、電通も新しいテレビの可能性を一緒に切り開いていきたい、そのことが誰にとってもいいことであると考えています。
一方で、競合する広告会社としての「サイバーエージェントの藤田社長」が持つ若さと、革新さと、破天荒さは電通にとっては脅威です。しかし、そういう存在がいてくださることで、やり方は違うかもしれないけど、この人たちよりも革新性のあること、新しいこと、若いことを毎日やっていかなくてはならないのだと思えるので、とてもいい刺激になっています。ちょっと負け惜しみもありますけど(笑)。
「テレビ×ネット」という新しい舞台に対して、AbemaTVという新しい可能性のあるメディアに共に協力して取り組みつつ、その舞台ができたあかつきには、広告会社としてのサイバーエージェントと、堂々と戦えればいいなと思っています。
藤田:私にとって電通は、数少ない「こんな会社にしたい」と目標にしている会社です。社員が自由に働いているのに、結束が非常に強い。そんな会社を、優秀な人材をたくさん集めながらつくれるというのは、本当に参考にしたい部分です。
私は昔、アメーバブログの頃からメディア事業に傾倒していったのですが、その当時に電通のある方から食事に誘われ、「広告代理店、電通にできないの?」と言われたことがあります。「企業カルチャーがあるので、難しい」とお断りしたところ、「よし、じゃあこの話は終わりだ、今日は飲もう!」と(笑)。はっきりと、回りくどくなく言ってくれるところは、本当に電通の良さだなと思います。そういう、個人的に好きな会社でもあるんです。
広告会社サイバーエージェントとしては競合かもしれませんが、今後も電通とはさらなる連携を深め、「日本のテレビ」の持つポテンシャルをAbemaTVを通じて引き出していけたらと思っています。
山本:本日はありがとうございました!