CO2を削減しながら広告効果を高める新トレンドとは?No.2
環境先進国スウェーデンから学ぶ、「広告×サステナビリティ」の姿とは?
2025/02/05
欧州の中でも、特に環境先進国として知られるスウェーデン。そんなスウェーデン発の企業の中で、現在、デジタル広告業界で特に存在感を増しているのが、SeenThis(シーンディス)社の提供するアダプティブストリーミング(※)サービスです。同社は2024年10月に日本法人を設立し、日本市場における広告パフォーマンスの向上とサステナビリティ貢献の支援を開始しました。
本稿では、同社の日本マーケット進出から事業サポートを行っている電通デジタルの青木亮氏と電通イノベーションイニシアティブ(以下、DII)の水津龍耶氏が、SeenThis社の本拠地であるスウェーデンで学んだ経験を踏まえ、近い将来日本市場に訪れるであろう「広告×サステナビリティ」への示唆をお届けします。
※アダプティブストリーミング:動画や画像をユーザーの接続状況やデバイスに応じて最適化しながらストリーミング配信する技術
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<目次>
▼SeenThis社との出合いから、スウェーデン出張へ
▼北欧市場におけるパートナーシップ成功のカギとは?
▼スウェーデン出張を通じて感じた、「広告×サステナビリティ」の未来とは?
SeenThis社との出合いから、スウェーデン出張へ
私たちが最初にSeenThis社のことを知ったのは2023年12月でした。筆者の所属するDIIは、グローバルを含めた電通グループ全体のR&Dを担う組織です。アドテク・マーテク領域のソリューションにアンテナを張る中、dentsu Singapore経由でSeenThis社の紹介を受ける機会を得ました。
SeenThis社は、独自のアダプティブストリーミング技術をデジタル広告に応用した、次世代動画広告配信サービスを提供しています。このサービスは、高品質な動画広告を従来のデジタル広告より素早く快適に表示させることで、ユーザー体験やコストパフォーマンスを高めながら、データダウンロードの無駄を減らすことでCO2削減にもつながります。
チームメンバーでSeenThis社から話を聞いたところ、広告パフォーマンスを向上させるアドテクとしてだけでなく、サステナビリティの観点からもユニークな技術であることがわかりました。
当時、まだ日本にはSeenThis社の拠点はない状態でしたが、同社は日本市場にも参入したい意向がありました。そこで、私たちは日本のデジタル広告環境を、よりクリーンかつハイパフォーマンス化することを目指して同社の日本市場進出サポートを開始しました。
しかし、当初の日本市場向けセールス活動は思いのほか難航しました。一般的なクライアントの組織構造では、サステナビリティ関連部署とデジタル広告関連部署が異なるため、SeenThis社のテクノロジーの強みの一つであるCO2削減効果は、提案先となるデジタル広告部署では優先的に考慮されにくかったためです。この課題を受け、SeenThis社のサービスの普及が進む北欧市場でパートナーシップのヒントを探るため、同社の本拠地スウェーデン・ストックホルムへ旅立ちました。
北欧市場におけるパートナーシップ成功のカギとは?
