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広告のtasukiNo.6

17歳から言葉を紡ぐ「自分ノート」の秘密。岸井ゆきの×阿部広太郎

2024/06/28

企画、キャスティング、撮影、編集……たくさんの人の力をつないで完成を目指していく広告。

スタートからゴールに向かうまで、どんな気持ちで取り組んでいるのか?そこにはどんなドラマがあるのか?広告に託した思いをもっと知りたいという一心で、出演者の方や、つくり手の方に、コピーライターの阿部広太郎氏がお話を伺っていく、電通キャスティングアンドエンタテインメント発の連載企画「広告のtasuki」。

前編に引き続き、俳優として活躍する岸井ゆきのさんにご登場いただき、広告に対する思いをお聞きしました。

岸井ゆきの

仕事の報酬は、次の仕事

阿部:2022年公開の岸井さんの主演映画「ケイコ 目を澄ませて」は凄い反響でしたね。第46回日本アカデミー賞のほかにもさまざまな映画祭で受賞をしています。

岸井:あの映画のおかげで、本当に充実した時間を過ごすことができました。素晴らしいチームに恵まれ、今では貴重なフィルムでの撮影、役作りのために肉体を鍛え上げるなど、全身全霊で作品に挑んだんです。撮影終了後は正直、こんな夢のような現場にはもう二度と巡り合えないかもしれないという思いから、何かが燃え尽きてしまったような感覚がありましたね。

阿部:真剣に向き合えば向き合うほど、終わった後の喪失感も大きいんですね。

岸井:でも不思議なことに、またすぐ「この作品に命を捧げたい!」と感じる新しい映画との出合いがあるんです(笑)。

阿部:仕事の報酬は、次の仕事。なんて言いますよね。目の前の仕事に一生懸命に取り組むからなんでしょうね。ちなみにそれはどういう作品ですか?

岸井:2024年10月公開予定の映画「若き見知らぬ者たち」です。内山拓也監督の作品で、私は主演ではありませんが、現場には得体の知れないエネルギーが渦巻いていて、それに向き合うには自分を削り、すり減らすしかなかった。消しゴムのように、自分を削り落として、その削りカスはもう二度と戻らないような、そんな覚悟を持って臨んだ撮影でした。過酷な現場でしたが、だからこそのやりがいを感じました。ただ、身も心も消耗し尽くしたので、完全に回復するまでは時間がかかりましたけどね(笑)。

阿部:そのような過酷な現場では、岸井さんはどのように気持ちをリフレッシュするのですか?

岸井:状況によってさまざまですね。本を読んだり、日常生活を充実させることで活力を取り戻したり。作品ごとに向き合い方は全然違うんです。

阿部:岸井さんは映画に出演した時、どういう反響が皆さんから返ってくるのを楽しみにしていますか?

岸井:観た人それぞれに感想は自由だと思いますが、個人的には、演技の善し悪しではなく、作品そのものとして受け止めてもらえたらうれしいですね。「この俳優が良かった」という感想は、どこか儚くて風化しやすい気がするんです。むしろ、映画を通して観客の日常に何か根付くような、心の隙間にすっと入り込むような感想を頂けたら、作品の意図が伝わったのだなと感じられます。

映画とは“生きるためのアイデア”である

阿部:岸井さんと話をしていると、映画への愛情がひしひしと伝わってきます。映画は昔から好きだったのですか?

岸井:実は最初のきっかけは、一緒に遊ぶ友人が少なかったのでひとりで映画を観るようになったんです(笑)。でも色んな作品に触れるうちに、ストーリーや表現方法に興味を持つようになり、観た後は心がスッキリするようにもなりました。

阿部:心がスッキリするとは、どういうことでしょう。

岸井:例えば、私はアクション映画の「アベンジャーズ」シリーズが好きなのですが、根底にあるのは善悪のぶつかり合いですよね。主人公のアイアンマンは、悪者と戦うためにビルを破壊したりもします。でも、その前には必ず中にいる人びとを退避させている。そういう描写にものすごく感動して、勇気をもらっていたんです。「もし自分の中にもミニ・アイアンマンがいたら、ちょっとだけ強くなれるかも」なんて(笑)。

阿部:映画から気づくこと、発見することがあると楽しいですよね。

岸井:私は「映画は学び」だと捉えているんです。作品には「生きるためのアイデア」が散りばめられていて、そういうものを見つけるのが好きなんですよね。もちろん、メッセージの受け取り方は人それぞれ。でも日常では感じられないメッセージに気づくことができるのが、映画の魅力だと思うんです。

阿部:生きるためのアイデア!すごくいいですね。そして、今は逆に、岸井さんが映画を介して観客に何かを発信する立場にある。もしかしたら、誰かにとっての「アイアンマン」になっているのかもしれないですよね。

岸井:私がアイアンマンだなんて、なんだかカッコいい響きですね(笑)。

岸井

17歳の頃から書き続ける自分ノート

岸井:実は今回、阿部さんとお話できることを楽しみにしていました。というのも、言葉を操る職業であるコピーライターの仕事ぶりに、以前から凄いなと思っていたんです。

阿部:なんと、それはありがたいですし恐縮です。2022年に岸井さんは「余白」というフォトエッセイを出版されていますよね。私も拝読して、すごく面白かったです。

岸井:私も文章を書くことはあるのですが、コピーライターの方々のように分かりやすい言葉で読者の心を掴むのは凄いなって思うんです。実は私、ずっと昔から自分の思ったことを書き留めるノートを作っているんです。誰にも見せてなくて秘密なんですけど、そこに綴られているのは、いわば私だけに通じる言葉、「チラシの裏の落書き」みたいなものなんですよ。他者に伝わるような表現ではないんです。だからこそ、言葉選びに長けた人を尊敬しています。

阿部:気になったのですが、岸井さんは自分の言葉をノートに書き残しているんですよね。それはいつ頃から始めたのですか?

