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広告のtasukiNo.5

CMと映画、2つの世界で求められるエネルギーの違い。岸井ゆきの×阿部広太郎

2024/06/21

企画、キャスティング、撮影、編集……たくさんの人の力をつないで完成を目指していく広告。

スタートからゴールに向かうまで、どんな気持ちで取り組んでいるのか?そこにはどんなドラマがあるのか?広告に託した思いをもっと知りたいという一心で、出演者の方や、つくり手の方に、コピーライターの阿部広太郎氏がお話を伺っていく、電通キャスティングアンドエンタテインメント発の連載企画「広告のtasuki」。

今回は俳優として活躍する岸井ゆきのさんにご登場いただき、広告に対する思いを前後編に分けてお送りします。

岸井ゆきの

説得力のある表現はどこから生まれるのか?

阿部:さっそく伺いたいのですが、岸井さんはCMに出演する時はどんな準備をされますか?

岸井:まずは製品のことを徹底的に調べますね。分からないまま進んでいくのはどうしても納得がいかない性格なんです。なので、知らないことがあれば必ず聞いたり、調べたりします。

阿部:おお!たとえば、ご出演されている「ネスカフェ」のCMの時はどうでした?

岸井:コーヒーに関するサステナブルな取り組みについて詳しく調べました。コーヒー豆の栽培から輸送、焙煎、パッケージングまでのプロセスを理解することで、環境や社会への影響を考えるきっかけになりましたし、そうすることで自分なりの言葉で魅力を伝えやすくなるような気がするんですよね。

阿部:なんだかコピーライターに似ているなと思いました。というのも、徹底的に調べることはもちろん、製品を使用することで実感を確かめることを私は必ずやるようにしていて。

岸井:一緒ですね。敏感肌向けスキンケアブランドの「ミノン」のCMでは、敏感肌のメカニズムや、肌トラブルを引き起こす原因など、肌に関する知識を深めたいと思ったんです。製品の特徴や成分表示を確認し、どういった肌タイプの人におすすめなのかを理解して、「こういうところがおすすめのポイントだよ!」って、友人や知人に自信を持って製品を勧めたりもして。

阿部:岸井さんの説得力のある表現って、そういった姿勢からにじみ出ているんだなって思いました。これまでにたくさんのTVCMに触れてきたと思いますが、昔から今まで印象に残っているCMはありますか?

岸井:私は「ドラえもん」が好きで中学くらいまでずっとアニメを観てたんです。その時にやっていたCMを覚えています。大森屋さんの「やさいのふりかけ」。あの「や~さいの〜ふ~りか~け〜♪」ってメロディがすごく印象的で今でも耳に残っています。

阿部:あー私も覚えてます!当時は、将来、自分が出る側になるなんてことは想像もつかないですよね?

岸井:はい、全然(笑)。

阿部:CMに出演すると、周囲からの反応もあると思うのですが、印象に残っていることはありますか?

岸井:「CMって凄いな!」って思ったのは、約10年前にCMに出させていただいた時ですね。当時はドラマもやっていて、出演した時間でいったらCMよりも圧倒的にドラマの方が多かったのですが、たくさんの人から「CMを観たよ!」って言われて。CMの反響の多さに驚きました。

阿部:CMって想像以上に広く届きますよね。自分が出演しているCMを観た時はどんな風に感じました?

岸井:なんだか不思議な気持ちでした。TVに映っている自分を見て、「え、私ってこんな顔をしているんだ……」って。TVに自分が出ているのを見るのは、いまだに慣れないですね(笑)。

岸井ゆきの

CMと映画では求められるエネルギーの質が違う

阿部:岸井さんは映画にも多数出演していますよね。CMと映画で出演時の感覚の違いはありますか?

岸井:CMの方が、情報がぎゅっと詰まっていて、15秒という短い時間の中で全身を使ってどれだけ伝えられるかが大事な気がします。一方、映画は2時間という長さの中で表現をしていくものですし、緩急の付け方もありますし、演じ方としては少し違いますね。

阿部:どちらの演じ方が好きとかありますか?

岸井:どちらも好きですよ。本当に演じ方が違うだけなんですよね。映画は最終的なゴールまでの道のりが長いので、薄く敷かれた階段を一歩一歩上っていくような感覚があります。逆にCMは台の上に一気に上がるような「よいしょ!」って感じのエネルギーの使い方なんです。

阿部:分かります。みんなで力を合わせながら「よいしょ!」ですよね、まさにそう思います。

岸井:CMの撮影日程はだいたい1日や2日なので、あっという間に現場が終わってしまうんですよね。限られた時間の中で、スタッフの皆さんとも一気に仲良くなってCMをつくりあげていくので、「こんなに楽しい時間なのにもう終わっちゃうんだ」って、寂しい気持ちになります。

阿部:たった1日に全てを集約して撮影するからこそ生まれる絆もありますよね。ほかに映画とCMの違いで感じる部分はありますか? 