スウェーデンでは、 SeenThis本社を拠点として、dentsu Sweden、dentsu Norway、そしてクライアントの皆さまが集まり、交流する機会を得られ、さまざまなインプットやディスカッションの機会に恵まれました。ちなみに、スウェーデンの文化として欠かせないFIKA(フィーカ)も、私たちの滞在をより充実したものにしてくれました。
フィーカとは、仕事の合間にコーヒーやお菓子を楽しみながらリラックスするひとときです。この習慣は単なる休憩時間にとどまらず、さまざまな人々が横断的に意見を交換し、新しいアイデアを生む場としても機能しています。
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一般的に欧州諸国は環境意識が高いことで知られていることから、「欧州市場では、SeenThis社=サステナビリティという文脈で浸透しているのではないか」と私たちは出張前に考えていました。しかし、いざスウェーデンや欧州市場について直接ヒアリングしてみると、意外な一面が浮かび上がりました。それは、どれだけサステナビリティ意識が高くても、最終的には日本と同様に広告パフォーマンスが最重視されるという現実です。
例えば、SeenThis本社で開催されたセッションの一つでは、SeenThis社のクライアントの一社であるMINI Northern Europe, Customer Journey ManagerのJoakim Dahlgren氏からお話を伺う機会をいただき、下記のようなコメントをもらいました。
「BMWとSeenThis社は2019年から関係を築いており、初めてのキャンペーン以来、大きく成長しています。北欧BMWでは、SeenThis社を重要なパートナーと見なしており、広告のクリエイティブの質を最適に保ちながら、パフォーマンスを向上させると同時に、広告による環境負荷を最小限に抑えることを目指しています。
SeenThis社は、ディスプレイ広告の現状を変革するための魅力的、かつ革新的なキャンペーン機能とフォーマットの共同開発において、われわれにとって重要な役割を果たしています。クリエイティブ面では、SeenThis社の運用チームがスピーディで正確かつ献身的に取り組んでおり、新しいキャンペーンを迅速に実施することが可能です」
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Customer Journey Manager – MINI Northern Europe
Joakim氏のメッセージからも、環境負荷軽減はSeenThis社のテクノロジーの付加価値の一つであるものの、あくまでコアバリューは広告パフォーマンス、クリエイティブの質、広告運用面のビジネスサイドであることがうかがえます。
同様に、dentsu Sweden、dentsu NorwayとSeenThis社のパートナーシップが成功を収めた背景も、ストリーミング技術を駆使した広告の視認性向上、キャンペーン中に一切の中断がなくスムーズに実施できたこと、およびクリエイティブな可能性を最大限に引き出せることである旨が語られていました。つまり、第一にアドテクとしてのビジネス価値がコアバリューとしてクライアントから評価されているからこそ、欧州市場での強固なパートナーシップ構築につながっているのです。
スウェーデン出張を通じて感じた、「広告×サステナビリティ」の未来とは?
このようなスウェーデンからの学びを受けて、日本市場で紹介する文脈を見直した結果、社内やクライアントからの反響を増やすことができました。帰国後にはSeenThis社のテクノロジーによるCO2削減に関する価値を強調する機会は減りましたが、広告パフォーマンス向上を突き詰めてゆくことで、結果として同時にサステナビリティへの貢献も着実に加速していることを実感します。
ちなみに、dentsu Swedenのエントランスでは、SeenThis社のテクノロジーによるCO2削減状況を下の写真のようなモニター上で可視化し、社員や来客に向けて啓発していました。2024年には車走行で130万キロメートル走行分に相当するCO2排出を抑制する成果を挙げています。
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EU圏では2023年1月から「企業サステナビリティ報告指令(CSRD:Corporate Sustainability Reporting Directive)」が施行され、CSRDの適用対象企業にはサステナビリティ指標の開示が義務付けられました。同様に、日本でもサステナビリティ情報開示に関する取り組みが活発に議論されています。さらに、政府は2026年度に温暖化ガスの排出量取引制度を本格導入し、削減目標を達成できない企業に課徴金を課す方針を示しています。このような背景を受けて、日本の広告領域においてもCO2削減量がKPIに追加される未来も近いかもしれません。
しかし、現状では、デジタル広告とサステナビリティは切り離された存在になっている場合が多く、SeenThis社が提供するようなソリューションもまだ多くありません。しかし、広告パフォーマンスとサステナビリティという二つのテーマは、相反することなく、むしろ共存することで互いに高め合うことが可能です。SeenThis社とdentsuのパートナーシップがもたらすイノベーションは、そのような未来の課題をクリアするためのヒントになるのではないでしょうか。
新しいプロダクトやサービス、そして市場拡大に向けたアプローチが日本の広告業界にどう新風を吹き込むのか、今後の展開が楽しみです。スウェーデンでの発見が示す通り、その実現にはパフォーマンスへの飽くなき探求が不可欠です。日本においても、さらに多くの取り組みが広がっていくことを期待しています。