岸井:17歳の頃ですね。事務所に入る前から始めて、今でもずっと続けています。

阿部:すごいことですね。何がきっかけでした?

岸井:私は喋ることが本当に苦手で、書き留めておかないと自分が何を言いたいのか分からなくなってしまうんです。特に10代の頃はボキャブラリーも少なくて、何かの感想を求められても「面白かった!」「感動した!」の一言で終わってしまう人間でした。このままではいけないと思って、ノートを書き始めました。

阿部:つまり10年以上も続けているということですか。全部で何冊くらいあるんですか?

岸井:かなりの数になりますよ。でも、あまりに恥ずかしくて読み返すことができないんです(笑)。

心の底から出てきた言葉に秘められたパワー

岸井:せっかくお会いできたので、文章を書くためのアドバイスを教えてほしいです。

阿部:分かりました、想像していない展開です(笑)。まず、自分の言葉をノートに書き続ける習慣は素晴らしいです、間違いなく。その上で大切なのは、誰かに伝えるために「どの言葉を選ぶのか」ですね。基本は、一番光を放つ言葉を選んで、文章のキャッチにする。岸井さんはすでに、ダイヤの原石のような言葉をたくさん持っていると思います。あとはその中から最良のものを見極めて、どう配置するかに注力することで文章が書きやすくなると思います。

岸井:“チラシの裏の落書き”と思っていた言葉が、まさか“ダイヤの原石”とは……なんだかワクワクする表現ですね。では、言葉を選ぶ時はどうすればいいんですか?

阿部:これはあくまで私の主観ですが、言葉というのは、過度に選びすぎたり、変に加工したりしなくても良いんじゃないかなと思う部分があります。自分に素直になって、心の底から出てきた言葉というのは、それだけでパワーを秘めています。逆にこねくり回してしまうとその魅力が失われてしまうこともあるんです。きっと、演技についても同じではないでしょうか。考えすぎたり、やりすぎたりすると逆に不自然なものになってしまうとか。

岸井:たしかにその通りかもしれません。

阿部:肩の力を抜いてノートに向き合って、読み終えた時に印象に残っているフレーズこそが、きっと相手の心に一番響くのではないでしょうか。

岸井:ありがとうございます。あともう一つだけ聞いてもいいですか。

阿部:もちろんです、何でも聞いてください。

岸井:実は、取材等でコメントを求められた際、文章で提出するのですが、手を加えられると、そうかぁ……と思うんですよね。例えばですけど、読みやすさを意識してリズムを整えたり、あえて主語を省いて抽象的な印象を狙ったりするのですが、記事になる頃には主語が入っていたりするんです。その意図も分かるんです。分かりやすさのために、手を加えてくださっているのは分かるのですが、やっぱり少しだけ悔しい気持ちになるんですよね。この葛藤をどうしたらいいでしょうか。

阿部:文章を書く際のこだわりというか、「あえての表現」ってありますよね。伝わらなければ意味がないと思いつつ、ちょっと悔しい感じですよね。

岸井:そうなんです。私の場合、文章を書く時点である種のリズムが頭の中ででき上がっているので、言葉が変わるとそのリズム感も崩れてしまって、違和感が拭えないんです。でも確かに、編集後の方が読みやすくて伝わりやすいのも事実で。ああ、もどかしい(笑)。

阿部:もどかしいですよね。メディアによって掲載のルールがあると思うので、時に直しが入ることは避けられなくて。表現者としては、ギリギリまで表現方法を考えるのが大事で、その表現に誇りもある。岸井さんが抱いた悔しさはむしろ正しいと思います。その葛藤は、むしろずっと向き合っていくものだと思いますよ。

岸井:そうですよね。ずっと向き合い続けるものですよね。そう考えられると、少し気持ちが楽になった気がします。

阿部広太郎

スマートよりも泥臭い生き方を

阿部:最後に今後、出演してみたいCMやジャンルはありますか?

岸井:いろいろとやってみたいので悩みます。食べ物のCMなら何でも美味しそうに食べられる自信があります(笑)。

阿部:すごくイメージできます。

岸井:あとは、「泥臭い生き方」が好きだから、そういう役柄も魅力的ですね。今の時代は、時短や効率化などが重視される時代だと思うのですが、私は汗水流すのが好きなタイプなんです。周りから何を言われても一生懸命に突き進むみたいな姿勢に共感ができるので、スマートじゃなくていい、むしろ泥臭い方がいい。そんなイメージを喚起できる仕事に携われたらうれしいですね。

阿部:今日お話を伺って、岸井さんからはとてつもない生命力を感じました。これからのご活躍が本当に楽しみです。

岸井:ありがとうございました!これからも精進します!

岸井ゆきの
電通キャスティングアンドエンタテインメントは、広告、映画、イベントに関するタレント、インフルエンサー、文化人、著名人などのキャスティングを行う電通グループ企業です。
カメラマン:藤川直⽮ ライター:佐々⽊翔
 

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