岸井:そうですね。CMの現場では企業の担当者の方が来てくださって、商品の魅力を熱く語ってくださる時間があるんです。どういった経緯で商品が誕生したのか、こだわりのポイントは何かなど、そういった熱意あふれるお話を伺うと、私自身もその想いに感化されて「安心してください。私が全力でこの商品の魅力をお伝えします!」という気持ちになるんです。

阿部:それはすごくうれしい言葉ですね。自分たちが持っている熱意を岸井さんなら伝えてくれる……頼もしいですね。

岸井:私は、広告に出ることで、そこで出合う商品を通じて社会とつながる感覚があるのですが、そういう経験は、阿部さんはないですか?

阿部:ありますね。この仕事をすることで、街中での見える景色が変わるというか、色づいていくというか……。例えば、文章の大事な部分に、ラインマーカーを引いたりしますよね。今している仕事にまつわる何かとすれ違うと、視覚的にラインマーカーが引かれたような、強調された感じで見えるんですよ。あ、ここにもあったんだ!って、自分と社会がつながる感じがしますし、発見があって楽しいですね。

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CMと共鳴する全力の生き方

阿部:岸井さんのどういう生き方が、今の自分を形作ってきたと思いますか?

岸井:ただただ目の前のことに一生懸命取り組んできた、それだけだと思います。私は仕事が好きで、アルバイト時代からいつも全力でした。もともと何年も先の未来を想像して行動するのが得意ではなかったので、今この瞬間を大切にしてきたのかもしれません。

阿部:岸井さんの生き方には芯になるものがあるように感じますが、大切にしている言葉や考え方はありますか?

岸井:意識をしている言葉があるんです。「人生に無駄な時間はない」という言葉があるじゃないですか。この言葉にちょっと違和感があるんですよね。例えば、その時間が「何かを諦めるための時間稼ぎだとしたら、その時間は無駄かもしれない」と思うんです。

阿部:興味深い視点ですね。つまり、諦めるための時間稼ぎということは、結局何もしていないかもしれないということですよね。

岸井:そうなんです。誰かや何かが変わるのを待つ、他力本願で待っているだけの時間は良くないと感じています。というのも、私自身もそういう考えを持っていた時期があったからです。演劇をやりたかったのに、ずっと動けずにいました。しかしある時、「自分は決して特別じゃない」「運命的なチャンスは巡ってこない」と気づいたんです。「だったら自分から掴みにいかなきゃ!」と。そこから積極的にオーディションに参加して、主体的に動き始めたんですよね。

阿部:確かに「きっかけを待つ」という考え方もありつつ、自分から動くこともできますもんね。

岸井:誰かのせいにしたり、環境のせいにしたりして、時間だけ費やして、後から振り返ってみる。その時に何も残っていなかったら、悲し過ぎるじゃないですか。自分から動いてみて、ダメならダメでそれは無駄じゃない。だから、目の前のチャンスには積極的にチャレンジしていこうとなったんです。

阿部:トーマス・エジソンも言ってますもんね。「私は失敗したことがない、ただ一万通りのうまくいかない方法を見つけただけだ」と。失敗を続けることで、成功に近づくという。

岸井:それに近いと思います。だから私は、目の前のことに一生懸命になれるんです。今だから正直に言うと、俳優として結果が出るまではアルバイトも一生懸命だったので、すし職人さんから「ずっと働いていいよ」とスカウトされて。

阿部:ええ~!岸井さんがお寿司を握るところは見てみたいですね(笑)。

岸井:とにかく一生懸命働いていましたから!(笑) ちなみに、この考え方はある舞台がきっかけになって真剣に考えました。2014年に円形劇場でやった「サナギネ」という舞台で、同じ主人公の14歳の時、24歳の時、60歳の時を同時に観客に見せるという、実験的な舞台です。14歳には14歳の悩みがあり、24歳には24歳の悩みがあって苦労をするんですけど、60歳から振り返ったら若い頃の悩みなんてちっぽけなことなんですよね。場合によっては覚えてすらない。私はそれが嫌だなって。だったら、自分が死ぬまで思い出せるくらいの濃い時間を生きてやろう、って。そういう未来に向かって毎日を生きようって思ったんです。

阿部:岸井さんはCMに合ってますね。

岸井:え?どうしてですか?

阿部:一瞬一瞬の刹那を大事にしている岸井さんだからこそ、CMの15秒という短い時間の中に、全力をぶつけることができるんだろうなって。流れていく時間に必死にあらがうというか。その中で周りの人に影響を与える。CMの根本と一致する気がするんですよね。

岸井:そう言われてみれば……。

阿部:表現する人にはいろんなタイプの人がいると思います。映画のように長い時間で作っていくのが得意な人もいれば、CMのように一瞬で何かを爆発させるのが得意な人もいる。岸井さんはその両方を持っている。片方で得た経験を、もう片方で活かすことができるから、相乗効果のサイクルが、とてもうまくいっているんじゃないのかなと思いますね。

岸井:そうかもしれないですね。なんだかまたやる気が出てきました!

岸井ゆきの
(電通キャスティングアンドエンタテインメント連載「広告のtasuki」後編に続く)
 
電通キャスティングアンドエンタテインメントは、広告、映画、イベントに関するタレント、インフルエンサー、文化人、著名人などのキャスティングを行う電通グループ企業です。
 
カメラマン:藤川直⽮ ライター:佐々⽊翔
 

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