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電通報ビジネスにもっとアイデアを。

リモート時代の心をつかむ超言葉術No.1

「今だけは、会えません」も「I LOVE YOU」の訳になる。

2020/05/21

皆さん、はじめまして。コピーライターの阿部広太郎と申します。僕は今、電通のコンテンツビジネス・デザイン・センターに所属し、コンテンツの企画・プロデュースの仕事をしています。

この春、ダイヤモンド社から書籍『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』を刊行しました。

心をつかむ超言葉術
ダイヤモンド社、320ページ、1500円+税、ISBN 978-4-478-11014-0


コピーライターじゃなくても、書店員でも、ウェブショップの店長でも、ブロガーでも、営業でも、広報でも、企画者でも、編集者でも、現代において「言葉」にかかわる仕事をしている人はたくさんいます。

「伝える」を「伝わる」にするためにはどうすればよいのか?

全国津々浦々でコピーの書き方のワークショップをする中で、そして、僕自身が2015年から横浜みなとみらいのBUKATSUDOで連続講座『企画でメシを食っていく』を主宰する中で培ってきた「超言葉術」をこの一冊に書き上げました。

今、リモートワークをされている方も多いと思います。直接顔を合わせてのコミュニケーションが減ったことで、メール一通や、企画書など、書き言葉の重要性を感じている方も多いのではないでしょうか?

刊行記念として頂いたこのコラムの連載で、リモート時代を意識しながら、「心をつかむ超言葉術」について書いていきます。
 

「I LOVE YOUの訳し方」

そうは言っても「コピーを書くとか私にはちょっと…」と思われた方もいたのではないでしょうか?というのも、かつての僕自身がそうでした。

学生時代の8年間、アメリカンフットボールでグラウンドを駆け回っていた自分にとって、広告づくりにおけるクリエイティブとか、プランニングとか、縁遠い世界だよなと、勝手に決めつけていました。「実は僕たちの身近にコピーがあります」ということを伝えたくて、いつも講義ではこのお題を出すようにしています。

夏目漱石は「I LOVE YOU」を
「月が綺麗ですね」と訳したとか。
今のあなたなら何と訳しますか?

英語の教師をしていた夏目漱石。「I LOVE YOU」を「我君を愛す」と訳した教え子に対して、「月が綺麗ですね」とでも訳しておけ、そう言ったとされる都市伝説があります。

その真偽はさておき、「愛」と書かずに「愛」を伝える言葉を考えることは、コピーを考える根幹だと僕は考えています。

駆け出しの頃、僕はこんな訳し方をしました。

「あ、消しゴム落ちたよ」

こんな情景を思い浮かべていました。学校の教室。隣の席に気になる子がいる。気軽に話し掛けられるほど僕は積極的でもない。その子の動きをちらちらと目で追い掛けてしまうし、少しでも異変があればすぐに気づく。

愛とは「あ、」だ。
気づくことではないか。

消しゴムが落ちたら、いち早く拾う、そしてすぐその子に渡す。その情景を思い浮かべて、慣れないながらもそう訳したことを今でもよく覚えています。

今のあなたなら何と訳すでしょうか?
 

「愛と書かずに愛を伝える」

愛と無関係な人はいません。恋愛だけではない。親子愛も夫婦愛もあるだろうし、友情にだって愛はあると思います。これまでに愛を感じた経験、映画やドラマで見聞きしたエピソード、あなたの中に心当たりはきっとあります。

コピーを書くぞ、アイデアを出すぞ、と気負わないで、とにかく思い出してみてください、といつも伝えています。思い出の中に潜っていって、これまでにあった「はっ、とした経験」を思い出す感覚です、と。

「I LOVE YOU」の訳し方には、その人の「らしさ」がにじみ出ます。これまで僕はこんな訳し方をする人に出会ってきました。

心をつかむ超言葉術

「半分こにしようか」

「卒業したから、生徒じゃないです」

「全部あなたに出会うためだったんだ」

「今、会えない?」

「あなたのこと、もっと知りたいんですけど」

「小さいころよく遊んでいた場所、見てみたい」

最近では、今だからこその状況を踏まえて、

「今だけは、会えません」

という人も。そこには情景や、温かい気持ち、浮かび上がってくる思いがあります。「愛する」とあえて書かずに伝えることで、キャッチフレーズという言葉通り、僕たちの心はどうしようもなくつかまれてしまいます。

書かずに伝えること。

一見矛盾しているようにも感じるこのことこそ、心をつかむ言葉の秘密なのではないか。僕は決して大げさではなくそう思っています。

訳し方のお題にとどまらず、言葉とともに生きていく限り、言葉を扱うすべての仕事の根幹は「I LOVE YOU」にあると僕は考えています。

「I LOVE YOU」

「I」私とは何か? つまり、自分を知るということ。

「LOVE」愛とは何か? つまり、人と人との関係を考えること。

「YOU」あなたとは何か? つまり、自分から見た相手を知るということ。

次回から、人の心をつかむために、そして人との間に関係を育てていくために、言葉をどうつくると良いかを書いていきますね。

言葉を探求する中で出会った水野良樹さん(いきものがかり、HIROBA)から頂いたコメントはこちらです。

「わかってほしい」
そう思ったことがあるあなたに、
阿部さんのこの本はぴったりですから。
だからね、読んでほしいんです。

このコラムが、そして僕の本『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』が、少しでも「わかってほしい」この思いの力になれたらうれしいです。よろしくお願いします!